起きたら、横に横たわっていた筈の体が見当たら
なかった。
ああ、朝飯の支度か…と思いはしたもののハッと
気がつく。ここは俺達の巣じゃねぇ。二人して我慢
できずに駆け込んだ欲望避難所(笑)だ。
と、するとトイレか?後始末なら家でやれば良い
じゃねぇか。なんだったら俺も手伝うのによ。
と、くだらない事を思いながら30分が経った。
……一寸待て。これは幾ら何でもおかしいんじゃ
ねぇか?
八戒の気配は確かにする。第一俺をほったらかし
て先に帰ってしまう様な奴では…あるけどな。目が
醒めたらベッドに非常避難用の縄梯子で縛り付けら
れてた事もあったし。
…しょうがねぇ。俺の方から接近するか。
「どうした、お姫さん」
「ああ、悟浄起きたんですか。大した事じゃない
んですよ。大した事じゃ」
そう言う割に慌てた感じの声に聞えるのは気の所
為か?シャワールームのドア越しでも狼狽がきっち
り判るぜ?
「後始末なら手伝うぜ?」
「結構です!向こう行ってて下さい!」
こりゃ妙だな。いつもならあっさり俺をあしらう
奴が何故ここまで慌てるんだ?それに、シャワール
ームに居る割には水音が全く聞えないってのもな。
「開けるぜ」
「止めてください!」
内側からしっかりガードしてやがる。こりゃます
ます妙だ。弱みの一つでも……?
……おもしれーじゃねぇか。ここで一つネタを掴
んどけば夜はかなり有利になるかも。是非ともドア
は開けねーとな。
と、悪巧みしかけた矢先だった。
「……八戒……は…か…」
胸と腹の境が急に痛んできやがった。何だ…って
んだ…よ。
「悟浄?」
お、心配してくれてるのな。嬉しいけどよ…返事
が、出来ねぇ。
「悟浄?!どうしたんですか!」
ゴメン、今根性不足かも。
「悟浄!しっかりしてください!悟浄!」
ゴン!!!
八戒の叫びとドアの開いた気配を感じつつ、いき
なり意識がフェイドアウト。
そして目覚めるベッドの上。傍らには俺の手を握
る八戒。いい舞台設定だな、おい。
「手元に観世音菩薩からお預かりした万能薬があ
りました。それを飲んだからもう大丈夫でしょう」
「俺、飲んだの?」
「ええ、いつもの方法でね」
心なし頬を染めつつ…口移しなんて慣れっこなの
に今更照れなくてもな………ん?……待てよ、おい。
「なぁ」
「はい?」
「何故眼鏡をかけてるんだ?」
「ああ、モノクルの鎖が取れちゃって」
「レンズも色つきだな?」
「眼鏡屋さんのキャンペーンの時に買いましたか
ら。色付きの男になろうってキャッチコピーの時に」
「ふーん?」
「ご不満ですか?」
「キスの時邪魔になるしな」
困ったような表情。直感したね。八戒の抱えた弱
味はこれだって。
「眼鏡して無いと、嫌か?」
「僕は良いんですけど…」
「なら、いんじゃね?」
「でも」
「八戒の視線になら、殺されても良いしさ」
「本当に?」
「本当に」
我ながらなんて台詞だよ。でも、本気だし。
そして、静かに目を閉じて八戒は眼鏡を外した。
再び上げられた瞼の奥に在ったのは…。
「なあ?」
「はい?」
「パラシュート、背負わない?」
間の抜けた俺のツッコミに八戒が笑いながら体を
預けてくる。
「カラーコンタクト入れた訳じゃ無いんですけ
ど」
「だろうな。自然な色だし」
「気になりません?」
「別に。八戒は八戒だし」
「じゃ、良いですね」
シャワールームで見た背中から45分後。今日の第
一戦開始。 (2003.9.10)