束の間
ふとした拍子に思い出す何気ない仕草が、時々足止めを 喰らわせる。 護りきれなかった悔しさと、包み込まれていた暖かさが ない交ぜになって、俺を追憶へと誘うのだ。 連中にそんな顔を見られたくない、な。 *********************** 「大分、上達したようですね」 一仕事終えて僧衣を整えようとしていた俺に、静かに声 を掛ける。 「きっと、お師匠様の教え方がいいんでしょう?」 意地悪く返した、つもりだったが其れはお師匠様の方が 上手。 「役割からすれば、本能が手助けをしているのは貴方の 方ですよ。私は其れを受け入れるだけ」 いつもと変わらぬ飄々と優しい口調で言われては、こっ ちはぐうの音も出ない。 最初もそうだった。 其の時はまだお師匠様と布団を並べて寝ていた。 そして夜中、体だけが本能に目覚め、自らを慰めようと していた俺の目の前で、お師匠様は体を開いたのだ。 「お師匠様?」 「其の苦しみからは人間一生逃れられませんよ。逃れた といっている人も、目を逸らしているだけですから」 体は雄弁に其れを裏付ける。 だから…抱こうと言うのか? 失望しかけた俺にいつもと変わらぬ口調で微笑みかける。 「建前ならば還俗させた上で事に及ばせるべきなのでし ょうね」 言いながら後の双丘を片手で押し開く。 「私の体でよいのならば、まず貪ってみなさい。それで 鎮まるかどうかは判りませんが、私にもこれ以外に方法が 見あたらないのですよ」 説法を求められた時の、困った様なくすぐったい様な微 笑。 肉欲ではない何かに誘われて、お師匠様と体を重ねた。 ********************** お師匠様が去って以来、誰とも肌を重ねる事は無かった。 重ねる気が第一起こらなかったし、喪うものならば手元 に繋ぎ止めるような真似は御免だ、と思った事もある。 あの行為で俺がお師匠様に教わったのは単純な事。 小賢しい謀なぞ、無駄だと言う事だ。 「欲の晴らし合いだと、思っておきなさい」 珍しく抱いてしまった事への背徳感に苛まれる俺に掛か った天の声。 「賢しら顔で女人の許に通っているのを隠し果せている と思っている連中よりは良い心掛けですが、却って修行の 妨げになるよりはいいでしょう」 「いいんですかお師匠様。又肩身が狭くなりますよ?」 「貴方の芽を摘むよりはいいでしょう」 「…参りました」 本当に護りたい存在だった。だから、喪った後の穴は、 とても一人じゃ埋まらない。 でも、此処で留まっているとしたら… 「其れは、貴方の望む事ではないでしょうね?光明三蔵様」 さあ、生きてみようか。人間として。 (2000.12.10)
《コメント》 いきなりの第1作パロが裏もので其れも江流×光明… 自分の脳の構造をこの目でみたくなりました(苦笑) 葡萄瓜には光明様というお方は三蔵よりも性質が悪く 見えるのですね。其れこそ模範生が平然とアウトロー 行為をして、周囲が見て見ぬ振りをする、みたいな。 締め括り、少し気に掛かります。精進します。