「そうだよ…何も考えないで…只身を任せれば
いいんだ」
『実験と銘打ちながら、結局は快楽の手段を一
つ増やしただけ…我ながら浅ましいね』
股間で蠢く紅い髪を目を細めて見遣りながら、
マッドサイエンティストは傍らのキーボードを軽
く叩く。
御曹司の意思を完全に奪った訳ではない。只、
快楽に関する条件反射の設定を奉仕中心に組替え
る様に仕組んだだけの事だ。
『手に入れた…僕の兎…』
仮令其れが、理不尽な条件反射だったとしても、
満足な筈だった。少なくとも、紅孩児の肉体のみ
を欲するならば。
でも、時折過ぎるこの空虚さは何なのだろう。
時として叫びたくなるこの感情は、一体何なのだ
ろう?
『恋?まさか、是に?』
其れは彼にとって茶番としか言い様の無い事柄
だった。体を重ねると言う行為は所詮快楽の消費
行動に過ぎないし、感情なんてものは見えないも
のにレッテルを貼った結果に過ぎない。
第一、僕と是の立場は全く対等ではないじゃな
いか。是を含むこの城の事象は、所詮僕の為の道
具に過ぎない。
快楽の傍らでこそ彼の思考は冴えて行った。快
楽に感情を任せておけば、理性は幾らでも醒める
事が出来たから。
凝り固まった思考を解す為に散々貪った後、ま
どろんでいた彼を呼び覚ましたのは、今まで感じ
た事の無い快楽だった。否、最初は快楽とは認識
されなかった。
最初は、軽い嫌悪感。
肌の上を這いまわる、自分と同じ体温。玉面公
主との義務を果たす際に、止むを得ず甘受するあ
の生暖かさ。
でも其れはやがて、不思議な熱さに変わってい
った。玉面公主は違う。終始只生暖かいだけ。其
れは只終わりを待ち侘びさせる嫌悪感しか誘発し
ない。
…この肌の持ち主なら知っている。でも彼は僕
の『命令』でしか動かない筈…。
「紅?」
「やっと名前で呼んでくれたな?」
深みを帯びた紅い瞳が、僕を捕らえる。迷いの
一切無い、意思のはっきりした瞳。
「何故?」
「…俺は自分の意思にそぐわない事はしない。
仮令其れが自分を縛る鎖になったとしてもな」
恐らく彼が剥ぎ取ったのだろう。完全に肌と肌
が重なる。そう、本当はこの肌が欲しかっただけ。
人形に作り変えるなんて、只の口実。手放したく
ないが為の、馬鹿馬鹿しい世間体。
「最初、から?」
「いや、ついさっき気付いた。…いや、本能に
教わったのか」
なぞられる唇。
「あの女とは、唇、重ねてないんだな?」
「何故判る?」
「俺に無意識で口付けようとして、我に帰った
から。柄にも無いんだな。心の無い口付けを嫌が
るなんて」
……見抜かれていた!……否、見抜いて欲しか
ったのか。そんな冷静な思考をしているのが馬鹿
馬鹿しくなる程に、体は快楽に支配されて行く。
「……もっと、動いて」
そして、僕を呑み込んだ人形、否、紅孩児が艶
やかに踊る。僕の中からも理性は消え、只本能に
従っている。
「ジェン…イ…」
喘ぎと共に吐き出される僕の名前。そして、貪
り足りないかの様に近づけられる唇。
そして僕は、彼の背に手を回し、深く口を吸った。
(2001.6.24)