1999/March/19
思い悩んでいる間に日付が変わってしまった.急が
ねばならない。先送りにすればするほど辛くなる。
運命の使者とはつい5時間前に会ったばかりだ.
俺も鏡の国へ帰ろうと思う。彼女は俺を受け入れて
くれるだろうか。運命の使者の言葉を信じるならばき
っと導いてくれる、筈だ。…そうあって欲しい、と強
く望む。
いい加減疲れてしまった.彼女を否定する事にも、
自分の中の彼女を否定する事にも.
最後にぶつけてしまった言葉が、今でも氷の欠片の
ように胸に刺さっている.
忘れたくても忘れられない.余りにも残酷な言葉だ.
だから此処にも書き残さない.俺の心の中で灰にして
しまおうと思う.
その言葉をぶつけたのは彼女を心底憎んでいたから
ではない.
全く逆だ。まさか自分が其処まで独占欲の強い人間だ
なんて、思っても見なかった。敢えて表現するならば
正しくシスターコンプレックスだ。
そう。敢えて、だ.
全く格好悪い話だ.一番近くにいた筈の俺が彼女を
苛む暗闇に気づかず、たった1回会ったばかりのBFの
友人が見事な程にその正体を解き明かすなんて.全く
茶番としか言い様が無い.
でもそれが紛れも無い事実.だから彼女は死なざる
を得なかった.俺が些細な常識に囚われていたばっか
りに、だ.そんなものなんて、あの一瞬だけでも忘れ
ていれば良かったのだ.彼女を一番的確に理解できた
のは俺しか居なかった筈なのに、俺は自らその権利
を放棄したのだ.
本当に今更の話だ.
導いてくれ、俺に中にまだ半分は居るだろう同胞よ.
今度はもっと判り合える、親しい存在として生まれ
る為に.
色も褪せてぼろぼろになった日記帳が、割れた鏡の欠
片の中に取り残されていた.最後の日付は1999年3月19日.
あくまでも冷静に整った字体。其れとは裏腹の感情的
な文体.そして、其の頁に残されていた、涙の跡と思わ
れる染みが数箇所.
ホボ確実ニ故人ノ遺書デアルト断定シテ良イト思ウ.
ヨークシャ館の床に、少し大人びたアリスが横たわっ
ていた.
永遠の眠りの中で、先に逝った半身を追いかけて.