MOTHER

           夜中、部屋の明かりに誘われて覗いてみると、深春が泣いていた。TVを見ながら。
           其れは、リアルタイムで放送された番組ではなく、食事時に偶々先生達と一緒に見た           番組の録画だった。
           そして多分、彼が何故泣いているのかも説明できると思う。
           あのシャンソン歌手が作り出したした「ヨイトマケの唄」に出てくる母親は、全く同           じ様に彼を愛したのだ、と聞いた覚えがあったから。
           男4人で構成される擬似家族。よく言われるパターンとして、祖父:神代教授、母親           代理:僕こと桜井京介、父親:栗山深春、長男:蒼と言うのが定着している様だが…実           態は違う。
           僕の行動はともすると思い出すのも忌々しいあの男に似るみたいで、随分周囲に忍耐           を要求する。母親役が相応しいのは実質深春の方だ。僕は無責任な父親乃至放蕩息子と           いった役割がお似合いだろう。
           其の実質母親役の深春だが、其の資質の源流は、彼を慈しんだ母にある様だ。こんな           事は滅多に思わないが、一度会って話をしてみたかったな、と思う。深春と兄弟という           のは…少し嫌だな。幼馴染程度なら、いいか。
           だから、CDを滅多に買わない彼が其の翌日に「美輪明宏全曲集」と銘打ったCDを           買って来ても、僕はそう驚かなかった。多分、僕でもそうしただろうから。先生は別の           意味でいたく興味を示したらしく、後で貸してくれと頼んでいた。青春時代の思い出だ           ろうか?
           「深春」
           「おう」
           「後で部屋、良いか?」
           「良いけど?」
           「大した用じゃ無いさ。一緒に聴きたいだけだ」
           それでも随分意外だったみたいだ。
           祈りのような雄叫び…掛け声。
           そして、母を思い出す青年の呟き、慟哭、母への熱い気持ち…。
           「歌は凝縮されたドラマ」という言葉が本当だと、改めて知った。
           「有難うな、京介」
           「僕は何もしていないよ」
           「一緒に聴いててくれた。それだけで充分だ」
           深春の頬は濡れていた。髭は、涙でしっとりと濡れていた。
           「一度、お会いしたかったね」
           思うだけで言うつもりの無かった言葉が滑り落ちる。
           「差し入れ攻撃にあうだろうな。お前の痩せ具合見たら」
           いつもの笑顔だった。
           不意に羨ましくなって、耳を引っ張って一言。
           「マザコン」
           「悪ィかよ」
           軽く叩かれた。
                    《コメント》
                       加納かつみさんに捧げさせて戴いた作品です。
                       その為、音楽ネタではありますがオリジナル
                       キャラクターは絡めずに行きました。
                       「ヨイトマケの唄」…痛い歌なんですけど、
                       こんな良い歌が放送禁止になっていたという
                       事実が、僕には痛いです。
                       敢えて建築と絡めました。

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