はて、綿羊な…彼等が現れた瞬間、人垣は無言の内に二つに分かれ、 彼等の道を挟む双璧となった。 「俺達はモーゼかよ」 「カルメン・マキじゃ無いか?」 「…古いよ、京介」 ……新年早々、独りよがりな小ネタは止めい! 場所はW大の神代ゼミ新年会会場。人垣は神代ゼミの メンバーである…とは言うものの、やけに人数が多い。 それも其の筈。神代ゼミ以外の学生+卒業生&一般人 多数が混在し、ざっと数えて150人! 新年会だけでこんなに集まるのか?それも一般人も含 めってどう言う事?と、言う方の為に註釈を入れると、 これは新年会兼結婚式の二次会だったりする。 つん。 袖を引っ張られた蒼が振り返るとそこには蒼の同級生 兼新婦のやや心配げな顔がある。 「ごめんねー、薬師寺君。無理頼んじゃって」 「いいけどさぁ。何で京介なの?」 「だって私がW大に来る気になったのって、桜井さんと 薬師寺君のせいだもの」 「…なーに、それぇ?」 「あんな格好良い先生と可愛い助手さんから受ける授 業なら退屈しないだろーな、って」 「それって、夢見過ぎだよ」 「うん。薬師寺君も普通の男の子だと判って安心した やら哀しいやらだけど」 微笑みながら毒舌の新婦である。 「出来れば薬師寺君にも絡んで欲しかったんだけどな」 「やだよ」 「『男ばかりのミスコン』クイーンが嫌がっても説得 力ないわよ。私よりミニスカート似合ってたじゃ無い」 「だから嫌なの」 「じゃ、何で桜井さんは承諾した訳?」 「泣き落としと脅迫」 「どんな?」 「ぼくが女装させられて写真集出されちゃっても平気 なんだね、って背中越しに呟いたの。目薬持って」 呆気にとられた新婦に、ニッコリ微笑みかける。 「京介だってぼくの保護者やって長いけど、ぼくも京 介の被保護者やってて長いし」 「悪党ねー?」 「生活の知恵と言って♪それよか始まるよっ!」 「いよいよねぇ」 そして、10センチ程段差のついた舞台の上には振袖を 纏い薄化粧した桜井京介と紋付袴姿の栗山深春の姿。彼 等の足元には金属板が底に打たれた下駄がそれぞれ一対。 演目は「和装タップ・美女と野獣」であった。 ちゃんちゃん。 (2003.1.1) 《コメント》 |