「さ、飯にするか」
「あの…さ…無理、しなくていいよ、別に」
「大丈夫。心配するな」
「でも………」
お腹が空いてたとは言え…一寸無謀なお願い
だったかな?増してや、零一さんの生活ぶりを
考えたら…。
発端は、ボクが出店で立ち止まってしまった
事だ。流石に悪戯で品物を掠め取ろうとは……
何とか思い留まったけど、其の鉄板の上から立
ち上る、甘辛い香りは、ボクのお腹を刺激する
には充分過ぎた。
と、眼の前に差し出されるハンカチ。
「涎、拭け。……周りが見てるぞ」
え?と思って拭いてみると…恥かしーっ!垂
れて来なかったのが不思議だよぉ。
「食いたいのか?お好み焼き」
そう、出店で出ていたのは関西風のお好み焼
き。だって零一さんは先ず外食をしない。出来
合いのおかずも買わない。自分で作った方が廉
いから。ボクも人間の食べ物を口にする機会、
あんまり無い。だから、秋さんの家で色々食べ
た時、物凄く感動してしまった。
でも、それは其の食べ物を買うお金がちゃん
と有るからで…零一さんの家には、はっきり言
ってお金が無い。其れはボクだって知っている。
でも言っちゃった。
「家で作れないの?」って。
言った後でしまった!と思って零一さんを見
ると…あ、悩んでる(汗)でも、不意に手を打つ
と、
「作ってやるよ」
反則みたいな優しい笑顔で、言った。
「お好み焼きで、良いんだな?」
「いい、けど?」
何なんだろ?今の確認。
圷さんから借りたホットプレートに油が引か
れ、水溶きの小麦粉が拡げられる。少し固まっ
たとこへ粉鰹と紅生姜、そしてキャベツが2摘
み。キャベツが少ししんなりした所でドロッと
したソースを1たらしして2つ折。
「これもお好み焼きだ。今はこれで勘弁!」
焼きあがった最初の1枚をボクのお皿に入れ
てくれて、ぺこりと頭を下げる。
「これでも…大変だったんじゃない?」
「流石に今日贅沢したから明日から我慢な、
は…お前も嫌だし、俺も嫌だから」
ぶっきらぼうに言うけど…耳、赤くない?零
一さん。
「それに、これでも少し贅沢できるんだ。ク
レープなんて、食った事、無いだろ?」
「無いよ」
「真似事でよければ、後でやろうな?」
何か其の笑顔見てたら、零一さんと七糸様が、
重なって見えた。