広い海中のなかで、私はやっとマスターに面会する。
そのマスターの第一声は、最初は自分には不可解だった。
「あなたは、、、エ・ミ・ヤ」
・・・・・・・・・これはどういうことなのだろう。
確か、マスター、君にも私が人間だった頃の名前、真名は話さなかったはずだが・・・話す必要はない、そう思ったからこそ無銘だと、あの時はそう答えたはずなのに。
そうか、私が君の過去を見たように、君も私の過去を・・・・・・見たということなのだな。
いくら言葉をごまかしても、事象を観測するムーンセルの力は全てをさらけ出すということなのか・・・・・・。
「聖杯の力か・・・私の過去を・・・見たんだな。君が思っていたような者ではなかっただろう?」

それでも、私の抑止の守護者として辿ってきた道筋も、私の心の奥に隠された偽善も、全てを知った上で、少女は手をこちらにのばしてきた。

私の全てを受け止めて・・・

その腕は透けて、今にも消えてしまいそうだったが・・・・・・
抑止の守護者として、ここに来るまでに何度も見てきた、人の死の瞬間を。
マスターも、今また消え去ろうとしている。
見慣れてきたもののはずなのに、目の前の少女だけはずっとこの目に留めておきたいと思ってしまう。
せめて最後の瞬間まで、彼女のやりたいようにさせたかった。

少女の腕が私の頭に絡まる。
「マスター」

マスターの次の動きを、俺は待った。
彼女の気持ちを受け止めてやりたかった。
だが、予想もしていなかった方向にその腕は動いた。
私の凝り固まった心を映すかのように掻き上げられた髪が、少女によって解きほぐされたのだ。

「君は・・・・・・」

いつもそうだった。か弱い普通の少女だと思っていたその無垢で破天荒な心に、自分は助けられていたのだ。
だからこそ、俺はこのマスターの前では正義の味方のあり方を憎むことなく選びとれたのか。
この少女を助けていると思っていたが、実はこの少女によって私は自分の夢を叶えていたということなのか。
「君の底抜けの・・・そうだな、そういう心のあり方に、私は救われてきたのだな。」


「ありがとう。助けてくれて、、、どうしてアーチャーがわたしのような・・・才能もない・・・無力な人間に契約してくれたのか、今、わかった気がする。」
・・・君のように傷つき助けを求める人達を助ける為に私はこの道を選んだんだ。何も気にすることはない。
「そうか、私も君のようなマスターと出会えて嬉しく思うよ。人間としての正しさを・・・かつての私の願いを思い出させてくれた。」

それでも、この少女には苦労させられた。
共に戦えてよかったとは思うが、いつもの悪い癖でよけいな一言がつい出てしまった・・・。
「特別手当はもらいそびれたがね。」
この少女との付き合いも長くなった。きっと、いつものように聞き流してくれると思っていた。しかし・・・

「これがわたしがマスターとして出来る最後のお礼。私と一緒にいてくれてありがとう。」
少女はおもむろに令呪のある手をこちらに向けて、確かにそういった。
「マスター、礼は十分にしてもらったよ。何を命令するのか知らないが、それはもう意味を成すことはない。」
このマスターに巡り会うことで私の願いも叶った、これ以上願うことなどない。
それに、既に聖杯戦争は終わったのだ。マスターが何をしようとも、令呪を使ったところで何の意味もないはずなのだ。
「それに私に望むことは・・・」
・・・・・・ない、そのはずだった。


目の前の少女といられる時間ももうわずかなのだろう。
少女の視線はもはや私を見ていない。いや、見えないのだろう・・・
掴んでいる両の手に、少女の体から力が抜けていくのがわかる。

少女が消えてしまう最期のその時まで・・・・・・私は、マスターを抱きしめる。
そう、まるで自分が幼い昔に災害で倒れて、もう助からないと思っていた時に、その両手で抱き上げ助けられたように・・・・・・


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