「凛、マスターは……大丈夫なのか?」
俺はマスターを抱きしめたまま、思いついた不安をそのまま尋ねてみる。
マスターの様子が落ち着いたとはいえ、まだ安心は出来ない。
「私 の抗ウィルスプログラムは確かに入ったわ。でも、ムーンセル由来のプログラムに拮抗できるかどうか・・・、それまでに既に彼女の自我が改ざんされていたら お終い。後は彼女の意思の力が頼りなんだけど、今はウィルスプログラムに襲われていて彼女の意識が回復していない状態なの。このままだと・・・。」
「何か……他に方法はないのか?」
「後は、サーヴァントとマスターの間で魔力供給に使われている魔術回路…かしら?それを使って、アーチャー・・・あなたが彼女の魂に触れて呼びかければ、彼女は自分の意識を取り戻すことができるかもしれない。そうすれば、回復する可能性を上げられるわ。」
「………………。それは単純に魔力供給の行為を行えばいい…という意味ではないのだろう?魔力を融通すればいいというのなら、わざわざ外界からのマスターのエネルギー供給を遮断しなくてもいいはずだからな。」
「あ ら、残念そうね。でも、理解がはやくて助かるわ。……聞いて、アーチャー。私達魔術師は、現実世界からこのSE.RA.PHにやってくる時、肉体から精神 を切り離して自分達を霊子というデーターに変換することで初めて聖杯戦争に参加できるようになるの。だから、その霊子データーをムーンセルが演算すること で私達の存在は成り立っているという意味では、サーヴァントと魔術師に本質的な違いはないわ。そのムーンセルで行われている演算を私がちょっとだけ小細工 するの。私が電子ハッカーとしてSE.RA.PHの演算領域に別の仮想空間を設定して、あなた達がアクセスできる場をつくるわ。その隙にあなたはマスター である彼女と契約時のように共鳴しなさい。彼女の意識に触れられるはずよ……。後はあなた達次第ね。」
「すまない。凛、君の援護に感謝する。」
「あなたのマスターには、私も命を助けられたし…、当然のことじゃない」
凛の魔術師の能力は確かであり、四面楚歌な今の状態で彼女の助力が得られるというのならばありがたい。
他にもあった聞いていてひっかかる言葉のその意味、何が一体残念なのか、恐らく一流の魔術師ならば知った上で言っているのだろうが、……それでマスターが助かるというのならばマスターからどのように思われようとも俺は…、今は凛のからかいを聞き流すことにする。



俺はマスターと魔術回路を再接続させる為に、俺の赤原礼装を残しつつマスターの上半身の肌を露出させ、同様に俺も胸を覆う黒き概念武装を解いていく。
そして、互いの胸の肌と肌を触れ合わせ俺がマスターを抱きしめたその脇で、凛による再契約の呪文の詠唱が始まった。

最初にマスターと契約を交わしたあの時のように、俺はマスターに意識を向ける
凛の詠唱が進むとともに、魔力によってマスターと俺の体が輝き出し、……俺の意識は闇に落ちた。



                            続き  戻る