「違う…!アーチャー。それは絶対に違うわ…」

それは本当に声だったのか?それとも…俺の錯覚だったのだろうか?マスターの強い意思が脳裏に伝わってきた!
見上げると、透き通ってはいたが…それは確かにマスターの姿が、俺の目の前に浮かび上がっていた。
「アーチャーのせいなんかじゃない。…それに、アーチャーが私を選んでくれて、私…本当に……嬉しいの。だから……アーチャー、そんなことは……言わないで」
……想いが、魔術の基本たるイメージ化を手助けし、マスターを実体化させたのか!?
俺は…俺を求めるかのように、こちらに伸ばされたマスターの手をしっかりと掴み、抱きしめる。
「マスター、君には、俺がついている。だから……一緒に、ムーンセルと戦ってくれないか?」
「アーチャー……」
そして、マスターから伝わってくる感覚が、恐怖から…俺への信頼と安堵に変わっていた。
「わかった。私も戦う。あなたと一緒に」


マスターが自分の意思でもって、立ち上がり、俺を受け入れた。
それにより、俺はマスターと再び接続することができた。
初めてマスターと契約したあの時のように…いや、気持ちはむしろあの時よりもさらに深く…つながって………俺の中に魔力がめぐりだしていった。



マスターと俺との魔力供給回路の再接続は無事に終わり、透き通っていたマスターの姿も今やはっきりと見える。
そして皮肉にも、ウィルスによって底上げされたマスターの魔術能力によって、抗体プログラムはその効果を発揮することになる。
俺はマスターの背を守るように立ち、彼女の背後から本来魔術の不得意なマスターが凛から与えられた抗体プログラムを扱えるように助言していく。
「抗体プログラムは…感じ取れるな?マスター」
「うん、凛の術式…複雑すぎてわからないけど、すごいわ。」
「……そう、そんな風にしっかりとイメージして、ウィルスを壊したいと願いながら組まれた抗体プログラム術式を展開していくんだ。」
「大丈夫、今なら扱えそう。」
両手を暗き虚空にかざし、マスターは自分の力で念じていく。
既にマスターから伝わってくる感覚には自分への信頼とウィルスと戦う闘志に満ち溢れていた。

マスターが抗体プログラムを操りだすと、次第に周囲が明るく光に満ちていく…

ウィ ルスが消えさってしまえば、そのウィルスによって一時的に上がっていたマスターの魔術操作能力も消えてしまうことだろうが…、それは惜しむべきことではな い。何故なら、危機にさらしてまで俺がムーンセルよりも彼女を選んだ…惚れ込んだ…理由は彼女の魔術師としての能力ではなく、……………なのだから。

俺はマスターを深く抱きしめた。


                         続き   戻る