君と共に


 EXTRA終了後 レジスタンス現場にて 



「あちっ! 」
慣れない火の扱いで思わず手を引く。
「ねぇ、お兄ちゃん! ご飯まだ〜?」
「あぁ、もうちょっと待ってくれ・・・。もうすぐ焼けるから」

ここは砂漠のような荒れた土地に、臨時で設営されているリンの属するレジスタンスのキャンプ場の・・・炊事場だった。
だだっ広い砂の平地にいくつかのテントが建てられ、そのテントに囲まれるように焚き火と調理道具が用意され、僕は食事作りに悪戦苦闘していた。

世間ではテロリストなどと酷評され時には粛清の対象にされているレジスタンス。
だが、レオが属していた西欧財閥の支配の矛盾や歪みは大国の情報操作によって隠されてはいても確実に存在している。
僕が聖杯戦争の中で聞いたレオの理想も目の前の戦争の現実によって虚ろに感じられた。
各国の戦争の対立の中で、リンや僕がいるレジスタンスは真実を探り、誰も聞こうとしないその小さな声を拾い上げようとしていた。
このキャンプ場にいる子供達はそんな戦争の中を生き残った孤児達だった。

「さ〜てと、夕食できたよ。みんなを集めて食べようか? 」
「ほんと? お兄ちゃん。じゃぁ・・・呼んでくるね」

家族を失いここに来た当初は心を閉ざしていた子どもたちも、自分と同じ境遇の仲間を見つけ次第に新しい家族として心を開いていった。
僕もリンに目覚めさせてもらい、自分に家族がいなくなっている事実を知った時、僕の往く道も決まったのだと思う。
リンと共に、僕もレジスタンスの道を歩むことを・・・。
友達だから、、、という理由でリンは僕を世界のあらゆる場所に連れて行こうとする。
レジスタンスとしての戦い方や生きる気構えも、教えてくれる。
ただ、まだ戦い方は未熟で聖杯戦争の中で自分の得意だった回復ぐらいしか、今はまだ役には立っていなかったが・・・。
だから僕が今できる与えられた仕事は、レジスタンスが救った孤児達の世話だった。
リンいわく僕は子どもの世話係がお似合いなんだそうだ。
「リン、ひどいな。 それじゃまるで僕は何もできないって言っているみたいじゃないか?」
「ふふっ、子どもの笑顔って素敵でしょ? あなたがお世話するほうがいいみたいよ。」
そんなリンの小悪魔のような声が思い出される。

「あっ、お姉ちゃんお帰りなさい」
食事中の子供達の声で気がついた。
用事で出かけていたリンが帰ってきたのだ。

「お帰り、リン」
「・・・・・・ただいま」
スタイリッシュな体形に機能的な赤いシャツと黒のミニスカートとニーソックスを着こなした金髪碧眼の若い少女はこのレジスタンスのキャンプ場の中でもひときわ人目を惹いていた。
彼女のリンという名前は日本語の凛という字の発音とよく似ていて、リンはただの偶然だと言っていたけれど、その名のごとく凛とした強い意思と判断力を彼女は持っていた。
戦闘魔術が得意で5大要素を扱えるとなると、レジスタンスの再三の戦闘要請にも彼女はひっぱりだこだった。

「リン、疲れただろう? 今 食事の用意をするから・・・」
「・・・、ありがとう。でも今夜はいらないわ。 お腹は別にすいていないし」
「そうか、いいできばえだったんだけどな。食べてもらえなくて残念だ」
「食事が済んだ後でいいから、後で私のテントに来てくれない? あなたに連絡したいことがあるの」
「わかった。後で行くよ」

戦闘の疲れのせいか、心なしかリンの表情にいつもの明るさが感じられなかった。
自分に連絡したいことに関連してきっと何かあるのだろう。
食事を終えた子ども達を寝かしつけてから僕はリンのテントに行った。

「リン、・・・僕だよ。 話し聞きにきたんだけど? 」
リンのテントに立ち寄ると、リンは自分のテントで休んでいたようだった。
けだるさを隠さずに彼女はゆっくりとした動作でテントから出てきた。
砂漠の澄み切った闇の中で、鋭い碧色の視線がこちらに向けられる。
「親方から連絡があったの・・・、あなたにも仕事の依頼が来た。・・・それも囮役よ? 受ける? それとも・・・」
一瞬、自分の体に戦慄が走った。
レジスタントとして生きるということは、その目的の遂行の為に自分の命も賭けるということ。
リンは歴戦の戦歴をもつ優秀な魔術師だが、僕は違う。今まででもリンは僕が命の危険にさらされる事態になることは避けていてくれていた。けれど、そうすることも難しくなってきたということなのだろう。
リンを介してレジスタントのこの要請を、もし受ければ・・・、今後は本当に命の保障のない世界に身を投げることになる。
「断ってくれてもいいのよ? あなたを探して目醒めさせたのは聖杯戦争で友達になったからだけど、ここから先はあなたについて来いとは言わないわ。 別の穏やかな生き方なんていくらでもあるんだから・・・」
「・・・、リンはどうするんだい? これからもずっとレジスタンスとして? 」
「当然よ! 私は自分の正しいと思った道を往くわ。叶えたい夢を実現する為にはそれ相応の対価が必要なのよ。 ムーンセルであなたは何を何を学んで来たのかしら? 」
・・・その聖杯戦争の記憶を、僕は覚えていない。彼女が僕を探してくれたからこそ僕は再び目を覚ますことができた。リンに誘われるままにレジスタンスの道へついていった。流されるままに・・・けれど、そろそろ自分の意思で決める時かもしれない。

自分の中で答えはもう決めていた。ただそれを伝えるのは勇気が必要だった。伝えるなら、もっと彼女に近づいてからささやきたかった。だから、、、
リ ンの腰に手を添えて自分の方へ寄せようと手を伸ばすと、「 ・・・ッ!」彼女に触れた瞬間・・・リンはほんのわずかだが苦痛の悲鳴をあげて身をよじった。 その様子がおかしいので、もう一度今度は優しく彼女の体を触れてみると服で隠されていてみえなかったが彼女の体に包帯が巻かれていることが布地の感触から わかった。

「リン、怪我をしたんだね? 」
「何でもないわよ、このぐらい。 今日の戦闘は少し荒れちゃったから・・・」
彼女はいつもこうだ。自分の信念の為には、痛みを隠し気丈に振舞う。おそらく、もし万が一戦闘で命を落とすことになっても彼女は本当に笑って逝くのだろう。
包帯越しに自分の拙い回復魔法を発動させていくと、しだいにリンの苦悶の表情にいつもの気丈さが戻ってきた。
「痛みは・・・止まった?」
「ありがとう。回復魔法は私苦手だから、いつも感謝しているわ。でもこれからもあなたが私の側にいる必要はないわ。返事を聞かせてちょうだい 」

「答えはYESだよ。 俺も君と共に行く。 今の僕だったら囮役ぐらいしかできないだろうけれどね」
「そ んなことないわよ。 情報収集も兼ねてだから、顔の知られている私よりもあなたの方が向いているわ。 それに聖杯戦争でも、あなたは誰とでも分け隔てなく 関わっていき、その誰もがあなたに心を開いていった。 その在り方はあなたしかできない一種の才能よ。 私がいうんだから間違いないわ」
「そうかな? でもそういってくれると嬉しいよ」
「あなたが行くなら、私も護衛で一緒に行かなくっちゃね」
「君が? 僕一人なんじゃ? 」
「あなた独りで何ができるの? まだ私がいないと何もできないじゃない」
「僕だって!・・・っ!」

子ども扱いに対する僕の反論を押さえ込むかのように、リンは両手で僕の頬を包み唇で僕の次の返事を塞いだ。