蜜月

「・・・・・・遠坂」
「・・・・・・士郎」

思えば彼と、こんな風にお互いを抱きあうようになったのはいつ頃からだったのだろうか?


正義の味方という名の殺し屋。
士郎が自分の夢に向かって走り出してゆき、それをともに喜んであげたかった。
なのに、士郎が自分の元にかえってくるたびに、その目は鋭く・・・虚ろになっていった。

全ての人を救いたくても、どうすることもできない、士郎。
求められても、魔術師としての私の中にはその現実を変える術も策も・・・もう残っていなかった。
士郎を言葉で励ますことも、慰めることも私には出来ない。
私に出来ることは、ただの遠坂凜として、肌を触れあわせて抱きしめてあげることだけだった。

「遠坂・・・、いいのか?」
「・・・・・・、士郎。私、あなたのそういう甘さが・・・好きよ。」

不安げな・・・自らの正しさを信じているはずなのに、確信を持てないでいる瞳をしている士郎のその口を、私は口づけをすることでふさぐ。
士郎は・・・その瞳と同じように・・・私に触れることを恐れるかのように、強ばっていた。
お互いが生まれたままの姿で、私は士郎を抱きしめる。
士郎は自分が認められたことを、自分を信じてもいいことを、その体で感じ取れただろうか?
次第に、士郎の体から余計な力は抜けてゆき、私を抱きしめ返す。

「遠坂、・・・愛している。」
「士郎、私もよ。」



どうしようもないことは自分でも分かっていた。自分が目指した理想がこの手に届かないことはもうわかっている。わかっているはずなのに、この身体は相変わらず、正義の味方として動いてしまう。
自分が自分でどうしようもなくなった時、気がつけば・・・俺は、彼女の前に立っていた。
彼女の前で、俺は自分の弱さをさらしていた。
このどうしようもない現実に、それでも俺は自分が殺してきた人すら捨て切ることが出来ないと・・・叫んだ。

彼女は黙って、俺を・・・抱きしめてくれた。
それが何を意味しているのか・・・彼女は知った上で、その手をさしのべてくれた・・・俺はただひたすら彼女に許しを求める。

「遠坂・・・、いいのか?」
「・・・・・・、士郎。私、あなたのそういう甘さが・・・好きよ。」

救ってきた人達の笑顔、感謝の言葉、そのささやかなお礼だけで自分は満足だった。そのはずなのに・・・それ以上に悪夢が脳裏を駆けめぐる。血にまみれたその手で、本当にお前は正義の味方を名乗れるのかと・・・
そんな愚かしい自分の甘さを・・・それでもいいと、彼女はいってくれた。
自分が目指したあり方を・・・自分を理解してくれるひとがいたことに・・・俺は気づいた。

「遠坂、・・・愛している。」
「士郎、私もよ。」

俺は遠坂を抱きしめた。






                          続く



士×凜 正義の味方と現実の狭間で揺れる士郎(エミヤ)と凜の逢瀬。