森の精霊 1 

昨日、アリーナにて敵のアーチャーから受けた弓矢の毒も無事に治すことができた。
そして、あの緑のアーチャーは彼のマスターであるダン・ブラックモアの令呪によって、彼の宝具である「祈りの弓」の学園内での使用を封印されていることはわかっている。いつもどおりに気を取り直し、再び決戦に向けて、私は今日も校内で情報収集をすることにする。

校内を歩き回ってふと窓の外を見ると…、緑の衣をまとった昨日の緑のアーチャーが木のそばで立っていた。
しばらく様子を見てみると、彼は一人で何もない空中に向かって、まるでそこに小鳥の相手をするかのように手を動かしていた。




気になっていたので外に出て、彼の近くにまで出ていき近づいていくと、緑のアーチャーもこちらに気がついたようだった。
「またあんたか? 昨日 毒矢を受けて治ったばかりだっていうのに、オレに近づくなんてあんたいい度胸しているね。」
「そうね、でも大丈夫でしょ? あなたの毒矢の宝具はあなたのマスターが封印してくれたのだから。」
どうやら先制攻撃はこちらの勝ちのようだ。
面食らいながらも緑のアーチャーは私の度胸に苦笑いをしながら、軽口を続けていく。

「オレから奇襲を奪ったら何が残るって言うんだ? 全く旦那の頭の堅さには、呆れるというかなんというか…。それにしても、あんたは何しに来たんだよ? 」
「あなたの様子が気になったから来てみたの。何もないのに話しかけたり手を動かしたり…気になるじゃない…。 あなたは一体何をしているの? 」
「何って、ああ…あんたには見えないかもしれないが、今 オレは精霊と話をしていたのさ。」
「精霊? 」
「森の木々には精霊がいる。オレには精霊達が見えるって言ったら、信じてくれるかい? あの時も村人には見えなくてね、説明するのに困ったもんだよ。」
見えないものをあるとは思えないが、少なくとも…嬉しそうな目で「信じてくれるか? 」と尋ねてくる彼の気持ちに寄り添いたいと…私は思った。だから、
「……、私も信じる。あなたには精霊が見えるのね。」
自分に同意してくれて嬉しかったのか、それから彼とは彼の生前の思い出話で会話が弾んでいった。

「相手が軍隊だろ? 一人でかなう訳がない。戦力差を埋めるためには一体どうしたらいいと思う? 」
「……、奇襲? かな。」
「そうさ、それしかオレに勝つ手段はないんだからな。負けたら大変なことになる…。」
「負けたらどうなるの?」
「村が領主に占領されて、村人達がひどい目にあわされるんだ。」
「じゃぁ、あなたは村人達の為に戦ったのね。」
「………………。」
「どうしたの? 」
「いや、別に…何でもないさ。」
「村人に称えられてあなたは英霊になったのね。」
「いや、そんなんじゃないさ。オレは結局負けたし…あいつらが戦ったオレに礼を返してくれることなんてなかったしな。」
「じゃぁ、何故あなたは戦ってきたの? 」
「……、さあ、どうしてなんだろうな。」

彼のその言葉の後に、続きを待ったが…沈黙だけが…辺りを覆っていく。

「アーチャー、あなたにも守りたいものがあったから戦ったんだよね? 」
「はっはっ、そんなのはオレの柄じゃないですよ。そんなこと聞いてあんた楽しいのか?   ん?、…………。ああ、それじゃぁ、オレはそろそろこれでおいとまするとしましょうか。あんたもここでいつまでもオレとお話ししてもいいんですかね?」

急に怪訝な表情をしだした緑のアーチャーが向ける視線の先には、、、私の紅いアーチャーが、、、いた。

「こりん男だな。またマスターにちょっかいをかけるつもりか? 」
「そうだな、それもいいかもしれないな。彼女はなかなかいい度胸をお持ちだし…オレも何だか興味が沸いてきたよ。」
私のアーチャーの言葉に、彼は捨て台詞を吐いて去っていった。

「マスター、奴に毒矢をくらったばかりだというのに…一体、何を考えているんだ? 」
「ごめんなさい、アーチャー」
アーチャーの叱責に、素直に謝る。
「ねぇ、アーチャー。」
「なんだ? マスター」
「あなたも、人の為に戦ってきたの?」
「…………。マスター、今はまず目の前の戦いに専念したまえ。いずれ、君が私のマスターとして成長した時に……私のことを開示してもいい。今はまだ、その時ではない。」
「アーチャー」

何故かその時、私は私の紅いアーチャーと緑の衣を着た彼が…同じ哀しさを帯びていると、想ってしまった。

続き