森の精霊2
アーチャーのクラスには、単独行動という特殊能力がある。
聖杯戦争では、通常マスターとそのサーヴァントは行動を共にするのが常であるが、それに反してオレは単独で校内を動き回っていた。
何故なら、敬愛すべき我がマスターの現実を見ない無謀さと柔軟性のなさに、オレは辟易としていたし、、、いい度胸と呼ぶべきなのか・・・オレにちょっかいをかけてきたあの女マスターの少女のことが、少し気になっていたからだ。
実体化しなければ、他の魔術師達に気づかれることはなく、歩き回ってほどなくしてその女マスターの少女は見つかった。彼女は校内の情報を集めるべく、クラスメイトと呼ぶ魔術師と会話をしては、また他の魔術師のところへ移動している。
オレは、しばらくその様子を遠目に覗っていたが、彼女が人気のない校外の壁にもたれて休みだしたので、実体化して彼女の目の前に躍り出た。
「ようっ!お嬢さん」
「えっ?、あなたは・・・緑のアーチャー?」
彼女は、驚いた様子で・・・こちらを見つめる。
そのあどけない表情、何の偏見もない真っ直ぐな瞳に、、、オレは惹きつけられた。
「この前は、邪魔が入って・・・話がうやむやになったからね。もし、よかったらだが・・・この前の続きをしないか?森の精霊やオレの故郷について知りたがっていたんじゃないか?」
以前、オレはこの少女を・・・毒で殺そうとした。
だが、今度はこの少女とただ会話をしてみたかった。
まるで、生前にまがりなりにも恋をした・・・村娘と面影が似ているように感じた、この少女と、、、。
そんな言い訳が通じるはずがないのだ。
これは聖杯戦争で、オレ達は敵同士なのだから・・・。
なのに、この少女は・・・
「いいのっ? 私も聞きたかったの・・・また会えて、よかった」
オレが襲うはずがないと信じて疑わない真っ直ぐな瞳と声が返ってきた。
こんな素直で可愛い少女が、オレのマスターでなかっただなんて・・・。
何故、ムーンセルとやらは・・・オレのマスターにダン卿をあてがったのだろうか?
何故、オレは・・・村人に疎まれて来たのか・・・こんな少女に生前にでも出会っていたのなら、、、オレは、、、
人を信じることが・・・できたものを
この目の前の少女の曇りなき瞳に、オレにはまるで森を護る精霊達の美しさを感じた。

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