森の精霊3

マスター以外にちょっかいをかけることは契約上本来許されないことだが、自分が召還されて初めて惹かれた少女にオレは会う
機会を伺うようになっていた。

その少女には常に赤い外套を着たアーチャー・・・奇しくもオレと同じクラスのサーヴァントが付きまとっていた。
彼女とオレのマスターは聖杯戦争での対戦者と決まってしまっていた。
このままでいけば、彼女とオレは殺しあうことになる(正確には、オレのマスターとだが・・・)。
決戦の日もあと数日と時間がないだけに、どうしたものかと思案していた時だった。

「アーチャー、ちょっとだけ私一人にしてくれないかな?」
学園内で彼女の様子を探り見つめていて、唐突に彼女は自分のサーヴァントに呼びかけた。
瞬時に少女の側に現界した赤い外套を着た彼女のアーチャーは相変わらず落ち着いたすまし顔でいながら困惑を帯びた口調を隠
さず彼女に返事をした。
「・・・マスター、どうした? 急に自分一人になりたいなどと言い出すとは・・・。そんなに私は頼りないかね? 何か相談
事があるのならば言ってみるがいい。私は君のサーヴァントなのだから・・・」
「うぅん、アーチャーのことは信じてる。そういうことじゃないの・・・ちょっとだけ自分で考えたいことがあって、ただそれ
だけなんだけど駄目かな? 心配してくれるのは嬉しいけれど、アーチャーの力じゃなくて自分で決めたいから」
「君がそういうのならば、私は口出ししない。君が思うようにすればいい。なに、学園内は安全なのだから構わないが・・・、
何か身の危険を感じたらすぐに呼んでくれ」
「ありがとう、アーチャー」
彼女のアーチャーは目の前から消え、しばらく周囲を見回していた少女の姿はオレから見て少しおかしかった。
次は何をするつもりなんだかなどと彼女の様子を見ていると、再び彼女は呼びかけた。

「そこに・・・いるんでしょ? 緑のアーチャー・・・さん」
呼ばれているのは、オレのことか?
「出てきて私とお話しない?」
当然、オレは彼女の目の前に現界した。
「オレを呼んでくれるなんて、嬉しいよ」


それからいつものようにお互いのことを話した。
自分のマスターにすら話したことのないような自分の身の上話も彼女になら心を開いて話すことができた。
そして彼女のこともオレは知ることができた。
自分のことがわからないなんて本当にそんな魔術の素養が疑われるようなことを呟く少女の言葉も少女の純粋な瞳を見ていて嘘
だとも思えない。自分がこの聖杯戦争でどうなっていくのか、その不安をオレは聞くだけしか出来なかった。

「なぁ、、、オレと契約しないか?」
「えっ?」
その不安は同時にオレの不安でもあった。
もう数日もしないうちにオレはこの少女と殺しあわなければならなくなる。
(どの道、ダンの旦那だってオレのことは気の合わないサーヴァントだと思っているはずだ。むしろオレと縁が切れてせいせい
しているはず・・・)
彼女と戦うことを回避するには、この方法しか道はなかった。
「このままでいくとオレ達は決戦で殺しあわないといけなくなる。オレと契約すれば、そんなことをせずに生き延びられる。オ
レと・・・契約してくれないか? 」
君も薄々は知っているはず。聖杯戦争とはSE.RA.PHに存在する全ての魔術師とそのサーヴァントが殺し合うサバイバル戦争なの
だ。自分も相手も皆 生き残る・・・そんな甘いことは不可能なのだ。
「・・・・・・」
少女は沈黙し、うなだれていた。別のサーヴァントと再契約をするということは元々契約していた自分のサーヴァントとの契約
を切ることをも意味する。だが、ここで引いてはオレが彼女と再契約することは叶わぬ夢となる。
君はオレを信じてくれた。だからこそここに誘ってくれたはずだ・・・返事を・・・。
「あなたはそれでいいの?」
真っ直ぐな瞳でオレを見つめながら、少女はオレに問いかけた。

迷うことなくオレは彼女の問いに答えようとした、その瞬間・・・
(その少女と、契約したいのならば行くがいい。その方がお前に合っているかもしれんな)
旦那っ?
離れていてもマスターとそのサーヴァントはレイラインで繋がっている。
オレの意志を見越したようなダン卿オレのマスターの声がオレの中で響き、少女の問いに答えることが出来なかった。
「・・・オレは・・・オレは・・・」

「あなたのことが、私は好き。エメラルドグリーンのとても綺麗なあなたの瞳が微笑んでくれたら・・・私は嬉しいの」
「何がいいたいんだ? 君は。ここまでオレを近づいておいて、何故今更問いかけるんだ?」
「あなたが話しをしてくれて嬉しかった。お話する度に笑ってくれるあなたがもっと笑って欲しかった。だから・・・私、、、
でも、あなたのマスターをあなたが裏切れば、きっとあなたは辛くなる。信じて欲しかったんでしょう?」
「うるさい! 君に何がわかるっ!」
その少女はオレの心の奥の本当の願いがどこにあるのかを知っていたのだろう、言い当てられたオレは思わず激高しその場を逃 げ出した。


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