「○○宅急便でーす!」と爽やかな青年が一礼をして、オフィスに入ってきた。「お疲れさん、その辺置いときゃいいよ」と、留守番の千葉が労りの言葉を添えて声をかけると、「はいっ!」とこれまた元気な声で返事をする。千葉がサインをしている間にその青年は入ってすぐの机に小さいダンボールをどかっと置いて、用紙を受け取るとぺこりと頭を下げて退出した。
実に爽やかな青年だった。千葉はついつい笑顔になってしまう。

「東京宛てかー………」

ダンボールに貼られたシールに書いてあった会社名。どこかで聞いたことがあるような。しかしすぎにはぴんとこなかった。中身が少し気になる、が開けるわけにはいかない。千葉はダンボールを東京の机にもっていこうと、それを持ち上げた瞬間、ふと誰かと目があった。便所に立っていた東京は凍りついた表情でドアの前で立ち尽くしていた。

しかしその東京の焦り具合で千葉はたった今思い出した。そうだ。大人向け玩具の、その業界では超大手な会社だ。しかし何だってオフィスにこんなものが届くのか………。




「まあ、なんだ………宅配会社、変えた方がいいな」

千葉と東京だけなら無かったことで済ませたが、運悪く神奈川が戻ってきてしまった。

「あの方って本当に高嶺の花ですから、お付き合いしてくださってるという事実がもう奇跡なんですよ。奇跡の花を咲かせてるわけですよ。それなのにこんな、こんな俗っぽいものつかったら引かれるかなぁ………とか思ったりするわけですよ!わかってるんですけど、どんどん調子に乗ってこの間なんてもう本当………あああ私きっと飽きられる…あの人に飽きられる………気が付いたら注文ボタンをクリックしてました。あれ……自宅に届くようにしたんですけど……ははは………」

うじうじと項垂れる東京に、神奈川と千葉は言葉が出ないようだった。

「使えばいいじゃん」
「殺されますよ」
「いやー………でもこういうのって女用に作られるわけだろ?」
「はい」
「そんでかなり売れてるべ」
「そうですね」

神奈川と千葉は嫌がる女性は少ないんじゃないのか?と言う。

「じゃ、あとはタイミングだなぁ」
「はあ。では、神奈川さんにさしあげます、………ほら、小さいとただでさえ大変でしょうから」
「お前は、大変な勘違いをしていると思う」

その後はお酒を交えての談義だった。談義といってもいつもの愚痴合戦になのだが。東京の話題はほんの10分しかなかった。その中で出た2人の意見はというと。


「よし!引かれたらその時はその時だ!よっしゃ、当たって砕けてこーい」
「骨は拾うぜ、俺たちを信じろ」

東京はかつて、こんな無責任なGOサインを聞いたことがあっただろうか。






短いようで長かった命だけれど、今日で終わりか………なんて不吉なことを考えながら夜を迎える。
今京都と東京の間には、目に悪い色をした玩具が並んでいる。京都は最初、よくわからなかったようで少し首を傾げていた。東京は混乱し、その玩具のメーカー名、その会社の理念、利益収入云々説明していると、京都はやがて納得した。

「こんなところまでお仕事もちこむやなんて、東京はんはほんまお仕事が好きなんやなぁ」
「いや、違います………違うんです………つ、使ってもよろしいかと………了承を得ようと………」

東京はもにょもにょと口ごもる。

「最近、似たようなもんをもらいましたわ」
「ええ?」
「どこにしまいよったかなぁ、ああ、東京さんは見たいんやろか」
「興味はありますけ、ど………」

少し待っておくれやす、と京都は立ちあがって棚を開ける。寝巻の、腰のラインがとてもけしからんなぁ色っぽいなぁと東京はぼんやりと京都を見ている。「これやこれや」と京都は目的のものを見つけ、東京の間えでその高級そうな塗箱の蓋をあけた。
その中には東京が持ってきたものと似たようなそれらが、丁寧に保管されてあった。

「失礼ですがこれらを使用したことは?」
「ありまへんなぁ」

まるでセクハラだ。しかも「ある」と答えられても困るような質問をしてどうするんだと、東京は言ってから気づいた。

「そやな、ちぃっと動かしたことはありますけど………」
「どうでした?」
「使い方がようわかりませんよって。だからなんやっていう話やな」

淡泊過ぎる。この人あまりにも淡泊過ぎますよ。年齢不詳は伊達ではない。

「そや、東京はんは使い方を知ってはるのやね。ところでこれ、数珠みたいな形をしたもんはなんやろか」

京都が手に取ったのは紫色のアナルビーズだった。とても泣きたくなった。

「こ、肛門用ですね。も、勿論京都さんには必要ないですよ。ええ、そうですとも」
「へえ。変わった客のにぃずに応えまひょって、まあ、ほんまようやるわ」
「ど、どうも………」
「次にこの、多分、おめこにいれるやろうけど、ここの、この小さく飛び出たところはなんやろか」
「にょ、尿道に………」
「………?尿?」

もうやだ何このプレイ。いい年した東京は本当に泣きだしそうだった。ぐっと熱い目頭を押さえる。悲しいのやら嬉しいのやら。とにかく頭を冷やさないといけない、失礼にもほどがあると東京は一度席をはずそうとしたが、「ま、」と京都が小さく声をあげた。

「どうしました?」
「あれぇ東京はんったら、むくむく膨れはって」
「………いっそ殺してください」
「何言いはるの」

呆れたように京都は言う。

「まあなんとなくわかりましたわ、おおきに。さー、どれを使いまひょか」
「いいんですか?」
「せっかくもらったんやし、勿体無いやろ」

どれがええやろかーと箱の中身をあさる。

「ああそういえば、昔も同じようなもんありましたわ」
「知ってらっしゃったんですか」
「途中で思い出したんやけど、東京はんの反応がおもしろくて見ていたのや」

顔を隠す袖からちらりと見える、意地悪い笑みが少し憎たらしい。

「質が悪い………」

東京は頭を抱える。本当に愉快だが難問な、東京の悩みの種だ。





「ふっ、ふぅっ、くすぐっ、んっ、………な、いい、そ、こ、ん………」
「京都さん、かわいい………本当に可愛いです……」

雪のような白い肌に赤い印を散らしていきながら、手は下へと降りていく。湿り気を帯びと布と皮膚の滑りが良くなっている感触があった。ぬるぬるとした滑りの良さで指先は下着越しに秘裂をなぞり、円を描くように指を這わした。

「東京は、っ、あっ、そこは………」
「尿道、いいんじゃないですか」
「そこばっかり……は、や、や」

嫌と言っているのに、密壺からは止めどなく愛液が流れでてきている。東京はクリトリスを舐めあげながら、指で陰部をなぞり小豆を摘みあげる。京都の唇から熱い吐息が漏れて、身体全体がびくりと痙攣した。

「あっ、ほんま、ほんまは、ほんまはな」
「ん?」
「そのな、一人でやってろって、言われてるみたいやった」
「………っ、それは、そういう意味じゃないんですけど、は、見てみたいかもしれません」
「ん、そういう意味じゃ、のうて」

頬がほんのり赤くなって、目は少し落ち着かない。ちょっと目が合えば顔を隠してしまう。いちいち可愛らしい。常日頃だったらなにをしても一定の笑顔か無表情、しかしこういうときはかなり表現が豊かになる。ああなんて可愛いんだ。

「最近、うちのこと、厭々抱いてる感じがしてな、飽きられてるかと思ったんや」
「あ………それは私が………、あっ、もうどうして京都さんって………そんな、もう………っ」

東京は京都を掻き抱く。京都は優しく背に腕を回した。京都の首筋に顔をうずめると匂う、東京では売られていない香りが好きだ。香りだけじゃない。もうなにもかも、京都のすべてが好きだ。

「好きや、もうほんまに、あんたのこと考えると、頭がおかしくなるわ」
「私もです」

と、菊門の方へ指を滑らせると、京都ははっきりした声で止める。

「あ、後ろは無理や、すんまへん」
「はい」

ちょっと空気が冷めたかもしれない。気を取り直して東京は京都の口内を犯すような荒いキスをして、件の玩具を乱れた寝巻の隙間から滑り込ませる。その先端が丁度クリトリスに当たるように調整する。

「では使ってみましょう。お一人でも遊べますので、今度試してみてください」

まるで営業しているみたいだ。静かなモーター音と共に振動を開始する。甘い声とともに腰がくねる。

「………っ、んっ、あっ」

一定のリズムを彼女の体に刻み続けていく。まるで弓のように背中を仰け反らせ息を荒くしはじめた。

「んっ、あつ、熱っ、ふっ、うっ、うんっ」

気持ちいですか?と尋ねると「ん」と微かに頷いた。ああ腰に来る。しかし甲斐性無しと言われるのが嫌なので、なるだけ自分は後回しで京都を愛することだけに集中する。
しかし。

「あ、の、東京はん」
「………は、はい?」
「うち、うち………もう、東京はんのが欲しい」

と、また1つ、殺し文句のおでましだった。






「………東京はん」
「はい?」

久しいことなかった充実した情事のあと、東京はごろりと寝転んでいる。京都が寝巻を直してから、自分の前へときちんと座るように促した。

「なんでしょうか」
「今夜みたいな内容は、たまにはええかもしれまへんけど、うちはいつものゆっくりした、決まった手順で進む方が安心します」
「はい、わかりま………はい?」

マンネリ化で飽きられてるんじゃないの?ずっとそれで私は悩んでいたんですよね?あれ?

「それとな、………なにボーっとしとるのや。メモせな東京はんは忘れますやろ」

唖然とした東京は我に返り、素直に手帳を探り寄せる。「ほんまにメモとらんでもええのに」と、京都はくくっと喉奥で笑って、指で東京の額を弾いた。

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