「あれ?」
「どうした?」
「こんテレビ壊れとるよ」

ぽんぽんとテレビを叩いたがまったく反応はなかった。真っ黒い画面のままだ。さっきまでは元気に動いていたのに。どれくらい使ってたのかと福岡が尋ねると、佐賀が「10年」と簡潔に答えた。10年もてばまあいいほうだろう。ではいっそハイビジョンテレビでも買いに行こうかという話になったが、窓に打ちつく雨がなんとなく2人を億劫にさせる。

「雨、ふっとうねぇ」
「ほやな、福岡帰るか?用事済んだんじゃろ」
「や、せっかく来たばい。もうちょとここにいさせてもらうばい。その内、雨もやむよ。その間ちょっと暇かねー」
「なーんもなくて悪かったの」
「なして?佐賀がおるばい」
「………」

ふぅーと福岡は畳の上に寝っ転がる。上気し、桃色に染まった肌。時折もらす吐息が色っぽい。ほんの数秒後にはすうすうと寝息を立てていた。
密に誘われるように佐賀はゆっくりと福岡に近づいていく。顔を近づけるとぱちっと大きい瞳が開き、佐賀を見つめる。

「キスしたいかい、佐賀君?」
「………福岡、お前なしてそんな」
「よかとよ」


からかっているのなら佐賀は怒る。後悔しても知らない。互いの吐息がかかる距離で、福岡の甘い香りが鼻腔をくすぐった。福岡の唇から伝わる温度、感触、におい。
佐賀はむさぼるように唇を吸って味わう。途端に福岡の口内から溢れだす唾液とろとろとして、舌に絡みつく甘み。ざらりとした舌の感触が、佐賀を恍惚とさせる。ぴちゃぴちゃと音を立て、佐賀は口内を舐めあげる。福岡の唾液を一滴残らず味わうように、佐賀の舌が動いていった。そして一度、佐賀は目を軽く開く。気のせいかと思った、しかし佐賀の思った通りだった。佐賀は唇を一度離した。

口づけの音ではない音。雨の音でもない音。
福岡の目に浮かんでいた水滴を佐賀は舌ですくう。福岡の鼻は赤くなっていて、すんすんと鳴っていた。今日はなんとなく変だった。福岡は変だった。しかし弱い福岡なんて見たくない。いつもの福岡がいい。なんだかんだ言い合って、喧嘩して、頼れる奴でいてほしい。だから佐賀はまったく気付かないふりをした。福岡はそれをわかっていた。わかっていたから気をつかっていつものように笑っていた。さっきまで笑っていた。

「無理しとるか、福岡は無理しとるか」
「ん、うん、あたし、ごめん、うん………ごめん」

唇を吸いながら、佐賀は下着に手を伸ばした。淫肉をなぞるように指を動かす。指先に触るこりこりとした淫核を摘みあげる。繋がった唇越しに吐息が伝わる。
指の動きに合わせて、息づかいが荒くなる。


「つかれた」


それが合図だった。強情になればなるほどつらくなる。自分以外だったらもっとうまく彼女を癒せただろうか。そんなことを考えてはかき消した。ぬるぬるした感触が佐賀に声をあげさせる。豊かな胸が柔らかい。産毛が裏筋に絡みつくのが気持ちいい。ぬるぬるとした愛液が気持ちいい佐賀も福岡も今よりもっともっと大きな快楽を求める。快楽に溺れた頭では、他に考えることはできない。

「うっ…ん……ぅ…んっ…さ、さが…あっ………」

福岡の白い肌は赤く上気して。声は時を経るごとに高くなって。飛び散った愛液は甘い香りを放って。
淫らな音は部屋中をこだましていった。




「あたし、最低ばい………」

冷静さを取り戻した福岡には、後悔の嵐が吹き荒れていた。佐賀に、佐賀になんてこと頼んだんやろーああもうごめんなごめんな一時の勢いでごめんなー。福岡はのたうち回りながら繰り返す。佐賀はふーと息を深く一度吐いた。言葉が出ない。散らかっていた雑誌を丸め、バシッと福岡の頭を叩いた。

「何すっと!」
「福岡らしくなか。もうええ。おいはテレビ買いに行く」
「………!! あたしも行くー!」

その前にシャワー浴びんと!福岡は笑顔で立ち上がる。まだ少しひきつっていた笑顔だった。「そーいう日もある」と佐賀が言うと、福岡は少し安堵したような顔を見せた。

「………佐賀、一緒に入るか?」
「ば、ばばばばばばば」
「嘘嘘!あっはっはー!」

顔を真っ赤にした佐賀を置いて、福岡はタオルを持って颯爽と風呂場に行った。
雨はもう止んでいた。

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