俺の好きな人はとても気が多い。そう、ちょっと悪く言えばそんな感じの人だ。違う言い方をすると包容力がある人だ。最近この人が気になってちょっと悩んでいるけど、俺の尊敬する人に相談してもきっと取りあってくれないと思う。まったくもってふしだらで言語道断とかなんとか、最後まで聞かずに切って捨てられると思う。他の人、他の人に相談するのもなんだか弱みを見せるようで嫌だ。ただでさえちょっと押され気味なのだから。結局そういった種の相談ができそうな懐のふかーい人というと、俺の好きな人になってしまう。そうなると自分で答えを出さないといけない。 まあ期限があるわけではないのだから(と言うよりも、とっくにタイムリミットは過ぎていたのだ)のんびりと答えを出すつもりだ。 今日は後ろから攻め入る作戦でいこう。飲み会でありえないくらい酒を呷ってご満悦な福岡は今、床に寝転んでいる。隙だらけだ。宮崎はそっと近寄り、福岡のうなじにふっと息をふきかけた。 「あ、なぁに宮崎、くすぐったい」 「びっくりしたー?」 「びっくりしたばい」 福岡はくすくす笑いながら宮崎の頭を撫でた。宮崎は膝枕をそれとなくねだると福岡は起き上がってくれた。 前述したとおり、福岡は酒が入っていて顔が赤い。彼女の膝も表情も、とても柔らかい。 「さて、たった今を持って福岡を占拠しました」 「ああもう、とっくにあんたに占拠されとっとーよ」 額に啄ばむようなキスをもらう。おお、酒の勢いに感謝感謝。それでも少し恥ずかしい。耳まで真っ赤になっていると思う。宮崎はからかわれる前に違う話題を出す。 「あ、福岡、彼氏とうまくいっとっと?」 あ、さっそく話題間違えた。 即答されたら多分しばらく立ち直れないじゃないか。しかし幸いにも福岡は「うーん」と唸りながら返答に時間をかけていた。 「福岡、大丈夫?」 宮崎は手を伸ばして、福岡の頬のラインを撫ぜた。福岡の目の色が沈んでいる。うまくいっていないんだろうか。これは喜ぶべきなのか、心配すべきなのか。 「………宮崎、いつの間にそんな色っぽい顔できるようになった?ん?」 「俺はいつまでも子どもじゃなか」 「そーねー」 福岡を見上げるのは首が疲れるのでごろんと転がって、腰のあたりに抱きついた。するとどうだろう。胸が頭にのっかって、これまた少し柔らかい。福岡はあんまり気にしてないようだったのであまりその辺りに意識をやらないように気をつけた。 「それはともかくそれより福岡はぬきぃねー」 「宮崎もねー」 「彼、ほったらかしでよかったの?」 「いいよ、喧嘩してるし」 「仲直りはせん?」 「その内ね」 本当は今すぐにでもの間違いだろう。 「手が震えとーよ、福岡」 「そんなことないって」 福岡は「大丈夫、大丈夫」と言葉を繰り返しながら宮崎の手を握った。まるで自分に言い聞かせるような言い方だ。 宮崎は時々、福岡が遠い人のように思える。もちろん地理的なことじゃなくて。やっぱり遠いなぁ、と宮崎はため息を飲みこむ。 「………福岡、今度デートせん?」 「いいよ」 「明日しよう」 「明日は、ちょっとなぁ」 「彼と仲直りすると?そんでデート?」 「そやね、これ以上待たせるのはいかんし」 ――― 確かあれは玄関だ。あれ。携帯電話。福岡が倒れ込むように帰宅した際、多分バッグの中身をぶちまけていたから、それも一緒にある。「待ってて」とドサクサに紛れて福岡の頬にキスをして(先程のお礼だって)目的のものを取りに行く。 ついでに自分の荷物をまとめて、宮崎は福岡の携帯電話を手渡した。 「俺はもういぬるからさっさとかけぇ」 「………うん」 福岡はじっと宮崎の手の上にある携帯電話を見、ためらいがちにそれを受け取ろうとする。しかし携帯に触れようとした瞬間、すぐに手をひっこめた。 「福岡?」 「………もう遅い時間やし明日の朝かけるつもりばい。携帯、向こうにおいといて」 「いいの?もしかして、俺のこと気遣っとっと?や、俺は気にしないし」 「なぁに気ぃ遣っちょるのー!めんこい奴めー」 いいからお姉さんの胸に抱かれてなさーいと福岡は笑いながら宮崎を引っ張って抱きしめる。(息が出来ないほどの胸インパクト、恐ろしか!) 無理やり押し返す気力もなく、胸に顔を埋めながら宮崎は上目づかいで尋ねる。 「福岡、俺はめんこいイメージ?」 「うん、てげてげめんこいイメージばい」 男がめんこい、可愛いイメージというのはあまり褒められたものではない。悪くはないけれど。福岡のイメージはなんだろう。九州の紅一点?これはただの肩書だ。漠然としたイメージしかない。大きくて温かくて優しくて、でも時々怖い。ああそうか。福岡は海みたいだ。 あなたは海のように素敵な人ですね。よし、少し古典的だが、なかなかいいかもしれない。イメージ通りだし。 この言葉は今度、告白のときに使おう。 |