値切りなんてとてもできんわぁ。うちもできないなぁ。ぎふー。それぞれの意見が出たところで愛知は少し頭を抱えた。彼女らは少しのんびりと構えすぎではないか。こんなんでいずれ来るだろう闇に立ち向かえるのだろうか。そもそも彼女らは値切りをみっともないと思っているようだ。そりゃあ愛知だってごり押しで価格交渉しようとは思っていない、ただ、その商品の相当の価格で買い取りたいだけだ。そう言ってもまあ愛知は商売得意だもんねぇうまいことやるもんねぇと何故か感心されるだけ。何故だ。このご時世、生き残るにはコスト削減が第一だがね、と愛知は強く訴えてみる。まあそれは一理ある、と理解を得られる。しかし静岡はぽつりと、うちは買い物するときは小さいお店で買うなぁ。ちょいと高くても買うだで。付き合いだし。だけん後で野菜とかお魚くれるから嬉しーよ、ちなみにこの桃とお茶もご近所の望月さんからもらっただーとにこにこしながら静岡は言う。すると三重はじゃあ今度何かお返ししなきゃいかんね、何がいいかなぁ、ねぇ愛知は何がえぇと思う?と、口をもごもご動かしながら愛知にふる。………まあなんでもえーら、気持ちがこもってれば。愛知は適当に返事をしながら、桃の汁で汚れている岐阜の口をティッシュで拭いてやった。




愛知さん!是非あなたのお弁当をつくらせてください!部下の女の子がなにやら企みながら、修正、頬を赤く染めてもじもじと実に可愛らしく愛知に迫った、いやお願いをした。弁当はいつも三重に頼んでいる。………まあ一日くらい他の家庭の味を試すのもえーかと愛知は承知した。というか承知しなければその部下はいつまでもひっついてはなれそうになかったのだ。そしてうまく撒けたことに安堵したせいで、三重に明日の弁当は不要だと伝えるのをすっかり忘れた。そして翌朝。なあ愛知、弁当は持っていかんの?三重はまだ着替え途中なのにお弁当を持って玄関に いや、今日はええ。いらん。三重はきょとんとした顔で、ええ?どうして?と首を傾げた。どっしりしたランチジャーを三重に押しやって愛知はさっさと出勤した。三重の顔は見られなかった。午前中の業務、皆が愛する機械がどうもご機嫌斜めで動いてくれない。工場とは戦場である。油まみれになって皆一丸となり故障の原因を探り、なんとか再び機械は稼働した。残った昼休みはたったの五分。昼抜き?いやいや腹が減っては戦は出来ぬ!握り飯一個でも大きな力となるものだ。愛知は急いで弁当を取りに行った。ああそうえいば今日の弁当は部下の子がつくってくれたのだ。きっと早起きして作ってくれたのだろう。大人にも子供にも人気なアニメのキャラクターをモチーフにしたキャラ弁だった。しかしどうも食べにくいし量が少ない。どっから食べればいいのだ。悩んでいるうちにも時間はどんどん過ぎていく。ええいと愛知は少し行儀が悪いがそのト○ロのキャラ弁を胃に流し込んだ。そしてまた仕事に戻る。いつもの三重のつくった弁当がええのだと心から思う。今更三重のありがたさに気づいても腹はすくばかりだが。なんとか今日の仕事を終えた頃は夜も深まっていた。帰宅すると家はとても暗かった。もう三重は寝てしまったかもしれない、しかし彼女は起きていた。ソファに座ってテレビを見ている。三重、と声をかけながら肩を叩いても三重はツンとそっぽを向いて口を聞いてくれない。三重〜。悪かった、三重の弁当が一番だがね。ほんと世界一。愛知は項垂れる。それだけではまだ三重は許してくれなさそうだった。愛知は後ろから抱きしめて、誠意ある謝罪の言葉と甘い言葉もかけた。これ以上恥ずかしいことなんて出来んがね、勘弁してくれ。愛知は泣きたくなった、いや、絶望的な空腹感もあってもう泣いていた。すると突然三重はくすくす笑い出した。嘘、嘘よ。ゆるしてあげる。と、愛知の手を握った。でもなぁ、お弁当いらない日はちゃんと言って欲しいわぁ、と三重はふりむいて笑った。愛知は、感極まり彼女の額に軽くキスを落とした。三重の弁当のない生活なんて考えられん!と愛知は大げさに嘆いてみせるとややわぁ!と三重は照れながら思いっきり愛知を叩いた。愛知はもう、色々と限界だった。

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