Men always...
004/100 マルボロ → マルボロの噂話、タバコの温度
犬と猫の河原×庸平。
ピロートーク。男のロマンへの皮肉。
SM関係だけど、精神的には逆な2人のいつも。
ベットの上でぐったりとした庸平。
その横で身を動かして、河原はベットサイドキャビネットに置いておいたタバコを取る。
一本取りだしてライターで火をつける。
その音に、庸平は顔を上げる。
「……俺も」
「庸平の、どこ?」
「バッグの、外側のポケット……」
うわ言のように言う庸平に、河原はベッドから降りソファの上のカバンからタバコを取り出す。
「よーへ」
そして投げて寄越されるそれを、庸平はしっかり受け取る。
「……火」
「はいはいはい」
それにはカバンを探る事はせず、そのまま河原はベッドに戻る。
タバコを咥えたまま、先端同士を合わせて火種を移す。
「……ん……」
離れる河原の腕を、庸平はその細い腕で軽く掴む。
「何」
「な〜んも」
笑う河原に、笑い返す。
ベッドの中にもぐり込みながら、河原は問う。
「疲れた?」
「……ちっとね。……今日はいつも以上に」
そのまま言葉を切る、庸平の猫っ毛な髪の毛を、河原は指に絡ませる。
「だって久し振りだったしね」
「だから、俺も止めなかったしねぇ」
歯止めがどこにもなかったと二人は言う。
そのまま黙って二人は紫煙をくゆらせる。
「……美味いの?」
「何が?」
問う河原に、庸平は問い返す。
河原は庸平を指差す。その動作に、彼は目を迷わせて。
「……これ?」
「そ」
頷く河原に、自分が吸っていたタバコを差し出す。
「……吸ってみる?」
「いいの?」
「うん。……俺もちょーだい」
交換して、二人はお互いのタバコを咥える。
二人、無言で味わい、
「マズ」
「だろうと思った」
口に残るヤニのマズさに顔をしかめて、河原はタバコを庸平の方にやり、庸平は笑ってそれを受け取る。
同じように返す庸平の言葉に、河原は苦笑を向ける。
「ようへ?」
「うへへ」
「うへへじゃないでしょこら」
べし、と頭を叩かれ、庸平は嬉しそうに笑いながら、続ける。
「でも、マルボロって義巳くんのイメージにぴったりだよね」
「……そりゃ、どうも」
河原はそれを“タフ”という意味に取って、珍しくストレートに褒めてくる庸平に、僅かに頬を赤らめ照れる。
しかし、庸平は大爆笑。
「……何よ」
そんなに俺が照れちゃおかしいっての?
そういう意味をこめて問うと、
「違うよ、意味が」
目元に涙を滲ませて、庸平は答える。
「Marlboroの名前は、Man
Always RememberLove Because Of Romance
Only――男はいつも恋を思い出す。男には恋愛が大切だから、の頭文字から取ってんの」
河原が眉を寄せながら見つめると、心の底から楽しそうな笑顔で続ける。
「つまり浮気者だって言ってんだよ」
「……さすが漫画家、変な知識と発想はある。……で、庸平のは何よ」
呆れた顔を見せる河原に、ち、ち、ちと、何故か左右に指を振る。
「koolはkeep
only one
love――1つの恋を貫き通す。一途な俺は、義巳くんとは違うもんね〜」
そりゃ何かい。1つの恋を貫き通すのは、俺には無理ってかい。
そう思いながら、河原はある1人の事を思い出す。
「……よ〜し〜みっくん?」
腰に両足を絡ませる庸平の目は、暗く光る。
「誰の事考えてやがった?」
「……さおりさんの事」
年上女房の妻の名前を出して、情けない顔で笑う河原。
「嘘つくんじゃないよバーカ」
苦笑を浮かべながら、庸平は言う。
「あの人って、すっごい義巳くん好みのタチだよね」
その言葉に、一瞬素の表情になりながらも、
「……言っとくけど、俺Sよ?」
かなり今更な事を、河原は確認する。
しかし庸平は動じずに続ける。
「だから押し倒してあんあん言わせて突っ込ませたいタイプでしょうが」
今度は一瞬――ではなく長い時間素になって、そして河原は溜息をつく。
「――何で君は、ことごとく、俺もほとんど自覚してなかった事をきっぱりと当てるのかしら」
そこまで考えてなかった訳でもないのに、そう真っ赤になって涙目で呟く河原を、庸平は優しい目で見つめる。
「そりゃ義巳くんを、ずっと見てるからに決まってるじゃん」
職業上、人間観察は欠かせない。
二人の関係もそこから始まった、そう言っても過言ではないから、河原もその事を知っていて。
ぺと、と庸平に甘える様にくっつく。
「ああ、ホントよーへって、俺の事好きよね」
「そりゃ、浮気者とは違うから」
戻った話題に、河原の目が冷える。
「……落ちるよ、灰」
庸平の軽く掠れる声は、その冷たさと熱さを望んでいた事を河原に教える。
「押し付けてみる?かなり熱いけどね」
「……してもいいけどー。シーツに、落とさないようにねー」
河原はその言葉に薄く笑って、灰をベットサイドキャビネットの上の灰皿に落とした。
そして咥え直して、庸平が咥えた煙草を取る。
「……庸平のは灰皿置くよ?」
「口元さーびし」
彼が笑いながら文句を言うのに、取ったタバコを、灰皿に押しつけて消す。
「危ないでしょ。――後で他のモン咥えさせてあげるから」
「うわー義巳くんのえっちー」
どこまでもふざけた言動を続ける庸平に、河原は苦笑を浮かべる。
「そりゃ、今更」
「だあねー」
そして、河原はその長身で、小柄な庸平の上に覆い被さった。
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