厚い唇に、荒れた指先が触れる。
こんな仕事だから、労わっても労わっても追いつかない。
どうしても傷とささくれが多い指先で、弾力のある唇に触れた。
皮膚と粘膜の境界の薄い敏感な皮は、何かの拍子で荒れた指先で傷つけてしまうかもしれない。そう思った。
けれど眼鏡の奥から見つめる目は、何か言いたげで、しかしそれ以上にあからさまに感情を乗せている。
だから嶋本は彼の求めるままに、彼の欲しがっている言葉を口にした。
「……舐めろ」
それは嶋本の欲情を示す言葉で、また盤のそれも肯定する言葉だ。
彼の命令に従って、盤はゆっくりと唇を開き、僅かな隙間から舌で唇に乗せられた指先に触れる。僅かに覗く赤い舌先が、少しずつ爪の際をなぞっていく。おそらくわざと水音を立てて、嶋本を、嶋本の指を刺激していく。
嶋本はその扇情的な様を見つめ続けていくことに抵抗を覚え、目を反らしていく。唇から口元をなぞり、目線は頬を伝っていく。
いつもより細められた目は密かに潤み、嶋本に欲情を教える。
こんな命令めいた――いやそのまま命令である言葉になぜ従う、反抗もせず導かれたままに舐めている彼にそう思う。けれど双方が切羽詰まってしまった気持ちは、こんな形で表面に出るしかなかったことは嶋本にも分かっていた。
「もっと、ちゃんと舐めろや」
そう促せば、触れる指はきちんと彼の口の中に含まれる。
少しだけ尖らせた舌先で指先を丹念に舐められたかと思えば、舌の裏に収まらされ、より粘膜に近い感触を感じさせられる。
軽い圧力をかけられながら舐られるのに、捕食されるのにも似た感覚を覚える。けれど、歯を立てられることはないことを嶋本は知っている。
ただ柔かく厚い唇の間に指し込まれた己の指が、少しの圧力と能動的な舌の動きによって、盤の唾液に濡れていくだけだ。
けれどそのどうしようとも最後まで至らない行為に嶋本は興奮しつつも、言い様のない虚しさを覚えた。
熱心に舐めつづける彼の唇が、太くなってしまった指の関節を圧迫して、赤い舌がそのままそこを。
――その瞬間、嶋本は反射的に盤の肩を押していた。
「……何で」
彼は離れた盤をきつい目で見つめながら、そう問う。
面白くなかった。
こんな形で、命令で従わせるように行為に落ちていくのが。それを是とするような、彼の行動にも、腹が立った。
盤は、真っ直ぐに嶋本を見つめながら答える。
「軍曹が、やれて」
ひねくれているくせに、時々見せる妙にきれいなメグルの瞳が、少しだけ嶋本は苦手だった。これを見せられるくらいだったら、兵悟のあの誰にでも見せる正直すぎる真っ直ぐな目の方がマシだと思うほどで。
今もそんな目を見せるメグルを、きつい目で見上げながら、嶋本は問う。
「俺が言ったら、何でもやるんか」
「んや」
メグルは首を左右に振る。
その否定の仕種を見つめる嶋本を見下ろしながら、口元を緩ませる。
「少なくとも、今のは嫌とは思わんかったよ」
同じように目元も甘くなっていて、それに嶋本は顔を歪ませた。
「……どあほか」
何だこれは。痴話喧嘩か。
自分でそう思いながら、それ以外の何物でもないことに気付いて――そして、そう言うには嶋本からの一方的すぎる行為だと気付いて、自己嫌悪する。
悪態をついたきり、難しい顔をして黙り込んでしまった嶋本に、メグルは苦笑する。
「嶋本さん」
側頭部を優しく触れられるのに、
――何やこれ、ありえへん。
部下に頭を撫でられたことの抵抗感や怒りより、痺れるような嬉しさを感じてしまった。
けれどそれも、自分を見つめている姿を確認することで、嶋本はすぐに戻ってしまう。
触れてきた手を払いながら、殊更きつい声を乗せてしまっていた。
「触んなや」
そして、名前で呼ぶな――そう命令すれば、盤はおとなしく従う。それに嶋本の目元が少しだけ歪む。
――しょうがない。
嶋本は諦める。目の前の男に対しては、多少高圧的な物言いでしか接することができない。そしてメグルも、そんな自分に簡単に、自分を預けるように従ってしまうのだ。
それは、真田に対して、未来永劫に神様に憧れるような気持ちで憧れ続けてしまうのと一緒だ。自分は頑固すぎる――変われない。
その頑固さが別の方向に向かえばよかったのに、そう思うけれど、後の祭だ。
湧き上がる暴力にも似た衝動に、メグルの肩を腕で引き寄せて口付ける。
嶋本の唇とは違う、唇は肉厚で大きな口。
その部分がずっと気になっていたことを、触れてから思い出す。相手の反応など構わず、ただそこに自分の唾液をなすりつけたい、そんな衝動のままに舌と唇でその感触を堪能した。
「ちょ、ぐんそ……っ」
息を荒くさせたメグルが自分を呼ぶのに、嶋本は笑う。動揺した様が全く似合わない。
「何や、しないんか」
だから尚更、挑発するような言葉を、嶋本は口にした。
――余裕ないやろな。
先程の行為を加えて負けないほど追い上げられてる、そんな自分の笑みの質は己でも分かって、だからこそ、
「どっち……っ」
余計な口を聞けないように、嶋本は自分の口で彼のそれを塞いだ。



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唇(と指)でエロを。が目標。
メグルはMだから、嶋本さんからの暴言暴行(笑)が嫌じゃない。

そして頑固で厳しいけれど、
根っこが優しくて撥ね退けられないというイメージを、
嶋本さんに持ってます。超妄想。





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