懐古主義



泣き虫で。
恥かしがり屋で。
初めて会った時なんか、先生の後ろに隠れて、全然顔を見せないで。
自分がいうことじゃないけれど、これで忍者をやっていけるのかって、不安になったよ。

でも。
ただ一つ、自分のできることを褒められて、嬉しそうに笑ったその時の、その顔が。
ずっと、忘れられないんだ。



「その可愛かった奴が、何でこんな風になったっていう話だよな」
「まあ、ねえ」
最後のろけられた気がしないでもないけれど、久々知は苛立ち紛れに、あえて違う形容を用いる。
それに雷蔵は苦笑を浮かべ、曖昧な返事を返した。
しかし、彼らのそれには確固とした理由があった。
「そんなああああ俺は今も可愛いだろ雷蔵ぉぉお!」
普段飲む酒量をはるかに越えた、同じ顔の少年――正確には同じ顔に変装した、鉢屋三郎が隣にいたからである。
滂沱の涙を流しながら抱きついてくる友人に、雷蔵は苦笑する。
「うんうん可愛い可愛い、だから落ち着いて」
鉢屋を拒否せず受け入れるその様子は、久々知にとってある意味菩薩のごとき慈愛の表情に見えたけれど、
「本当に?」
「うん本当」
だから黙って。
容赦ない言葉と、密かに腹に入っている肘によって、否定される。
幻想を信じたいお年頃の久々知は、密かにそれに傷つきながら、徳利を手に取って自酌して、おちょこに口をつける。
転校生だった鉢屋は、教師に連れてこられた時恥ずかしがって、くっ付いて顔を見せないでいた。
生徒たちの文句と間に困って教師が呼べば、それと同じ顔をして見せて、生徒たちがどよめけばそのうちの何人かの顔をしてみせて、照れくさそうに笑った。
けれど、変装を披露するその時以外は変わらず、恥ずかしがったり、泣きそうな顔をしている記憶ばかりだ。
――なのに、何であれが。
と、考えていたうちに、鉢屋はずるずると雷蔵の体にもたれかかっている。
何やってんだ、と一瞬思って久々知は鼻白んだけれど、その目が閉じられているのに、すぐに力を抜く。
どうやら、潰れてしまったらしい。
わざわざ膝枕をしてやる雷蔵を見つめていると、その視線を感じたらしい雷蔵が目をやるのに目があって、また浮かべられたその苦笑に居心地悪い思いをする。
また俯いて、髪質までそっくりな髪をそっと手ぐしですきながら、雷蔵は呟く。
「寝てれば、可愛いんだけどね」
「……んなの、そこらへんに寝させてりゃいいじゃん」
さすがにそれには答えずに、久々知は話題をそらす。
まあね、と答えながらも、体勢を変えない友人に、居心地の悪さを拭えない。
何でこいつらと友達やってるんだろう、とまで酒の勢いに任せて思うけれど、嫌だと思うほどの思いも抱いていないのに気付いて、自分の人の良さに絶望する。
けれど、そんな思いさえ、明日になって酒も抜けてしまえば忘れて、
「らいぞおー、愛してるうぅぅう」
そんな思いに沈むのも、友人の、声変わりも来ている友人の声によって邪魔される。
――むしろ、何でこいつと友達やってんだ。
半ば本気で思って、顔を歪ませつつ見下ろせば、穏やかな雷蔵の声が聞える。
「……黙ってりゃ、かわいいんだけどね」
――いや、同じ顔だし。
それを踏まえてなのか、それとも黙ってろ、ということなのか。
そう久々知は思ったけれど、雷蔵の変わらない笑顔には何も言えなかった。





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さぶろーさんは調子に乗らせちゃいけないという話。
で、雷はアメとムチ(笑顔と辛らつな言葉)で手綱を取ってるという話。
つまりバカップル話。(違






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