プロジェクト 139 〜挑戦者たち〜



プロジェクト139とは、間違った情熱を抱き、暴走した使命感に燃えて、学園創立以来の脅威的な伝説を作り出した「不幸委員会」の謎を解明しようとする、「六年と青春の知られざる物語」である。




きっかけは、真夏にありがちな納涼大会――別名怪談大会の中での話だった。

時折、夜中に乾いた笑いを上げている少年が目撃されるが、その人相を聞いても学園中の誰も知らないだの。
明け方、ネズミの足音とも思えない足音を立てて、何かが天井を走るだの。
闇夜にやたらキューティクルな貞子が髪を振り乱しながら、年長の忍者を追いかけていただの。
夜中に天井から数本の足が――だの。

すぐに火元が知れる怪談が――被害者たちには洒落にならないのかもしれないが、そうではない、事情を知るものたちにはむしろ笑い話が進行していた。
まあ場の流れが本来とは違う方向に流れていても、熱帯夜に眠れぬゆえのただの暇つぶしに過ぎなかったのだから、構う者は誰もいなかったのだが。



「知ってるか?保健委員会の伝説」
その話を口にしたのは、立花仙蔵。
話題の委員会に所属する善法寺伊作は、楽しそうな笑みを浮かべる仙蔵に、複雑そうな顔で彼の名を呼ぶ。
「……仙蔵」

「保健委員になったら、絶対不幸になるってやつ?」
その制止にも構わず、いけいけどんどんな七松小平太は、無邪気にも仙蔵の話題に乗る。
「つーか知らない奴いないだろ」
「…………」
彼らの発言に潮江文次郎が突っ込めば、その隣で無口な中在家長次が黙ったままで頷いた。
構うことのない彼らに慣れた伊作は、諦めて黙って上掛けをかぶる。しかしそれは文次郎の布団である。まあ上掛けも欲しくないくらい暑いので、文次郎も文句は言わない。

反応が悪くないことに上機嫌になりながら、仙蔵は話を続ける。
「まあ、その伝説は有名だろうがな。私のつかんだ情報によると、保健委員会に伝わる何かが不幸を伝染させてるらしい」
「何それ、不幸の手紙?」
「いや、むしろ呪いのテープだろうな」
時代考証をさらりと無視しながら、小平太の問いを否定する。

と、問いかける文次郎。
「で、その呪いのテープとやらは、具体的に何なんだ?」
「それは……」
間を持たせる仙蔵に、ごくりとつばを飲み込む、文次郎と小平太、そして長次。いつものように黙ったままながらも、興味はあるらしい。
その彼らを口元に笑みを浮かべて見まわして、仙蔵はゆっくりと口を開く。

「知らん」
しかしあっさりと告げられた、不知を知らせる仙蔵の言葉に、彼と伊作以外の三人が敷布団ごしに床に額を打ち付け、またはまくらに顔を埋める。

「なーんだ」
「知らないならもったいつけるなよ……!」
ぶーとふくれながら、怒ってまくらを投げつけながら、苦い顔をしながら、それぞれの反応を返して体勢を立て直す三人。
「しょうがないだろう、私は保健委員でもなんでもないんだから」
あっさりと投げられたまくらを避け、責める三人に動揺もせずに開き直る仙蔵。

しかし、それは同時に次の段階に進むためのきっかけでもあった。

仙蔵の上掛けを宙に放る小平太。
その下には、もちろん伊作――保健委員長。
「いさっくん」
『伊作』
「――知らないよ」
多重音声で呼ばれ、思わずひるみながらも伊作は求めを跳ねのける。

「知らない訳ないだろーが、何年勤めてんだ保健委員」
別名、元祖不運小僧、万年保健委員に、目の下くまの会計委員長が詰め寄る。
慣れているとはいえ、そのある意味で笑った長次並に怖い顔の接近に、たまらずに伊作は白状してしまう。
「知らないけど。……保健室に、あるんじゃない?」
そう言って上掛けを手繰り寄せ、また包まる伊作。

彼の言葉は答えではなかったけれど、答えを求める少年たちには充分な手掛かりだった。

「よっしゃ!」
立ち上がる文次郎。
「行くぞ保健室」
「もちろん!」
「文次郎ならそう言ってくれると思ったよ」
続いて立ちあがる面々。

しかし、それに従わずに寝転がったままの少年が一名。
「……伊作」
長次が呼んだのに、伊作が目を上げれば、四人の八の瞳が見下ろしていた。

思わず伊作は驚くが、
「いさっくん行かないの?」
あくまでも無邪気に聞いてくる小平太に、苦笑いを浮かべて答える。

「昨日ちょっと宿題があって、あんまり寝てないんだ」
「あ〜、居眠りしてたって勘違いされて出されたって愚痴ってたやつか」
じゃあ最初っから来なけりゃいいのにと、薄情にも聞える言葉を文次郎は投げかける。

ごめんね、とそれに伊作は弱気な顔で答えて、続ける。
「だから悪いけど、今日はその探検にはついてけないや」
「それじゃしょうがないな」
「残念!」
こんな楽しそうなことなのにね、と問いかける小平太に頷く長次。
「じゃあ、悪いけど俺たち行ってくるから!」
小平太がそう言って部屋から走り出るのを、長次が間を置かずに追う。
仙蔵は伊作と文次郎、二人を見た後に追って。

二人きりで残される、文次郎と伊作。

「文次郎?」
行かないの?と一番乗り気だった――言い出した、けれど伊作の言い訳を聞いてから仏頂面を崩さない少年に、伊作は問う。
それに、やはり眉を寄せたままで文次郎は見返して。

「来ないんだったら自分の部屋戻っとけよ。どうせそのまま寝ちまうんだから」
それだけ言って、出て行ってしまう。

全ての人間を見送った伊作は、布団に包まれたまま、溜息をつく。
そしてゆっくり立ち上がり、半分寝ぼけたままでよろよろと歩いていく。

と、バランスを崩して、床に思いっきり倒れる伊作。

「いたたた……」
打ち付けた鼻を押さえながら見た足元には、先程文次郎が放ったまくら。
おそらく壁に当たりはね返って、ここまで来たのだろう。

寝ぼけていたとはいえ、普段の動いて襲ってくる砲弾などとは全く違うものに引っかかってしまうとは。
六年生として多少恥かしくなりながら、誰にも見られていないのは不幸中の幸いだと溜息をつく。
立ち上がり、今度はしっかりとした足取りで、伊作は一人歩いていった。










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