恋言葉 愛覚めやらぬ 恋しや慕しや 走り去る道すがら 愛どこまでも 恋しや慕しや 行きつ戻りつすぎゆく やっと気がついた 誰を好きなのか なぜ、あなたを待っていたのか うつろいゆく季節の中に感じた君の軌跡を 縁側で細雪の手入れをしながらコードは今日も静かに一日を過ごした。現実空間にボディができてもなにかと電脳空間にいることが多いのは彼がここにいる時間が長かったせいだ。ボディになれないわけではないが、こちらのほうが過ごしやすいのも否定できない。何より今は遠く離れて暮らすカシオペア博士や妹であるエモーション、ユーロパが気にかかって仕方がないという理由もある。そして…。 「コード? いる?」 「…何の用だ」 「別に用事はないけど…」 ふわっと紫の影が揺れる。とたとたと軽い音を立てて床板を踏むのはAナンバーズ最新型<A-S SIGNAL>。ボディには特殊金属MIRAを、動力源には光変換性偏軸結晶SIRIUSを用いた戦闘型のロボットだ。世界に誇るロボット工学者・音井信之介が製作したHFRは音井ブランドと呼ばれる。シグナルはその末っ子にあたる存在なのだ。コードにとっては40年にわたって待ち望んだパートナーであり、また、鍛え甲斐のある弟子でもある。仕様が最高でもシグナル本人は経験が浅くいたって…天然であるために目が離せない。とはいえ、シグナルは戦闘型で、とにかく強くなりたい、強くなってみんなを守りたいと願っている。その心意気に惹かれて誰もが彼女を愛する。 「用がないなら<ORACLE>にでもいろ」 打ち粉を払いながらコードがぶっきらぼうに言う。シグナルがむうとふくれて反論した。 「そんなふうに言わなくてもいいじゃない、コードのそばにいたいんだもん」 そういってコードの横に腰を下ろした。縁側から庭に脚を下ろしてゆらゆらと揺らす。その仕草が妙に子供っぽい。設定年齢は16歳だが、起動してからの時間は赤子同然のシグナルである。不意に見せる仕草や表情が子供らしいのは致し方ないことではある。珍しくシグナルが大人しくしているのでコードはそのまま放っておいた。 懐紙で細雪を拭う。汚れている、というわけではないが、意志をもたぬ長年の相棒を手入れするとき、妙に落ち着くことに気がついた。 最初に斬ったのは<A−B BUNDLE>。コードがサポートするはずだったAナンバーズだ。<A−A ATRANDOM>の開発に失敗した科学者が次に着手したこのロボットはコードのみを残して消えた。人間の手によってバンドルは消され、残された残骸をコードは斬った。それから、多くのハッカーを斬り、<ORACLE>やカシオペア博士の電脳空間を守ったりしてきた。<A−O ORATORIO>が出来てからは<ORACLE>には遊びに行くようになった。Aナンバーズも次々と増え、それなりに周囲が騒がしくなったが、自分を求める声は聞こえなかった。 ひたすらに待った相棒にはじめて会ったとき、シグナルはアトランダムと対戦中で、しかも伸びきっていた。まともに話したのは少し後になってのことだ。 研究所にやってきて、毎日騒がしいが悪くない。消えていったたくさんの同胞たちを糧に生まれてきた最新型のシグナルは元気一杯に笑う。とにかくおばかさんだが、生きていてくれるだけで安心する。それに気がついたコードはなんとなくシグナルのそばにいる。お使いに行くときも散歩だとか言ってでていく。 この思いをなんと言うのか知らないままに。 「あ」 ふと声を上げたシグナルのほうを見ると紫水晶の瞳が何かを追っていた。その視線の先を見やる。ひらりひらりと舞い遊ぶように鳳蝶が姿を見せた。喜びを示す黄色、憂いの青を鱗粉に、世の果てに似た漆黒の羽を彩る。白い花を咲かせる蜜柑の木の間を彷徨うように舞う蝶をシグナルはゆっくりと追った。別に捕まえようと思ったわけではない。蝶が止まった緑の葉のそばにそっと立つ。シグナルが白魚のような指をそっと伸ばすと蝶は恐れもせずにその指に止まった。ゆったりとその羽を上下させる。すっかり落ち着いた蝶を嚇かさないようにゆっくりと歩いてコードのもとに戻った。コードは細雪をしまい、シグナルを見つめる。シグナルはにっこり笑った。 「見て、コード。鳳蝶だよ」 「蜜柑の木を植えてあるからな。見ろ」 そういってコードが指をさす。その方向に目をやると、同じ鳳蝶が数匹飛んでいた。シグナルの指に止まっていた蝶も仲間に気がついたのか、その細い指を離れた。惜しむでもなく、シグナルは乱れ舞う数匹の蝶を眺めていた。 「綺麗だね」 「ああ…」 シグナルが再びコードの横に座った。長い紫の髪がゆうるりとシグナルの背後を彩る。蝶の羽と見紛うかのように光るそれをコードはひとすじすくって口づけた。僅かに引かれるような感覚にシグナルがふっと目をやった。ゆっくりと近づいてきたコードと、何となく口づけ合う。 「ん…」 啄むような柔らかい口づけが長く交わされる。コードはそのままシグナルを横たえた。そのまま滑り落ちる先はふわりとした感覚の世界。 「シグナル…」 琥珀色の瞳がすべてを見透かすようにシグナルを捉えた。 否定したくない思いが湧きあがって。コードがシグナルを抱きかかえて寝室に消えた。 何よりも美しい 永遠の 蝶よ 幼い頃に描いた 幸せの条件を 探し続けて 見つけて また探して 誰もみな 先の見えぬ道を歩き続ける 不器用で へたくそな 愛だからいい 「あ…」 雪のように白い肌に紅いあとを残す。さらさらと衣擦れの音がするのはシグナルが小さく身を捩るせいだ。未知の感覚に恥ずかしさと期待でいっぱいになるシグナルの心を象徴するかのように細い体が熱を帯び、桜色に染まってゆく。コードがふるんとゆれる乳房を揉み、桃色の果実を口に含むとシグナルの唇からは小さな声があがる。それが不思議と心地よくてコードはまたシグナルを愛したくなる。コードの唇が、舌が、指が、手が自分の体を這うたびに言い知れぬ感覚が己の身を支配する。紫水晶の大きな瞳に透明な雫が溜まりはじめた。 「あん…コード…」 「なんだ?」 シグナルが潤んだ瞳を背け、手で口元を覆ったまま恥ずかしそうにしゃべった。 「明かり…消して…」 シグナルの訴えにコードが行灯の火を見やる。僅かに揺れるその明かりは部屋を僅かに照らしているに過ぎない。 「…たいした明かりではあるまい」 「でも…恥ずかしいから…」 「…別にかまわんだろう」 「で、でも…あっ…ああんっ…」 「…俺様だけをみていろ、シグナル」 そういうとコードはシグナル自身に舌を這わせた。シグナルの体が大きく跳ねる。徐々に形を変えて小さく秘芯にゆっくりと舌を這わせた。 「やあっ…コード…何…あぁ…何してるの?!」 脚の間を丹念に愛撫していたコードが顔を上げた。舌の先から銀の糸が引いていた。シグナルがさっと紅くなる。 「なんだ、自分でしたこともないのか?」 「ん…」 シグナルが僅かに頷いた。その拍子にシグナルの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。 ―――泣いている。 涙に気がついて、コードははじめて自分のしている行為の罪深さを知った。シグナルが処女だということは知っていた。知っていて、了解を取った上での行為だ。けれど体が反応するのに心はついていかないらしい。幼すぎる相棒に求めた行為はまだ早すぎたのだ。しかし、もう後には引けなかった。このままやめてしまえば、後々気まずいことになる。湧き上がる激情はもう抑えられない。コードは改めてシグナル自身を愛し始めた。 「大丈夫だ、シグナル…俺様に任せろ…」 「うん…」 すすり泣くような喘ぎが室内を満たした。白い布団は波を刻んでは消してゆく。その上に美しい紫の川が横たわる。 「ああ…コードぉ・・・」 コードの舌はシグナルの太ももの内側を滑っていた。シグナルの体がびくびくと震える。 「シグナル…少し我慢しろ」 「え?」 言うなり、シグナルの秘所にコードの指が差し入れられた。長く太い中指が唾液で濡らされて、それが解す目的で侵入してくる。シグナルの背中を電流が走った。ぽろぽろと涙をこぼしながら言われたとおりにコードを受け入れている。指が増え、痛みが増す。それでもシグナルはただ声を上げるだけで抵抗しなかった。そんなシグナルをコードはただ愛し続ける。自分で自分を慰めることさえ知らないシグナルを指で犯しながらコードは熱く脈打つ自分自身に手を触れた。 ――もう、引き返すことの出来ないところまで 自分たちは来てしまっている。 「シグナル…」 「コード…」 呼び合うだけで、わかる。何となく触れ合った唇が優しい。ゆえにこれから訪れる苦痛と快楽が簡単には想像できない。 「…挿れるぞ、大丈夫か?」 「うん…大丈夫…だよ…」 コードは僅かな間目を閉じ、ゆっくりと開いた。熱く猛る自分をシグナルの秘所に宛がう。そしてそのままゆっくりと身を進め、シグナルとひとつに繋がった。 「あ…ああああっ!!」 シグナルの細い腰を抱えるようにしてコードも自身の腰を揺らす。シグナルは強く目を閉じ、身を硬くしている。乳房がふるふると動きにあわせて揺れていた。繋がったまま、コードはシグナルの髪をそっと撫でた。 「…痛いか?」 シグナルはしゃくりあげながら頷いた。 「でも……へーき。なんか…融合してるときみたい…」 涙のあとが残る顔でシグナルは笑って見せた。そんな笑顔にほだされて。愛してしまったのだ。 そう、電脳空間でなければ。 抱きしめることも 口づけることも ままならぬ 己が望んだことながら 鳥では どうしようもない それでもいい そばにいてくれるなら それでよかった 「あっ…あふっ…あ、ああんっ!!」 「くっ…」 「! あっ! ひああああっ!!」 体を弓なりにしてシグナルが声を上げる。コードもシグナルの中に熱い欲望を注ぎ込んだ。ゆっくり引き抜いてやるとシグナルは満足そうに微笑んで目を閉じた。どうやら気を失ったらしい。しっとりと汗ばんだ肌に軽く口付けて、その上に白い小袖を着せ掛けた。自身を抜いた時に下腹部に浴びたシグナルの愛液を指に取り、舐める。それを懐紙で拭い、自分も小袖を着てから、コードは部屋を出て行った。 「ん…」 シグナルが目を覚まして起き上がったとき、全身に――特に腰に――痛みとけだるさが走った。疲れているのだ。こんなにまで疲れた原因を思い出してシグナルはさっと紅くなった。自分の中にあんな――コードとひとつになりたいという感情があって、あんなにコードを求めたことが自分でも不思議だった。かけられていた小袖を引き寄せてシグナルは小さく息をはいた。今この場にコードがいたら、どんな顔をすればいいだろう。 「なんだ、起きたのか」 すっと障子が開いてコードが入ってきた。月を背に立つせいで表情がよくわからない。ただ、桜色の髪だけが夜の闇に映えた。 「なんともないか?」 後ろ手に障子を閉め、コードがシグナルの横に座った。 「ん…大丈夫だと…思う」 「…起き上がれないのだろう?」 「うん…」 「…はじめてだったからな。ゆっくり寝ていろ」 そういうと、コードは杯に何かを注いで口に含んだ。そのままそっと口づけて、口内のものを流し込む。柔らかい水の味がシグナルを潤した。 「ん…は…」 「足りたか?」 「もうちょっと…」 コードはシグナルをゆっくりと抱き起こした。コードの優しさが身にしみて嬉しい。シグナルの白い喉が水を嚥下した。その様子を見守るコードの表情も自然と柔らかくなった。再びシグナルを横たえ、その髪を梳く。さらさらと硬質な音を立て、光が舞った。 シグナルがコードを見上げて笑った。その笑顔に後悔の跡はない、むしろ愛された喜びに満たされていた。視線に気がついて、いつものようにぶっきらぼうに声をかける。 「なんだ?」 「ううん、なんでもない」 まだけだるい体を横たえたままシグナルは何となく笑っていた。コードは自分とふたりきりのときは妙に優しいな、と思ったなんて口が裂けてもいえなかった。 これから歩む道が どうかあなたとともにありますように あなたとともに 歩いていけますように 愛覚めやらぬ 恋しや慕しや 走り去る道すがら 愛どこまでも 恋しや慕しや 行きつ戻りつすぎゆく やっと気がついた 誰を好きなのか なぜ、あなたを待っていたのか うつろいゆく季節の中に感じた君の軌跡を 蝶よ 華よ この世のすべてをあなたとともに ≪終≫ ≪ひゃうっ!≫ ふぅ〜。どうよ、コーシグ(*´Д`)ノ。今回はてふてふだよ。タイトルの意味がない(苦笑)。疲れてるんだね、私。 あ、そう、これね、一応コーシグはじめてのえっちだから(笑)。 なんかね〜。私のコーシグイメージって変なのかも。なんか、花咲いて、蝶やら羽やら飛んでて、布団は絶対白じゃないといけないような気がしてるんです。コードのせい?それとも私が夢見がちなだけかしら…?そのせいで手元に国語総覧(古典資料集)がないと書けないのです…(;_;)。 |