美しき世界〜In Cyber Space〜

 


儚い調べは二度と戻らない日へ降り積もる
小さく聞こえるこの音はオルゴール、パソコンの起動音
記憶に刻むのはあなたのすべて
どうかどうか忘れないで 我らの恒星のあるべき姿…



ジャックポッドから繋がるのは異世界――電脳空間。Aナンバーズにおいて、その世界に足を踏み入れられるのは僅かに6体。
そのうち2体は専用機材の前で。
「ほれ、早く繋がんか」
「ん…」
密かにジャックポッドを差し込んでいた。昼間のうちから約束をして、やっと夜になったような気分は否めない。偏光紫の髪を揺らして、シグナルは機材の上に座った。その横には一羽のメタルバード、コードだ。桜色の尾羽をテーブルで擦りながらくるりと方向を変える。
「いい?」
「ああ、俺様は準備できたぞ」
「じゃあ、行くからね」
スイッチを入れ、薄れゆく意識の中に闇を見る。再び目を開いたとき、そこには永遠とも思えるような闇と縦横無尽に広がる格子によって世界が形成されていた。ここが、電脳空間。ロボットのほとんどが幼児期を過ごしたはずの場所――人間で言うならここは胎内といってもいい。
そんな闇が司る世界――ここはロボットたちが生まれゆく場所、永遠の闇にありながら冷たくない、どこかほんのりと温かいような闇。人は光に憧れながらもどこかでは闇に帰りたいと願うのだろうか。夜に眠るのは森羅万象が、闇なる母から生まれたと言う証なのかもしれない。
命は闇から生まれ、光を浴び、また闇へと戻ってゆく。
コードは、ここから多くの命を見送った。そして出会った。そのひとりはいま自分のそばにいてくれる。
柔らかい光を纏う、小生意気な天使。紫の柱がゆるりと人型をなす。偏光紫の髪が羽根のように背後を彩り、白い顔は恍惚と闇を遠く眺めているようだ。
「ふぅ…お待たせ」
「ん。では行こう」
「うん…」
縹藍の小袖をくるっと翻し、コードはシグナルを連れて自分の邸へと転移した。

ちりひとつないコードの部屋は相変わらず理路整然と片付いていて余計なもののない和風の部屋だ。
「ほれ、座れ」
「あ、うん」
「…いつまでも他人行儀なやつだな」
返す言葉もないまま、シグナルは腰をおろした。なれた様子であぐらをかく。しかし、恋人になって、何度肌を合わせていても、それに至る過程にはまだ慣れないらしくて、逸る気持ちを抑えるだけで精いっぱいなのだ。コードのことは嫌いじゃないし、むしろ恋人関係であることはとても喜ばしい。一度は自分なんかがと思ったこともあったけれど、コードは誰よりも何よりも自分が好きだと言ってくれた。その言葉を信じよう、そうして強くなってきたんだから。
愛しい人とともに戦えること、愛しあえることが、こんなに嬉しいなんて。 
「どうした、ぼうっとして」
「あ、ううん、なんでもない」
ふるふると首を振ると、紫の髪が遅れて揺れた。ぱっちりしたアメジストの瞳は何事もないかのように輝いている。
「いきなり…ではつまらんからな、ほれ、酒だ」
「私お酒は…」
「全くの下戸というわけではあるまい」
「じゃあ…ちょっとだけ」
銘柄はあえて伏せておこう、コードの持ってくる酒はいつも高級品ばかりで、現実空間では幻と言われるものが多い。電脳空間では流石に酒もデータだからないこともないが、銘酒ともなると醸造側もそんなにデータを流さない。それでなくとも管理の難しい一級酒はデータ化そのものが難しいため、ここでもあまり出回らないものなのだが、コードはどこからか入手して、それを振舞ってくれる。大方、地下違法空間ではないかと思うのだがそのへんはあえてつっこまないシグナルであった。折角機嫌よく飲んでいるのだ、つまらないことで怒らせるとあとが怖い。シグナルは黙って酒を飲む。どうみても16歳前後のシグナルが酒を飲んでいるのは…はっきり言って強がっているようにしか見えないが、コードはそのへんはお構いなしらしい。
『ロボットに法が適用されるわけではあるまい?』
それが彼の言い分だ。それにしても、シグナルはあまり酒は強くない。チョコレートの食べすぎで酔うくらいなのだ、酒も当然のように酔った。そして案の定、今も…。
「えへー。こーどぉ」
「…どこの酔っ払いだ、お前は」
「まぁまぁそんなこといわないでほらぁ、注いであげるからぁ」
(芸者か、お前は)
そう、心の中で突っ込む余裕もあればこそ。徳利を持って、しなっと首をかしげて酒を注ぐシグナルの姿はどこからみても…その類の方にしか見えないだろう。
「…お前、ここに来た目的を忘れとりゃせんか?」
注いでもらった酒をあおりながらコードはちらとシグナルを見た。目はうるるんと潤み、白い頬はほんのりと赤く染まって色っぽい。コードの言葉にシグナルはしゃきっと座りなしつつ、でも言葉は何となく頼りない。
「もちろんわすれてませんよ〜」
「そうか」
最後の一口をぐいっとあおると、コードはシグナルをすっと抱き上げた。酔いが回っているシグナルはそれでも自分が宙に浮いたことはわかるらしく、コードにぎゅっとしがみついた。
「コード♪」
「普段とは大違いだな」
「そんなことないよぅ」
えへへー、と笑う顔が可愛らしくて、コードはそのまま次の間に消えた。

 
「ん…んん…」
真っ白な布団の上で、シグナルはコードの口づけを受けていた。最初は軽く触れるだけ、だんだん深く噛み付くように。歯列を割り、赤い舌の先端を捕らえる。酒の香りが少なからず甘さを感じさせた。
「あ…ん…」
銀の雫が糸となってふたりをつないだ。
「あ…コード…やめちゃいやだ…」
もっとキスを、とせがむシグナルに優しく笑いかけ、コードはそっと放れる。
「待て、キスよりももっといいことをしてやろう、待てるな?」
「うん」
コードはシグナルの着衣を少しずつ脱がし始めた。シグナルも、コードの着物の合わせ目に手を入れる。コードの指が僅かでも触れると、シグナルは体を震わせた。互いに上半身を裸にしてしまうと、もう一度キスをして、それからそれぞれ着ているものをすべて脱ぎ捨てた。コードがちらと目をやると、シグナルは少し恥ずかしそうに俯いていた。
コードがすっとそばによると、シグナルはちょっとだけ身を捩った。形のよい乳房がふるんと揺れる。
「どうした?」
「ん…こうやって裸になってみると…やっぱりちょっと恥ずかしい…」
「何を言う、綺麗だぞ」
「コード…あっ…あ、やあっ…」
そういうとコードはシグナルを抱き寄せ、キスをしながら体中を弄った。色づいた胸の突起に手を伸ばし乳房ごと弄ったかと思えばなめらかな背中を撫でる。唇はそのまま下方へと降りていき、鎖骨から胸へと移動する。シグナルはそのまま横たえられた。
「あ…はぁ…んんっ」
先程触れた果実はつんと立ち上がっている。軽く歯で噛んで口に含み、舌で転がす。もう片方は指の腹で円を書くように転がしてやる。そしてもう片方の空いた手で腰を撫でる。三点を同時に刺激されて、シグナルは徐々に快楽に溺れていく。酒のせいで理性はもうどこかにいってしまっていた。
「あんっ、コード……もっとぉ…」
「そう慌てるな、夜はまだ長いぞ」
ちゅ、と胸にされたキスがくすぐったい。シグナルは身を捩った。その隙にコードの手が、シグナルの秘蕾に手を伸ばした。小さく立ち上がりかけていて、その下の割れ目は湿っている。急激な刺激にシグナルはびくんと震えた。
「ひゃ、コードぉ…」
「なんだ、もうこんなにしているのか」
「だって…気持ちいいから…あんまり見ないで…」
「何を。これからこれをな…」
「待って」
口に含もうとしたコードを、シグナルが止めた。のそのそと起き上がってコードの前に座る。
「今日は、私がしてあげる…」
「なに?」
「だめ?」
お伺いを立てながらも、シグナルはもうコードのものに手をかけていた。愛しそうに唇を寄せる。
「だめって言われてもやるからね」
大事そうに手を添え、まず先端の割れ目に舐め取るように舌を這わせる。それから、歯を立てないようにゆっくり口に含んで喉の奥までしっかりくわえ込む。ときどきコードの体がびくっと震えた。シグナルは視線だけちらっと上げてコードを見た。感じてくれてるのが嬉しいらしい、もっと気持ちよくしてあげたくて、一生懸命舌と唇で奉仕する。唾液と、僅かながら滴る精液とで、コードのものはぐしょぐしょだ。一方のコードは、自分の指を唾液で濡らし始めた。ぺちゃぺちゃと湿った音が聞こえてくる。充分なくらい濡らしてしまうと、コードはそれをシグナルの秘裂に宛がった。
「んんっ!?」
「やめるなよ…」
突然の衝撃に口を離しそうになったシグナルの頭を抑えたまま、コードはシグナルの後孔を弄った。しっとりと濡れた秘裂をこじ開けるように指を侵入させる。締め付ける内壁の熱さがコードを離さない。
「んっ、んんっ…」
もごもごと苦しさを訴えても、コードは放してはくれなかった。それどころか無茶な体勢でシグナルの膣に指を差し入れ、ぐちょぐちょとかき回した。息苦しさと恥ずかしさ、気持ちよさもあって、シグナルの思考はぐちゃぐちゃだ。せめてどれかひとつでもやめてもらえたら…。そう思うけれどどうにも出来ない。指を入れられる、かき回される――もっとしてほしくて、自分から求めてしまう。今口に含んでいるものも放したくないとも思ってしまう。
「シグナル、もういい、口を放せ」
許されて、空気を求めてシグナルは口を放す。にちゃといやらしい音を立てて放すと同時に、コードのものが目の前で弾けた。一瞬、白濁したものが迫ってきて、シグナルは無意識に顔を背けた。それでも半分くらいかかってしまってべたべただ。
「んあ…コードの…」
口もとに残る精液を指で取り、舐める。コードも膝立ちから近づいて、シグナルにかかってしまった自分の精液を舐め取った。
「すまんな、我慢できなかった」
「ううん、嬉しい、こんなにたくさん…私の、気持ちよかった?」
「ああ、よかったぞ。さ、今度はお前のをよくしてやろう」
「ん、して。いっぱい、気持ちよくして」
「ああ、可愛がってやろう」
そういうとコードはシグナルを仰向けに寝かせ、キスをした。それから足を広げさせ、シグナルのものにも口づける。シグナルの性器がぴくぴくと震えた。
「そら、自分で抱えてみろ」
「…こう?」
シグナルの手が膝の裏から自身の足を抱えている。どこか卑猥な光景にコードは密かに笑った。普段は生意気な限りだが、こうしてみるとなかなかに妖艶で美しい。
「そうだ、いい子だな」
コードはしとどに濡れた花びらに舌を這わせた。
「あんっ…はっ…」
唾液を流し込むように解していく。そのたびにシグナルは声を上げ、その声を隠そうとして手を放しかけた。が、足の間で自分を愛してくれているコードの邪魔にならないようにと必死で抱えている。いじらしいその姿に、コードは何度も指を差し入れた。
「やんっ…やっ、コード…焦らさないでよぉ…」
「焦らしてなどおらんぞ、お前のここを楽しんでいるだけだ。しかし…もう我慢できんようだな、いいだろう」
コードはシグナルの秘裂に自分の猛ったものを宛がうと、徐々に侵入していった。恐ろしいほどの圧迫感に、シグナルはとうとう手を放す。そのままコードが肩に担ぎ上げた。程よいリズムの抜き差しが繰り返される。もっとほしくてたまらない。
「ああんっ! はっ…いいっ! いいよぉ…」
「まだまだっ、これからだぞっ」
その言葉に、シグナルはたまらずコードの首に縋りついた。きつく閉じられた目がゆっくりと開かれ、コードを見つめる。
「コード…」
「…まったく、かわいい限りだな」
繋がったまま、コードはシグナルの目尻にキスを落とした。それが合図で、コードは激しく動き始める。揺すられ、求めるまま、感じるままに声を上げる。何度も体位を変え、繋がっている喜びにふたりは満たされていく。
「ああんっ…はっ…あっ、コード、コードぉ」
「シグナルっ…」
  
もう何もいらない
ただこうやって、何も考えないで愛しあえたらいいのに
たとえ永遠がそこになくても
私たちが永遠じゃなくても
 
あなたがいてくれたら それだけで幸せなのに
いつからこんな 贅沢になっちゃったんだろう…


何もいえないで、ただ繋がっていることだけで、時間がすぎていく。淫らに乱れる体は汗に光り、繋がった部分は耐えがたいほどの熱と快楽をもって体を蝕んでいく。壊れてしまうそうなほどに愛され、蕩けそうになるほどに漏らす吐息は桃色で。
「ああ…ああっ…コード…はぁぁ…いく、いくぅ」
「はっ…ん…いいぞ、シグナル。俺様も…もうっ…」
シグナルの中で、どくんと脈打つ何かが跳ねた。コードのものだとわかっているのに、コードらしからぬ荒々しさで体内に流れ込む。
「んぁっ…ああっ、熱いぃ……!!」
シグナルも同時に白濁した液を放った。びくびくと体をふるわせて最後までコードを感じ取る。 
「コードぉ…」
コードが体から離れる瞬間まで終わらない。引き抜かれるものはずると生々しい音を立てた。
「よかったぞ、シグナル…」
「うん…」
にっこり笑ってみせたシグナルは、そのままコードが横たわるのを待っていた。薄い掛け布団のなかにすっともぐりこむ。
「少し休め、夜はまだ長いぞ」
「またしてくれるの?」
「…お前が望むなら、な」
返事はせずに微笑み返すと、シグナルはそのまま眠りについた。酒の力も手伝って変に色っぽかったシグナルはいつものようにすやすやと寝入っている。
(普段と閨とでこうも違うとは、流石に面白いものだな)
まだはじまったばかりの長い夜に、コードは嘆息した。



美しき世界が私たちを包んで 
永遠なんてものはどこにもないけれど
ここからはじめよう あなたと


この、美しき世界――母なる闇の中から…





『もう…お酒なんて飲まないからぁ〜〜〜』
ロボットの二日酔いに効く薬などあろうはずもなく。ひとりコード邸の一室でがんがんする頭を抱えて禁酒を誓うシグナルの姿があったという。
後日談まで。





≪終≫




≪う〜ぅつぅくしっきせかいぃ〜♪≫
ああっ、石投げちゃいや〜ん\(゚ロ\)(/ロ゚)/ あたふた。もう、酔っぱらってます。私も(笑)。書く前に景気付けに飲んだのがいけなかったのでしょうか、冷静に(この段階で)読み返してみると恥ずかしいな、これ。ま、いっか。タイトルはB'Z『美しき世界』より。
これで勘弁してください。もう、酒飲んだあと書いたりしないから〜〜(ちなみにリキュール飲んでたらしいです。ビンが転がってます…)

注: 文字用の領域がありません!

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