SHEATHE 「いずれこの細雪も、白鞘でない…よい柄と鞘が現れれば落ち着こうさ」 あのときの言葉はかなえることなくそのまま。 コードの持つ『細雪』は未だに白鞘で誂えたままだ。 けれど『彼自身』はとてもいい鞘を手に入れることとなった。 「コード…」 「黙っていろ…」 横たわる白い顔にゆっくりと唇を落とす。流れる紫の川を手で掬い、下敷きにしないように方向を変えてやる。真綿でできた純白の布団の上に横たわる藤の花こそ、コードが長年求めつづけてきた相棒その人だ。角度を変え、深く深く舌を絡ませるだけでもう息が上がるほどに幼い。 「ん…んんっ…」 そこからゆっくり舌を這わせる。耳元から、白い首筋へ。鎖骨をなぞり、豊かな乳房の先端を飾る赤い果実へと。小さく立ち上がったそれを口に含む。舌先で転がせば蕩けてしまいそうになるほどに丹念に愛していくことを、誰が教えてくれただろう。 「あっ…コード…だめ…」 「何がだ、シグナル」 「恥ずかしいよ…」 「今更何を言う。お前のここはこんなに色づいているというのに?」 胸元を隠す手を退けて、コードは果実を歯で柔らかく噛んだ。小さな刺激にシグナルは上げそうになった声を抑えた。行為はまだ序盤だというのに白かった顔は紅潮して熱を帯び始める。女性特有の細いながらもしっかりした筋肉、それを覆うしなやかでふっくらした肌の感触は吸い付きそうなほどコードを捕らえる。 「まだ夜は長い。こんなことでへたばってもらっては困るな」 「だって…」 「だってなんだ」 「…気持ちいいもん」 それだけ言って、シグナルはさっと顔を背けた。枕の上に載る髪が衣擦れの音を軽やかに立てた。コードはそれに微笑んで見せると今度は手を取り、口づけた。そのまま指を絡ませる。 『行くな…』 悲しそうな顔で、気がついたら背後から抱きとめていた。 『行くな、どこにも…』 『…じゃあ、コードは私にどうしたい?』 誘ったのはコードで、乗ったのはシグナルで。情事は初めてではなかった。不安なとき、寂しいとき、そして相手をとてつもなく愛しいと思うとき。肌を合わせ、体を繋ぎ、心を重ねてきた。まるで月のように相手を渇望し、満たされてもまた愛したくなる。 天狼は――全天一の輝きを誇るシリウスは、見えない星――伴星を伴う。 自分はその星になれただろうか。 いつもそばにあってほしいと願うのは自分ばかりなのだろうか。 シグナルの肌に手を掛けながら、そんなことを考える。この子が自分を拒否しない――それだけで、よかったはずなのに。なんと欲深いことか。 「あっ…ああんっ…」 うつ伏せになり、腰だけを高く上げたシグナルの尻の柔らかい丸みに手を伸ばす。まあるくなでてやるだけで、シグナルが体を震わせているのがわかった。ともすれば過敏な蕾に触れそうになるからだろう、それを寸でのところでかわす。けれど蕾とは逆にシグナルの女の部分はすっかり出来上がっていてぴくぴくと震えていた。先走りの透明な体液が蕩けだす。 両足を大きく広げさせると局部がよく見えた。シグナルは視姦されているのがたまらなくて脚を閉じようとするけれどコードがそれを許さない。 「やっ…やだ、コード…」 「お前のどこが嫌がっているというのだ? ここも」 コードの指がシグナルの秘芯を摘みあげた。 「やあっ!!」 「そしてここも」 開いた片手の指を、強引にシグナルの女陰に捻りこむ。 「痛ぁっ!!」 「どうした? まだ指一本だぞ?」 堅く閉ざされた蕾はコードの侵入を拒む。水を与えられない草花が咲かないように潤いの少ない秘裂はなにも取り込まない。 「痛いよ…」 潤んだ瞳でコードを振り返るシグナルは普段からは想像もつかないほど艶かしい。 零れる紫の髪は乱れて前髪が顔を隠す。美しいという言葉では形容しきれるものではない。浮かされた藤の花は苦痛と快楽の狭間に揺れる。 コードはシグナルの尻の肉を分けるとその下にある花びらに舌を這わせた。たっぷりと唾液を乗せ、舐めあげる。 「ひゃ…あ…」 ぺちゃぺちゃと湿った音が下半身を満たすかのように、震えるシグナルの性器は膨れ上がり、弾けそうだ。 「は…ああ……あんっ」 「まだだな、まだいくなよ」 「そんなことっ…言われてもっ……あああっ!!」 前に触れられたのはさっきだけであとはずっと敏感な花びらに触れられていただけだ。それだけなのに我慢できなくて精を吐き出してしまう。滴る愛液は真っ白な敷布にいやらしいしみを作った。 「あ…」 「我慢が足りんようだな」 先端に触れ、指に絡まる白濁した液をシグナルの目の前で舐め取った。その指をシグナルの口もとに寄せる。シグナルはなにも言わずに差し出された指をしゃぶった。自分のものと、コードの唾液が混ざっている。これからこの指で、コード自身でたくさん愛してもらうために。赤い舌先がちろちろと、柔らかい唇がそっと触れる。先にいってしまったことなんかもうどうでもいいと思えた。 「もういいぞ」 べとべとに濡れた指を秘裂に宛がう。先ほどまで舐めていたぶんも含めて濡れているシグナルの女陰はコードの指をゆっくりと飲み込んだ。異物感に僅かに顔をしかめながら、でも入っているのがコードなのでいやじゃない。わがままなもので、今度は指だけじゃ足りなくなってくる。抜き差しされるコードの指が増えても疼きが止まらない。自然と腰を振ってしまったのにも気づかない。 「なんだ、もうか?」 「…ん…っ、我慢…できないっ…」 「ちゃんと言ってみろ、どうしてほしいのだ? ん?」 耳元の誘惑に勝てるはずもない、コードの甘い囁きに涙を流して懇願するのだ。 「ん…コードの…私のなかに入れて…いっぱいにしてぇっ…」 「よかろう」 そういうとコードは立ち上がった自分のものに手を添え、シグナルの秘所に宛がってゆっくりと貫いた。充分すぎるほどほぐされた女陰は滑らかにコードの剛直を飲み込んでいく。ニ、三度体が大きく揺れた。一端奥までたどり着くと、あとは激しく熱く狂うだけ。 「ああっ!!」 「くっ…きついな…少し力を抜け」 「うん…」 痛みよりも快楽のほうが体を支配する。もっとほしいと腰を振っているシグナルに、コードは応えた。シグナルの腰を掴み、揺さぶる。 「あああんっ!! あっ、はぁっ…」 縋る物といえば枕だけでシグナルはそれを両手で押さえるようにして抱いている。すすり泣くような喘ぎ声に気分は否が応にも高まってくる。 「はぁっ…あぁ…ああぁ…」 「シグナルっ…」 「コードぉ…コードぉ……あああんっ」 コードはそのままシグナルを抱き上げた。 「あっ」 「どうだ、奥まで届いているだろう?」 「んっ、あっ…ん…うん…コードの…届いてる…」 どくどくと熱く脈打つものが中で蠢いている。背後からコードに繋がったまま抱きしめられている。繋がった部分がさらけ出させているようで恥ずかしい。 「やっ、コード…」 「ならこうするか?」 くるんと体位を入れ替えられる。シグナルはおそるおそる目を開けると、目の前には面白そうに笑うコードがいる。 「あ…コード…」 今更恥ずかしがることもなかろうにシグナルはさっと顔を背けた。髪が隠す顔は汗と涙で光る。 「シグナル…」 呼ばれても、いやいやするように顔を横に振る。あんなに喜んでいたくせにいざ顔を合わせるとたまらないらしい。 「シグナル、こっちを向け」 「……コード」 なんとなしに、唇を合わせる。くちゅくちゅと水音が聞こえてきそうな激しい口づけに押され、シグナルはそのまま仰向けに転がった。ふるっと乳房が揺れた。繋がっていた部分が擦れて、たまらず声を上げる。 「あっ…」 自分を見下ろしているコードの瞳が優しい琥珀色に輝いている。 「シグナル…いいな」 「うん…」 コードはシグナルの脚を肩に担ぐと先ほどよりも激しく揺さぶりはじめた。 「ああんっ!! あっ、はっ…くぅん…」 ぽたぽたと飛び散る汗が光を弾く。コードはそのままシグナルの乳房に手を伸ばし、きゅっと握る。 「あっ、あっ、も、もうだめぇ…ああんっ、いくぅっ!!」 「俺様もっ…くっ!!」 熱い飛沫が体内に注ぎ込まれるのと同時にシグナルも弾けた。白く降り注ぐ液が疲れきった裸体を淫らに彩る。 「あ…は…」 引き抜かれる感触さえ心地いい。ずるりと滑った音が情事を一時的に終わらせた。 「ん…コード」 「目が覚めたか」 ふわりと柔らかい真綿が体を覆っているのに気がついてシグナルはもぞもぞと体を隠す。その仕草がなにかしらの小動物のようで、コードは思わず噴出してしまう。紫苑に輝く美しい髪の流れを手で梳き、頬を撫でてやる。シグナルは気持ちよさそうに笑った。 「ねえ、コード」 「なんだ?」 「『細雪』ね、柄とか鞘とか作らないの?」 「ああ、そのことか」 コードはゆるりと微笑むと、細い腕の中に細雪を呼び出した。最初に切ったバンドルのかわりに長く自分の相棒となった『細雪』は20年以上のときを経ても未だに白鞘のままだ。鉄拵えの柄と鞘を誂えることも考えていたが、なぜかそれをしないまま現在にいたっている。白鞘のほうが自分に馴染んだこともあるだろうが、それよりも思ったような鞘が見つからなかったことが大きい。 結局『細雪』に鞘を誂えることはないまま。けれど刀身の気配をまとうコードは、実に幸せそうに笑うことが多くなった。 『<A−S>が生まれてから、お兄様も変わられましたわ』 そういって嬉しそうに笑った妹の顔を思い出す。どこが変わったのかはわからないが、それでも電脳空間にいたころよりも日々が充実しているのは確かだ。 そう、コード自身が、鞘を手に入れたのだ。妹たち以外に、愛しいと思える人――コードだけの人を。 「…もっと刀らしい鞘のほうがいいか」 コードが問い掛けると、シグナルはそっと首を横に振った。 「ううん、しなくていいよ。そのほうが『細雪』らしいし」 「そうか」 そっと白木の鞘をなで、コードは『細雪』をしまう。そして横たわったままのシグナルに口づけた。絡めた指先が逃げることを許さない。 「コード、今したばっかり…」 「かまわんだろう? お前も待ちきれんようだし」 火照った体を持て余しているようなシグナルの布団に転がり込んで、白い肌を撫で上げる。 いつ果てるとも知らぬ情事の第二幕は紺色の闇の中に消えていった。 剣と鞘は それぞれが独立した固体でありながら、互いを補完する。 鞘は個体ではただの鉄の筒。 剣を包んでこそ、初めて『鞘』となる。 剣もまた然り。 よき鞘を得てこそ初めてその身を守り、真価を発揮する。 痺れるくらいに絡めた指先から伝わる思い あなたがいてくれて、初めて自分が自分でありえると 教えてくれたあなたと、生きていこう ≪終≫ ≪何の脈絡もなく≫ MOIRA2巻の発売を記念して書いたものですのでかなり以前の作品ですww。サイト開設に当たって日の目を見せることになりました。 というわけで今回の製作風景。 如月:しかしあれだな、今回はシグナルの出番なかったよね〜 高砂:しょうがないじゃん、外伝だもん。私あれだな、今回のツボはコードのセリフ。『細雪』が白鞘のままだけどいずれ落ち着くだろうっていう…。 如月:鞘…落ち着く……コードの幸せ……はっ!!(きゅぴ〜んと来たらしい) 高砂:あっ!! 来たのね!! 来たのね、如月ちゃん!! 如月:うん、来た来た。それよりさ、シグナルって体柔らかいよね〜 高砂:そりゃ戦闘型だしプロレス好きだし…でもあれですな、柔らかいのは… 如月&高砂:股関節♪ コード&シグナル:何考えてるんだ!!(ぼかすか) 如月&高砂:ぷしゅうううぅぅぅぅぅぅ〜 |