はじめてのこと。



初めてのこと、初めての人
私の周りの、たくさんの『はじめて』
きっと終わりのない、たくさんの『はじめて』…



真っ青な空の下で、真っ白な花束を持って歩く。シンガポールは千年の夏、照りつける太陽が今日は優しく感じられる。
私の名前は<A−S SIGNAL>。世界で最初の、MIRAっていう特殊金属で作られたロボットなの。動力源はSIRIUSっていう光変換性変軸結晶を使ってるんだって。難しいことはよくわかんないけどとにかくすごいらしいの。私に使われた技術、そして私本人。狙われたことがあるのよね。
MIRAは、アトランダムに持っていかれちゃったの。持っていったのはカルマだったけどね。ナイフで髪の毛を切って持っていちゃったの。そのあと、アトランダムとは仲直りして、今じゃ仲良くしてる。私の髪も戻ったし。
SIRIUSは…これもアトランダムが持っていこうとした。後で聞いたことなんだけど、アトランダムはクオータに脅されて、私のSIRIUSを狙ったんだって。クオータはカシオペア博士に危害を加えるといったらしい。カシオペア博士はお年だから、すぐ死んじゃうかもしれない。ユーロパは繊細なロボットだから、すぐに傷ついちゃうかもしれない。アトランダムはふたりを守りたくて、私を手にかけようとした。でもそれは駆けつけてくれたみんなのおかげで未遂に終わって…私たちはすぐにクオータたちを追ったの。このまま、放ってはおけなかったから。
私たち――私と、パルス、エララさんとコード、そして信彦とクリス――は、クオータたちを止めるべく乗り込んで行って…。クオータは私から強奪しそこなったSIRIUSを自分で作ってたの。けど軽量化と制御がとても難しいその結晶はすぐに暴発した。だって私の胸にあるSIRIUSだって5年もかかったんだもの。周辺を吹き飛ばすほどの威力を持ったそれを、私は必死で止めてた。
『パルス!! 逃げて!!』
『シグナル!!』
『…コードも……』
『シグナルっ!! シグナル!!』
だって、ふたりにSIRIUSは強すぎたんだもん。MIRA製の私じゃなきゃ…耐えられないと思ったの。コードもMIRA製だけど、鳥型だからね。無理だって…思った。だから逃がしたの。案の定私は重傷を負って帰ってきちゃった。どうやって戻ってきたのかも知らないし。そしたらコードに叱られちゃった。
『今度俺様を切ったら細雪で斬るからな』
それからコードはずっと私のそばにいる。そばにいてくれる。

――あれから一年経った。今日は、Dr.クエーサーの命日。
真っ青な空の下で、真っ白な花束を捧げる。SIRIUSは『焼き滅ぼすもの』。その結晶に焼かれたDr.クエーサーはここに眠っている。そして、クオータも…。きっと一緒にいる。
Dr.クエーサーは不治の病に冒されていたんだって。クオータはドクターを助けたくて…その言いつけを守りたくて…生きたまま脳を取り出し、ロボットの体に移してた。その素材として私が目をつけられたってこと。ドクターは言ってた。私たちAナンバーズは『不完全な人間を模倣した醜悪な存在』だって。あの言葉はいつまでも私を捕らえてる。私たちは『存在してはいけない存在』なのかなって、考えちゃう。
カルマも、似たようなことを言ってたことがある。人間を越えるべく造られた私たちHFRは人間を超えないようにって暗黙のうちに言われてるんだって。自分が造ったものが自分より優れてると面白くないんだろうって。私はまだそんな経験がないんだ。教授が『自由』っていうのをコンセプトに作ったせいもあるからだと思う。でもこれからは違う。これからはきっと私にもそういうことがあるんだと思う。人間みたいでも人間じゃない私、ロボットならロボットらしくって言われる日が来るんだろうな。誰でもきっと、経験するんだろうとは思う。人間でも、『男なら男らしく、女なら女らしく』っていうのがあるらしいから。
「シグナル」
肩に止まっているコードが私のお師匠様で、サポート機。強くて優しい人。優しく声を掛けてくれる。
「コード…」
手向けた花が日の光に透ける。純白の百合の花は亡き人の安寧を祈って捧げるんだって、エララさんが教えてくれた。
「もう一年になるんだね…」
「そうだな。早いものだ」
さらりと静かな音が耳元で揺れた。コードが羽根を広げる音だ。桜色の温かい色が、とても好き。
「…クオータは、Dr.クエーサーが大事だったんだね」
「そうだろうな。あんなことをやってのけるくらいだ」
それはきっと、私が教授を、コードが博士を大事に思うくらいに。私は思う、クオータはやり方を間違えただけなんだって。私だって、教授がいなくなったら、誰かがいなくなったらって思う。とても怖くて悲しいことだと思う。けど、いなくならないものなんてないんだよね。だから、その日その日を大事に生きるとこが大切なんだって思うの。私は生まれて『初めて』なくなった人――Dr.クエーサーと、クオータ。どうか、安らかに…。

捧げる祈り。ロボットである私たちの願いも聞いてくれますか、神様…。
 
「行くか」
「うん」
ゆっくり立ち上がって墓所をあとにする。そのまま歩いていったから知らなかったの。緑のインバネスを着た紺色の髪をした男の人が微笑んで立ってたことを。


「どうした、シグナル」
「ん? 別に。たださ、いろいろあったなあって思って。『初めて』のこと、たくさんあったから」
「お前にとってはこれからすべてが『初めて』だろう」
「うん」
「ゆっくりゆっくり進んでいけばいい」
私はゆったり微笑んでいたのかな。とっても幸せな気分だった。
コードはね、私の『初めて』の人。恋をしたのも、キスをしたのも…愛してもらったのも。きゃー///。
初めて愛してもらったのは、私が重傷を負って戻ってきて、それから目が覚めて、何日か経ってからのこと。どんなに思いあっているのか、抱きしめてもらうだけじゃ、キスするだけじゃ足りなくて……絡めた指先、触れた唇、繋がった部分の熱さは今でもちゃんと覚えてる。ううん、忘れたくても忘れられないよ。あれからコードは、何もなくても私を抱きしめてくれるようになった。抱きしめたまま、笑ってくれることが多くなった。そんな温かさについ甘えてしまうことも増えた。それだけ幸せなんだと思えるから…いいよね。
「ねえ、コード」
「なんだ?」
「コードってさ、もう40年も稼動してるよねぇ」
「それがどうかしたか」
コードが不審そうに私を覗き込んでくる。ちょっと聞きたいことがあるのに…聞きづらいなぁ〜。
「コードの初恋の人って…誰?」
やめておけばよかったかな、と思いながら、私はコードを腕に抱く。コードはぼとっと落っこちそうになった。
「あっ、コードっ!」
「お前なあ、今更何を聞くんだ」
「だって気になるんだもん」
コードはふうと溜め息をついた。
「お前だ」
「え?」
「俺様の初恋が知りたいのだろう。お前だ」
コードはこういうの。愛とか恋とか、なんとなくは知ってたけど、自覚したのは私が初めてなんだって。ひゃ〜、照れるなぁ。なんとなく嬉しくって、でもふとよぎったドラマティックボイスをかき消した。
『初恋は実らないんだぜぇ?』
意地悪なお兄ちゃんの声。私のことを未だに追いかけまわすオラトリオの声。私はぶんぶん否定する。初恋は実らないなんて、そんなことないもん。
「…初恋は実らないとか言うな」
「コードまでそんなこと言う〜〜」
「俺様たちに限ってそれはなかろう」
「…コード?」
「ほれ、とっとと歩け。お前が俺様を拘束している以上、お前が歩かんと先に進めん」
…照れ隠し…だよね? 今のは、ずっと一緒にいるってことだと思っていいんだよね? そうだよね?
後で聞いてみよう、二人っきりになったら♪



初めてのこと、初めての人。
私の周りの、たくさんの『初めて』
パズルのピースを埋めるみたいに、少しずつ少しずつ
あなたと一緒に
 

 
 
 

≪終≫





≪づ、づがれだ…≫
えっと、C×S♀で、『あれから1年』ってことで。少女漫画〜〜!! でもこれ楽しいのよねぇ。
でも誰が初恋話しろって言ったんだよ、誰が!!
すみません、もうコメントありません。勘弁してください…m(__)m
注: 文字用の領域がありません!

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