月夜の誘惑 心に優しく降りそそぐ 愛しい君という存在 「コードっ…やだっ…」 「うるさいやつだ、大人しくしていろ」 「でもっ…ぁん…」 電脳空間の闇の中に揺れる月は仮初め、淡い月光に照らされる翠帳紅閨に浮かぶ影ふたつ。 水音をたてて交わされる口付けに酔いながら潤む瞳で見つめてくる恋人にコードは小さく笑みを浮かべた。 「は…ぁ…」 「どうした、これくらいで。夜はまだ長い、存分に付き合ってもらうぞ」 これしきのことで音を上げるわけではないが、深い口付けはいつまでたっても慣れない。押されるままに紫の髪を床に投げ出したシグナルはそのまま手首を捕らえられ、縫いとめられる。 まだ幼い顔立ち、でもその瞳には確かな未来を見据えて――。 「…シグナル」 押さえつける手はそのままに、コードはそっとシグナルの頬に手を添えた。温かく柔かい感触が伝わってくる。コードに撫でられるとシグナルの表情もふっと和らいだ。自分を見下ろす琥珀色の瞳は月のように穏やかで、そう思った瞬間、求められる喜びを知る。 「シグナル」 呼びかける声すら、優しくシグナルを溶かす。 逃げようと思えばいつだってどうやったって逃げられる、それくらいコードはやんわりと自分を押さえつけているにすぎない。でも、シグナルは彼のそばを離れたくなかった。求められたのは急だったけれど、求められることに理由なんて要らない。ただ愛したいという気持ちだけ…あるなら。 シグナルは頬にあるコードの手に自分の手をそっと重ねた。 自分は今、ここにいるよ、と。 そして――あなたの心のままにどうぞ自分を愛してください、と。 重ねた手を伸ばし、コードの首に抱きつく。 「コード…」 「…いやじゃないのか」 「…いやじゃない」 「…そうか」 ふたりはしばし見つめあい、そうして再び口付けあった。 「ん…んん…」 耳朶を甘く噛まれ、今度は首筋に降りてきたコードの唇に体がぴくりと反応する。絡めあった指先さえ熱い。 「んぁ…ぁあ…」 首筋から鎖骨へ、そしてふっくらと柔らかく実る乳房の先端に赤く色づく小さな果実へと移動する刺激にシグナルは小さく身を捩った。指先でくりっと転がされたかと思うと啄むように食んでくる。小さな刺激がやがて大きな快楽へ変えられていく、そのための前戯は隅々まで丁寧に行われる。そのたびに淡い嬌声を上げるシグナルが、コードにはたまらなく愛しく思えた。 「はぁ…コード…ぉ…」 「シグナル」 「ひゃっ…」 耳元で囁かれる己が名さえ、コードがくれる愛撫のひとつ。 もっと、もっと愛してください――あなたが寂しくないように 「シグナル…」 「コード…」 もう、なんでもいい。あなたがくれるものなら。 コードはシグナルの足に手をかけ、そっと左右に開いた。ちょっと恥ずかしくて、シグナルは少しだけ抵抗するように力を込めたが意味はない。ただほんのちょっと、本当に恥ずかしかっただけで。けれどコードはそんなことは気にせずに足のあいだに顔を埋めると際どい部分に口づけた。これまでの行為にシグナルの女の部分は敏感に反応し、僅かに濡れそぼっていた。そこにコードの桜色の髪がさらりと触れて刺激する。 「んっ…」 たったそれだけのことにシグナルは僅かに体を反らせた。コードはそのままシグナルを舌で愛撫した。 「ん…ぁあ…ああっ…」 羞恥と快楽の狭間で揺れる瞳は潤み始めた。こうなったときから――こういう関係になったときから羞恥心なんて捨てた。コードに愛されているときだけは、すべてを任せてしまいたいと思うようになったのは、何度目からだったろう。 「コード…もういいよ…」 「そうか? それなら…」 コードはぺろりとシグナルの陰核をなめるとその場を離れ、枕もとにやってきた。 「俺様のも、やってもらおうか」 「うん…」 横になっているシグナルの手に自分のものを握らせる。シグナルは愛しそうにそれを手にとると体勢を変えてコードをゆっくり口に含んだ。まだ慣れないけど、コードにしてもらうようにたくさん愛せばいい。先端だけを口に含んで、それから全体に舌を這わせる。少しずつ大きくなっていくコードのもので自分とひとつになる。邪魔な髪を耳にかけ一生懸命奉仕するシグナルの頭をコードがそっと抑えると彼女の口内にコードが少し深く入り込んだ。 「んぐっ…」 口をもごもごさせながらコードを見上げると、彼は満足そうに微笑んでいた。 シグナルは一度口を離し、呼吸を整えてもう一度コードを口に含む。 瞬間、目の前が白濁する。 「くっ…」 「あっ…」 予告もなしに、コードのものが弾けたのだ。顔一面にコードの精を受けたシグナルはぽたりぽたりと頬から零れる精液を拭う。 「んぁ…これ、コードの…」 コードは何も言わずにシグナルの頬を拭う。指についた自分の精液を差し出すと、シグナルはためらわずにその指を舐めた。体にも降りかかった体液を自分で胸元に広げ、コードを誘う。 コードは薄く笑った。 「好きだな、お前も」 「コードこそ…」 互いに抱き合い、口付けあう間にコードの指先はシグナルの秘裂に迫る。最奥の花びらに指が触れるとシグナルの体がぴくんと跳ねた。思わず唇を離し、コードの肩に顔を埋めてしまう。 「あっ…ぁあ…ん…」 すすり泣くような喘ぎがコードの耳をくすぐった。抱き合っているために密着した互いの半身は擦れあい、シグナルの花びらは透明な蜜を零している。 「あ…はぁ…ん……コード…んんっ…」 「どうした、イきたかったらイっていいぞ」 「ん…イく…ぁぁん、ああっ…ん〜〜〜〜っ」 コードが自分をしっかり抱きとめ、膣内を犯しているためシグナルはほとんど身動きもできずにそのまま愛液を吐き出した。けれどせめられている女陰はもう指なんかでは足りなくなって、自然と腰を振った。それでもコードは丹念にシグナルをほぐしている。 もどかしくなって、シグナルはコードにねだるように縋った。 「ぁんっ…コード…も…やっ…」 「なにがいやなんだ、言ってみろ」 コードがそう耳元で囁いたのを聞いて、シグナルはきゅっと唇を噛んだ。知っているくせに、コードはいつもそうやって自分を試している。それはコードも限界なんだという合図でもあった。 「も…指なんかじゃ足りないっ……コードの…私の中に入れてっ…」 「……いい子だ」 しっかりしがみついているシグナルを少し離し、再び軽く口づける。侵入の一瞬に身を硬くしていたシグナルの緊張が少しだけ和らいだ。コードの首に腕をかけ、下から突き上げるように侵入してくるものの熱さを感じながら、シグナルは少し仰け反った。 「あ…ああ…」 濡れたものが自分の中に侵入してくる痛みは徐々に快楽に変えられていく。それなのにコードは途中でそれを止めてしまった。 「コード…?」 中途半端な疼きが耐えなれなくて、シグナルは身を捩る。 「あとは自分で沈めてみろ」 「そんな…」 「できるだろう、さっきのように」 いいながらコードはシグナルの赤い果実に手をかける。 「自分で腰を振ってみろ」 そこをくりっと押しまわす。突然与えられた刺激にシグナルは体を支えられなくなって腰を落とした。コードのものをすべて飲み込んでしまう。 「!!…あっ…くぅっ…」 「やればできるではないか」 「…意地悪」 そういうシグナルの表情は決して非難がましくはなかった。この身を任せはするけれど、すべてをコードに頼ってはいけないのだ。快楽を共有すること、愛しあうということは相手に求めるばかりではない、愛されるばかりが能じゃないということ。 言葉ひとつ、笑顔ひとつ。幸せになる努力を怠れば、不幸せになるばかり。 快楽を得るだけなら、ひとりでだってできる。でもそこに愛はない。 シグナルはぎこちないながらもゆっくり腰を揺らした。 「んっ…あっ…はぁ…」 偏光する紫の髪が月光に煌いて蠱惑的に淡い光を放つ。 「シグナル…」 「な…に?」 荒い息遣いのシグナルにコードは耳元で優しく囁いた。 「無理するな」 「無理して…ないよっ…んっ……コードも…気持ちっ…よくして…あげたい…っんっ…からっ…」 「…そうか」 コードはそっと目を閉じた。そのまま、繋がったままシグナルを横たえる。体位を変えるとなお深くコードが侵入してきた。 「んくっ…」 軽い衝撃にきつく目を閉じる。落ち着いて再び目をあけたとき、視界がぼんやりと滲んでいた。コードの指がそっと目尻をなぞる。 「痛かったか?」 「…ううん」 シグナルは小さく首を振った。熱っぽく潤む瞳はコードだけを見つめている。 「お前はすぐに泣くな」 言うなり、コードはシグナルの腰を掴んで身を進めた。緩急をつけて貫くとそれに応えるようにシグナルも体全体を揺らす。濡れた紫水晶の瞳をそらさずに、ただコードだけを見据え、細い手がコードの腕を掴んで僅かに引き寄せる。 「あっ……はぁっ…あぁんっ…」 揺さぶられるまま、嬌声はとめどなく溢れ、シグナルの秘裂はコードの先走りの汁とあいまってしとどに濡れ、こぼれ始めていた。 「コードぉ…コードっ!!」 絶頂に近いシグナルはコードの首に腕を絡めた。引き寄せられたコードは逆らわずにシグナルに近づく。片方の腕で腰を抱き、もう一方の腕で体を支え、シグナルに口づける。 「どうした、俺様はここだ」 「あ…コード…」 「さっきから繋がっているだろうが」 コードは動くのを止め、じっとシグナルを見つめた。満月に似た琥珀色の瞳が優しいのに気がついて、シグナルはぎゅっと抱きついた。 「コード…私っ……」 シグナルは自分から口づけを求めた。唇を触れ合わせ、舌先を舐めあい、深く深く絡めあう。零れた唾液が口角から漏れ、銀の筋を作った。 「あふ…ぅ……ぅはぁ……んっ、んっ…」 「シグナル…」 「んっ…コード…」 「なにを心配しとる。俺様はずっとお前のそばにいるだろうが。そしてお前もっ」 コードは再び動き始めた。シグナルの中で熱さと硬さを持って蠢くコードのものが少女を高みへを追い詰めていく。 「ずっと…っ…俺様のそばにいろっ…」 激しくなる律動にシグナルの顎が上がる。がくがくと体を揺さぶりながら声を上げる。嬌声に中に混じるの愛しいものの名前だけ。 「コードっ…ああんっ…いくっ…」 荒くなる呼吸の中に紡がれる切なさが、コードをはじけさせた。 「ああ、俺様も…くっ!」 「ああっ…ああっ!! はっ…ぁああああんっ!!」 ふたりはほぼ同時に絶頂に達した。注ぎ込まれる熱い思いにシグナルは全身を震わせていた。 ゆっくり目を開けると、シグナルは布団を着せられて横になっていた。その横にコードが腹ばいになって煙管で煙草を吹かしていた。ゆらゆらと立ち上る紫煙を見つめていると、コードがふとこちらを向いた。 「やっと気がついたか」 「私…寝てた?」 「少しな」 もそもそと体勢を変え、コードと同じように腹ばいになると、枕の上に肘をつき、手に顎を乗せた。情事のあと、コードはよくこうやって煙草を拭かしていることがある。音井家の住人は誰も煙草を吸わないのでシグナルには珍しいものとして映るのだ。ましてコードは刻み煙草を煙管で吸うのだ。興味をそそられて、シグナルはコードの手元をじっと見つめている。 「なんだ?」 シグナルの視線に気がついたコードがそっけなく聞いた。 「それ、煙草でしょ? 美味しいの?」 「試してみるか?」 寝転がったまま差し出された煙管をシグナルはわくわくしながら受け取り、コードがしているように口に含んで吸い込んだ。 口いっぱいに広がる煙と苦い感触。吐き出せばいいものの、シグナルは煙を吸い込んでむせた。コードはぱっと煙管を奪い取る。 「なに、これ。苦いだけで美味しくない」 むせながら文句を言うシグナルを他所にコードは新しい煙草を詰め、火をつけていた。 「この味がわからんようならまだまだガキだな」 『ガキ』と言われ、シグナルはむっとして言い返す。 「いいもん、煙草の味なんか知らなくったって」 むくれてしまったシグナルはコードに背を向けるようにして横になった。コードはそんなシグナルを小さく鼻で笑うと、煙草盆に煙管を打ち付けて灰を落とし、遠ざけた。 まだまだ子供だけれど。 その純粋さが誰かを――自分を癒してくれているのだと、気がついているか? そしてその幼さ故に あなたを求めてしまうことも―― 「『小さきものはみなうつくし』…か」 自分の心境もまさにそれだろう、コードはひとりごちた。 「コード?」 呟きが聞こえたのだろうか、シグナルが伺うように振り返る。どこか物言いたげなシグナルの視線に、コードは目元で笑い返した。 「…寝てろ」 「…うん」 この場合の『寝てろ』は大人しく横になっていろ、の意味で、決して睡眠を取れという意味ではない。 この夜最初の予告どおり、ふたりは何度も体を重ねて愛しあった。 闇の中から鮮やかに月は照らしつづける 少しずつずれながらも手探りで寄り添い歩く心を 愛しい君という存在を ≪終≫ ≪はんせーい≫ …何度もいいますが、私はC×S書きなんですよ。コードもシグナルをガキガキ言いながら結局好きなんじゃん、と思ってるわけでして。 今回は意味もなくゑろなんですけど…本当に意味なんかないです。ただ…ちょっと寂しかったんで書いてみただけなんです。 如月は煙草吸うので(友人にはよく止められますが)、コードにもよく吸ってもらってるんですが、シグナルが吸ってむせるっていうのは一回やってみたかったんで…それがやりたかっただけなのかもしれません。 |