紫水抄 緩やかな月の光の中 体の芯から 心の奥から愛しいと思えるあなたを ますます愛しくなりました 「ん〜〜」 浅い眠りから目を覚ますと、一糸纏わぬ姿でコードに抱きしめられていた。そういえば昨日…と思って時計を探すけどここにはない。どうしようかな、とそのままコードの腕の中。 私の名前はシグナル。戦闘型のHFRで、音井ブランドの末娘って呼ばれてる。で、隣で寝ているコードは私のサポートロボットで、お師匠様で…恋人。ただの恋人じゃなくて…その…なんていうのかな、大人の関係ってやつ? とっ、とにかくそういう間柄///。 ここは電脳空間にあるコードの屋敷。現実空間でのコードは鳥型だけど電脳空間では人間型になる。だからコードと…ってときは電脳空間にくることになってるの。 コードに愛してもらうのはまだ少し恥ずかしいけど、好き。 コードは私を腕に抱きしめて眠っていた。桜色の髪はさらさらしてて、白い頬にかかってる。伏せられた瞼には思ったより長いまつげがあって、閉じられた瞳は月みたいな琥珀色をしてる。体が細いから想像できないけどコードは剣の名手、氷みたいに冷たい視線が冷静に敵を見据える。でも私を見つめる瞳はあったかくてふわっと微笑んでくれるとすごく嬉しい。耳元で好きだと囁いてくれる声はくすぐったいけど心地いい響きで私を震わせる。一見すると恐そうだけど本当はちっとも恐くないんだってみんな知ってる。 「コード、寝てるよね…」 すっかり目がさえてしまった私はまだ眠りの中にいるコードを起こさないようにそっと起き上がった。まだ少ししっとりと汗ばむ肌にいつもの服を着たくなかったから、紺地に菖蒲を染め抜いた浴衣を着て黄色の帯をゆるりと締める。この浴衣はコードが選んでくれた。 そして静かに庭に下りた。 草も木も眠っているように静かな夜、電脳空間の空に仮初めの夜――浮かぶ月は細い三日月、その周りを小さな星が囲んでいる。 髪に手を入れ、首筋に風を入れる。なんとなくさっぱりした感じがする。 季節は夏――藤も紫陽花も時節をすぎて、今は朝顔や百合が咲いている。もっとも、今は夜だから朝顔はしぼんじゃってるけど。この朝顔は紫なんだって、コードは言ってた。白い凌霄花がふわっとその花を闇に浮かび上がらせる。 『夏の花はみんなお前みたいだな』 コードがそう言ってた。偏光する紫の長い髪、紫水晶のような大きな瞳…紫は人間が自然に持ちえない色だから。コードだって桜みたいって笑ったらそうかといって微笑んでたね…。 ちょこんと咲いている露草は夜明けに開く。コードの着物の色に似てて、私この花が好き。 こうやって夜に回ってみるといろんな花の違う姿が見れてなんだか楽しい。 くるっと一周して部屋の前まで戻るとコードが起きていた。ただ紺色に染められたシンプルな浴衣を着て男帯を締め、縁側に立っている。 「散歩か?」 そういうと靴脱ぎ石においてあった下駄を履いて降りてきた。からころと音がする。黙っていなくなったから怒ってるかと思ったけど、そうじゃないみたい。私はにっこり笑って答えた。 「目が覚めちゃったの」 「そうか…」 コードはそう言ったけど、私はコードを起こしちゃったような気がして気が引けた。 「起こしちゃった?」 「いいや、俺様もなんとなく…な」 ぱちん、と、コードが指を弾くとゆらっと小さな光が飛んできた。淡く薄い黄色に光るそれはぽう、ぽうと光ったり消えたりする。 「蛍だぁ…」 「夜は流石に寂しいからな」 幻想的な風景にもうすっかり冴えた目は寝ることなんか忘れちゃいそう…。 「綺麗…」 「もう眠れんからな。このまま起きていようか」 「うん♪」 すっかりはしゃいでいる私を見ながら、コードは縁側に腰をおろした。振り向かなかったけど、コードはきっと笑ってる。乱れ飛ぶ淡い光は恋人を探す手がかり。水の中で幼年期を過ごし、成虫になったときに運命の恋に出会う。そのために蛍は光るんだと、コードは教えてくれた。 私はコードと出会って結ばれた。 私が私であるために、コードがコードであるために互いを求め、愛しあった。 ――指先にふと止まった蛍。 私は蛍を追うのをやめ、そっとコードを振り返った。コードは白磁の猪口で冷酒をあおっているらしい、でも顔色は変えずに私をみていた。…急に、コードのそばに戻りたくなった。ゆっくりと戻ってくる私に、コードは優しく問いかけた。 「どうした?」 「…わかんない。けど、コードのそばにいたくなったの」 すとんと腰をおろし、足をぶらぶらさせる。 「…お前も飲むか?」 「…ちょうだい」 コードが差し出した猪口を受け取る。透明で澄んだお酒が注がれるのを、じっと見ていた。それを一気にあおる。冷たいような熱いような感覚で喉を流れるお酒はどっちかっていうと苦手。 「…注いで」 コードは黙って2杯目をついでくれた。それも一口であおる。 「はぁ…」 溜め息をつくと、コードが笑いながらこっちを見た。 「どうした、いつもはちびちび飲んでいるのに珍しいな」 「…ん〜、今日は特別」 「どう特別なんだ」 「コードのせい……かな」 「俺様のか」 ――コードがいけないのよ、蛍なんか出すから…。 「どう、俺様のせいなんだ?」 「蛍ってさ、恋人探すために光るんでしょ」 「まあな」 「それじゃ…さ。コードはまだ探してるの?」 私がそういうと、コードはからからと笑い出した。 「なんだ、そんなことか」 「笑い事じゃないよぅ…むぅ…」 「すまんすまん」 私がむくれたら、コードはそっと私の肩を抱き寄せてこういってくれたの…。 抱きしめていたはずの温かさが急になくなって 目を覚ましたら本当にいなくなっていて 探したらなんでもないように笑ってて ――寂しかったんだ。 そして――蛍が光るのは求愛行為 蛍を出したのはお前のせいだ 「コード…それって…」 コードは答えずに私を抱きしめた。ただ耳元で『好きだ』と囁かれて、そしたら耳朶をかまれた。 「ひゃっ…」 突然のこの行為に身を竦めた私をさらに抱き寄せ、コードの手は浴衣の裾を割ってするすると腿をなで始めた。 「きゃっ…コード、だめっ! こんなところでっ///」 「なんだ、誘ったんじゃないのか」 「さそっ……違うもん違うもん違うもん!!」 コードのばかぁ〜〜。ぽかぽかとコードを小さく叩きながら否定する。 「わかったわかった、落ち着け」 「ばか〜〜」 違うもん。蛍見てたらなんとなく寂しくなっただけだもん。…でも、それってやっぱりそういうことなのかな…。蛍が光るというその行為に、私は何を感じたんだろう。ただ幻想的なだけじゃない、幻想をもたらすようで実はその本能に忠実なこの行為。 「私…コードのこと好きだよ。ずっとそばにいるって約束したもん…」 「でも今夜はいなかった」 「それは…」 それは…ただ、目が覚めちゃっただけ。気分転換にそっと散歩に出ただけ。 「…やっぱり怒ってるの? 黙って起き出したの…」 「やっぱり怒っていると言ったら…どうする?」 琥珀色の瞳があんまり真剣だったから……どうしたらいいか解らずに私は泣き出していた。 「シ・シグナル?」 「ごめんなさい…ごめんなさい、コードぉ…」 「泣くやつがあるか。冗談だ、冗談」 「…ほんと?」 「ああ、怒っていない」 コードの胸に収まって、髪をなでてもらう。涙はちょっとだけだからすぐに止まっちゃう。えへへ、よかった。 「まったく、泣けばすむと思いおって」 「そんなことないもん」 やっぱり、好き。 「ねぇ、コード」 「なんだ?」 「蛍…もういいよ」 「…そうか」 コードが指を鳴らすと蛍はひとつふたつと消え、やがて月明かりだけが私たちを照らした。 「…シグナル」 顔にかかった髪を払い頬に添えられた手に自分の手を重ねる。 「コード…」 見詰め合うだけでいい。触れるだけのキスから深く絡み合って重ねるキス。コードの腕は私の腰に、私の腕はコードの首に、もう離すまいと抱き合って。 「は…ぁ…」 そのまま抱き上げられて部屋に戻る。履いていた下駄は途中でぽいぽいと足から放った。 からん、ころん。 無粋な音だとばかりにコードは顔をしかめていたけど、抱き上げられたままの私に下駄を脱ぐ暇なんかなかったんだもん。 帯も解かず、そのまま横たえられ、再びキスをする。 「んっ…」 コードの手がそのまま懐に入り、私の乳房を弄った。目を閉じていてもどんなふうに触れられているのかよく分かる。 まだなれていない私のためにゆっくり優しく触ってくれている。 「あっ…コード…」 するっと肩口からはだけられ、胸元があらわにされる。恥ずかしかったけど目の前にはコードしかいない。 「…シグナル」 「んっ…」 コードの唇がそっと首筋に触れ、鎖骨をなぞり、乳房の先端に赤い果実にたどり着いた。一瞬だけ、息が詰まる。 私はコードの背中に手を回し、彼の好きなようにさせていた。と言うか、私自身もどうしていいのかよく分からない。 たったひとつわかったのは、体を自由にすること。ただそれだけ。 私たちは愛しあう この時代に導かれて出会い、結ばれたのだから。 「あっ…んっ、はあっ……んふっ、はっ、はああっ」 「なんだ、もういい具合だな」 コードの手が、私の秘所に触れた。体がびくんとはねてしまう。ぬるぬるしているのが自分でも分かった。 「は…あっ…」 コードは秘蕾を指の腹でくちゃくちゃと弄った。濡れた音が響いて、なんだか変な気分。どうしよう、そこは感じちゃう…。 「やっ、コード、そこはっ…」 「気持ちいいところだろう? こすると」 いやらしい水音を立ててコードの指が動いた。 「はんっ! あっ、ああああん!!」 いやなのにいやじゃない、やめてほしいのにもっとしてほしい。初めてじゃないのに泣きそうなくらい恥ずかしい。 「コードっ…」 「いい子だ、シグナル」 体が熱くてたまらない。コードが重なるように圧し掛かってきて、そっと口づけた。 コードの男の部分がおなかにあたってる…。 「いくぞ」 「う、うん…」 足を抱えられ、私の女が露にされる。足の間にコードがいて、自身のものを私の中に差し入れた。 「んんっ…!!」 ぐちょりと艶かしい音をさせてコードとひとつにつながった。 「ひゃああっ、んくっ…ふっ…」 「シグナル…」 「やあんっ、はああっ…はっ…はあっ…きゃんっ…」 最初はゆっくり、でもだんだん激しくなるコードの律動に思わず力が入ってしまう。体中が心臓になったみたいにばくばくいってる。 「はああんっ! コードっ、コードぉ…」 「シグナルっ…くっ…!!」 「いっ…いっちゃうっ…!! あはああああんっ!!」 ぶるるっと体が震える。私の中のコードが一気に膨らんで、そのまま弾けた。 「あ…」 体中に力が抜けていき、私は荒い息の中でコードの唇を受け入れた。 「んっ…」 コードが私から離れると、白い液がごぽりと音を立てて私の胎内からあふれ出した。 「やだっ…恥ずかしいっ…」 「なにをいう。とてもかわいいぞ」 ぬるっとしたそれを指にとり、コードはぺろりと舐めた。 「コードっ…」 コードはいたずらっぽく笑うと私の横にころんと転がった。そしてお互い裸のまま抱きしめあう。しっとりと汗ばんだ肌がより互いを結びつけた。 腕の中でぼんやり考えることはひとつ。 「どうした、シグナル…」 「好き…コードのこと…愛してるよ…」 「俺様も…だ…」 緩やかな月の光の中 体の芯から 心の奥から愛しいと思えるあなたを ますます愛しくなりました ほのかな蛍が教えてくれた夏の夜 「ん?」 「ん〜〜」 浅い眠りから目を覚ますと、一糸纏わぬ姿でコードに抱きしめられていた。そういえば昨日…と思って時計を探すけどここにはない。どうしようかな、とそのままコードの腕の中。 「目が覚めたか」 「あー、コードぉ…」 私はこしこし目を擦る。コードはその様子を面白そうに眺めていた。 「おはよう、今何時?」 「日本時間で朝の5時半」 「あー、じゃあそろそろ現実空間に戻らないと…」 そうして私たちは身支度を整え、現実空間に戻ることにした。 「朝帰りだねぇ〜」 「…そうか?」 朝帰りって言うのは外泊して翌朝帰ってくること。音井家にいなかったのは外泊には違いないけど、電脳空間のコードの屋敷にいたのって外泊かな? まあいいや。 うーんと背伸びをして、ふうっと息を吐く。なんかさっぱりしたみたい。 「ねぇ、コード」 「なんだ?」 「今度は花火しよ、花火」 「花火か…いいな」 「でしょ?」 「今度…か」 「? どーかした?」 「いや、別になんでもない」 「???」 このときの私はただ『花火をやる』くらいにしか考えていなかった。 「シグナル」 「なあに?」 「ずっと俺様のそばにいるんだぞ、いいな」 「…はい」 僅かな距離さえ埋めたくなるような 永遠を誓う朝 そっと手を繋いで 「じゃ、あとで」 「ああ」 離れる一瞬。私は私に、貴方は貴方に還るとき。 でも、気持ちはずっと一緒です ≪終≫ ≪空だって飛んじゃうぞ≫ うぐはぁΣ( ̄■ ̄川)C≡(殴)C×S♀で…ちょっとR指定…かもしれない。いえ、ふたりはもうそういう関係なんです…。 自分でなに書いたのかはよく解ってます! けど今の自分は空だって飛べそうな…そんな気分です(←だからどうした) あ…ぁあ…もう終わってしまえ!! ←自棄になってます。そっとしておいてあげてください。 |