世界迷作劇場〜7匹の子やぎ むかしむかしあるところに二匹の雄の山羊と、その弟やぎ3匹が暮らしておりました。 雄山羊の名前はオラクルとオラトリオ。このふたりは双子で、全く同じような顔つきでしたが、性格は至って逆でした。オラクルがのんびりおっとりならオラトリオは頭に血が上りやすい激しいタイプでした。 そんなふたりには三つ子の妹がいます。上から順にシグナル、ミラ、シリウスといって、とても仲のよい3匹でした。長い紫色の髪にぱっちりしたアメジストの瞳は見るものすべてを魅了し、ちょっとした森のアイドルとなっていました。 ある日のことです。オラクルとオラトリオはちょっとした用事があって出かけることにしました。けれど妹たちを連れていけないので留守番をさせることにしました。 「えっ? 私たちだけで留守番するの?」 シグナルは心配そうです。 「オラトリオ〜、お土産よろしく〜」 ミラはちゃっかりしてます。 「やだ〜〜、つれてってよ〜〜」 末っ子のシリウスは駄々をこね始めましたが、結局、兄弟たちに説得されてしぶしぶながら留守番を承知しました。ようやく決まって出かけようとしたそのとき、兄たちの脳裏に不審な影が映りました。このところ森を荒らしているという狼のクオータです。このクオータはオラクル、オラトリオととてもよく似ているため、安心して近づいたところをがぶりとやられているというのです。小さな弟たちも騙されやしないかと気が気ではありません。そこでふたりは妹たちとの間に取り決めをしました。 「いいか、3人ともよく聞け。俺とオラクルのふたりが帰ってくるまで扉を開けちゃだめだ」 「ふたりいっしょならいいんだね?」 ミラがすぐ反応しました。 「そういうこった。それから、俺たちらしい影が見えても同じだ。声をかけるまでだめだぞ?」 「うん、わかった!!」 三人は元気よく返事をしました。兄たちはまだ心配でなりませんでしたが時間もなかったので出かけていきました。 「そろそろかえってくるかな〜」 「そういえば何しに行ったのか聞かなかったね」 「いいんじゃない? 別に」 三人が好き勝手なことを言っていると、とんとん、と扉を叩く音が聞こえました。 「あ、誰か来た」 「帰ってきたのかな」 「とりあえず聞いてみようよ」 シグナルは兄たちに言われたことを実践しようとしました。扉によっていきます。 「だーれ?」 『開けてくれよ、俺だよ、オラトリオだよ』 「オラトリオだって」 シグナルがミラとシリウスを振り返りました。二人の反応は決まっています。 「オラクルは?」 「聞いてみる。オラクルはいないの?」 するとやや間があって返事が返ってきました。さすがに怪しいと思った三人は決して扉を開けようとはしません。 「狼のクオータだろ、絶対開けないからね!!」 「そーだそーだ!!」 「かーえーれ!」 帰れコールが異口同音に飛び出しました。扉の向こう側にいた狼のクオータは小さく舌打ちをして扉から離れ…そして ずががががががががぁん…… 「うわぁっ!!」 扉のそばにいた三人は血相を変えてそこから離れました。クオータが放ったニードルガンがドアノブを打ち壊したのです。 「面倒ですから使わせてもらいましたよ」 「汚いわよ! 童話にメカをもち込むなんて!!」 シグナルの反論はもっともです。しかしクオータはくじけません。 「いいんですよ、これは迷作劇場なんですから。メカはありですよ、シグナルさん」 そう、これは迷作劇場なのです。したがって通常の童話ルールは適用されないのです。そんなことを言っている間にもクオータの魔の手は三匹の幼い山羊たちに襲い掛かります。 「さて、どの子からいきましょうかねえ、三人とも可愛らしくて比べようもありませんが…」 ある意味ではちょっとしたハーレム状態なのでクオータの妄想は爆発寸前です。怯える三人は妙な可愛らしさを醸し出しています。思いっきり妖しげな手つきでクオータはミラとシリウスを攫っていきました。両脇に二匹、流石にシグナルまでは無理だと悟ったようです。 「待て〜〜!!ミラとシリウスを返せ〜〜!!」 「動けるものなら動いてみてください」 「くっ!」 シグナルは足を引きずっていました。先ほどのニードルガンで足を怪我してしまったのです。シグナルは悔しそうにクオータの背中を睨んでいました。ミラとシリウスはクオータの小脇に抱えられたまま泣いていました。 「…こりゃひでぇ…」 ニードルガンでぼろぼろになった扉をみてふたりはあっけにとられました。幸いシグナルの足はたいしたことはありませんでした。 「ニードルガンを使われたんじゃどうしようもないね、シグナルも怪我しちゃったんだし…」 「けどこのまま放ってはおけねえだろ」 「もちろん」 ことの経緯を聞いたオラクルとオラトリオはすぐに囚われたふたりを助けにいこうとしました。二人の頭の中にはクオータに手篭めにされている、ある意味では艶かしいミラとシリウスの姿が浮かんでいました。そんな姿は自分たちでさえ見たことがないのにクオータなどに先を越されてはたまりません。ふたりの呼びかけに猟友会のみなさんが集まってきました。 「何? ミラとシリウスが攫われただと?」 猟友会会長のコードが言いました。 「それは一大事ですね、ふたりに何かあっては大変です」 副会長のカルマも言いました。 「私の可愛い<A−S>たちに危害を加えるなんて許せません!」 「そうですわ!」 猟友会会計のエモーションとエララも言います。猟友会のメンバーは大事な家畜たちをクオータにやられながら、あの狼をしとめることは出来なかったのでした。そこへやってきた三姉妹誘拐の話です。猟友会のメンバーたちは三匹を可愛がっていましたから、さっそく猟銃を持って森の中に入っていきました。 「私たちに何をする気なのっ!!」 後ろ手に縛られ、柱に括りつけられたミラとシリウスは何とか縄をほどこうと一生懸命もがいていましたが無理でした。その間にもクオータは楽しそうにベッドメイクをしています。ときどき鼻歌が混じっているのが怖いくらいです。二人の問いにクオータはこれまた楽しそうに答えました。 「何って…決まっているでしょう? これからあなたがたをおいしくいただくんですよ」 さーっと血の気が引いていくのを感じたふたりは懸命にクオータにむかって言い返しました。 「わ、私たちを食べてもおいしくないぞ!!」 「そーだそーだ、私たちはまだ子やぎだから肉もついてないし!!」 子どもはこれだから。クオータはゆっくりと近づくとまるで品定めでもするかのようにミラの顎をつかんで上を向かせました。 「な、何すんだっ!!」 「何もわかっていらっしゃらない。私の目当てはあなたたちの血肉ではなく…その可愛らしい体そのものです。これから私の×××で×××したり×××したり…そうですね、×××を使ってあなたがたの可愛い×××を×××してもいいですねぇ…」 放送禁止用語ばかりでわけがわかりませんが、とにかくえげつないことだけは確かです。だって相手は森の中でいちばん惨忍といわれた狼のクオータなのです、ただで済むとは思えません。ふたりは本気で怖くなってまたじたばたと暴れ始めます。けれど子やぎの彼女らにはどうすることも出来ません。そうこうしているうちにクオータはミラを担ぎ上げ、新たに縛った上でベッドの上に放り投げました。そしてそのまま覆い被さります。 「うわぁっ!! やめてえええええ〜〜〜」 「無駄無駄、誰も来ませんよ…」 縛られたままのミラは動くことが出来ません。ただ口づけられないように必死で首を振っています。 「やだやだやだやだ〜〜〜〜っ!!」 叫びながらミラは泣き出しました。 びええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ…………――― クオータは知らなかったのです。ミラはあんまり泣く子ではありませんでしたが、本気で泣くとその泣き声は大音量かつ超音波だということを。シリウスは一度だけ体験したことがあったので何となくわかったのですが、今は縛られているために防ぐことが出来なかったのです。 「いっ?!」 「うわっ…」 耳元で叫ばれたクオータはミラから遠ざかって耳を塞ぎ、シリウスはそのまま気絶してしまいました。それがよかったのでしょう、猟友会のメンバーはこの声を聞きつけ、まっすぐにクオータの住処にやってきたのです。近づくに連れ、全員が耳栓をしていました。 「ミラっ、シリウスっ!!」 シグナルがいちばんに駆け込んでいきました。隅のほうで耳を押さえているクオータをちらりと確認すると、ミラを縛っていた縄をほどき、泣きやませてから外に出しました。外にはオラクル、オラトリオとカルマが待機しています。それから気絶しているシリウスもたたき起こすと、こちらも縄をほどいてから逃がしてやりました。 「うえ〜ん、怖かったよう」 「おにいちゃ〜〜ん」 ミラはオラトリオが、シリウスはオラクルが抱きとめ、それぞれ慰めています。 「よしよし、よく頑張ったな」 「私たちね、お兄ちゃんたちが帰ってくるまで絶対ドア開けなかったよ」 「ああ、えらかったね」 「けど…けど…うわ〜〜〜〜ん」 えぐえぐとまたぐずりだしたふたりを宥めようと、とりあえずずっと抱きしめていました。ニードルガンまで持ち出されては流石のこの子達も用心のしようがありません。それでもクオータと必死で対峙していたのでしょう。泣きじゃくるのも無理はありません。 そのころ、シグナルとコード、そしてパルスがクオータと対峙していました。 「どうしてふたりを攫ったりするのよ!!」 「可愛いからに決まっているでしょう!!」 「………」 三人は呆れてものがいえませんでした。『可愛いから攫う』ではまさに変態そのものです。こんな狼一匹のために愛用の猟銃を使うかどうか、コードは正直迷っていました。けれどここで放っておくと後々障害になりかねません。後顧の憂いを断つため、必ずここで仕留めておく必要があるのです。コードとパルスは猟銃を構えました。 「もうお前のような獣を放置しておくわけにはいかん。ここで死んでもらおう」 「くっ…かくなる上は…!!」 後がないと悟ったクオータはコードの横にいたシグナルに襲い掛かりました。弾みでシグナルは背中から倒れこみ、その上にクオータが圧し掛かってしまいます。 「うわあっ!!」 「シグナルっ!!」 コードが叫びます。クオータはにやりと笑いました。 「くくく…こうしてシグナルさんを人質に取っておけば手も足も出ないでしょう?」 僅かでも手元が狂えばクオータごとシグナルを撃ち殺してしまうかもしれません。猟友会随一と謳われた名手・パルスでもそれは同じでしょう。シグナルは押さえ込まれてもじたじたと暴れていました。 「さあ、銃を捨ててもらいましょうか」 「なんだと…」 「シグナルさんがどうなってもいいのですか?」 ふたりが苦虫を噛み潰したような表情で銃を捨てました。クオータは不敵に笑います。ちょうどそのときです。 がつん。 「@%&$#〆∇§〒〜〜〜!!」 なんと表現したらいいものか、クオータがある部分を抑えながら転げまわっています。その隙にシグナルはクオータから逃げ出し、コードとパルスは銃を拾い上げました。 クオータの苦しみようから、彼にいったい何が起こったのか、ふたりは冷静に判断していました。ただじたばた暴れていただけのシグナルがいったい何をしたのか…それは全く偶然の産物だったのでしょう。そう、暴れていたシグナルの膝が、クオータ――ひいては男性全員の――急所を蹴り上げていたのです。 うずくまっているクオータにふたりはちゃきっと銃を向けます。 「…哀れだとは思うが…ここまでだ」 コードが猟銃の引き金を引きます。シグナルは目を閉じていました。 ずぎゅうううぅぅぅぅぅぅ…… 銃声は長く遠く響いていました。 それから数日後のある日。 猟友会のメンバーによって狼・クオータは射殺され、保健所に届けられました。危険とみなされて駆除された動物の屍骸は保健所が引き取るのが基本です。そんなことはどうでもよくて。そのあとシグナルたちがどうしたかというと…。 「じゃあ、ふたりはそのことで出かけてたんだ…」 「そ。これからも森に住むのは危険だなと思ってな。師匠のところに厄介になることに決めた。もちろん、それぞれ行きたいところがあるなら希望出していいぞ」 オラトリオがそういうと、妹たち三人はにっこり笑ってこう言いました。 「私たちみんなコードのところがいいっ♪」 というわけで一家そろってコードの牧場にお世話になることにしました。 ぽかぽか陽気の青空の下で、ミラとシリウスは元気に走り回り、シグナルはコードのそばにいました。 「ふたりとももうすっかり元気になってよかった…」 「そうだな、少しは引きずるかと思っていたが…」 「ねえ、コード」 「なんだ?」 「…どうして私たちを引き取ってくれたの?」 「ん? それはな…その……お前が心配だからだ」 「え…」 コードが昔話をしてくれました。シグナルが生まれる前に起こった出来事を…。 シグナルの母やぎが彼らを生む前に小屋に入り込んでいた野良犬を追い出そうとしていて…そのときのショックでまだ生むには早かったシグナルの母やぎは出産をはじめてしまったと。結局三匹生まれたけれど母親はそのまま死んでしまい、まだ幼かったシグナルたちが残されたのです。シグナルはいちばん最初に生まれた子で、とても育たないと思ったほど弱っていました。その子やぎを一生懸命育てたのがコードだったのです。シグナルが覚えていないのは物心が付く前にオラトリオたちとともに森に入っていたからでした。 「そんなことが…」 「あのときのことが嘘のように…ちゃんと育っていて…安心したぞ」 「コード…」 ふたりはゆっくりと唇を近づけました。軽く触れるだけで、とても安心できる優しいキス。シグナルは寄り添うようにコードにもたれかかり、コードはその肩を抱きました。 「あー、やっぱりコードとシグナルはできてたんだ〜」 「オラトリオ兄ちゃんが知ったらひっくり返るねぇ…」 「エモーションさんとオラクル兄ちゃんは知ってるよぉ?」 「カルマも知ってるみたいだけど…」 知らぬは兄ばかりなり。こうして平和な日々が続くのです♪ ≪終≫ ≪大脱走したい気分≫ 『迷作劇場〜7匹の子やぎ』でした。7匹もおらんやん。そしてこの話って『お母さんやぎが子やぎを助ける』って話やったやん? でも原作のまんまいくと人が余りすぎるし面白くないので『猟友会メンバーに狩ってもらおう!』ということになり、『それなら(TSの)最終回みたいにしよう』と思って…無理でした。 設定とか話の流れとかもろもろ(ご意見やご感想など)あるかと思いますが『迷作劇場』ですから。 …迷作劇場ですからぁぁぁぁぁぁ!!!(←叫びながら脱走) |