Be there



寒い暗い夜はいやだ
目覚めて誰もいない朝はいやだ
あなたがいない世界がいやだ



日が暮れてどのくらい経ったのかわからない。機械的に今が夜だと時計が示している。空は雲に覆われて星も月も見えない真っ暗な夜。部屋の明かりだけが人を闇から導いてくれたいるだけ。冷え込むようになったから下手をしたら翌朝は雪になっているかもしれないな、なんて思いながら窓辺に立ってみる。木の葉をすっかり無くした木々が寒寒と風に揺られて内包する命を守るかのように立ち尽くしている。ともすれば床につきそうな長い髪は光の加減で様々に色を変える偏光紫、その持ち主である少女の吐息が窓を濡らす。白く曇ったそこをつつと指でなぞれば外界の姿をはっきりと捉えることが出来た。ロボットである自分には寒さなどたいしたことではない。けれどそう思う自分は特殊な存在で――そう、この世に数えるほどしかいないAナンバーズ。少女はその一員なのだ。
「何してんだ、そんなところで」
不意に掛けられた声に少女はゆっくり反応した。くるりと振り向くと髪が遅れてついてくる。そしてにっこりと笑った。
「オラトリオ…」
歩み寄ってくるのはアイボリーのコートに身を包んだ大柄な青年――彼もAナンバーズ、<A-O ORATORIO>だ。少女の背後まで近づいた彼はそのままくるんと抱き込んだ。こうするといつもはじたばた暴れる少女も今日は珍しく大人しい。その腕にゆったりと身を委ねたままだ。
「およ、今日は暴れないのな、どうしたんだ、シグナル」
「別に。たまには大人しく抱っこされてようと思っただけ」
「言うねぇ」
少女――シグナルよりもだいぶ大きなオラトリオが甘えるように抱きついているのに、彼女は抱っこされている、という。起動したてで子どもっぽいところがあるシグナルが今日はやけに大人びて見える。自然な微笑みはそのままなのに、何が彼女をこうするのか。
「外はだいぶ寒そうだぜ、回路が凍結しねえといいけど」
「オラトリオは逆に熱いのだめだもんね。だからこの寒さはちょうどいいんじゃない?」
「まあな。このコートも鬱陶しいとは思うけど手放せねえし」
情報処理を専門とするオラトリオは熱がたまりやすいタイプだ、身を覆うコートは防寒用というよりは冷却用、彼の身を守っている。
「熱がたまりやすいのはお前も一緒だろうが」
シグナルはロボットの運動機能の頂点、戦闘型だ。普段の生活のみならず非常時にはハードな運動をこなす彼女も熱がたまりやすい。シグナルはその背を彩る蝶の羽根のような髪で熱を逃がしている。
「でも私はこの髪を鬱陶しいなんて思ったことはないよ……オラトリオが、この髪、好きだって言ってくれるから」
「…そっか」
ふと移した視線の先、映る濃い灰色の空。雨も雪も未だ生みそうにないどんよりとした空。オラトリオはさらに強くシグナルを抱きしめた。
「雪…降るかね」
「降るって言ってたよ、明日はきっと一面真っ白だよ」
「…俺、雪ってあんまり好きじゃねえな」
「どうして?」
「ただ消えていくために生まれてくるんだ」
『俺みたいに』と続けられなくてもわかる、その、窓に映る悲しい視線で。伏せられた瞼から零れる暁色の瞳に、今何をみてるの?

神託を守りし者
神の子の行く道を謳いゆく者
栄光を名乗りながらその実、その命は雪のように儚い者
己の人格でありながら二つの死を纏いし者

かつて僅かながらに眠った氷の中を思い出させる雪――この子の知らない、オラトリオの傷。


「…わりぃ、そういう話はしない約束だったよな」
シグナルが不安そうに自分を見つめているのに気がついたオラトリオは自然と謝ってしまう。負の感情にとても敏感なシグナルだけに、たとえ拭いきれない痛みだと知っていても、それを何とかしようと必死になってくれるから…。
でも、シグナルは呆れたように溜め息をついて、青年の腕の中で向きを変えた。
「…つらくなったら打ち明ける約束もしたと思うけど?」
「…そうでした」
もう、抑えられない。こうして抱きしめた瞬間から、そうしたいと願っていたのだから。
肩を抱き、腰を引き寄せ、口づける。回路の凍結を心配しない、温かい夜が始まる。



「あ…」
首もとを這う舌の感触にシグナルは身を捩った。オラトリオは少女の白い裸体に鮮やかな真紅の跡を残しながら愛していく。
「あっ…ん、や、そこ…」
「いいか?」
「うん…」
頬を赤く染めて頷くシグナルに優しく微笑みかける。シグナルを赤子のように腕に抱いてその肌を確かめるようになぞるだけで少女の体はぴくりと反応した。その感触がたまらないとばかりに縋りつくシグナルに噛み付くように口づける。くちゅくちゅと舌を絡め、飲みきれなかった唾液が銀の糸となってふたりを繋ぐ。それが恥ずかしくて、何となくまた口づける。今度は軽く触れるだけ。
「かわいいねぇ、キスひとつでそんなになっちまって」
「だって…きもちいいもん…」
潤んだ、熱っぽい瞳にそそられる。オラトリオはシグナルの体中にキスを施した。肩、胸と降りていく。柔らかな乳房がオラトリオの目の前でふるんと揺れた。その乳房をきゅっと握るとシグナルは小さく声を上げた。
そのままゆっくりとシグナルを横たえると今度は足の付け根の、際どい部分に舌を這わせる。じゃれあうような前戯が少女の花びらを濡らしていた。
「あ…オラトリオ…」
足の間から男くさい顔が上げられる。いたずらっぽい視線がより羞恥をあおっているようで居たたまれない。やめてほしいほど恥ずかしいのに自分の体はもっと愛してほしいと主張しているかのように熱を持っている。
「どうした?」
自分の気持ちには逆らえなくて。これが、本能なのかな?
そんなことを考えながら――考える余地もないほど、愛してほしいと思う。
「そこも…きもちよくして……」
「ここか?」
オラトリオが秘芯に指を当ててくりっと転がした。急激に与えられた刺激に電流のようなものが背中を走りぬける。
「あぁ…んんっ…あ、そこぉ…」
「ほんと、いい顔してくれるよな…すっげぇ、そそられる」
少し硬くなったシグナルの秘芯を手で転がすように扱きながら、軽く腰をあげさせる。舌で秘裂をなぞるたびに漏れる喘ぎ声はすすり泣きにも似てひどく艶かしい。秘裂は僅かに指を侵入させるだけでもするりと飲み込んだ。それでもシグナルはきゅっと内股に力を込めている。ならばもっと大胆になれるようにびちゃびちゃになるまで湿らせればいい――花を開かせるのに水が必要なように。舌の上にたくさん唾液を乗せて宛がう。潤滑剤のおかげで彼女は淫らに身をよじるようになった。
「あ…ああんっ…」
足を広げられ、その間で丹念に自分を愛してくれる人の髪に手を伸ばす。鈍い金色に光るそれが、とても好き。
「あ…ねぇ…」
「あん?」
「も…い。はやく…ほしい…」
「もうちょっと待ってな、このままだと痛ぇぞ」
そういって顔を埋めかけたオラトリオにシグナルは縋るように懇願する。
「痛くてもいいから…入れてっ…オラトリオだって…もうこんなに…」
そういうとシグナルは、そっとオラトリオに触れた。それは彼自身を象徴するように天を向いていた。同じように欲望を吐き出そうとしているのがわかる。体勢をかえ、シグナルはそれをゆっくり口に含んだ。大きすぎる怒張は含みきれず、根元はしっかり手で抑え、先端部分をしゃぶる。突然のことに驚く間もなく咥えられ、オラトリオはシグナルを引き剥がすことも出来ずにそのままだ。
「おい、待て…」
「ん…んんんっ…ぷ、ぁ…」
苦しくなって一度口を離したシグナルが顔を上げた。口角が唾液と精液で汚れている。
「気持ちいい?」
「いい…けど、なんだよ、いつもはしねえのに」
髪を梳いてやりながらオラトリオはそのまま続けさせた。この行為は初めてではないし、決していやではないからだ。でもシグナルからというのは珍しい。当の本人は嬉しそうにオラトリオを愛している。
「私ばっかり気持ちいいから……もう、いい?」
「上出来。さ、お望みどおりにしてやろう」
「…前から、して」
「いいけどよ、はじめから前はつらいだろ」
「いい…オラトリオを…みていたいから…」
「シグナル…」
もう一度静かに寝かせ、覆い被さる。広げた足を肩に抱え、膨らみすぎた自分のものを押し当てる。熱さと硬さでシグナルは僅かに緊張したがそれもオラトリオのキスで簡単に拭い去られる。
「…入れるぞ」
「来て…ぇ…」
ずる、といやらしい音をたてて侵入してくる男を、シグナルの膣孔はするりと飲み込んだ。一気に奥まで入れてしまってから、軽く引く。それからまた、押し入れる。それを何度も繰り返す。動くたびにシグナルの内壁がきゅうきゅう締め付けてくるが、それを振り切るようにひいては押し込んだ。
「あっ……んっ…やぁっ…はっ…」
入れられたまま前を弄られる。シグナルはそれだけでいってしまいそうな顔をしてみせるから、オラトリオも自然と動きを早めてしまう。普段の、あどけない笑顔もすきだが、ベッドの中でだけみせるこの妖艶な姿もいとおしい。
「はん…あぁん……やっ…もっと…」
「…よし、もっと気持ちよくしてやる」
そういうとオラトリオは繋がったままシグナルを抱き起こし、自分が横になった。オラトリオに馬乗りになった形で繋がっている。
「あ…」
覆い被さるように、守られるように抱かれるのとは違う。男に抱かれて乱れる自分がさらけ出されるのが恥ずかしい。けれど繋がった部分はもっとほしいと訴えている。下から突き上げられる感覚に思わず体をそらせてしまう。
「あ、はぁ…んん…くっ…」
「ほら、もっといいように腰ふってみ?」
「ん…こう?」
自分がきもちいいように動くのは難しくて、オラトリオが腰を支え、突き上げてくれなかったらどうしていいのかわからなかったかもしれない。オラトリオの自然な誘導に気分もだんだん乗ってくる。
「ふあ…は…ん…あぁ、だめ、もう…」
「俺もっ…いきそっ…」
「ふあぁ…いくっ! いくぅぅぅ!!」
「シグナルッ!」
「あはぁぁん……」
ぎしり、と大きく音を立ててベッドが軋んだのと同時に、オラトリオは熱いものをシグナルの中に吐き出した。肩で荒く息をしてうつろなシグナルから自分を引きぬく。ずるりと濡れた感覚にシグナルは感じるままに声を上げた。
「はうぅ…あ…」
崩れ落ちそうな体を抱きとめてやると、シグナルは自然とその胸におさまった。
「オラトリオ…」
潤んだ瞳に見つめられ、オラトリオは目を細めた。情事の後、こうやって抱きしめあって、笑いあうのが好き。
「大丈夫か? 無茶しなかったとは思うけどよ」
「ん、平気。オラトリオは、気持ちよかった?」
「ああ、とっても。それより少し休め。夜はまだ長いぞ?」
「うん…」
腕に抱かれたまま横になると、オラトリオの唇がそっと額に触れてくる。くすぐったいと思いながら、でもいやじゃないから笑ってあげる。
ふと、オラトリオが窓の外に視線を投げた。ちょっとだけ眠ろうとしたシグナルがそれに気づいて、オラトリオの上ににゅっとのびあがって声をかけた。
「どうかした?」
「あ? いやな、雪降ってきたなーと思って」
シグナルがふっと目を向ける。ちらちらと数は少ないものの、窓の外は確実に雪になっていた。
「…カーテン、閉めてこようか?」
「なんで? おめぇ、雪みたかったんじゃねえの?」
自分の体の下で笑っているオラトリオが、少し熱い。無茶してるのはオラトリオのほうじゃないか。そう言いたいけど、言わない。
「雪、嫌いなんでしょ?」
悲しそうに自分を見つめる瞳に、オラトリオははっとした。長い髪をカーテンのようにして、自分を外界から遮っている。雪に視線を向けないように、自分だけをみていられるように。
根雪のような自分の心を溶かし、春を呼ぶ君、その仕草の一つ一つが愛しい。
「…おめえと一緒なら、別になんてこたねえよ」
「…ほんと?」
「ああ、明日、積もってたら一緒に遊ぼうか」
「うん、一緒にね…」
そのまま、そっと口づけて。唇から零れる愛を唇で受け止めよう。
オラトリオの胸の上で静かに眠りについたシグナルを抱きしめ、彼もまた静かに目を閉じた。




冬寂――winter mute
雪が――嫌いだ
冷たく、白く、心を奪う。

あなたのいない世界はいやだ

あなたのいない世界はいやだ!!

だからそこにいて、君だけはここにいて
BE THERE…





≪終≫




≪カビが生えた脳みそで≫
腐ってはいないんですがカビが生えかけた脳みそです。しかも中途半端にエロでごめんなさーいww
タイトルはB'Zの同名の楽曲『BE THERE』よりいただきました。
オラトリオとシグナルと雪はどうしてもかきたかったのです、あふうww
タイトルはあんまり意味がないんだよな〜〜。書き切れてなくてごめん!!(←いつものこと)注: 文字用の領域がありません!

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