ガラスのラビリンス Ver.Ot×S


蒼く蒼く透きとおるガラスのような
繊細で透明な心に魅せら、捕らわれた
ここは迷宮――変に居心地がいい、俺だけのラビリンス…



淡く輝く紫色の光が薄暗い部屋をぼんやりと満たす。この感じが好きだ。
「どうしたの、オラトリオ?」
かなり長めの髪をかきあげながら俺を見下ろす顔は幸せそうに笑っている。白い頬にそっと手を寄せると、しなやかな指がその上に添えられる。
「なんでもねえ。おめえ、また綺麗になったと思ってさ」
「馬鹿ばっかり。ロボットなんだから変わるわけないじゃん」
「わあってるよ。けど…」
ちょっといたずらしてみよう。片方の手をするっと腰のあたりに這わせる。まあるい部分をまあるく撫でる。
「ひゃあっ!」
くくく、可愛い。そのまま、そのまま柔らかい谷を割って奥のほうまで行こうとしたところで怒られた。
「なにすんのよ!! すけべっ!」
がーっと怒るところも可愛い♪ けれどこのまま機嫌を損ねるのは得策じゃねぇもんな。ぽんぽんと軽く頭を叩くと、むぅとむくれながら俺の胸の中にすっぽり収まる。決して小さくはない俺の恋人。小さな桃色の唇に紫水晶の大きな瞳、どれだけの未来を見つめている?
そしてこれから先、どれだけ『俺』を見つめてくれる?
捕らわれの賢者――<A-O ORATORIO>を。

生まれつきの影…戦うこと、傷つくこと、自分を捨てることを強制され、逆らうことなどない俺を
お前はいつまで見つめてくれる?

『俺』を『俺』として。ただの『オラトリオ』として。

つい、抱きしめる力を込めてしまう。細い体を壊してしまいそうなくらいに。何もかも奪ってしまうそうな感覚、お前はなにも言わないな。
「…オラトリオ」
おずおずと差し伸べられる、手。
「…熱いね」
心臓に添えられる、左手。恋を司る薬指が白銀の指輪で重そうだ。
狂っちまいそう、このまま、抱きしめていたら。

激しすぎる感情は唇から。
「…シグナル」
呼びかけるだけでわかるらしい、にっこり微笑んで口づけを交わす。熱く深く重ねていくことすら厭わないな。
体に施す痕は、俺の知らないお前を知っている、すべてに対するジェラシーの傷痕。ごめんな、お前が悪いってわけじゃないんだ。
嫉妬で壊れそうなくらい、愛してるってこと。わかって…わかってくれるよな?
「あ…あっ…」
切なそうにあげる悲鳴は、儚い夜の華――闇を彩る。
「んん…あぁ…オラトリオ…」
潤んだ瞳で見つめられるだけで熱くなる。
 
俺だけの『シグナル』

「…入れるぞ、いいか?」
「ん…いいよぉ…」
向かい合ったまま口づける。シグナルは俺の上に跨り、ゆっくり腰を落としていく。
「ん…あ…」
「ゆっくりでいいぞ、ゆっくり息吐きながら…そう」
繋がる瞬間、『ふたり』が始まる。
「あっ…ん…も、だめ…」
「まだ入るだろ?」
細い腰を捕らえ、俺自身も突き上げる。シグナルの体が大きく跳ね、息を詰まらせたように身を捩りながら繋がる。
「ああんっ!」
「ほーら、入った」
「…馬鹿」
でも照れたように笑うシグナルが、とっても可愛いと思う。息を整えながら、シグナルは動かない。
「どうした? 動けよ」
「もうちょっと…このまま…」
「…辛くねぇ?」
「ううん、そんなことない」
ふるふると首を振る。揺れる髪が足元でさらさら揺れてくすぐったい。体を繋げたまま、上半身を起こす。僅かな動きでさえ刺激には違いないシグナルはちょっとだけ顔をしかめてみせた。
「悪い、痛かったか?」
「ん…ちょっとだけ。でも平気」
「そっか。ならいいけど……なぁ、今日はいったいどういった趣向なんだ?」
このまま繋がってるだけなんて。内壁が締め付ける熱さだけでも、充分すぎるほど満たされるけど。
「別に。ただなんとなく…っていうのじゃ、だめ?」
「いいけど?」
「オラトリオは辛い?」
「んにゃ。悪かねぇよ」
ぽふっと、幸せそうに顔を埋めてくる。動いたりすると互いに刺激なんだけどな〜。まあいいか、喜んでるみたいだし。
「…変だって思わないでね」
「何を」
「今日の私。こんなことして…」
「たまにはいいんじゃねえ?」
「……不安なんだもん」
「…やっぱ、俺のこと?」
「それもあるけど…ううん、それ。イっちゃったらそれっきりみたいな気がするんだ、もう…抱いてもらえないみたいに思っちゃって…」
それは、俺がお前に愛想尽かすとか? そんなの、天地がひっくり返ったってあるわけない。
残る可能性はただひとつ。
俺が<A-O ORATORIO>であることだ。

生きとし生けるもの、いつどうなってもおかしくない。それが生きるものの宿命だから。
デモオレハ・ツネニ・キズツクコトニ・オビエテイルンダ

消えたくない!! 生きていたい!!
お前のためだけに!!
お前のためだけに、俺は死にたくないんだ!!

「繋ぎとめておきたいの…このまま…」
たったひとつ、ときどき見せる、この子だけの本当のわがまま。
「…ごめん」
それができないことだと知っていて……お前の望むことなら何でもかなえてやりたいよ…でも…
「シグナルっ!!」
泣かないでくれ、愛しい人。束の間の束縛でも充分すぎるくらい俺を捕らえる。そしてまた、新たに誓うんだ。
俺はシグナルを押し倒すと、何度も何度も貫いた。激しすぎる動きに、ベッドの軋みは鳴り止まない。
もう誰に見られても、なにを言われても後悔しない。
「ああっ!! ああっ!!」
「んっ! んっ!」
滴る汗がきらきらと光を弾いて、シグナルの体を飾る。
「ああっ…ふっ…はぁぁぁん…」
「シグナル…っ…」
「やぁぁ…やあぁ…ああっ…オラトリオ…オラトリオっ!!」
「ここに…ここにいるぜ」
首に絡められた腕の細さ。しっとりと汗ばむ肌に、涙に濡れた瞳。ほら、俺はここにいる。
「オラトリオ…」
「…なんだ?」
「…イきそぅ……も、我慢できないよっ…」
熱い吐息にそそられてもう何度か波間を漂う。迫ってくる白い闇はどうすることも出来ない。



…これって、夢だよな。
気がついたら、ちゃんと服を着てガラスでできた迷路の中にいた。髪もきちんと整えられていていつものかっこいい俺じゃん? ガラスはまるで鏡のように俺を映す。けどここどこなんだよ〜〜。迷路かなんだか知らないけど、こんなものお茶の粉細々だね。
ぶんっ! 杖を一振りさっ!
けど、消えねえ…。なんだこりゃあっ?! 電脳空間無敵の守護者って謳われたこの俺にも無理なもんがあるってか? ざけんじゃねえ、こんなとこ出てってやる!!
うおりゃああああああ!!

…どのくらい時間が経ったかわかんねぇ。これってもしかしてデータじゃない? っていうかここ、電脳空間じゃねえの?
うわー、ここどこなんだよ〜〜、出せよ〜〜!!
ちくしょ〜〜。
でもなんか、ここって嫌いじゃないな。なんかあったかくて…気持ちいいな。
…!
そっか。これって、あいつに似てる。
真っ青で、澄みきってて…けど、ガラスみたいに繊細で複雑。
これって…あいつ?

自覚した途端、さっきまで見えていたゴールのゲートが消えて、俺の意識はまた闇に落ちていく。



「…なんだったんだ?」
目を覚ますと、今度はベッドの上だった。そばにあるぬくもりを抱きしめると、それは間違いなく、さっきまで抱いていたシグナルだった。
「んにゃ…あ、オラトリオ…」
「よう♪ お目覚めはいかがかな?」
「…だっこ」
「はいはい♪」
もそもそと擦り寄ってくる幼い恋人をそっと抱きしめる。幸せそうな笑顔がたまらなく可愛い。そして…抱くたびに思う、綺麗になったと。
そっと窓の外に目をやる。月齢19.4…5くらい? 臥待月が俺たちを照らしてた。
「ほら、シグナル、月が出てんぞ」
「どこに?」
「ほら、あそこだ」
指差した月はこれから欠けていく月。つい先ごろまで満月だった。
「なんか俺みたいだな」
「…どこが?」
「あの月はこないだまで満月だったんだぜ? それなのにもう欠けちまう」
「それってどういう意味?」
「…またやりたくなってきたってこと♪」
ちゅ、と小さくキスをして、それから俺はカーテンを引く。
悪いね、お月様。いくらあんたでもあんまし覗いてほしくねえんだ。シグナルが恥ずかしがるからな。
「なあ、知ってっか?」
「何を?」
「今さっきの月な、寝て待つくらいに遅い時間に上るから『臥待月』っていうんだぜ?」
「…こんなふうに?」
おっと、それって挑発? さっきまで素敵なわがままやってたとは思えないね。いいぜ、乗ってあげましょう?
「なんだぁ、誘ってんのか? さっきまで『イくのはやだ』って泣いてたくせに」
「オラトリオは、いや?」
「…いやじゃねえよ」
もっともっと繋がっていたいし、そう思ってくれるお前のことも好きだしな。
「愛してる…」
交わした口づけがまた、俺を迷路に誘い込んでく。



紺碧の海の上で出会って、そこで『何か』が始まった
思いあって…肌をあわせて、そこから『ふたり』が始まった


愛しい人よ
あなたの声、あなたの腕、あなたの胸 触れるたびに 
強く強く惹かれていく
 


お願い、ひとりで『逝かないで』

ずっとずっと捕らわれていたい
君という名の“ガラスのラビリンス”
 

“幸せ”と問いかける瞳、どうか曇らせないで…

ずっとずっと離れない離れたくない
心地よく俺を捕らえる“ガラスのラビリンス”


 

≪終≫





≪きゃー、ごめんなさ〜い≫
…今回はねぇ、緒方恵美さんの『ガラスのラビリンス』という楽曲がモチーフだけども…ごめんなさい。いちFANとして謝ります。本当はもっといい曲なんです。これ読んで、こういう曲なんだって誤解しないで下さいね〜〜

↓ここから先はえろトーク
今回は『ピストン運動をしない(身も蓋もない書き方…)』という…卑猥な(?)シーンがあるんですねぇ。物の本によりますと、そのほうがオルガスムスを感じるんだとかそーじゃないとか…。まあ、感じ方って個人差ありますし…入ってるだけでって方もいらっしゃるでしょうし(殴)。
でもその物の本は『男女間における性技』について書かれてあったものなのですが果たしてどうかなぁ…と思うわけです。
でも話の盛り上がり的には『動いて何ぼ』というところが捨てられないんですな。見せ場だし(苦笑)。あと、『乱れてないと面白くない』というところも捨てられんのです。……あぁ、あぁ、私が悪かったよ。注: 文字用の領域がありません!

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