もっと素敵な犬とワルツを 初めてであったのは春雨の降るゴミ捨て場。 それからなし崩し的に恋人になって、いろいろとトラブルもあったけど何とかやってる私たち。 今度はいったいなにごとでせう…(ちょっと古語) 「シグナルちゃ〜ん」 「オラトリオ、重たい…」 私の名前はシグナル。市内の大学に通う女子大生、19歳。実家からは片道2時間半もかかるので近くに一人暮らしさせてもらってます。ありがたいです。んで、背中にしょってるのがオラトリオ。私より9つ年上のミュージシャン。こう見えても絶大な人気を誇るデュオ<ORACLE>のボーカルなのだ。 オラトリオと出会ったのは今年の春のこと。帰宅途中にゴミ捨て場に転がっていたオラトリオを拾ってあげたのが縁で、今では極秘の恋人という関係なのです。 「シグナルちゃ〜ん、遊ぼ〜〜」 「もー、邪魔しないでよ、ほら、また間違えちゃった」 弁護士をやっている姉からもらったお下がりのノートパソコンでレポートを書いている。あと2・3行だというのにオラトリオが邪魔をしてなかなか作業は進まない。 「どーせいちいち読んでないって。レポートなんてやっつけでいいんだよ」 「だからそのやっつけさえさせてくれないのは誰? 終わったら遊んであげるから」 するとオラトリオはやっと離れてくれた。私は急いで残りの文章を入力すると保存して、パソコンの電源を落とした。 「終わったー」 「そんなお嬢さんに。ほい、お茶」 「わ、ありがとう」 オラトリオが差し出したマグカップのひとつを受け取る。もうひとつは自分専用だって言ってオラトリオ自身がちゃっかり置いていったものだ。流石に歯ブラシまで置いていこうとしたときは持って帰らせたけど。母親にはばれてるからいいけど(あんまり良くないけど)友達だって来るんだから、それはまずいよね。 「そういえばオラトリオ、何か持って来てなかった?」 「そーでした。シグナルちゃんにお土産があったんだ」 そういうとオラトリオは立ち上がって冷蔵庫を開ける。勝手知ったる他人の家、という言葉が私の脳裏をよぎった。それだけオラトリオがこのせまい部屋に入り浸っているということだろう。 オラトリオが持ってきてくれたのは『LYCAION』という有名なケーキ屋さんの店長お勧め、チョコレートケーキだ。あんまり有名すぎて品薄だっていうのにどうやって手に入れたんだろ。緊張しながらひとくち。ん〜、美味しい…。 「オラトリオこれどうしたの? まさか並んだ?」 「あんな可愛いケーキ屋に誰が並ぶか」 210センチで、男くさい顔立ちのオラトリオが女性に混じって並んでいる姿を想像して、ちょっとおかしくなった。 「そこの店長とはちょっとした顔見知りでな。特注で作ってもらったの」 「うそ…」 「嘘じゃねーよ」 そういいながらオラトリオが唇を寄せてきた。美味しいケーキと、それを持ってきてくれたオラトリオにちょっとだけご褒美。私は素直にその唇を頬に受けた。ふんわり甘い香りがくすぐったい。 「あ、そだ、オラトリオ」 「ん〜?」 「さっきから遊ぼー遊ぼー言ってたけどなにして遊ぶの?」 最後のひとくちをもぐもぐしながら問うと、オラトリオは顎に手を当ててにやりと笑った。さっと私を膝の上の抱き上げる。 「そーだな、大人のお遊びしましょーか?」 「大人のお遊び?」 言うなり私の唇を奪う。突然キスされて私は一生懸命オラトリオを押し返したけどびくともしない。 「ん〜、ん〜〜!!」 そしてそのまま服の上から胸に触ろうとっ!! 「だめーっ!!」 オラトリオがちょっと唇を瞬間を狙ってやっとこさ押し返す。 「い、いきなりなにするのよ!!」 「なにって、大人のお遊び♪」 むかっ。ちょっと頭に来て、私はオラトリオの膝を降りしくしく泣き出すふりをした。 「ど、どったの? シグナルちゃん…」 「ひどい…」 「え…」 「だってひどいじゃない…私とはやっぱり遊びだったのね…」 やっぱり、を強調するあたりがポイントだよ。顔を見られないように手で覆い、なおもさめざめと泣くふりをするとオラトリオはおろおろと取り乱した。たぶん言葉のあやだったんだろうけど、たまには困らせるのも面白いかも、なんていう悪戯心だったんだけどね。 「ごめんシグナルちゃん、言葉のあやだよ、おにーさんが悪かった。このとおり謝るから許して、ね?」 「…ほんと?」 「ほんとだって。シグナルちゃんに嫌われたら俺生きていけねぇ…こっから飛び降りて死んじゃうぞ」 本気で飛び降りかねないので私はびっくりして顔を上げた。するとオラトリオがにぃと唇の端を持ち上げて笑っている。私ははっとした。 「やっぱり嘘泣きだったな」 「しまったー」 オラトリオは微苦笑して私をそっと抱きしめた。 「どうしてわかったの?」 「演技過剰なの、シグナルちゃんは。もちっと練習したほうがいいぞ」 「ちぇー」 私をしっかりと抱き上げたオラトリオはそのままベッドに腰掛けた。さして広くもないベッドで二人眠るために寄り添う。そのための儀式を今から執り行うのだ。 今日は新月、私たちの恋も新しく生まれ変わるのかな…。 「シグナル…愛してるよ。絶対遊びなんかじゃないから」 「信じていいの?」 「…じゃあ誓うよ、シグナルちゃんに」 「…うん」 私はオラトリオの首に縋るように手を伸ばした。柔かい口づけから始まって、優しい抱擁で終わる。 それから数日後。俺はスタジオで打ち合わせをしていた。 「ミニじゃなくてフルアルバムだから最低でも13曲欲しいわけね」 「そう。今マキシが2曲と、CMタイアップ用に1曲書き下ろしたやつがあるからあと10曲だね」 「だったら俺が今いくつか持ってるからそれを補作して音つけて…何とかなるんじゃねぇ?」 「ま、急がないからいいんだけどね」 相棒のオラクルはそう言って微笑んだ。こう見えても世界屈指のギタリストだ、人は見かけによらねぇ。見かけによらないといえばこいつにはもうひとつ驚くべきことがある。 「ところでよ、オラクル」 「なんだい?」 オラクルは五線譜に目を落としながら何かを書き付けている。音数でも合わせているんだろう。俺はかまわず続けた。 「エモーション嬢は元気か?」 「ああ、彼女は元気だよ。シグナルにすごく会いたがってたよ」 「ふーん…」 エモーションは15歳からモデルとして活躍している子で、現在は20歳。なんと、こいつのフィアンセでもあるのだ。いつの間に引っ掛けたやら、紹介されたときは流石の俺も椅子から落ちそうになった。どうりで、俺とシグナルが付き合うって言ったときに『はしゃぎすぎだ』なんて突っ込んだわけだよ。 「いつか会わせてあげたいねぇ」 「そうだな。で、今日の約束は何時だっけ?」 たしかこいつ、今日はエモーション嬢とデートのはずだ。だから今日強引に休み入れやがった。 「7時なんだけど、今やっている音数がちょっと合わないんだ。だからオラトリオちょっと行って来てくれないか」 「なんで俺がぁ」 「ボディガードに。私が来たらそのままシグナルのところに行っていいから」 「いってきまーす」 「頼んだよー」 俺もほとほとシグナルには甘いよな。秋風が冷たくなってきた今日この頃。俺はコートを羽織って外に出た。夕焼けの街は激しさをそっと忘れてる…なんちゃって。 待ち合わせたというレストランはスタジオから歩いて10分程度のところ。人通りの少ない奥まったところにある隠れた名店というやつだ。7時まであと10分くらい、彼女はもう到着していた。 「エモーション嬢」 声をかけると、その人はさっと振り向いた。ネオングリーンの髪が緩やかな曲線を描いて揺れる。鈴振る玉の声が華やかだ。 「まぁ、オラトリオ様ごきげんよう」 「ご尊顔を拝し恐悦至極。お元気そうで何より」 どんな女性にも礼儀正しく、それが俺のモットー。俺の挨拶にエモーションは穏やかに微笑んだ。女性に優しいという世間が俺に持つイメージは壊さない。でもかっこ悪くて甘えん坊で贅沢で無様な、本当の『俺』を知っているのはシグナル――彼女だけでいい。 「でもオラトリオ様はどうしてここへ? オラクル様はいかがなさいましたの?」 「あいつはあなたより仕事を取ったんですよ。どうしても音数が合わないからあわせてから来るそうですから」 「まぁ、お仕事熱心ですのね。でも時間にはいらっしゃいますわ」 エモーションは時計をちらりと覗いた。7時まであと5分足らず。 「結局俺はていのいいボディガードっすよ」 「でもオラトリオ様には私より護ってさしあげたい方がおありでしょう?」 「ええ、まぁ」 「一度お会いしてみたいですわ。すごく可愛らしい方だとか」 「ええ、すっごくすっごく可愛いです」 「ふふっ、惚気てらっしゃる」 そう言われて俺はぽりぽりと頬を掻いた。さっきのエモーションも充分惚気ていたと思うが。 そうこうしているうちにオラクルが小走りにやってきた。信号が少ないから走れば10分とかからない。 「ほら、時間どおりですわ」 7時、30秒前。お見事。 「ごめんね、待たせちゃった?」 「いいえ、オラトリオ様がいてくださいましたから」 「おめーのお姫さんは護っといたぞ、そんじゃーな」 「ごくろー様」 「またお会いしましょう、オラトリオ様」 ふたりは仲良く店内に消えていく。独りぼっちになった俺は秋風の冷たさと心の傷(というほどでもないが)を癒すべく愛しい恋人の下へ足を向けた。 「パルスお兄ちゃんじゃないの、どうしたの」 「シグナル。おまえこそなんだ」 時間は前後して現在夕方5時。私は駅前のスーパーで買い物をしていて、出てきたところを兄とばったり出くわした。パルス兄は大学4年生。私とは3歳年が離れている。卒業研究が忙しいとかでほとんど家に寄り付かない兄がうろうろしている理由といえば。 「また電車で寝てて乗り過ごしたんでしょう」 「……」 パルス兄は無言。どうやら図星らしい。 「…お前がどうしているかと思ってな」 「うそ。本当は間違えて改札でちゃったんでしょう。寝ぼけてて」 「……」 パルス兄が無言のときは図星のとき。 「お母さんが泣いてたよ、パル兄はほとんど帰ってこなくなったって。彼女でもできたんじゃないかって」 「おまえこそ男ができたそうだな。父さんが心配していたぞ」 「……」 「……」 「ま、お互い様ってことで」 「そういうことだ」 久しぶりにお兄ちゃんに会って、実はちょっとだけほっとしてた。オラトリオが来てくれるっていってもライブが始まれば一月以上はあわないこともあるし、来訪はいつも突然だから。だから寂しくなっちゃうこともある。 お兄ちゃんの黒い髪、赤い目。私たちは色こそ違うけど本当はすごくよく似た兄妹なのだ。 「うちでご飯食べてく? すぐそこだし」 「いいのか?」 「どうせ帰ってもお母さん、パル兄のご飯作ってないよ」 「じゃあ、おまえの腕前を見せてもらおうか」 「そうこなくっちゃ」 オラトリオに教わったからおいしいぞぉ。私は小さいころに戻ったみたいにパル兄の手を取って歩いていた。 という前置きがあって現在時刻は7時でございます。 家に戻ってすぐ夕飯の支度をし、いただき始めたのが6時。ちょっと早いけど家まで2時間半という道程を考えるとこの時間がちょうどいい。 「なかなか腕を上げたな、シグナル」 「でしょー。もっと誉めていいよ」 パルスはよく通る低い声で小さく笑った。 「そろそろ帰ろう。たまには家にも戻らんとな」 「みんなによろしくね。私は元気だって言っておいて」 「わかった」 「下まで送ってくよ」 私は一応鍵をかけて下のエントランスまで降りていった。薄手の黒いコートを来て、颯爽と歩いていく兄の後ろ姿はとってもかっこいいな、と、ちょっとだけ思った。そして戻ろうと振り返ったとき、茂みががさがさ動いた。 「シグナルちゃん…」 「うわっ、なにしてるの、こんなところで」 オラトリオだ。私はきょろきょろと周囲を見渡して、誰もいないことを確認してから中に入れた。 エレベーターに乗ってからも、オラトリオの沈んだ表情は消えない。 「どうしたの?」 「シグナルちゃん…」 「なに?」 「今の男、誰?」 私はけらけら笑い出していた。 「なんだ、おまえの兄ちゃんだったのか」 「そっくりでしょ?」 オラトリオはちょっと考えてから『おまえのほうが絶対可愛い』といった。男の人、実の兄と比べられてもあんまり嬉しくないかも…。 「んでさ、オラトリオ今日はどうしたの、最近来たばっかりなのに」 インスタントのコーヒーを入れながら問い掛けると、オラトリオが近づいてきた。背後からぎゅっと抱きついてくる。 「ミュージシャンのお休みなんていい加減なものなのよん」 「ふーん、ところでオラクル元気? 最近会ってないけど」 「元気ったら元気。今日だってフィアンセとデートだって、強引に休みにしやがった」 「えっ、オラクルにそんな人いるの?」 私はびっくりして背後のおんぶおばけを振り返る。いっつもオラトリオに苦労させられている(ように見える)オラクルにも恋人がいるってきいて、私はちょっと嬉しくなった。 「誰? 私の知ってる人?」 「うーん、有名だけどシグナルちゃん知ってるかな?」 「失礼だな、わかるよ、多分…」 オラトリオにそういわれると返す言葉もない。なぜって私はオラトリオにはじめてあったとき、それとわからなかったからだ。私がむすーっとしているとオラトリオは微苦笑し、オフレコだと念を押してその名を囁いた。 「うそ、あの人?」 「ありゃ、ご存知で?」 「女の子なら絶対知ってるって! うわ〜、すごいなぁ。会ってみたい…」 「そりゃ好都合」 「なんで?」 「むこうさんもおまえに会ってみたいんだと。ほら、『Wisteria』出したときにさ、おまえをブックレットとジャケットに使ったろ」 覚えてる。オラクルが作ったCGの女の子、そのモデルが私なのだ。 「エモーション嬢は『The Ace of Heart』が印象に残ってて、おまえのことを<A−S>ってあだ名してるんだってさ」 「へぇ、なんか光栄だなぁ〜〜」 私が入れたコーヒーを飲みながら、結局オラトリオはそのまま一晩泊まって翌朝目立たぬように帰っていった。 それから一週間後のこと。 「オラトリオ!!」 仕事中の俺に向かってオラクルが怒鳴りつけた。 「なんだよ、ちゃんと仕事してるだろーが」 「それはわかってる。けどこれを見ろ!」 オラクルが出したのはご丁寧に栞がはさんである今日発売の女性週刊誌だ。そのページを開いてひゅーと口笛を吹く。 「いい男じゃん、随分腕のいいカメラマンだな」 「そーじゃないだろ」 内容もさして驚くべきことではない。この間の、エモーションとの立ち話を密会と勘違いされて載っけられてしまっただけのことだ。俺も、オラクルも、そしてエモーション嬢もそうじゃないとちゃんとわかっているから驚くどころか呆れてものも言えない。最後まで読んでみたが、これを書いたやつはここだけ写真にとって、そのあと俺がどこにいったのか、そこで何をしていたのか、それまでは突き止めなかったらしい。 「で、この記事でエモーションサイドから何か苦情でも?」 「おまえはどこまで能天気なんだ…」 「なんだよ、シグナルのこともばれてねーし…」 「そのシグナルがこれをみたらどう思うのかっていってるんだよ!」 「あ…」 そうだそうだそうだ! 俺はシグナルがマスコミの餌食にならないように気を使ってきた。俺がどう書きたてられても慣れたもんで、逆にどうやってからかってやろうかと考えてるくらいだ。だけどそれを見る周囲の反応は別。特にシグナルちゃんに誤解を招くようなことだけはしたくない。 「オラクルっ!!」 「行ってこい。私たちのせいで拗れたなんて言われたらたまらないからな」 オラクルの言葉も終わらないうちに俺は走り出していた。 シグナルちゃんがこの記事を見ていないことを切に祈りつつ、愛車に飛び乗った。 オラトリオの祈りもむなしく、私は友人からその記事を見せてもらっていた。 友達数人と少し早い昼食を取っていると<ORACLE>の追っかけをしている子が週刊誌を取り出したのだ。 「みてみて、今度はモデルのエモーションだって」 「へぇ、8つも年下かぁ」 「私たちだってちょうど同じような年じゃん、いいなぁ、エモーションになりたい…」 みんなオラトリオがどんな男か知らないからそう言うのよ、なんて口が裂けても言わないけど。 「しぐはどう思う?」 「…別にいいんじゃない? ところでそれ、いつの話?」 「えっとね、ちょうど一週間前だって」 一週間前というとオラトリオはうちにいた。うちにいてコーヒーを飲んで散々セクハラした挙句帰っていった。だからこれはガセネタということになる。 「でもさぁ、この記事甘いよね」 「どこがぁ?」 「このあと二人がどうしたとかどうなるとか書いてないんだよねぇ」 「追っかけなかったんだね」 記者さんありがとう! 私は心の中で叫んだ。もしその記者さんが追っかけていたら今ごろ私はここにいなかった。 それから午後の講義も終わって家に帰る途中、私は本屋さんによって珍しくその週刊誌を買っていた。 シグナルのマンションの近くの駐車場に愛車を乗り捨て(シグナルの前に愛車なんてどうでもいい)、俺は尾行に気をつけながらマンションに向かった。呼び鈴を鳴らすとシグナルはもう戻っていて、夕食も済ませたあとだった。 「あれ、どうしたの、血相変えて」 「緊急にシグナルちゃんに用があってな、上がってもいいか?」 「どうぞ…」 俺は急いで靴を脱ぎ捨てるといつもの場所に座り込んだ。そしてテーブルの上にあった紙袋を覗く。 「げっ!」 「どうしたの? ああ、それ? オラトリオ久しぶりに載ってるんだって?」 嗚呼、シグナルちゃんの笑顔が恐い…。運んでくれるコーヒーさえ、ちょっと恐いかも。俺は手をつけなかった。 「…飲まないの?」 「…お話が済んでから」 「もしかしてこのこと?」 「…そうです」 俺は素直に白状した。何を言われるか。怒涛のように罵られるか、さめざめと泣かれて別れを告げられるか。成績の悪い通知表を見せる瞬間のように俺の心臓は高鳴った。嗚呼、シグナルちゃん――!! 「オラトリオ写真写りいいねぇ」 「へ?」 俺は拍子抜けして顔を上げた。シグナルはいつものように俺の膝に座る。 「シグナルちゃん…」 「なに?」 「怒ってないの?」 「なんで? だってオラトリオはエモーションさんとはなんでもなかったんでしょ? 一週間前って言ったらちょうどうちに来てたし。それとも何かやましいことでもあるの?」 俺はぶんぶん首を振った。やましいことなんて何にもありませんっ!! 「俺にはシグナルちゃんだけだもん」 「だったらそんなにびくびくしないで堂々としてればいいじゃない。怯えるから疑いたくなるのよ」 その言葉は小さいけれど大きな真実。そうだ、俺はどうして怯えてたんだろう。エモーションとは本当に何もなかったんだし、シグナルを思う気持ちに自信がある。俺はシグナルを抱きしめた。 「ちょっと…自信なかった」 「なにが?」 「俺がシグナルちゃんを思っててもさ、シグナルちゃんは俺を思っててくれるの?」 情けないくらい、無様な告白。こんな俺だけど、どうか見捨てないで。シグナルはひょいと腕を出して俺の頭をなでた。 「情けないこと言わないで。嫌いだったら、今度のことだって疑ってたら家になんか入れてあげなかったよ」 「シグナルちゃん…」 「私はいつも言ってるはずだよ、オラトリオのこと大好きだって」 「〜〜〜シグナルぅ」 「泣いてるの?」 「泣いてないっ」 本当は泣きたいくらい嬉しかった。30に手が届こうかという男が10代の女の子に慰められている様など、傍から見たら情けない光景だろうが、それでも俺は幸せいっぱいだった。 オラトリオがそんなことを思っているなんて知らずに、私をぎゅっと抱きしめているオラトリオをよしよし撫でているとけたたましく携帯電話が鳴り響いた。 着信を確認すると母さんだった。この前パル兄がきたからそのことかと思って軽い気分で電話に出たのが間違いだった。 「もしもし?」 『シグナルちゃん?! オラトリオさんもそこにいるの?!』 「か、母さん?」 「な、なんだ?」 携帯から響く怒声にオラトリオもびっくりして顔を上げた。 「よくわかんないけど怒ってるみたい。もしもーし」 『もしもしじゃないの! 週刊誌見たわよ!! これどういうことなの! そこにオラトリオさんがいるなら出しなさいっ!』 後ろで父さんが『詩織、落ち着きなさい』って言ってるのが聞こえてきた。 「母さんが説明しろって言ってるけど」 「…しなきゃなんねーだろうな」 オラトリオは私を抱きしめていた腕をほどくと携帯を受け取ってしばらく話をしていた。相手もいないのにぺこぺこ頭を下げるという日本人独特の仕草は日本人離れした顔のオラトリオにも染み付いているらしい。見えぬ母に謝りながら、今回の事情を事細かに説明している。やがて母さんも納得してくれたようで穏やかな会話に変わっていた。 「ほい、お袋さんがおまえにって」 差し出された電話を受け取る。私もようやく安心して話ができるよ。 「もしもし、私」 『あー。シグナルちゃん? お母さんびっくりしちゃってぇ。事情がわかってよかったわ。ラヴェちゃんに相談して訴訟か示談かって、母さん思ってたの』 「訴訟…示談…」 『慰謝料も取れるかなぁって』 「慰謝料…」 私は開いた口が塞がらなくなって、そのまま電話を切ろうかと思った。と電話口がいきなり母さんから父さんに代わる。 『シグナルかい』 「父さん…」 私はなつかしいお父さんの声にちょっとだけ聞き入っていた。 「父さん、ごめん、心配かけたみたいで」 『…そうだな。このままなら2時間半かけてでも自宅から大学に通ってもらうことになるな』 「そんな…」 と、反論する理由がない。父さんが私とオラトリオの仲をどこまで知っているかわからないけど、私は自宅に戻されることを覚悟していた。それだけのことをしてるっていう自覚はある。でも、オラトリオを好きだっていう気持ちは譲れない。 「父さん、私っ…」 『今度家に連れておいで。おまえが選んだ人なんだから良い人なんだろう?』 「父さん…」 『それからあんまり母さんを騒がせないように。オラトリオ君にもそう言っておきなさい』 「うん、わかった」 それからまた母さんに代わってもらい、長かった電話を終えた。 「…親父さん、何だって?」 オラトリオが心配そうに訊ねてきた。私はその胸にすっぽりと埋もれた。 「今度オラトリオ連れて来いって。私が決めた人なら、きっといい人だろうって」 「…そっか」 今度は私がオラトリオに撫ででもらう。こうやって互いを思いやる日々はこんなにも温かくて愛しい。 そんな嵐のような事件が過ぎ去った後、ようやくシグナルとエモーションの対面が実現した。マスコミにばれないようにふたりを別々に呼んである。 出会うなりふたりは興奮して手がつけられない有様となった。 シグナルはシグナルで 「エモーションさんだエモーションさんだエモーションさんだ、本物だー」 とか叫んでるし、エモーションはエモーションで 「<A−S>ですわ<A−S>ですわ<A−S>ですわ、本物ですわー」 と叫んでいる。隣でオラクルが『落ち着いて』と宥めている。 「わかったからシグナル、ちーっと落ち着け」 「だって本物だよー」 「わかったっつーの」 ふたりは大きな瞳をきらきらと輝かせて互いを見つめあっている。あ、なんかちょっと羨ましいかも。 「うわー。本物のエモーションさんだぁ、綺麗…」 「あらぁ、<A−S>に誉められてしまいましたわ、どうしましょう、オラクル様」 意見を求められてオラクルも『よかったね』などと言っている。 「<A−S>がこんなに可愛いだなんて。仲良くしましょうね、<A−S>」 「エモーションさんが仲良くって…どーしよー、オラトリオぉ」 さて、どうしましょうかね。男の俺のときと反応が違いすぎやせんか、シグナルちゃんよぉ。ま、女の子の憧れだかんね、エモーション嬢は。これから長い付き合いになるってことに、俺達の誰もが知っていながら気がついていなかったのはこの二人のハイテンションのせいだろう。 「オラトリオ様、この子を私にお譲りいただけませんか?」 4人で食事をしていると、エモーションがいきなり言い出した。シグナルはちょっと困ったように俺を見つめている。 「シグナルを…ですかい?」 「ええ、私が<A−S>を必ずやトップモデルにしてみせましてよ。いかがでしょう?」 考える間もなく、俺は答えを出した。 「エモーション嬢の申し出は嬉しいですけどね、残念ながらお譲りできませんわ」 「あら、どうしてです?」 シグナルもエモーションもきょとんと俺をみていた。俺はさっとシグナルを抱き寄せて、彼女の目の前で額にキスをして見せた。シグナルはさっと赤くなる。 「シグナルは近い将来、俺のお嫁さんになります。な?」 シグナルはこくこく頷いた。 「というわけですので」 「あらぁん、残念。でも<A−S>、愛されて幸せですわね♪」 「からかわないで下さい、エモーション。この子はすぐまっかになっちまうんですから。なぁ?」 シグナルの反応がない。あら? あらら? 「シグナル? シグナルっ?!」 ぺちぺち軽く頬を打って、シグナルはようやくこっちに戻ってきた。頭に血が上りすぎて気絶したらしかった。 その晩はすごく遅くなったので初めてオラトリオのお家にお泊りすることになった。27階という高層階からは不夜城の夜景と月明かりが一望できた。もう少し天気がよければ一等星も見られるという。 ひとりで暮らすにはすごく広くて、オラトリオが『狭くてもおまえんちがいい』といって入り浸るわけがわかる気がする。 オラトリオ以外、誰の匂いもしない、寂しい部屋。 「すごーい、ひろーい」 「確か億だったと思うよ」 「億って?」 「ここ買った時」 オラトリオはにっこり頷いた。ほえー、ここって億ションなんだぁ。普通の家なんだけど(億ションが普通かどうかは別にして)いろいろ見せてもらった。 「おぉ、システムキッチンだ」 「あんまり使ってねーけどな」 「お風呂もひろーい、ジャグジーだぁ」 「あとで一緒にはいろっか」 「やだ」 流石オラトリオのうちは広いなぁ、と思った。でも長者番付には載っていないような気がするけど…。そこんところをきくと 、オラトリオは『節税してんの』とだけ答えた。よくわかんない。他にもいろいろ見せてもらって最後の部屋はオラトリオ自慢のベッドルームだという。 「ささ、どうぞ、お姫様」 開かれた扉は別世界への入り口。 ここからも不夜城と月明かりが見える。色とりどりに街を飾る人の営みに私はほうと溜め息をついた。てててーっと窓際によって外を見る。オラトリオはそっと歩み寄ってきた。 「お気に召したかな」 「うん、すごい…」 あんまりすごすぎて言葉にならないくらい。ぼけーと外をみていると、オラトリオがふわりと私を抱きしめた。ほんのり温かい腕に迷わず包まれる。 図体がでかくて、図々しくて、甘えん坊で、手癖が悪くて、情けないところもあるけど、なんだかんだ言っても、私はオラトリオが好き。 「なあ、シグナルちゃん」 「なあに?」 「同棲しよっか」 「むぅ、そうきましたか」 でもここから大学ってちょっと遠いしなぁ。引っ越すとなるとこれもいろいろ面倒だし。 「オラトリオ…」 「なに?」 「結婚したらいやでも一緒に暮らすんだから。今はオラトリオが通ってくれるのが嬉しいなぁ…なんて思ってるんだけど」 私は普通に顔を上げたつもりなんだけどなんだかオラトリオのツボを刺激したみたいで。オラトリオはぎゅむっと腕に力を込めて抱きしめてきた。 「苦しいってば」 「シグナルちゃ〜ん、ああっ、もう我慢できねえっ!!」 「うにゃあああっ!!」 押し倒された先は超特大のベッドの上。オラトリオは電光石火で私の上に覆い被さると耳元で甘く囁いた。 「シグナル、好きだよ…」 「やっ…」 歌ってるときより数段優しい声に蕩けそうになるけど、ここはぐっと我慢! 「お、オラトリオ…」 「なに?」 「シャワー浴びたいんだけど…」 定番の逃げ文句だったけど、オラトリオはあっさり私を解放してくれた。 シャワーの使い方を簡単に教えてから、俺は外に出された。 「入ってきたらただじゃおかないからね」 「今更そんなこと気にする仲でもないでしょーに」 「それでも、やなものはやなの!」 やれやれ。俺はドア越しに聞こえる水音を聞きながら、目を閉じた。 急がなくていい、シグナルはずっと俺のそばにいてくれるはずだ。初めて出会ったそのときから、その澄みきった声に俺の何かがぐらついたんだ。 そしてこの子――シグナルとなら、新しい何かが始まるかもしれないと確信さえしていた。 信じていたい、ずっと愛したい、いつも愛されていたい、そばにいたい、癒してあげたい、独り占めにしたい…。 水音がメロディに、そしてフレーズが浮かんでくる。 ――初めて君と出会ったときから この恋は始まった 月明かりに照らされた二人の秘め事 誰にも見つからないように そっと隠してしまおう 真っ白な心で 大地に根付く人の営み 遥かなる天空の星の輝き すべてがぼくたちを祝福してくれるなら この魂捧げましょう あなただけに 「Everlasting for you, I'm yours…」 俺はそうひとりごちた。『Everlasting』は未来永劫とか普遍っていう意味。 ――重症だ。 そう、シグナルは俺の永遠の恋人でもあるけれど、俺自身がシグナルに囚われたことに改めて気づく。きっと永遠に抜け出せないし、抜け出さない。柔らかな紫苑の光に抱かれて、失ったものをひとつずつ見つけていくんだ。 「オラトリオぉ」 暇つぶしに(というとオラクルは怒るだろうが)リビングのテーブルで書き物をしていると、シグナルが出てきた。着替えに置いておいたバスローブをずるする引きずっている。 「やっぱり俺のじゃ大きすぎたな」 「当たり前だよ、私は標準なの。オラトリオが大きすぎるの」 シグナルはお姫様よろしくうにゅと腕を差し出した。俺は袖をまっくってやって、出てきた小さな手を捕まえた。 「あー、シグナルちゃんぬくい…」 「お風呂上りだからね」 もう一方の手を出してやり、今度は引きずっている裾を上げてやる。腰のあたりを少したくし上げ、腰帯を結びなおしてやった。 「オラトリオ、そんなにぎゅーっと締めると苦しい…」 「シグナルちゃん、細いからなぁ。ほら、できた」 立ち上がって改めてシグナルちゃんを見ると、真っ白なバスローブに身を包んでいて…うわ、マジで可愛い…。ちらっと覗く鎖骨とか、たまらなく色っぽい。 どこに目をやったらいいかわからなくてとりあえずにこにこシグナルちゃんを見つめていたら、綺麗な手刀が一直線に飛んでいた。 「ていっ」 「あだ。なにすんの、シグナルちゃん」 「今、良からぬこと企んでなかった?」 良からぬことねぇ…言わなきゃ企まなかったのに(笑)。俺はさらっと話題を変えた。 「さてシグナルちゃん。お兄さんはずーっと我慢してきました。そろそろ…」 ああ、シグナルちゃんが恥らっている…たまらん、可愛い。 「ん…いいよ…」 よっしゃあ!! 俺は心の中でガッツポーズ! シグナルちゃんを早々に抱き上げ、めくるめく官能の世界にダイブした。 ネジが一本どこかに飛んだらしいオラトリオは絵にもかけないくらいご機嫌だった。 当の私はというと、いつもと場所が違うせいかなんとなく恥ずかしくて…でもオラトリオの瞳はいつもどおり真剣に私を愛してくれたから、恐くなかった。 ゆっくり目を開けると、そこは優しい闇と温かさに満ちていた。ほんの少し、眠ったんだと思う。オラトリオは私を腕に抱いて幸せそうに寝こけていた。 いつもは狭いベッドで寄り添って眠る。それもいいけど、こうやって広いベッドでふたりゆったり眠るのも悪くない。 私はちょっと体を起こして、オラトリオの寝顔を観察してみた。 「…可愛い」 鼻の頭に唇でちょっと触れると、オラトリオはまた幸せそうに微笑んだ。どんな夢見てんのかな。 ふと、私は喉の渇きを覚えた。オラトリオの腕をすり抜け、私の身代わりに手近な枕を抱かせてベッドを降りた。 リビングは淡い色の照明がほのかに灯っていて、私は難なくキッチンに立った。 「で、どれが飲める水かな…」 多分浄水器がついてるこれだと思うけど…。あれ、グラスどこ? 勝手がわからない他人の家。悪戦苦闘しているとぱっと灯りがついた。 「なにやってるのかな、シグナルちゃん」 「あ、オラトリオ」 「あ、オラトリオ、じゃねーよ。起きたらシグナルちゃんが枕に化けてやんの」 「てへヘ。喉渇いちゃって」 オラトリオはちょっと呆れたように溜め息をついた。グラスに軽めの炭酸水を入れてくれる。しゅわしゅわと軽やかな音が弾けた。 「起こしてくれりゃよかったのに」 「だって気持ちよさそうに寝てたんだもん」 「俺が?」 「うん」 私がそういうとオラトリオは目を細めて笑った。 「やっぱシグナルちゃんがいてくれるから…かな。ひとりじゃなかなか寝つけなくて」 「…きっと広すぎるんだよ。ここ」 「なぁ、シグナルちゃん」 「なぁに?」 オラトリオはちょっと遠くに投げていた視線を戻した。 「結婚したらここ売っ払って郊外にふつうの一戸建てを建ててさ、小さな犬でも飼って家族と暮らすっていうのが俺の夢なんだ」 「いい夢だね、オラトリオ」 「…おまえも手伝ってくれる?」 …これは新手のプロポーズなのかな。オラトリオは『今すぐ』とは言わなかった。『結婚しよう』と言って私の気持ちを確かめ、自分を慰めているのかもしれない。 今すぐは無理だけど、でもこの夢は絶対叶えてあげたい。 「いいよ、手伝ってあげる」 「…ありがと。シグナルちゃん」 こめかみに柔かい口づけを受けながら、私はそっとオラトリオの胸に寄り添った。 「ごきげんよう、オラクル様、オラトリオ様」 「やあ、エモーション。今日はわざわざ呼びたてて悪かったね」 「いいえぇ、<A−S>が来ていると聞いて来ないわけはありませんわ。こんにちわ、<A−S>」 「こんにちわ、エモーションさん」 にこっと花のような笑顔で挨拶を交わす二人。今日は<ORACLE>最新アルバムのレコーディングに来てもらった。 「シグナル」 俺が呼ぶとシグナルはすっとやってきた。 「なに?」 「おまえの担当な、こことここ。音は大体わかるな」 蛍光マーカーでラインを引いた楽譜を手渡すとシグナルはそれをじっとみていた。 「うん、大丈夫…だと思う」 ま、素人さんだから仕方ないか。俺はシグナルをぽんぽん撫でた。 「おまえの感性を信じるよ。あ、それと、可愛く元気よくな。それは得意だろ?」 「うん♪」 シグナルはすたすたとレコーディングルームに入った。エモーションもオラクルから説明を受けて中に入る。ふたりは仲良く並んで楽しそうにコーラス部分を歌い上げる。出てきたシグナルは緊張していたらしくほぉっと溜め息をついた。 「緊張したぁ」 「お疲れさん。上出来だよん♪」 コーラス部分はリテイクなし。次はこれに俺の声をのせる。歌い始めからオラクルはいきなり音を止めやがった。 「こら、なにすんだ」 『にやけてないでまじめにやれ!』 「やってんだろーが、音止めんじゃねぇ!」 とは言うもののガラスの向こうでシグナルが無邪気に手を振ってるもんだから。よし、カッコいいとこ見せないとな。 気持ちを込めて――あなたへの永遠の思い、他の誰にも譲らない誓いを。 ――Everlasting for you, I'm yours 見つめたい、手を繋ぎたい、強く抱きしめたい、泣かさない、傷つけない――幸せになりたい 命懸けで護りたい――もう、わかるよな。 それからジャケットとブックレットの撮影もやった。エモーションはオラクルとの仲をマスコミに公表したからいいとして、シグナルだけはデジタル処理で彼女だってわからないようにしないといけない。 「ほら、シグナル、こっち向け」 カメラが気になるらしいシグナルは俺とツーショットだというのにちらちらとカメラに視線を送っている。シグナルの自然な横顔が欲しいのに…。 「慣れないうちはそうですわ」 エモーションはくすくす笑ってたけど、これじゃ撮影にならねぇ…、ええい、強硬手段! 俺は強引にシグナルの唇を奪う。呆けたシグナルの視線は俺だけを見る。 「オラクル! 今だっ!」 オラクルはチャンスを逃さずシャッターを押した。その音で我に返ったシグナルちゃんがわめいているけど気にしない、これはお仕事だから。 その後、アルバムは無事に発売され、俺達はまたミリオンを達成した。 そうそう、ジャケットの美少女が誰なのか、とネット内で憶測が飛び交っていたけれど、真相はまだ闇の中。 俺が勝ち誇ったようにマスコミに対してシグナルとの仲を公表するのはこれから3年ほど先のことである。 あなたと一緒にいたい、ただそれだけなんだ 簡単な話だろう? そしてそれが俺達の始まり。 「お嬢さん、一曲踊っていただけますか?」 「…喜んで」 もっともっと、素敵な犬とワルツを ≪終≫ ≪ときどきそれは愛じゃない≫ 『素敵な犬とワルツを』シリーズ(略称『すて犬』)も『すて犬』『再び』『三度』ときて、これで4作目なんですね。←しっかりしろ! 俺!! 今回はお互いにどう思っているのか再認識するという展開なんですが…なんかオラトリオが妙にドリーマーなんですよね、大丈夫かな…(-_-;)。 『郊外の一戸建てに犬を飼って家族で暮らす』っていうのでまた一本書けそうな気がします。シグナルがお母さんになってるのね。うん、いいかも。 ちなみにって言っちゃなんなのですが、如月は週刊誌読んでません。面倒だし(をいをい…)。たまに見ますけどね。 他に言い訳することなかったかな?(←をいをいをい) |