今度こそ素敵な犬とワルツを




ある日夢を見た。
純白の衣裳に身を包んだ愛しい人に
『幸せにします』と永遠を誓った日を




「…引越し?」
「うん」
初めての出会いからもうすぐ『約束の日』を迎えようかというある日。私は恋人にそう切り出していた。
私の名前はシグナル。市内の大学に通う女子大生で、今年の春4年生になった。ある約束があったことから就職活動はせずに、気ままに学生生活を楽しんでいた。けれどそれももうすぐおしまいなので、そろそろ実家に戻ろうかと思っていたときのこと。
「もう卒業も決まったしね、3月いっぱいまで住んでいる必要がなくなったの。そのぶん家賃も無駄だしね。あ、そだ、オラトリオ、合鍵返して」
私は台所で片付けものをしながら背中を向けて話してていた。けれど反応がないことをいぶかしんでそっと振り向くと図体のでかい捨て犬のような恋人はがくーんとうなだれていた。
「ど、どうしたの?」
「捨てないで…」
「へ?」
「俺を捨てないでシグナルちゃ〜ん」
恋人の名はオラトリオ。こう見えても有名なミュージシャンで、人気デュオ<ORACLE>のボーカルを務めているほどなのだ。そんな人と恋人になったのは本当に偶然の産物で、私はむせび泣く恋人を宥めながら溜め息をついた。
「落ち着いて、オラトリオ。誰も別れ話なんかしてないじゃない」
「でも引っ越すって…合鍵返せって…」
…きっと過去の経験がそうさせるのだろうと、私は直感的に理解した。
「ちゃんと話を聞いてた? 私は実家に戻るって言ったの」
そういうとオラトリオはきょとんと私を見つめた。はたらき盛りの30代だというのにこの情けなさは一体なんだろう。
「じゃあ、俺と別れない?」
「別れないよ、安心して」
私がそう言いきってあげるとオラトリオは安心したらしい、ほっと溜め息をついてぎゅっと抱きしめてきた。
「よかったあ」
「もう…」
ちょっと呆れたけど、ほんのちょっとだけ嬉しかったのもまた事実。だってオラトリオは普通の学生だった私を、ちゃんと好きだってわかったから。
『私』が『私』だから愛される、それは自信を持っていいことだと思う。
「けど、ちーっと寂しくなるなぁ」
「…そうだねぇ」
ここは…この部屋はオラトリオを拾って、好きになって、結ばれた思い出の場所だから。やがてここには新しい人が入り、私とオラトリオの痕跡を消してしまう。そう考えるとちょっと寂しい。
「でも、これからだってたくさん思い出作れるよ」
「そうだな」
そう言ってオラトリオは微苦笑したけれど、その顔には寂しげな印象はなかった。
「そういえばどれくらい出来たの?」
「もうちょっとで完成ってとこかな。あとは内装だけらしいし」
「ふーん、楽しみだね」
何ができるのかは、もう少し先でお話しよう。



「あらぁ、<A−S>来てないんですの?」
スタジオで音あわせをしていた俺達の背後に鈴の音のように澄んだ声が響いた。
「残念だったね、シグナルなら今日は引越しだよ」
答える声ものほほんとしている。
「まあ、引越しって?」
「実家に戻るんすよ。3月分の家賃を節約するんだと」
俺がそう説明すると彼女はようやく納得してぽんと手を打った。俺の相棒はオラクルといい、世界屈指のギタリスト。彼女はエモーションといい、オラクルとは3年前に結婚した。エモーションは当時まだ20歳の大学生だったが、ふたりは手に手を取ってさっさと結婚したのだ。昨年大学も無事に卒業しており、今はモデルも辞めて専業主婦として幸せな日々を過ごしているらしい。シグナルとはちょうどそのころ知り合って、まるで姉妹のように意気投合、仲がよい。<A−S>は<ORACLE>の楽曲からとったシグナルのあだ名だ。
「オラトリオ様はお手伝いに参りませんの?」
「断わられたんだって」
面白そうに言うオラクルがなんとなく気に入らなくて、言葉につい怒気がこもる。
「俺が行ったら周りが大騒ぎになって収拾がつかなくなるから来るな、だってさ」
ま、それはわかるんだけどな。けど今日は…ふふふ。俺は自然とにやけそうになる顔を必死で抑えながら仕事をしていた。
「何だ、オラトリオ、気持ち悪いな。歌は書けたんだろうな」
「とっくの昔にできてるよ」
俺は今度のシングル用に3曲書き上げた。それをオラクルに突きつけてスタジオを出る。
「補作はあとでいいだろ? 俺は用事があるからお先ー♪」
チェックをしているオラクルとそれを覗き込んでいるエモーションを置いて、俺は愛車を走らせる。シグナルちゃんが『かっこいい』と言ってくれたゲレンデヴァーゲン・カブリオが俺の愛車。これは一応NATOの正式軍用車だったりするんだが、こういうでかい車じゃないと210センチの俺は運転できない。余談まで。
車を走らせること30分。俺はシグナルちゃんの実家にたどり着いた。そこは薄緑の壁が綺麗な洋館風の一戸建てで、敷地の前のほうは右半分がガレージになっており、いつも車はそこに置かせてもらっている。エンジンを切って車を降りると、玄関のドアが開いた。
「オラトリオ♪」
「よう、シグナルちゃん」
可愛い恋人が出迎えてくれる。この家には数ヶ月前に来た。そのときは流石の俺もがちがちに緊張してしまったが、今ではもう慣れたもんで…いや、たった一つ慣れないものがあった。
「おかーさーん、来たよぉ」
「あらぁ、いらっしゃい、オラトリオさん」
「ども、お邪魔します。今日は夕飯に呼んでもらっちゃって。あの、お義父さんは?」
「あらあら、呼んできましょうね」
そういうとシグナルの母親はぱたぱたと下がっていった。
「…ごめんね、朝からテンション高くって」
シグナルの親父さんより何より、俺はこのおふくろさんのテンションがちょっと苦手だった。テンションが苦手なだけで、気が合うには合うんだが。



お母さんと夕飯の後片付けをしながらリビングを覗く。うちはダイニングとリビングをかねてあって、しかもカウンターキッチンだから様子がよくわかる。オラトリオはお父さんにお酌しながら楽しそうに飲んでいた。
「よかったわね、シグナルちゃん」
「なにが?」
「お父さんとオラトリオさんの仲がよくって。うちにお婿に来てくれればいいのにシグナルちゃんがお嫁に行っちゃうのね」
「…パル兄が聞いたら怒るよ」
末っ子の私が、実は大学を卒業したらすぐにオラトリオと結婚するのだ。3年前、初めて出会ったとき恋に落ちた私たちは私の大学卒業を待って結婚しようと約束していたのだ。つまり二人にとって卒業式の日こそが、『約束の日』と言うことになる。数ヶ月前――誰にも気づかれない夏休みを選んで――結納までちゃんと済ませてくれたのでお父さんも安心したらしい。お母さんはお母さんでもうひとり息子が増えるって大喜びしてた。恋人が私の家族となじんでくれて、しかももうすぐ結婚となるとやっぱり嬉しい。
つい力が入っちゃって――ばきっ。
「あ」
「シグナルちゃん…」
お皿を綺麗に真っ二つにしていた。

散々飲み明かしたふたりはついにダウンし、ソファで寝こけていた。
「信にーちゃん、起きて。こんなところで寝てると風邪を引くよ」
「オラトリオ、起きてぇ〜〜」
「う〜〜ん、シグナルちゅわ〜ん」
「だめだ、起きない…」
今までお酒に酔ったオラトリオなんて見たことなかったからどうしていいのかわからない。母さんは器用にお父さんを起こして、連れて行こうとしている。
「シグナルちゃん、信にーちゃんを運んだら毛布持ってきてあげる」
「あ、私取ってくるよ。客間のでいいんだよね」
「いいわよ、母さんが行ってあげるから。オラトリオさんのそばにいなさい♪」
母さんはぱちっと片目をつぶるとお父さんを促してリビングから出て行った。この家では誰もオラトリオを運べそうにもないから、仕方ないけどここに寝てもらうことになる。
「明日仕事ないのかな…」
帰らなくていいみたいなことは言ってたから、多分大丈夫だろうし、何かあったらオラクルに連絡すればいいや。
程なく母さんが毛布を抱えて戻ってきた。私は駆け寄って手伝い、オラトリオに着せてあげる。
「これも?」
「これはシグナルちゃんの」
「へ?」
「シグナルちゃんもここに寝なさい。オラトリオさんが夜中に目が覚めたら困るでしょう?」
「あ、そっか」
「じゃ、おやすみなさい」
「お休み、母さん」
実家に帰った初日だというのにいきなりリビングで寝るはめになろうとは。遠ざかる母さんの足音を聞きながらリビングのカーテンを閉め、電気を消した。私はなんだか眠るのがもったいないような気がして、毛布に包まったままオラトリオの寝顔をじっとみていた。
小さいころはお父さんのお嫁さんになるんだって言ってたらしい。もうちょっと成長すると、将来はこんな人と結婚したいなんて理想を描いた。もっと成長するとその理想がだんだん贅沢になった。
まさか芸能人と恋愛はおろか、結婚するなんて予想だにしてなかったけど。
3年前、どうして私はオラトリオを拾ってあげたんだろう――。
今から思えば、きっとこうなるってわかっていたのかもしれない。
そんなことをぼんやり考えているとオラトリオがもそもそ動いているのがわかった。
「…行ったか?」
「オラトリオ? 大丈夫なの?」
心配して覗き込むと、オラトリオはにいっと笑って起き上がった。
「あれしきの酒で酔うかよ」
「へ?」
「俺はね、ザルなの」
「ザルって…お酒強いの?!」
「そーゆーこと」
じゃぁ…じゃあこれまでのは全部演技?! そして私はオラトリオがなにを企んでいるのかを唐突に理解した。
「シグナルちゃん♪」
「お、オラトリオ、ちょっと待ってっ!!」
「やだ。待たない」
オラトリオはすっと私を抱き取ると、耳元にふっと息をかけた。
「嫌っ…」
「大人しくして、シグナルちゃん…」
オラトリオは巧みに私を絡め取ると、静かに膝に抱き上げた。ソファは二人には狭すぎる。オラトリオの膝の上で私はいつしか雰囲気に飲まれそうになっていた。
そこに突然、リビングの明かりがついた。
「「へ?」」
何事かと思ってその方向を見ると姉が涼しい美貌をたたえて戻ってきていた。固まっている私たちに目もくれず、そのままキッチンに入り、飲み物を探している。私はおそるおそるお姉ちゃんに声をかけた。お姉ちゃんはラヴェンダーと言い、司法界のクイーンと呼ばれているほどの凄腕で、私とは8歳はなれている。オラトリオには私のお姉ちゃんもお兄ちゃんも年下の義理の姉兄になるのだ。
「お、お姉ちゃん?」
ラヴェンダーはちらとこっちを見、またグラスに視線を戻した。
「ああ、私にかまわんで続けろ」
続けろったって…。ラヴェンダーがいなくなったあと、私は毛布をオラトリオに押し付けて自室に戻ろうとした。
「シグナルちゃん、一緒に寝てくれないの?」
「酔ってない人の看護なんてしないよ」
「そんなこと言わないでぇ〜〜」
どこまでも追いすがるオラトリオに私はあくまで眠るだけだと念を押してリビングに戻った。オラトリオは狭いソファにすわり、そっと私を抱き上げた。
「本当に何もしない?」
「大丈夫♪」
オラトリオは楽しそうに笑った。その笑顔につられて私もなんだか笑っちゃう。
そのまま朝まで、寄り添い、折り重なるようにして眠っていた。
もうすぐ3月になろうとしていた。



そんな幸せは時折姿を変えて忍び寄る。
俺は慌ててスタジオに飛び込んだ。
「オラクルっ!!」
「どうしたんだい、オラトリオ。血相を変えて」
「あいつが…日本に戻ってやがる…」
「あいつって…彼女?」
それは昨夜のことだった。これまでひた隠しにしてきたためかろくにデートもできなかったけど、もう誰にばれても恐くない俺はシグナルちゃんを連れて食事に出ていた。流石にシグナルのほうは『友達に見つかったらヤダ』なんて言ってたけど。それでもこれまで恋人らしくデートができなかったのはやはりつまらなかったらしく、何だかんだ言いながらも嬉しそうなシグナルがとっても可愛い、なんて浮かれてた。
そこは芸能人御用達のレストランで、俺は自慢げにシグナルをつれて入った。何人か顔見知りがいたけど、無視。一方のシグナルはと言えばなぜか緊張していて周りが有名人ばかりなのに驚いているようだった。
「ほえー…」
「ささ、お嬢様どうぞ」
俺はシグナルに椅子を引いてやる。これは男として当然のマナーだろ? シグナルははにかみながら腰をおろす。
「よう、オラトリオ、ご無沙汰だったなぁ」
初老のマスターも顔見知り。ここ『HUMPTY』はドイツ人のマスターがやっているイタリア料理の店。マスターの名前はジョルジオ・ハンプティ。なぜドイツ人がイタリア料理なのかは一切謎に包まれている。
愛想のいいおっさんはにこにことテーブルに近づいてきた。
「2・3年顔見せなかったじゃないか。どうしてたんだ?」
「俺にも本命ができたんすよ」
そう言ってシグナルをみせる。彼女はちょこんと頭を下げた。
「ほ〜お、お前さんにしちゃずいぶん可愛い子じゃないか。そいじゃおぢさん、腕ふるおーかねぇ」
「たのんます、マスター」
俺は適当にオーダーを入れた。シグナルはきょろきょろと周囲ばかり見回していたからだ。
「…こんなところ初めて。オラトリオはよく来るの?」
「まぁな」
「すごいところだねぇ…」
「そう気取るところでもないさ」
「そーそー。私とは昔よく来たわよねぇ、オラトリオ」
幸せが突然黒い影を帯びた瞬間だった。もっともあとから思えばそう感じたのは俺だけだったわけで。俺は頭上から降ってきた声に、壊れた人形さながらにぎこちなく動いた。背後にはとっくの昔に別れたはずの女が立っていたんだ!
「ゆきっ…!」
「まだそう呼んでくれるのね」
女はにやっと笑った。何か企んでいるときの笑い方だ。
「オラトリオ…」
不安げに俺を見つめるシグナルにふっと笑いかけ、俺はゆきをつれて外に出た。
「どういうつもりだ、ニューヨークじゃなかったのか?!」
「あら、国籍はまだ日本に置いてるのよ。それとも帰ってきちゃいけないなんて法があるかしら?」
「……俺に何の用だ」
「別に用はないわ。ただ見知った顔がいたから声をかけただけ」
そう言ってゆきは首を小さく左右に振った。
ゆきは――高野ゆきは俺と同い年の女優で、シグナルと出会う数年前まで付き合いがあった。けれどこいつがミュージカルの勉強をしにニューヨークに行くと言ったのをきっかけに別れた。それから何の連絡も――期待していたわけじゃないが――してこなかったのに。
「あの子、新しい恋人?」
「お前には関係ないだろう」
「それもそうね」
ゆきはすっと俺の脇を抜けた。
「安心して。今更縒りを戻そうなんて思ってないから」
「当たり前だ」
それがやつの捨て台詞。けれど募る不安は拭えなくて――シグナルは彼女のことをどう思うだろう。


「ありゃ、お姫様は独りぼっちかい? いけない騎士さまだねぇ。どこ行ったんだ?」
料理を運んできてくれたマスターが私に話し掛けてくれた。こんなところで独りぼっちにされた私を気遣ってか、気さくに話し掛けてくれる。
「女の人とどっか行っちゃいましたけど…怖い顔してた…」
あんなオラトリオ、初めて…。情けなく私に縋り、それでも真剣な眼差しで愛してくれる、私はそんなオラトリオしか知らなかった。もちろん怒るときもあるけれど、あんなに怖い顔したことはなかった。
「女って…髪が長くて黒い、こう、日本人って感じの女か?」
「そうです。女優さん…みたいでしたけど」
私もどこかで見たことがあるような気がしていたけど、あいにくオラトリオの表情のほうが先にたって名前が出てこなかった。
不安になって俯いていると、もう一品運んできたマスターが囁いた。
「大丈夫さ、何も心配しなくていいから」
マスターは何か知っているようだったけれど、聞けなかった。マスターはさっと厨房に入ってしまったからだ。程なくオラトリオはいつもの笑顔で戻ってきた。それから食事をしたけれど、あんまり味は覚えてない。不安でいっぱいで、たまらなかったから。
オラトリオに送ってもらって、そのまま彼は仕事だと言って戻っていった。
「ただいまー」
「お帰り、シグナルちゃん…あら、どうしたの、元気ないわねぇ…」
「ん、なんでもないよ、ちょっと疲れちゃって」
「…お茶いれてあげよっか?」
「…うん」
母さんはぱたぱたとキッチンに入ってく。私はゆっくり靴を脱ぎながら今日のオラトリオを振り返っていた。

「…ねえ、母さん」
「なあに?」
お茶を入れる母さんを見ながら、私はカウンターに座って肘をついていた。
「母さんは18で結婚したんだよね」
「そうよぉ、信兄ちゃんが好きで好きでたまらなかったの」
母さんはそのときのことを懐かしそうに振り返った。母さんはまだ高校を出たばかりだったで、父さんも大学院を出て研究施設で研究ばかりしていたころだ。母さんのお父さんとお母さん――つまり母方の祖父母――はものすごく心配したらしいけど、母さんが勝手にお父さんについてシンガポールに行っちゃったものだから諦めたんだって聞いてる。
「不安とか…なかった?」
「ぜんぜん♪」
「どうして?」
新しく始まる生活、しかも海外となると不安でいっぱいにならないのかな。母さんは私の横に座ってお茶をすすった。私はしばらく湯飲みを抱いていた。温かくてなんだか落ち着く。母さんは小さく笑った。
「だって母さん、信兄ちゃんを信じてたもん。信兄ちゃんと二人なら絶対大丈夫だって」
私のなかで何かがぽろっと零れた。私はオラトリオを信じてる。オラトリオも信じろって言ってくれた。でもオラトリオは帰りの車の中でもあの女の人のことは何も話してくれなかった。
彼女が昔の恋人なら、それでもいい。だから、内緒にしないでちゃんと教えて欲しい。隠すから信じられなくなるんだよ…。
「マリッジブルーね、シグナルちゃん」
「マリッジブルー…」
「急に結婚するのが不安になったんでしょう? 母さんにはわかんないけどそういうのをマリッジブルーって言うんだって」
そんな結婚することまで不安になったわけじゃないけど、そういわれるとますます不安になっちゃう…。
眠れないのは誰のせい?――あなたのせいだからね、オラトリオ。
私は一晩中、ベッドの中でもぞもぞしていた。



眠れなかったのは俺も同じことで。突然俺の前に現れた昔の恋人に、シグナルちゃんはどう思っているのか。
俺はスタジオに駆け込んでオラクルに一部始終を話した。ゆきとは昔『雪の女王』という舞台で仕事をした関係で付き合い始めた。だからオラクルは彼女を知っている。
「へぇ、昨日かぁ…」
「へぇ、じゃねぇよ!」
オラクルはあいかわらずのほほんとしている。オラクルに八つ当たりしても仕方ないが、俺は機材に当たりたい気分だ。するとこいつはとんでもないことを言い出した。
「ゆきさんならさっきまでいたよ?」
「…へ?」
俺は目が点になる。ついでに顎まではずれそうだ。それでもオラクルはかまわずに続けた。
「今お前がちょうど座ってるあたりに」
オラクルはそう言って俺が今座っているスツールを指差した。俺は飛び上がらんばかりに驚いて、やつの胸倉をつかんだ。
「な、なにしにきやがったんだ、あいつはっ!!」
「く、苦しいだろ、オラトリオ…」
冷静さなんて全くない俺はそれでも何とか手を緩めた。
「シグナルの住所教えてくれって。話したいことがあるからって」
「それでお前は教えたんじゃないだろうな」
「教えてあげたよ」
「なんだとーーっ!!」
「落ち着いて聞けよ、オラトリオ」
「落ち着いてられるか!!」
俺はオラクルから手をはなす。バランスを失ったやつはそのまま尻餅をついたが俺は助けなかった。誰が助けてやるか。
あの女がシグナルに何を話しているのか。気が気じゃなくなって、俺はカブリオを飛ばして、シグナルの元へ急いでいた。



母親からマリッジブルーだと診断された私は何をするでもなくぼけーと窓の外をみていた。
3月になったばかりの空はどこかまだ寒々とした色をたたえ、それでも日差しは幾分か温かくなった。でも私の心はどこかすっきりしないまま。夜眠れなかったけど、今も全然眠くない。電話でもいいから、オラトリオの声が聞きたい――そう思っていた。
ふと、私の視界に真っ赤なポルシェが飛び込んできた。こんな住宅街に派手な車だなぁ、と思っていたら、なんとそれは家の前で停まったのだ。中から女性が降りてくる。私は直感的に昨日の人だと思い、なんとなく髪を整えて階下へ降りていった。
ドアベルが鳴る。私はインターフォンを手にとった。画面に移ったのはやっぱり昨日の女の人。
「どちら様ですか?」
『高野と申します。こちらにシグナルさんがいらっしゃるとオラクルに聞いて伺いましたの。ご在宅かしら』
オラクルの紹介? 私はあっと声を上げた。高野といったら、あの有名な女優の『高野ゆき』じゃないだろうか。私が高校生だったころに人気があった女優さんで、もちろん今でもすごい人だ。でもなんでそんな人が家に? <ORACLE>とはどういう関係なんだろう。
オラトリオが教えてくれないなら私が直接この人に聞くしかない。
私も言いたいことがある。覚悟を決めて玄関のドアを開いた。

「どうぞ、粗茶ですが」
「ありがとうございます。どうぞお気遣いなく」
例によってミーハーな母さんはちょっとはしゃぎながらお茶をもってきた。少しげんなりしたけど緊張が解けたことは確かだ。
私は心を決めて話を切り出した。
「あの…」
「なにかしら」
ゆきさんは優しく私を見つめている。
「あの、高野さんは、オラトリオのなんなんですか?」
「ストレートね…」
ゆきさんはちょっと呆れ気味に溜め息をついたが、それほど気にしていないようだった。
「ご、ごめんなさい、でも気になって…」
「私のことはゆきでいいよ。それから質問に答えようね、私はオラトリオの大昔の女。他に何かご質問は?」
「えーっと…NYにいらしたんじゃ?」
「うん、いたよ。でもちょっと用事があって戻ってきたの」
「用事って?」
そういうとゆきさんはさっと左手を上げた。薬指にきらりと光るものがある。これって…もしかして…。
「ゆきさん、もしかして…」
「そう、結婚するの。相手はマネージャーなんだけどね」
「それはおめでとうございます」
「ありがとうございます」
なんだ、ゆきさん結婚するんだ。私はちょっとどころじゃなく安心していた。
「昨日『HUMPTY』に行ったのはマスターにも報告しようと思ったからなの。だいぶご無沙汰してたし、お世話にもなったしね」
オラトリオにあったのは本当に偶然なのだという。
「本当にちょっと声をかけただけなのよ。オラトリオとは今更なんでもないんだけど、貴女に心配させたんじゃないかと思ってね」
「そんな…」
図星です、とは言えなかった。
「あの、ゆきさん…」
「ん?」
「私、オラトリオと結婚するんです」
ゆきさんはちょっと驚いて目をぱちくりさせていた。
「…いつ?」
「来月…私、今月の下旬には大学を卒業しますから、そのあとすぐにでもって…それで大安の日を選んでたら4月になっちゃって」
「それはそれは。おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「あのオラトリオがねぇ…よくまぁ、じーっと待ってたもんねぇ」
「ずっとプロポーズはされてたんですけど、私がちゃんと大学卒業したいって言ったら待っててくれるって言うから…」
私がそういうとゆきさんはまたびっくりしたらしく、今度はケタケタ笑い出した。
「あ、あのぉ…」
「ああ、ごめんなさい。あのオラトリオが『待て』を覚えたなんてねぇ」
私もそうだったけど、ゆきさんもオラトリオを犬扱いしている。後で聞いた話だけど、私と出会う前にオラトリオが付き合っていた女性の中でもゆきさんはかなり長続きしたらしい。
「でも結婚待ってもらっただけでしょう?」
「え…あ…あの…それは…」
「そうでしょうねぇ。それで手付のつもりなのよ、あの男は…」
「は、はぁ…」
あのときは、別にそう…こう…ねぇ。私は自分で自分に言い訳をしていた。なんとなく真っ赤になって顔を伏せた。するとゆきさんはくすくす笑ってた。
「シグナルちゃん…だっけ? 可愛いわねぇ。どう? お姉さんとお友達にならない?」
「…いいんですか?」
「もちろん」
オラトリオの昔の恋人とお友達なんて変なかんじだけど、私はゆきさんのこと、嫌いじゃなかった。


俺がシグナルちゃんの実家についたころ、シグナルが真っ赤なポルシェに話し掛けているのが目に入った。あのポルシェはゆきのじゃねえか!
「じゃあ、また」
そう言ってシグナルは手を振っていた。俺がクラクションを鳴らすとシグナルはやっと気がついて振り向いた。ちなみにカブリオは左ハンドルだ。
「オラトリオ、どうしたの、血相変えて」
「あいつは?」
「あいつ?」
「ゆきだよ、来たんだろ、ここ?」
「うん。お友達になっちゃった」
な、なんですとぅ?! 俺はがっくり来てハンドルに突っ伏した。
「ど、どうしたの?」
「俺…なんか疲れた…」
がく。とりあえず気力を振り絞り、車を停めて家に入れてもらう。突然訪れたにもかかわらず俺はシグナルちゃんちで飯を食った。話をされたのはその後、シグナルちゃんのお部屋でだった。

話を聞きながら俺はさらに脱力した。
なんのこたぁない、全部俺の自惚れが生んだ妄想だったわけだ。この件で俺はシグナルに散々叱られた。もっと自分の生き方に自信を持て、と。昔のことなんて気にしない、自分が信じたものだけずっと見つめて生きていけ、と。
俺はゆきを疑い、シグナルを不安にさせていた。
幸せになりたかったけど、幸せにしなきゃいけない存在を忘れていた。俺の馬鹿…。
「ゆきさんね、自分も誤解されるようなことしたからお互い様だって。あとで電話なりスタジオに行くなりすればよかったのにって謝ってたよ」
「そっか…」
ゆき、ごめん。そしてシグナルちゃんも、ごめんな…。
「なぁ、シグナルちゃん」
「なに?」
「俺は…シグナルちゃんを絶対幸せにする。誓うからっ」
「誓うから?」
「――俺を捨てないで…っ…結婚してくださいっ!!」
俺は床に頭をつけた。こうでもしないとシグナルちゃんは許してはくれないと思ったからだ。
「うーん、どうしようかなぁ。またこんなことがあったらやだしなぁ…」
「そこをなんとかっ!!」
頭を上げずに再度お願いする。傍から見れば情けない姿だけど、そんなことはもうどうでもよかった。
そのとき、ふわりとした手の感触が俺の頭をなでた。俺はふっと顔を上げる。
そこにいたのは穏やかに微笑んでるシグナル。そっと俺を抱きしめ、優しい言葉で海のように荒くれだっていた俺の心を宥めた。
「オラトリオ…」
言葉も無く、ただ見つめていたい。
「大丈夫。オラトリオをちゃんと飼いならせるのは私だけだもん。ね?」
「シグナル…」
「結納もしちゃったんだし、いまさら破談にはしたくないよ。私に恥をかかせる気?」
俺はぶんぶん首を振った。
「心配しないの。大丈夫だから」
優しい、柔かい腕の中に包まれる至福。もう何も恐れない、あなたがいてくれるなら…。



「私ね、会うつもりなんてなかったの。本当に偶然だったんだから」
「幸乃さんももの好きですね。電話でだって報告はできたはずでしょう?」
「だってマスターにも会いたかったんだもん」
ちょっと機嫌が悪そうな旦那様は私のマネージャーだった人。今でもそれは変わらないけど、でも私が愛した人。
オラトリオは知らない。私の本当の名前を。
「で、どうでした? 昔の男は?」
「元気だったよ。今度9つも年下の女の子と結婚するんだって」
「そうですか」
「…でも負けないわ。絶対幸せになってやるんだから」
「それって勝ち負けですか?」
「人生何事も勝負よ」
「あいかわらずですね、幸乃さん、NYになにしに行ってたんですか?」
「ミュージカルのお勉強はちゃーんとしたわよ、朔夜」
私の本当の名前は『橘幸乃』、もうすぐ『桜井幸乃』になる。
桜の花が咲くころ、私もあの子も晴れて花嫁になる。



「だから、なんでお前が来てんだよっ」
俺のカブリオに寄って集って。目立つっちゅーの。
「いいじゃないの、シグナルちゃんとはお友達になったんだし」
「<A−S>を介してゆき様とおともだちになれるんて、エルはとっても光栄ですわ」
「私だって一世を風靡したエモーションとお友達になれるだなんて♪」
女たちの盛り上がりを他所に、俺達は目立たないようにしていたつもりだったが、やっぱりばれたらしい。周囲から遠巻きに俺達をみている視線の数が多い。撮影用に作ったスーツだけど、こういう場合は正装だよなぁ。キャメルブラウンのドレスシャツにワインレッドのネクタイ。相棒のオラクルはライトブラウンのシャツにダークブラウンのネクタイと同系色で決めている。ふたりとも黒スーツなのちょっと見には恐い人に見えるかもしれない。
「シグナル、ここがわかるかなぁ」
「あいつが指定したんだよ、ここなら見つかりにくいからって」
「しっかり見つかってるんだけど」
「俺に言うな」
目立っているのは後ろできゃっきゃきゃっきゃ騒いでいるオラクルのかみさんと、ゆきのせいだと思うんだがね。
シグナルに出会ってから、俺は煙草を止めた。何の事はない、シグナルの部屋に灰皿がなかったからだ。煙草が吸いたくて灰皿代わりに小皿を使ったんだが、それがシグナルちゃんお気に入りの小皿だったもんで、ものすごく叱られたのがきっかけだった。
『も〜、馬鹿ぁ。灰皿代わりにするなんてぇ〜〜』
『ごめん、ごめんって。もう煙草吸わないから』
『ほんと?』
『ほんとほんと』
この3年の間、俺はシグナルに変えられた。煙草もそうだけど、誰かをゆったり愛するということを教えてくれた。でもがめつい俺はちょっとの幸せがいっぱい欲しい。
そんな気持ちを歌にして。
歌に幅がでてきた、と自分でも思う。
「…なににやけてるんだ?」
「んー? ちょっとな、昔のこと思い出してたのさ」
じっと待っていると、3人組の親子連れが出てきた。そのうちのひとりがぱたぱた走りよってくる。
「おーい、みんなぁ」
手を振りながら駆けてくる大正ろまんな女の子に、俺達はわらわら車を降りた。
「よう、シグナルちゃん」
「ごめんね、教授がなかなか来なくってさぁ」
本日の主役は紺の振袖に臙脂の袴、黒のブーツに振袖の共布で作ったリボンをしている。
今日は俺達の『約束の日』。シグナルの大学の卒業式だ。
シグナルのお袋さんが道ゆく人に写真を頼み、俺ら全員で写真をとることになった。
「じゃあ行きますよ、はい、チーズ」
その人はカメラを返すと去っていった。どこの誰ともわからぬ青年、ありがとう。それから今度はシグナルと二人で写真をとる。俺はシグナルの肩を抱いて寄り添った。
「オラトリオ」
「なんだ?」
「お待たせしました♪」
「いえいえ」
シャッターの音に一瞬を刻む。これが独身最後の二人の写真になった。



それから6年後の秋。
「ティアラー、トゥルース、起きなさい、幼稚園に遅れるよ!!」
「なんだよ、まだ寝てるのか?」
「もう夏休みは終わりだっていうのに…」
「じゃあ、俺が起こしてきちゃる」
「ごめんねぇ」
オラトリオがとんとんと二階に上がっていく。その間に私は子供たちの支度をする。もう自分で着られるけど、用意はしてあげないといけないから。
結婚して6年目。子どもたちができたのはそのあとすぐで、今年5歳になる女の子と男の子の双子だ。女の子はティアラ、男の子はトゥルースという。
オラトリオはあいかわらずミュージシャンとして忙しいけど、子育てにも協力してくれる子煩悩なお父さんになった。
しばらくして、子ども達の騒ぐ声が聞こえてくる。
「パパ恐いよぉ、降ろしてよぉ」
「だったらママの手を煩わせないでさっさと起きるんだな」
子どもふたりを肩に担ぎ、オラトリオが降りてくる。210センチという長身のオラトリオに抱えられると普段(私がやる)よりも高いのでちょっと恐いらしい。
「「おはよーママ」」
「はい、おはよう。早く食べなさい、バスがお迎えにくるよ」
「「はーい」」
二人揃って仲良くお返事。私たちもあわせて朝食を取る。庭では子どもたちが拾ってきた子犬のシリウスも朝ご飯。
結婚してすぐ、オラトリオが建ててくれた郊外の一戸建てに移り住み、オラトリオが夢見た理想をみんなで叶えた。
やがて子どもたちはまた大騒ぎしながら用意をし、お外でバスを待った。
「「いってきまーす」」
「はーい、いってらっしゃい」
「気をつけてなー」
ふたりは手を繋いで元気よく走っていく。小さな後ろ姿を見送って私はほっと溜め息をついた。
「大きくなったよなぁ。最近までよちよち歩いてたのになぁ」
「再来年には小学校だもん」
バスが遠ざかっていく音を聞きながら、今度は掃除とお洗濯。遊び盛りの子どもたちはいつも泥んこに汚して帰ってくる。元気なのはいいんだけどなぁ。
「今日も大量だな」
「そーなの。まぁ、子どもって遊ぶのが仕事だからねぇ」
庭で洗濯物を干していた私の横にオラトリオがやってくる。何も言わずに手伝ってくれるのがありがたい。
「オラトリオ、今日レコーディングじゃなかった?」
「午後から。リテイクなしだと夕方には戻って来れるけどよ、オラクルが帰してくれるかどうか…」
そういってオラトリオは溜め息をついた。最近オラクルのところに待望の二人目、しかも男の子ができて、その子が夜激しく泣くので寝不足らしい。レコーディングしながらうとうと居眠りすることもしばしばらしい。だから歌入れが遅くなっちゃうんだって。
「エモーションさんが言ってたよ、二人目のオリオン君、夜泣きがすごいんだって」
「そうらしいな。上のエオスちゃんのときはそうでもなかったって言ってたけど」
「男の子は夜泣きすごいらしいよ。うちのトゥルースはあんまり泣かなかったからわかんないね」
「二人ともなぁ。俺、なんかの病気かと思ったぜ?」
「泣かない子もいるんだって」
そのかわりといっちゃなんだけど。
「でもティアラはおませんさんだし、トゥルースは泣き虫だし…」
「小さいころはみんなそうなんだよ。トゥルースだって最近言うほど泣いてないじゃないか」
「そうなんだけどね、問題はティアラよ…」
「どうかしたんか?」
「ティアラったら都合のいいときだけお姉さんになったり妹になったりするのよ」
「そいつは困ったな…」
先に生まれたのがティアラだったので、我が家ではティアラがお姉さんだし、ティアラもそう振舞う。でも自分の都合でトゥルースを兄に仕立てて逃げることもある。この間部屋の中でボール遊びをしてて花瓶を割ったときも本当は連帯責任だったのにティアラは『あんたがお兄ちゃんなんだから』と、すべてをトゥルースに押し付けて逃げたのだ。トゥルースはトゥルースで泣きながら謝るもんだから叱るに叱れなくなって…。トゥルースははじめから『お部屋でボール遊びはダメだよ』って言ってたのに結局ティアラに押し切られてしまう。誰の遺伝子なのか、気が弱いところがあるのだ。
「双子って難しいよなぁ…」
「そうだねぇ…」
会話の中心が家族のこと。私とオラトリオは顔を合わせて、にっと笑った。
そして周囲、ご近所を確認するとどちらともなくそっと唇を触れ合わせた。



幸せって努力すれば意外と近くに潜んでいる。



あのころの思い出の部屋はもう何人も別の人が住んでいて、外からそっと見るだけになってしまった。
でも、もういいんだ。
今も私たちにはもっともっと大切な思い出を作る場所があるから。



「シグナルちゃん」
「なあに?」
「…好きだよ」
「私もよ」



お待たせしました、オラトリオ。




今度こそ本当に素敵な犬とワルツを







≪終≫






≪皆さんもお待たせしました≫
5回にわたってお送りしてきました『素敵な犬とワルツを』シリーズも今回で一応おしまいっす。ほっとくといくらでも書けそうなんだもん。
今回はオラトリオの昔の恋人が出てきます。彼女は『桜井幸乃』と申しますが、これは如月幸乃のオリジナル小説『ある密かな恋』シリーズにでてくる『桜井幸乃』とは別人です(←あ、知らないか)。っていうか、このオリジナルはまだ日の目を見てないんだった、失敬失敬。
まぁ、このふたりはこうやってラブラブしてもらってるのがいちばん楽でいいですな(をいをい)。
注: 文字用の領域がありません!

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