道徳的なえれじー




その日の西岐はよく晴れていた。冗談はよせとばかりに晴れていた。
昨日弟の天祥に稽古をつけていた天化は宝貝の違和感が気になって仕方がなかった。なので軍師殿への廊下をとてとてと歩いていた。
軍師であり恋人でもある太公望に許可を得て宝貝の整備に行こうと思っていたからである。
「師叔、居るさ?」
案内も請わずにここに入れるのは天化とスープーと武吉くらいなものである。他は窓の外から侵入するものが約1名居るがこの話には関係ないので割愛する。太公望――天化は師叔、あるいは呂望と呼ぶ――は書面とにらめっこをしている最中だった。
「何じゃ、天化。わしはこのとおり忙殺されておる。差し入れなら口に放り込んでくれ」
「いや、そうじゃなくてさ」
「接吻なら30秒で済ませてくれ」
「俺っちの話を聞いてほしいさ、師叔」
一応構ってくれるのは嬉しいけれど仕事に追われながらだと流石に寂しかったりする。が、彼女の大きな願いの前に誰もが彼女を止めない。いや、止めるすべを持たないのだ。
「なんじゃい、天化」
「なんか宝貝が変なんさ。んでコーチに診てもらおうと思って」
天化が何気なくコーチ、といった時、呂望の手がぴたっと止まった。
「どうかしたさ、師叔?」
天化の呼びかけに呂望は一瞬の石化から解け、平常を取り戻した。
「い、いや。なんでもないんじゃ。うん」
「仕事のし過ぎで疲れてるさ、師叔。少し休憩したほうがいいさよ?」
「ああ、そうする。で、崑崙山にいくというのだな。わかった。行ってくるがよい」
西岐軍にとって天化は重要な戦力だ、剣の腕は抜群だが仙道が相手となると宝貝の調子が悪いのは痛いところだ。
「んじゃ、行ってくる。師叔が寂しがるといけないからちょっぱやで帰ってくるさ。あ、普賢さんに伝言とかあったら伝えておくけど」
天化が何気なく普賢、といった時、呂望の全身が硬直した。
「…何かあったさ、師叔?」
「いや、本当になんでもない。気をつけていくんじゃぞ、天化」
「んああ、行ってくるさ」
天化はそのまま机に乗り出して呂望の頬に口づけた。彼が居なくなってから呂望はその頬をそっと押さえた。
「すまん、天化…」
呂望はそっと拳を握った。



天化はその足で西岐を出ると崑崙山へと向かった。崑崙山とはちょくちょく黄巾力士が行き来しているので里帰りも便利だ。
今日も十二仙の一人である太乙真人がナタクの修理にわざわざ西岐まで出向いていたところを乗っけてもらったのである。
「悪いね、太乙さん」
「いいんだよ、ナタクったら少し整備に帰ってくればいいのにちっとも寄り付かないんだから」
「あはは。余計な改造されると思ってるのかもしれないさ」
「言ってくれるねぇ、天化君」
太乙はちょっと速度をあげた。しかしこれくらいで参る天化ではない。
「宝貝、ボクでよかったら診てあげようか?」
「いんや。改造されたらたまらないからさ。それにコーチにも会いたいし」
漆黒の髪を風になびかせながらふたりははるか天空の崑崙山を目指した。
「そういえば最近、道徳ってば変なんだよねぇ」
「コーチがどうかしたさ?」
「んー、なんかこの世の終わりみたいな顔してるし」
操縦桿を握りながら太乙真人は上目遣いで道徳を思い出していた。彼がこの世の終わりだとするときはたいてい恋人である普賢真人と手ひどい喧嘩をしたときだけである。
「また普賢さんと喧嘩でもしたさ」
「んー、どうもそれだけじゃないみたいなんだよね。あ、白鶴洞が見えた」
「ああ、白鶴洞で下ろしてほしいさ。普賢さんにも会っておきたいし」
「そうかい、じゃあ近くに止めるよ」
そういうと太乙真人は近くの岩場に彼を下ろして去っていった。
「さて」
うーんと背伸びをした天化はふっと息を吐いてそれから白鶴洞へと足を踏み入れた。この洞府の住人である普賢真人はモクタクという弟子を取って暮らしている。そして天化の恋人である呂望の親友で、師である道徳真君とも恋愛関係にある。
「こんちわー、普賢さーん」
呼びかけても返事がない。天化はもう一度呼びかけてみたがやっぱり返事がなかった。
「…裏かな」
天化は小首をかしげながら裏庭へ向かった。季節ごとの綺麗な花が植えてあるその洞府はやはり女性が住人だけあって美しく設えられていた。特に古来より白い花が多く咲くので白鶴洞と呼ぶのだと、道徳に聞いたことがあった。
が、その美しい造園とは裏腹にさっきからガゴッだのボコッだのと似つかわしくない音が聞こえてきて、天化は少しだけ足を止めた。
「な、何事さ?」
天化はそっと裏庭を覗き込んだ。
そこには確かに主人である普賢真人がいた。あの音は趣味の園芸の音かと天化がほっとしたのも束の間、普賢は新しい麻袋の中からなにやら筒状の金属を多数取り足していた。
「ありゃあ…缶だよなぁ…」
このとき天化はさっさと逃げ出しておくべきであった。さもなくば目を伏せ、耳を閉じて何事も知らずにいるほうがよかったのである。
しかしできなかった。
なぜならば彼はこの世のものならぬ光景を目撃したからである。
「んなー!?」
普賢が、あの細腕で、鋼鉄製の缶を、ぺしゃんこにつぶしてるー!?
天化はぶんぶん頭を振って目を擦り、嘘だといわんばかりにその様子を凝視した。
彼女が再び手にしたのは深さが一寸ほどの小さな缶、通称ツナ缶だった。といっても中身は生臭ではない。あれは入山したてで肉や魚を恋しがる新人の道士たちのために太乙が開発した野菜を基にした食料なのである。要するに味だけツナという代物で姉妹品に焼肉と焼き鳥と煮魚がある。天化も入山して間もないころはお世話になったものだ。
その缶をまたぺしゃんこにするのかと天化がどきどきしながら見ていると、普賢はそれを右手の親指と食指で挟んだ。そしてそれを掛け声もかけずに二つに折り曲げた。
「半月になったー!?」
みしりと音を立てて曲がるツナ缶に天化はがくがくと震えだした。
そしてようやく人の気配に気がついた普賢が後ろを振り向いた。
「あれー? 天化君じゃないの。そんなところで何してるの?」
透明感のある空色の髪に桃のようにきめ細かな肌を持つ彼女は呂望と並んで美少女の誉れ高い仙女である。ちなみに呂望は面倒だからと仙人の免許を取っていない。そんな彼女は天化を見とめてにこやかに笑みさえ浮かべている。先ほどの空き缶つぶしの現場からは想像もできないようなさわやかな笑顔だ。
天化は改めて本題を思い出した。
「あ、いや。宝貝の整備に来たんだけど、普賢さんの顔も見ておこうと思って」
「わざわざ会いに来てくれたんだ。嬉しいな。お茶入れるからどうぞ」
「そんなお構いなく。すぐにコーチのところに行くさ」
「そーお? じゃあ道徳に会ったら伝えてくれない?」
唇に食指、かしげた小首でおねだり姿勢。天化はうんと頷いた。
「いいさよ。なにさ?」
「『氏ね、色ボケ変態仙人』って」
「…へ?」
天化は咥えていた煙草を落としかけた。普賢はなおも微笑んでいた。
「あ、それからね」
「まだ何か?」
もうこれ以上聞きたくない、聞けば自分の身に危険が及ぶと察した天化はそれでも蛇に睨まれたかえるのように大人しくしているしかできなかった。
「これから道徳からすごく不愉快な話を聞くかもしれないけど、何があっても天化君だけは望ちゃんを責めないであげて」
「師叔を? なんでさ?」
「ボクの口からは言えないよ。言いたくないし。でも望ちゃんは被害者だから」
そういって普賢は悲しそうに顔を伏せた。
師叔が被害者?
訳も分からぬまま追い立てられた天化は真相を知るべく紫陽洞へ急いだ。



「コーチぃ。黄天化ただいま戻ったさー」
声をかけると奥からガタンだのドタンだのとなにやら慌てているような音が聞こえてきた。訝しんだ天化は勝手知ったる自分の修業場というやつで音のした奥の間へと進んでいった。
そして扉を開けると師である清虚道徳真君がいきなり土下座で待っていた。
「すみませんでしたっ、ごめんなさいっ!」
「い、いきなり何事さ、コーチ」
「酔った勢いで間違えてやっちゃったんですっ!! もうしませんっ!! もうしませんからぁ!!」
そういっておいおい泣き出した天化はしゃがみこんでさすさすと師匠の背中を撫でた。
普賢の言葉と道徳の異常な行動に、天化はため息をついた。
「何があったのか、じっくり聞いてやるから話してみるさ、コーチ」



※清虚道徳真君の懺悔
本当に知らなかったんです。んで本当に間違えたんです。暗かったし。
酒? …飲んでました。ええ、かなり。ぐでんぐでんだったと思います。
その日、太公望が普賢ちに泊まりに来てて、んで普賢の部屋で一緒に寝るつもりだったなんて知らなかったんです。
いつものように太乙んちでお酒を飲んでぐでんぐでんに酔っ払ってた俺は普賢ちに泊まろうと中にはいったんですよ。鍵は開いてたしですねー。中は暗かったんですけど勝手知ったる何とやらですよ、はい。寝室までねー、まっすぐ行ったんですよ。
そしたら普賢は寝台でもう寝てるじゃないですかー。
だったらいいよなーと思って、布団の中に入ってぎゅっと抱きしめたんですよ。いやー柔らなくていい匂いでした…。
すみません。
んでですね、いろいろごそごそしてたらいい気分になっちゃって、寝てる普賢の着物をそっと脱がせて触ったんですよ。そしたらいい感じになってるし、俺のもいい感じだし…で。
ずぶって。
…やっちゃったんです。
そしたら普賢がキャーって叫んだんですよ。流石に驚かしちゃったかなーって明かりをつけてみたら…太公望だったんです。
俺、驚いて口から心臓が出るかと思ったね。
でも口から心臓じゃなくてムスコから白いもの出ちゃったんです…。
ほんと、ごめんなさい。
抜くもの忘れてボーゼンとしてたら今度は普賢が部屋に来ちゃって、繋がっちゃった俺たちを見てさらにキャーですよ。はい。
太公望には泣かれるし(当たり前)普賢にはたたき出されて口も聞いてもらえないし(これも当たり前)で、もー俺困っちゃう? って感じなんです。
簡潔に言うと要するに太公望とやっちゃったわけです、はい

※懺悔終わり


涙ながらに告白した道徳に、天化はただぽかーんと口をあけているしか出来なかった。
「師叔と…やっちゃったってー!?」
「はい…」
「しかも中出し!?」
「はい…」
道徳は涙を拭い、鼻をかみながら天化の問いに答えた。
『望ちゃんは被害者だから』
そういった普賢の言葉に天化はようやく合点が行った。普賢はああ言ったが彼女自身も被害者には違いない。信じていた恋人に裏切られ、しかも苦労が耐えない無二の親友を自分と間違えていたずらまがいに陵辱するとはアホにも程がある。
「コーチ」
「ん?」
「普賢さんから伝言を預かってきたさ」
「な、なんて?」
涙でぐしょぐしょの道徳に天化の言葉は容赦ない。
「『氏ね、色ボケ変態仙人』だって。ついでに腎虚不道徳偽君に改名したらどうさ?」
後半は天化が付け足したものだが今の道徳真君にはかなり堪えたらしい。がっくりと頭を下げて床板をバンバン叩いた。
「俺はどうしようもないアホなんだー!!」
「今に始まったこっちゃないさ。まだちっこかった俺をジョギングで迷子にしちまうようなアホだったさ」
「それを言われると言葉もありませんです…」
そういうと天化は立ち上がって火のついた煙草を道徳の前に落とした。師匠に対してあるまじき態度だが恋人に危害を加えたとあっては幾ら師匠でも許せない。
「俺っち、絶対許さないさ…」
それから軍靴の音も高らかに響かせて道徳の前を辞した。
「天化ぁ〜〜」
「宝貝の整備に来たんだけど、太乙さんに改造してもらったほうがまだましさね」
それだけ言い捨てて紫陽洞を出て行った。
(師叔…なんで俺っちに言ってくれなかったさ…)
天化の瞳からぽろりと、ほんの僅かな涙が光った。



呂望は暮れなずむ西岐の空を見上げていた。
天化には何も言わないまま送り出してしまった。本当にこれでよかったのだろうかと不安になる。
道徳もかなり謝っていたし、普賢も慰めてくれて道徳にお仕置きまでしていた。体には何の違和感もない。アホな犬に噛まれたと思って忘れようとしていたのだ。まさか天化がこんなに早く崑崙山に出向こうとは思いもしなかったのだ。
いつかは分かってしまうことと思いながらも、自分を愛してくれている天化にはどうしても言えなかった。
普賢が恋人と親友の間で揺れたように、天化も自分と師匠の間で苦しむかもしれない。
それを思うとどうしても告白できなくて――きっと彼は今頃すべてを知ったに違いない。
(天化…わしは……)
言い訳を続ける心を呂望はぎゅっと握った拳で戒めた。
彼が戻ってきたらちゃんと話をしよう。
間違いだとはいえ、他の男と寝た事実は否定できない。
呂望が少し長めのまつげを伏せたとき、執務室の扉が大きな音を立てて開いた。
「呂望!」
「天化…」
天化は息を切らしていた。ここまで走ってきたのか、体中に汗が滲んでいた。
「天化さん、いけません、お師匠様は疲れてるんです!」
「うるさいさ、武吉っちゃん!! ちょっと黙ってるさ!」
武吉の制止も聞かず、天化はつかつかと呂望に歩み寄った。
そして頬を打つ乾いた音だけが部屋に響いた。
天化はうっすらと泣いていた。呂望は頬を押さえもせずにただ立ち尽くしていた。武吉はあっと声を上げたものの、一瞬の出来事に呂望をかばうことができなかった。
長い沈黙の後で、口を開いたのは呂望だった。
「武吉…席をはずしてくれんか」
「でもお師匠様…」
「いいのだ、わしと天化の二人きりにしてくれ…」
いつもはすんなりと呂望の言うことをきく武吉も二人のただならぬ様子にどうしたらいいものかと思案に暮れていた。
そんな武吉に呂望はにっこりと笑いかけた。
「大丈夫じゃ、武吉。おぬしはよい子だからわしの言うことが聞けるな?」
呂望がそういうと武吉はそっと天化を覗きつつ、しぶしぶ頷いた。
武吉は何度も振り返りながらそっと扉を閉めた。まだ気配が消えていなかったが、ふたりは構わずに話をはじめた。
「…すまん、天化」
「どうして呂望が謝るんさ…」
天化はがっくりとその場に座り込んだ。彼女を叩いた右手がひどく痛い。
「…おぬしを傷つけまいとしたのだが…それが帰って仇になったようだな」
「俺っちは呂望が傷ついてるなんてぜんぜん知らなかったさ!!」
「傷つくのに慣れてしまったからな。だがな、天化。それでも人を傷つけるのにはいつまでも慣れんものだよ」
呂望はそっと作り物の左手を押さえた。
「呂望…」
「わしはおぬしを見くびっていたようだな。おぬしはこんなにも大きな男だったというのに…」
天化の右手をそっと取り、自分の頬に導いた呂望は誰よりも優しい顔をしていた。
「俺っち、呂望の恋人さ…」
「うん」
「呂望のこと、ずっとずっと守って生きてくさ…」
「うん…」
天化はそっと右腕を伸ばす。呂望はそっと身を寄せる。
そうして抱き合う夕暮れは密かな夜へと姿を変えて。



「なぁ、呂望?」
「んー?」
薄い絹のかかる寝台の上で互いの傷を塞ぎあった二人はころころと転がりながら戯れていた。
「ぜーんぜん、気づかなかったさ?」
「ぜーんぜん、気づかんかった。いやなー、普賢がわしの好物ばかり作ってくれてなー。おなかいっぱいでお風呂に入って満足満足ーって感じでいたら眠くなったんじゃー。で、明かりがつくまでぜーんぜん」
無理もない、彼女はここのところ忙しすぎた。だから親友との息抜きでほっとしてつかの間の惰眠をこれでもかと貪っていたのだ。
そこをあのアホコーチが邪魔をした挙句にバカな事をしたのだ。
たまには一人でゆっくりするといいさ、なんてかっこいいこと言って送り出した自分にも非があるような気がして、天化はなんとなく呂望に口づけた。
「ごめん、呂望」
「なにがじゃ? 頬なら痛くないぞ」
「そうじゃないさ。呂望を一人で行かせなきゃよかったなーって」
呂望の髪をうりうり撫でながら天化は一人ため息をついた。横でもそもそ動いている呂望はまるで何かの小動物であるかのように天化を見つめていた。
「おぬしは本当に優しいのう。だから好きじゃ」
「うわっ、呂望、何してるさ!?」
天化は自身の男に触れられて思わず声を上げた。呂望がくすくす笑うのが聞こえてくる。
「もうこんなになっておるのう」
「…悪戯っ子な呂望にはおしおきさ」
「きゃー」

戯れながら互いに思う。
自分はこの人のためにこの時代、この場所に生まれたんだと。
そしてこの人のために生きて、この人のために死ねるならそれもいいと。
でも戦いは優しくない。
戦場に愛する人、愛される人などいないのだ。
この人を裏切って死ぬ時はきっとこの人以上に大事な信念のためだ。


そう遠くない未来に、悲しい別れが待っている。


でも今だけ、今だけでいい。
だってそんなことは誰も知らないんだから。


「呂望、俺っちの呂望…」
「天化、わしの天化…」
どうか優しく包んでください、その羽で
たとえ正論であっても今は哀歌を聞きたくないのです

抱き合う二人に幸せな歌だけ、聞かせて――――。



そして数日後、呂望は天化と連れ立って道徳の洞府を訪れていた。最初に普賢の洞府をたずねると今日は彼の洞府に行っているという。
仲直りをしたのかと安心して二人は笑顔で歩いていた。
天化は呂望は大事に持っている箱に目を止めた。淡い桃色の紐帯で可愛く包まれている。
「呂望、それは?」
「これか。南蛮渡来のかすていらとか言う菓子じゃ。珍しいものだそうで、普賢にも食べさせてやろうと思ってな」
てくてく歩く二人の鼻をつんとしたにおいが刺激した。二人そろって顔をしかめる。
「なんじゃ、これは」
「温泉の匂いがするさ」
「…硫黄じゃのう」
不審に思いつつも二人は普賢がいるだろう裏庭へ向かった。
そしてあの日の天化と同じように、見てはいけないものを見てしまった。
「んなー!?」
「おおおおおおおぎゃー!?」

――道徳真君が全裸で木に逆さ吊りにされた挙句、硫黄でいぶされている…


二人はがくがくぶるぶると震えだした。普賢は酸素ボンベを担ぎ、しゅこーしゅこーとマスクで呼吸をしていた。
「たすっ、ぐはっ、めにしみっ、うぎゃっ、あつっ」
「しゅこー まだだからねー しゅこー 道徳にー しゅこー とりついたー しゅこー 悪霊をー しゅこー 払ってるんだからー しゅこー」
「だれかっ、たすっ、げはっ、ぐはっ」
呂望と天化は二人して壁になっていた。そして見てはならぬものを見てしまったと、そりゃあもうあわわと震えていた。
「あれー? しゅこー 望ちゃんとー しゅこー 天化君だー しゅこー」
普賢は道徳から離れて二人に近づいてきた。マスクを取ったその笑顔は花にも負けないくらいさわやかだ。
「ひ、久しぶりじゃのう、普賢」
「うん。あれからなんともない?」
「ああ、大丈夫じゃよ。ところであれは、何をしとるんじゃ?」
呂望はあえて彼を見ないまま言った。普賢はにっこりと笑う。
「道徳に取り付いた悪霊を払ってるの。全裸で逆さに吊るして硫黄でいぶすといいんだって」
「へー、そうなんさあ」
「天化、棒読みになっとるぞ」
天化はもはや心ここにあらずであった。
「あ、そうじゃ。土産があるんじゃー」
「わーい、嬉しい。じゃあ白鶴洞でお茶にしよう」
「え、あれは?」
「放っておいていいよ。まだ半日かかるから」
そういって普賢は罪のない笑顔を作った。呂望も天化も、乾いた笑いしか浮かべられなかったが、道徳を助けようなどとはちっとも思わなかった。
「だれかっ…あたまにちがっ…ぐえっ」



その後、異臭に気がついた近所の仙人が様子を見に行ったのだが誰も彼を助けなかったという。




幸せな恋人たちに優しい輪舞曲を
そして哀れな道徳真君に道徳的なえれじーを





≪終≫




≪ごめんなさいです≫
楠本要さま、お誕生日おめでとうございますww そしてごめんなさいです。
私の力ではこんなものです。本当はもっと別の物をお望みだったのに。かわりにものすごいことをしておきました。
ご笑覧下さい。そして私をぶん殴ってください。
_| ̄|○ノシ もっと光を! もっと力を!! 

ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃいいいいいいいいいいいいいいい〜〜〜・・・・・注: 文字用の領域がありません!

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