鬼胎



いつからだったろう この感情に気づいたのは
ずっと押し殺していたこの思いを
掘り起こしたのは誰あろう、貴女だ



緑が萌える丘に青い人がいる。黒衣のその人は草を踏み分けながらそこを目指した。
用事があって会いに来たのに肝心な時にいやしない。黒衣の人は面倒くさいことが嫌いだ。
「楊ゼン? どうしたんじゃ?」
楊ゼンと呼ばれた青年ははっと我に帰った。どうやらぼうっと寝転んでいたらしい、覗き込んできた少女に驚いてわあっと起き上がった。
「な、なんじゃ、びっくりするではないか」
「あ、ああ。すみません、師叔」
長く蒼い髪をかき上げて、楊ゼンはふうとため息をついた。
――なんとなく、思い出していたのだ。もう、ずっと昔の話を。
『歴史の道標』をこの世界から消した戦いを。
その戦いの中で愛しい人を見つけ、身近な人を失った。
自分の殻を捨て、本当の自分を手に入れた。
損得で戦ったわけではなかったけれど、戦いがもたらすものはいつも破滅と再生なのだ。
そんなことをぼんやり考えていた矢先の、師叔の来訪である。
「珍しいですね、いつもふらふらなさっている貴女が神界にいらっしゃるだなんて」
「普賢と武吉に会いにきたのだ。ついでにスープーにもな」
そういって彼女は楊ゼンの横に腰を下ろした。襟首に僅かにかかる黒髪を風が優しく撫でている。
「みな元気そうだな」
「元気すぎて困っているくらいですよ」
楊ゼンは苦笑しつつ空を仰いだ。ここ、神界は封神領域内に作られている別世界だ。先の大戦で命を落とし神となったもの、生き残った仙道のすべてがここに集められ、人間界への関与を最小限に留めている。
この機構を考案したものこそ、太公望呂望――黒衣の彼女である。
彼女の出自は実に複雑であった。呂望は姜族統領の娘としてこの世に生を受け、12才のときに殷の人狩りにあって一族郎党のすべてを失った。そして血にまみれた心のまま、崑崙山の元始天尊のもとに弟子入りし、太公望となった。
さらに幾多の戦いを経て彼女は本来あるべき姿――最初の人、伏羲へと変貌を遂げた。
重たそうな黒衣に身を包み、今は悠々自適、放浪の真っ最中である。
「下界の様子はどうですか?」
「んー? そうじゃのう、始皇帝というやつが現れおった。これで一応戦乱に終止符が打たれるだろうが…長いことは持つまいな」
楊ゼンはふっと表情を険しくした。500年も続いた戦乱をようやく鎮める人材が始皇帝である。疲弊した民のために彼の治世は長期にわたって安定してくれなくては困るのだ。しかし呂望はそれも長くないという。
「なぜです?」
「…激しすぎる男だからな、始皇帝は。何かをやらかしそうでのう」
そういって呂望は抱えた膝の上のあごを乗せた。そして時代を作ろうとしてその半ばで息絶えた父子のことを思い出していた。
その国はもう、地上のどこにもありはしない。ただ細々と祭祀が続いているのみとなっていた。
「師叔…」
「ま、我らはことがあってから動けばいい。すべては人の世のこと。のう、楊ゼン」
「…そうですね」
寝転がった呂望に覆いかぶさるようにして、楊ゼンはその唇を奪った。長い髪が帳となって事を覆い隠す。
久しぶりに触れる彼女からは相変わらず甘い桃の香りがした。
「おぬしは…なんもかわっとらんのう…」
「いいえ、貴女が変えてくれました」
「わしがか?」
「ええ、師叔…貴女が、です」
通天教主の子供としてこの世に生まれ出で、その真の姿を隠して長い時間を生きてきた。師である玉鼎真人に半妖態になることさえ禁じられてからはなおいっそう人としての仮面を被り続けた。しかし仙界大戦においてその禁は破られる。人としての姿は変化のひとつであり、力を蓄えておくことのできなくなった楊ゼンは妖怪としての己を晒さざるを得なくなった。
崑崙では、妖怪は差別される。どんなに開祖である元始天尊が差別はいかんといってもその風潮は根強くあったのだ。
けれど彼の背中をそっと押したのは呂望だった。
『生きるために、なんでもせよ。恐れてはならぬ』
友である普賢真人を失って間もない彼女の言葉が、楊ゼンの迷いを断ち切った。
師である玉鼎真人と父である通天教主を失い、さらに帰るべき故郷を失くしても、生きなければならないと思った。
「たくさんのものを失いましたが、僕は貴女を得ました。師叔…」
「楊ゼン…」
草の海が、そっと二人を抱きとめた。



世界が変わるその時に 
間違いなくそばにいてくれたのは
誰あろう、君



「楊ゼンっ…」
青緑の瞳を潤ませて、呂望は楊ゼンを見つめた。優しい前戯に蕩けそうになりながらかの人を呼ぶ声はしっとりとした甘さに満ちていた。
「何ですか、師叔」
「…呼んでみただけじゃ、無粋な返事をするでない」
「それはすみません」
楊ゼンの少し長い前髪が呂望の胸元をさらりと擦った。
「んっ…」
思わず、楊ゼンの頭を抑えてしまう。けれど楊ゼンはかまわず彼女の秘裂に舌を這わせ、陰核をちゅっと吸い上げた。
「あんっ、やっ…」
びくんと震える呂望の体から、傷は消えていた。伏羲と融合した時に消えてしまったのだろう。
彼女の傷を醜いと思ったことはないが、その鮮烈さと痛々しさに目を背けてしまいたかったのは事実だ。
男の自分は傷を負わず、女である彼女だけが傷を負う。
戦場には男も女もないが、それでも彼女が傷つかぬよう、剣となり盾となって戦うためにもっと力がほしかった。
切り落とされた左腕もまるで何事もなかったかのように呂望の一部として生きている。そしてその腕はそっと自分の背中を抱くのだ。
「師叔…」
楊ゼンは呂望に覆いかぶさる様にして彼女の上に身を伏せた。彼女の女陰に指を差し入れ、ぐちゃぐちゃとかき混ぜる。
呂望はひっと声を上げて身をよじった。内壁を擦る楊ゼンの指に彼女の体は素直な反応を示していた。動かすほどに愛液は溢れ、指をぬらす。肌は薄紅色に染まり、玉結んだ汗がその上をつうっと滑った。
「あんっ、あはっ…もう…いやじゃあっ…」
「いやだなんて言わないでくださいよ、貴女のここはもうこんなに」
そういって楊ゼンは指の動きを早めた。内壁だけでなく、秘芯まで同時に刺激されるこの行為に呂望の思考はほとんど働いていない。
「あっ!! ああぁんっぅ…」
呂望は体を弓なりに反らせると手近な草を掴んで声を漏らした。びくびくと震える体を沈めようとしているのだ。
にもかかわらず楊ゼンはすでに彼女の膝を高く上げ、自身の挿入を計っている。
「こっ、こら楊ゼン、少し間を…あっ…ああああんっ!!」
「師叔…んっ…入っちゃいましたよ」
「入れたのだろうがっ、このっ…んっ…変態道士がっあああんぅ」
圧し掛かる男のすべてを一身に受け、呂望はその重みと与えられる快楽に耐えている。握られた草が大地から離された。
「あんっ、ふっ…」
「師叔、どうか僕に抱きついてください。草では手を切ってしまう」
「楊ゼン…」
促されるまま呂望は楊ゼンの首に手を回し、そのままきゅっと抱きついた。
「はあっ…はあっ…」
楊ゼンの耳元を甘い吐息がくすぐった。
「師叔…相変わらず可愛い方だ」
「バカばっかり言っておらんでさっさとやれ。おぬしと寝るためにここに来たんじゃないぞ」
「それこそ無粋ですよ、師叔。せっかくなんですから楽しみましょうよ」
そういうと楊ゼンは呂望の足を抱えあげ、現れた秘書に自身の男根をあてがった。
「行きますよ、師叔」
というまもなく、楊ゼンの男の部分は呂望の胎内へと納められていく。
「んぐっ…くっ…」
「んっ…はっ、入りました」
「わかっとるわい」
呂望の体は思わず楊ゼンをぎゅっと締め付けた。にもかかわらず溢れる互いの愛液が潤滑油の代わりになって膣内を擦る。
「やっ、ああんっ、楊ゼンっ…ふっ…」
「師叔っ…」
ぐちゅぐちゅと濡れた音が草撫でる風の音と混じった。
「はああんっ、ふぅっ…」
薄紅色に染まった肌が熱い。楊ゼンは彼女を側臥位にすると片足だけを担ぎ上げ、さらにずんずんと呂望を深く抉る様に身を進めた。
「ひいっ! はっ…ううっ…」
呂望は自分の腕で胸を抱くようにし、その拳を握って口元に当てている。
「んっ! んっ!」
がくがくと呂望を揺さぶる楊ゼンの汗が、彼女の肌の上にぽたっと落ちた。
「師叔、ちょっと我慢してくださいね?」
「…え?」
少し呆けている呂望はそれでも楊ゼンになされるがままにされている。楊ゼンはにっこり微笑むとその体制のまま彼女を抱き上げた。体内にある楊ゼンの男根が自分の体重の手伝ってより深く侵入してくる。
「ひゃああんっ!! あんっ、よ、楊ゼンっ…」
「素敵ですよ、師叔」
「んっ、そのような世辞はよい。もっと深くわしを沈めろ、楊ゼンっ…」
「そのつもりです」
ぐん、と楊ゼンの嵩が増して、呂望の中を深く強く刺激する。
「きゃふんっ…ぅうんっ、あっ」
がくがくと顎を鳴らし、口角から飲みきれなかった唾液がこぼれている。
「ああ、楊ゼンっ…」
「師叔っ…くっ、もういきそうです…」
「あ、あ、ああああああっ」
「師叔っ!!」
何かが白く弾けた――胎内で、脳内で。



一緒に駆け抜けた時代の中で
傷ついたこと、失ったもの
そして彼女を、彼を得て

幸せになりたかった



「もう行かれるのですか?」
「ああ、下の様子が気になる。ここと下では時間の流れ方が違うからな」
白い肌の呂望は再び黒衣の人となって楊ゼンの前に立っていた。彼女は飄々と自身を撫でる風に身を任せている。
「…みなを頼んだぞ、楊ゼン」
「お任せください、師叔。僕は貴女が望んだ世界を守るために…ここにいるんですから」
黒衣の人と青い人は互いに見つめあい、そして何も言わずに別れた。
「あ、そうだ」
楊ゼンは思い出したかのように振り返って、まだ遠くない彼女に向かって呼びかけた。
「師叔ーー!」
気がついたのか、彼女はくるりと振り返った。
「なんじゃー、よーぜーん」
「いつか、僕の子供を生んでくださいねー」
「…どあほー」
それでもくすくす笑っているのがわかって、二人は互いに手を振り合った。



時代は秦の始皇帝を葬り、漢、そして三国時代へと移り行く。
彼女の言葉どおり始皇帝は激しい男だった。不老不死を望んで国費を貪り、安寧を願って不安因子を取り除くべく弾圧を続けた。そして次代のためにならぬのならと我が子さえもその死後に抹殺した。
やがて国は疲弊し、項羽と劉邦という二雄が並び立つ。
「…師叔の言ったとおりになりましたね」
「誰か派遣するんさ? 楊ゼンさん」
「天化君、ここで煙草はやめてくれないかい?」
ゆらゆらと揺れる紫煙を、天化はふうっと楊ゼンに吹きかけた。彼は煙たい顔をしながらもそれを払おうとはしなかった。
「一人だけ師叔と会って、しかも寝ちゃった罰さ」
「だから。それは悪かったよ。引きとめようかとも思ったんだけど師叔ってばさっさと行っちゃって」
「それは楊ゼンさんがその程度ってことさ」
「…言ってくれるねぇ、天化君。君だって人のことは言えるのかい?」
苦い顔の楊ゼンはそのままギラッと天化を睨みつけた。天化はうっと唸って腰を下ろしていた机の上から降りて煙草をもみ消した。
「分かってくれたみたいだね」
「充分判ったさ。で、話は戻るけど誰か地上にやんのかい?」
「いや、今のところはその予定はないよ」
天化はふーんと小さくこぼすと下界が見える窓を覗き込んだ。
呂望はこのどこかにいるのだ。
「師叔元気かなぁ」
「あの人が元気じゃないわけないだろう、天化君」
「…違いないさね」
男二人、笑いあって彼女の行く道の幸せを祈る。ここにもう一人いないのが寂しいけれど恋敵たちはいつだって彼女のことを思っている。
馳せる思いはいつも同じ。



宿した想いは大きく育つ
育った想いは君の下へ








≪終≫






≪どこからか青い人のやってくること≫
青い人だよー、不能様だよーww 浅岸様のリクエストですおww
例によってタイトルには何の意味もありません_| ̄|○ 
うはー、書き逃げします、すみません…\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ? ← 一切の記憶を失ったらしいです注: 文字用の領域がありません!

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