あすなろ銀河 今日こそは明日こそはと待ち焦がれ 眠れぬ夜のあすなろ銀河 いつも多忙なガオン王子は今日も黙々と公務をこなしている。 経世済民から城内のよろずメカ修理まで多岐にわたって手腕を振るうガオン王子だが、いかな彼でも休息が必要だった。それもただの休息ではない、彼がいちばん思っている女性との逢瀬こそが彼にとって最良で最高の休息と言えた。 が、彼の求める女性は雲のように風のように自由気ままな人だ。出会うときはいつも旅先、自分が拾ってくるのだ。さもなければ青天の霹靂かのように突然メイドか王女の振りをして城内に現れる。 そろそろ切れかかった心の栄養を補給したいものだ。 自分は城外に出ることは出来ないから、彼女の来訪を待つしかない。 ガオンはいつものように書類の束と工具箱を抱えて自室に戻る最中である。 上等の皮の靴をカツカツと鳴らしながら歩き、部屋のドアを開けると彼はばさっと書類を取り落とした。 「…よぅ」 部屋に設えられたテーブルに金色の髪をした姫君がメイドの給仕でのうのうと茶を飲んでいた。そのメイドはガオンの姿を見ると一礼してその場を去った。いつもその姫君を任されていたので何もかも――姫の正体さえ心得ている彼女は戸口に立ったままのガオンの足元に落ちた書類を拾い整えて渡す。ガオンはそこでようやく正気に戻った。 「ガオン様」 「ああ、すまない…」 メイドはにこりと笑い返した。 「姫君のお付の方たちはいつものお部屋にお通ししておきました。朝食に関しましてもそのように厨房に」 「…いつもながらすまないね」 「いいえ。ゾロリ王女のお世話をしたいのは私だけではありませんので」 彼女はそういうと今度こそこの部屋から遠ざかっていった。 ガオンの部屋にいたのはゾロリ王女、その本当の姿は悪名高い”かいけつゾロリ”である。 そんな彼女と出会ったのは某国の雪山だった。最初はなんとなく険悪だったのが時を重ねるごとに少しずつお互いを知っていて、更に時を重ねて今度は心と心、肌と肌を合わせるようになった。 ガオンはため息をつきながら彼女のそばに歩み寄った。 柔らかい桃の香りが漂う中を歩く。ゾロリはにっこりと微笑んでいた。 「…いつ、城へ?」 「今日の夕方。いつもの場所から」 「この部屋には、どうやって?」 「うろちょろしていたらメイドさんがたくさん寄ってきて、案内してくれた」 そういうとゾロリは紅茶の残りを飲み干した。そして空になったカップをガオンに向けて差し出した。 「お茶はいかが?」 「…いただくとしよう」 ガオンはテーブルにつき、ゾロリは茶を入れるために入れ替わりに席を立つ。先ほどのメイドさんはちゃんとお湯を置いていってくれていた。ゾロリはゴールデンルールで茶を入れてくれる。 こぽこぽと豊かな水音を立てて注がれる紅茶は絶妙の味わいだった。 「美味しいよ、ゾロリ」 「それはよかった。伊達にメイドさんやってたわけじゃないからな」 砂糖を入れていないのに甘いこの紅茶を、ゾロリは一口で気に入った。世の女性の例に漏れず、ゾロリも甘いものは大好きだ。いくら食べても太らない謎の体質を持っているのでその食べっぷりは甘党の人間にしてみればむしろ気持ちいいほどである。 「お前は忙しそうだな」 ゾロリは自分のための紅茶をいれて再び席についた。茶葉をかえればいいのに何故か出涸らしを好む。そんな彼女に苦笑しながらガオンはふうっと息を吐いて天井を見つめた。 「まあね、おかげで君に会えなくて」 「寂しかった?」 イタズラっぽい言葉の奥の笑顔は明らかにその反応を楽しんでいる。 ガオンは素直だった。 「ああ、ひどく寂しくて死にそうだったよ」 「…ガオン」 彼の自嘲的な笑みに、ゾロリは自分の胸をちくりと刺すなにかを感じていた。ゆっくりとガオンの背後にまわり、背もたれごと彼をきゅっと抱きしめる。 「俺も、寂しいのは嫌いだな…」 遠い昔に失った父と母のことを思い出し、ゾロリはガオンの首筋にぽふっと顔を埋めた。柔らかな金色の髪がさらりと彼の頬をなでた。 そしてガオンは黙ってしまったゾロリの頭をぽんぽんと撫でる。 「本当に寂しかった?」 「寂しかったよ」 ゾロリは更にぎゅっと抱きついた。出会った頃は甘えるのが苦手だと言っていた彼女も、自分にだけはこうやって弱い部分をさらけ出すようになってくれた。 ――自分だけに、と、思いたいのかもしれないが。そう思うことで彼女に対する不安も欺瞞もすべて打ち消してきた。 「どうしたんだい、いつもの君らしくもない」 「たまにはいいだろう?」 「…ああ、かまわないよ」 ガオンはゾロリに顔を上げさせた。そしてゆっくりと振り向き、ゾロリの柔らかい唇に自身のそれでそっと触れた。 言葉なんて、もうなんの役にも立たなかった。 ただ瞳に映るその小さな銀河のような煌きだけがあればよかった。 「んぁっ…」 乳房に触れる男の指は明らかに快楽だけを引き出そうとしていた。 ガオンの体の下で、ゾロリは触れてくる男の指をまだ楽しめないでいる。何度も肌をあわせたのに触れられる事を楽しむだけの余裕がないのだ。 彼が嫌いなのではなく、この行為に慣れないだけのこと。 「いい加減に慣れてもらいたいものだがね、ゾロリ」 「歯止めが効かなくなったら困るだろっ」 「まあ、いつも新鮮でいいんだけどね」 そう言うとガオンはゾロリの乳首をきゅうっと吸い上げた。 「んっ!!」 空いた手はもう片方の乳房を弄んでいる。敏感な先端をいじられてゾロリは甘い吐息を吐いた。 「あ…は…」 内奥に潜む女の部分が、じわりと湿り気を帯び始める。無意識のうちに足をきゅっと閉じたのを、ガオンは見逃さなかった。 「なんだ、もうかい?」 ガオンの指先が恥丘をそろりと撫で、その奥に隠れた秘芯を探り出す。ゾロリの体がびくんと震えた。 「やっ…触るなっ」 「触らなきゃどうなっているのかわからないじゃないか」 そう言うとガオンはゾロリの片足を担ぎ上げた。こうなると足を閉じることが出来ない。 羞恥と期待で震える体を納めることが出来ず、その興奮が愛液に変換されて秘裂からとろりと流れ出す。 「たったあれだけのことで…嬉しいね、ゾロリ」 「っ…さいっ…、今日のお前、意地悪すぎっ…」 ゾロリは声を抑えようと口元に当てていた指の間から不満を漏らす。薄紅色に染まる腹を撫でて、ガオンは足を担いだままぐっと身を進めた。 「っ!」 ガオンの下半身はまだズボンに包まれていたが、熱く猛ったものは布ごしでもそれとわかるほどに膨らんでいた。 「あ…あ……」 「…わかるかい? 私は君がほしい」 クリアブルーの瞳に見つめられて、ゾロリは不意と顔をそむけた。なんて優しくて、それなのに切ない笑顔。 会いたくて会いたくてたまらなかったという思いだけぶつけてくる。 「…ゾロリ」 「…足が痛いんだけど」 「ああ、すまない」 ガオンは請われるままに彼女の足を下ろした。ゾロリは押さえつけられていた体を伸ばして起き上がる。そしてじいっとガオンを見つめた。 「…ごめんな」 「なにが?」 「…寂しくさせてたな。俺は一人ぼっちは大嫌いだけどさ、一人ぼっちにさせるのも…なんかやなもんだな」 そういうとゾロリはガオンの髪をよしよしと撫でた。柔らかなダーティブロンドを指に絡め、しばらく弄んでそっと手を離す。 「私は望んでここにいるんだ。それでも君に会いたいと思うのは…やっぱり君が好きだから、だね」 博士であり、王子であり、そしてゾロリの恋人でもある。こんな自分がガオンは好きだった。だから多少の寂しさは我慢するつもりでいたのだが、出会ってしまえば思わず噴出してしまう。そしてひどく彼女をほしいと思い、束縛することさえ願ってしまうのだ。 この城の地下牢に閉じ込めて、誰にも触れさせないで、壊れるまで愛する。 でもそれは彼女を徹底的に貶める、最期の手段。 魂の燐片まで粉々に打ち砕く醜悪な愛し方。 七夕に伝えられる織姫は牽牛と引き離されて、その魂は、どこまで静寂の深遠を漂ったのだろうか。 「ガオン…」 気がついたら、ゾロリがかなり近くまで迫っていた。ゆっくりと体を寄せてくる。乳房の先がガオンの固い胸板に触れた。 「んっ…」 「ガオン…もう…」 ゾロリの手が、布ごしに立ちあがるガオンの男を撫でた。 「…愛してくれる?」 「…喜んで」 ガオンはゾロリをそっと放し、着ているものをすべて脱いだ。現れた男根は雄雄しく天を向いていた。 「ゾロリ…」 ゾロリはガオンのそれにそっと手を触れようとして、止められる。 「おいで」 ゾロリはのそのそと彼の上にまたがり、ゆっくりと腰を落とした。足の間に突き刺さる肉棒の感覚にうんっと息を詰める。きゅっとしまった膣内にガオンの肉棒がぐいぐいと押しこまれるが、愛液のおかげで痛みはない。 「ほら、息を詰めないで、ゆっくり呼吸して」 ガオンの上に向かい合うかたちで乗りかかっているゾロリの背中を優しく撫でると、落ちついたのか彼女はふうっと息を吐いた。 それを見届けてガオンは腰を揺らした。ゾロリの体も自然と動き、呼吸が徐々に荒くなる。 「あ…ああっ!! んっ…くふっ…ひゃっ…」 ふるふると揺れる乳房をきゅうっと吸い上げると、ゾロリはまた声をあげる。そのまま横を向く形で寝かせて、片足を抱えずんずんとついていく。 「いやっ!! やんっ!! くっ…きゃふうっ!! あはあああああっ!」 ぬちゅぬちゅと粘質の水音が聞こえる。肉と肉のぶつかる音、互いの嬌声はその場を更に淫らに彩った。 「ガオっ…ああっ…あふっ、あはっ」 「ゾロリ…すごくいいよ、きゅうきゅう締めつけてくる…はっ、長く持ちそうにないな」 「やっ…ああっ、やらしいことっ…んっ、言うなああんっ」 「喘ぎながらじゃ説得力がないよ」 言うなり、ガオンは再び繋がったまま体位を入れ替えた。 「ひっ!!」 今度は後ろから激しく貫かれる快感に変わる。けれどこの体位はゾロリからガオンが見えない。ガオンも、ゾロリの表情を見ることが出来ない。 なのでゾロリはいやがった。 「やだっ、ガオンっ!!」 それでもガオンはそのまま乳房をぎゅっと掴んで揉みしだいた。乳首をきゅっと絞るようにつねると自然と体に力が入り、膣もきゅっとしまる。 「くっ…ゾロリっ…」 ガオンはたまらず一度男根を引きぬいてゾロリを仰向けに寝かせた。 「ゾロリ…大丈夫かい?」 ゾロリは腕で顔を覆っていた。泣いているらしかった。 「大丈夫なっ…わけっ…」 「…すまない、ゾロリ」 ガオンはゾロリの金の髪を優しく撫でた。それだけで機嫌を直したのか、ゾロリはすっとガオンの首筋に腕を回した。 「…まだ済んでない」 「ああ、私もだよ」 ガオンはゾロリの上にそっと乗り、足を丁寧に開いた。唇は首筋に当てられている。 ゾロリはうっとりと目を閉じ、彼の行為を受け入れた。 「あっ、ああんっ」 「ああ、やっぱりこれがいいな」 「…ガオン…」 「君の顔、君の声、よく見えるし聞こえる。そそられるね」 与えられる快楽に身悶えしながら、ゾロリは微笑んだ。 再び男根を挿入され、律動を刻まれる。 ゾロリの体はガオンの動きに合わせて揺らめいた。 「あ、ああ」 「ゾロリっ…!!」 「ガオン、中に出すなっ!!」 「駄目だっ…くううううっ!!」 「うあああっ、駄目っ! 駄目ええええええっ!!」 のぼりつめた先は同じ場所。 甘く優しい囁きに、体がほんのりと微熱を帯びる。もう何度繰り返したか知れない口づけを交わしながらゾロリはぱたりとベッドに伏せた。 金色の絹のような髪を投げ出して顔を覆う。そばにいた男は丁寧に顔にかかる髪を払った。 「どうしたんだい? なにか気に入らないことでも?」 「…つかれた。もう動けない」 ゾロリが非難がましく男を見つめると、彼はなんでもないように微笑んで見せた。癪に障るがそうやって微笑まれると弱いんだということには最近になって気がついた。 「すまないね、久し振りだったからずいぶんと熱が入ってしまって」 「入れ過ぎだっての」 それが熱なのか、あるいは別物か。心地よいけだるさに、ゾロリは詰めていた息をふっと吐き出した。ころりと転がって仰向けになると、彼の手が柔らかな乳房を弄りはじめた。 「こら、ガオン」 「もうしないよ。でも君に触れていたくて」 ガオンの手は、男の手だ。長く節くれだった指が乳房を丁寧に覆っている。撫でるでもなく、さするでもなく、ただそこに置かれた手を、ゾロリは払いのけようとしなかった。 小さな子供が母親の乳房を求めるのと同じ行動にほんのちょっとだけ母性が動いただけのことだ。 「…ちょっとだけだぞ」 「ああ」 許されたガオンは嬉しそうに笑った。汗で湿った肌は少しずつ冷え始めている。 「寒いかい?」 「んー、少しな」 ゾロリはコロンと転がるとそのままガオンにべったりと抱きついた。 「七夕の日は、晴れるかな」 「ああ、君が望めば晴れるだろう。雨でも、鷺が渡してくれるよ」 愛し合うことだけにおぼれて、己が為すことを忘れたために引き離された恋人がいた。 今二人は銀河の対岸で互いを見詰め合っているのだろう、もうすぐ触れ合うことの出来る刹那の日。 ガオンとゾロリも、似たようなものだ。 けれど自分のなすべきことを忘れてはいない。それゆえに彼らは自分たちの間に川を作ってしまっていた。 牽牛と織姫のような、愚行はしない。決めたわけでもなかったけれど自然とそうなっていた。 「ガオン」 「ん?」 「…いつか、いつかきっとお前のそばにいるから。寂しくさせたりしないから…」 ぎゅっと抱きついてきたゾロリを、ガオンは少し驚きながらも受け入れた。いつもならそれは自分のセリフだったのに、今日は彼女に先を越されてしまった。 でも彼女も同じ気持ちでいてくれること、それが嬉しかった。 「会えるといいな、織姫と彦星」 「会えるさ、今の俺たちみたいに…ね」 ぎゅっとぎゅっと抱きしめて、今は離さないで。 離れたなら、銀河を越えてでも会いに行くから。 そして明日も幸せになろう ≪終≫ ≪音の響きを重視して≫ 音の響きを重視すると意味などなくなるものです。それが今回のタイトル。ソニンの『あすなろ銀河』という楽曲からです。 あすなろ、という響きは好きです。 なんとなくイベント物は避けて通りたかったのですが、なかなかそうもいかないものですねww |