mp〜メゾピアノ



ほんの少しでいい
君がそばにいて優しくしてくれたら
痛みも和らぐ



すっぽこぺっぽこ歌いながら跳ねるように歩く双子を温かく見守りながら、金色の狐が笠をすっと上げた。
「ほらほら、お前たち。歌いながらもいいけど転ぶなよ」
「わかってるだよ、ゾロリせんせ…あっ」
振り返ったときに足元の小石に気づかなかったノシシが蹴躓いて転んだ。
「ほらほら、言わんこっちゃない」
ノシシは自分で起き上がったが、すりむいたひざが痛くて、片ひざを抱えて目を潤ませている。
「大丈夫か、ノシシ」
「痛いだぁ〜〜」
「イシシ、消毒液と絆創膏、出してくれ」
「はいだ〜」
イシシは背負っていた風呂敷包みをおろすと中から携帯用の消毒液と絆創膏を取り出した。それをゾロリに渡す。
彼女はそれを受け取るとふたをとってノシシの傷にしゅっと吹きかけた。
「しみるだよ、せんせ」
「男の子だろうが、我慢しろ」
丹念に吹きかけるとノシシはしみるといって転げまわったが、ゾロリのひざに抱きかかえられるとおとなしくなった。滴る液をちり紙でふき取り、ぺたぺたと2,3枚絆創膏を貼った。
「これでよし」
ぺちとノシシのひざをたたくと、ゾロリはぎゅっと少年を抱きしめた。
「ちゃんと前見て歩かないからだろ」
「ごめんなさいだぁ〜」
ノシシはてへへと笑った。イシシは風呂敷の中に薬品をしまいこんだ。
「歩けるな?」
「はいだー」
元気よく手を上げたノシシにうんと頷いたゾロリはまた歩き出そうとして背後に迫る音に気がついた。
「な、なんだ?」
見れば馬車がこちらに向かって突進してきている。
「あわわ、逃げろー!!」
「うわぁぁ!!」
ゾロリはイシシとノシシを抱えこむようにして道端に逃げ込んだ。馬車は土煙を上げて彼女たちのそばを通り過ぎた。かと思うとすぐに停車した。
「何なんだ、あの馬車は」
ゾロリは馬車を見た。イシシとノシシも起き上がって彼女に倣っている。
しばらくじっと見ていると馬車から一人の姫が降りてきた。茶色のふわふわ巻き毛にかわいい耳がちょこんと垂れている。細い体つきはまだ少女のもので、山吹色のドレスがさらに姫を幼く見せた。
「あれは…」
「ゾロリ様!」
駆け寄ってくる姫が誰なのかわかったゾロリはあっと声を上げた。
「サラ姫じゃないか、どうしたんだ」
サラはハアハアと息をしながらゾロリの胸元に飛び込んだ。ゾロリはそっと彼女を抱きとめようとしたが、逆にサラに胸元をつかまれ、引きずられた。
「ちょ、ちょっと、サラっ!」
「ゾロリ様、ここで会えてよろしゅうございました。お急ぎください」
姫とは思えないような力でぐいぐいとゾロリを引っ張るサラにイシシとノシシもはらはらと事態を見守ることしかできない。
「サラっ、なんなんだ、事情を聞かせてくれ」
「…ご存じないのですか?」
サラはぱっと手を離した。ゾロリは一瞬足元がふらついたがなんとかその場にとどまった。乱れた胸元を整える。
「だから何を?」
「ガオン王子が、お怪我をなさったとか」
ゾロリは一瞬、耳を疑った。
「何だって!?」
「ですから、お急ぎください。城までご一緒しましょう」
言われるまでもなく、ゾロリは走り出していた。
馬車に乗ったゾロリは一言もしゃべらずにじっとしていた。そんなゾロリにイシシとノシシは言葉もなく不安そうに様子を伺っていた。
「サラ、詳しいことを教えてくれないか」
その声は低く沈んでいた。
無理もない、ゾロリにとってガオンは大切な恋人なのだ。その恋人が怪我をしたなんてにわかには信じられないでいる。
サラはきっと顔を上げたゾロリに負けないよう、声を張った。
「詳しいことは私も伺っておりません、ですが命にかかわる大事ではないとのこと。そこのところは安心してようございます」
「そうか…」
ゾロリは背もたれに身を預けるとふうと息をついた。
それでも会うまでは安心できないと、彼女の心は落ち着かない。
やがて、併走する馬車が増え始めた。みなガオンのところへ見舞いに向かう馬車なのだ。
(ガオン…)
ゾロリはそっと、胸の中でつぶやいた。
城に着くと城門の前には馬車がごった返していた。サラの馬車はその最後尾に着いた。城門は見えているのに中に入れない。サラはすこし苛立ちを見せたが、ゾロリは落ち着いていた。
「まだ入れないの?」
「はい、我らの前に10台ほどおりますので…」
御者は申し訳なさそうに答えた。御者のせいではないので彼を責めても仕方がない。
ゾロリは腕を組んだまま微動だにしなかったがやがて意を決したかのように馬車の外に出た。
「ゾロリせんせ?」
「ゾロリ様?」
双子とサラはどこかへ急ぐゾロリを追って外に出た。
「馬車はそのまま城内へ!」
「はいっ!」
サラは王女らしく命令を忘れなかった。ドレスのすそを持ち上げてゾロリの後を追う。
「せんせ、どうするだ?」
「忘れたのか、ガオンがいつも使っている裏口があるだろ」
イシシとノシシはあっと声を上げた。サラだけはわからないのでそのままついてきている。
城の周囲をめぐる小道を駆け抜け、ゾロリは例の裏口にたどり着いた。
「ここに裏口があるんですの?」
「あいつは城まで改造したらしくってな…よいしょっと」
ゾロリはブロック塀に爪を立て、そのうちの一個をえいこらしょと引き抜いた。そして現れた青いボタンをぽちっと押した。すると塀がゴゴゴゴゴと音を立てて開いた。
「すごい…」
サラはほえーと感心するしかできなかった。さっとゾロリを見返ると彼女はすでにメイド服に着替えていた。
「ゾロリ様…」
「俺はガオンの部屋を知ってるからそのまま行く。イシシとノシシはサラ姫と一緒にいてくれ」
待機を命じられた双子は顔を見合わせた。そして不安そうにゾロリを見上げた。
「せんせー…」
「…頼む」
ゾロリの声も表情も、今はただガオンのことだけを思っていた。
そんな双子の肩を抱いたのはサラだった。
「お姫様…」
「双子のことはお任せください、さあ」
サラの言葉にイシシとノシシもうんと頷いた。すべては大好きなせんせのために。
「気をつけて、せんせ」
「…ありがとう」
黒いスカートを翻し、ゾロリは城内へを姿を消した。
そんな後姿を見送った双子は少し寂しい気持ちになった。自分たちがどんなに慕っていてもゾロリせんせにはガオンが一番なんだと、改めて思い知らせれたようなものだ。
ゾロリが決して自分たちを捨てはしないとわかっていてもこうして離れてみれば寂しいには違いない。
そんな双子を思いやるように、サラはそっと二人を抱きしめた。


相変わらず城内への侵入は簡単だった。
ガオンが安静にしているせいか、城の中はガオンの部屋に近づくほど静かだ。
(ガオン…)
ゾロリは自然と足を速めた。エナメルの靴がタンタンと軽やかに廊下を蹴る。
ガオンの部屋から、一人のメイドが出てくるのが見えた。それをやり過ごしてから、彼女はガオンの部屋の前に立った。
そして重厚なドアを開く。
一歩一歩進むと天蓋が降りたベッドの上にガオンが横たわっていた。
「! ガオン…」
絹の夜着を着せられ、腕と首に包帯を巻いていた。顔のカーゼが痛々しいが、それ以上に目に巻かれた太目の白い布がゾロリの不安をあおった。
「ガオン…」
声に不安の色が乗った。ガオンは眠っているのか、静かに横たわっていた。
「生きてるか…?」
ゾロリはベッドの横にひざまずくとそっとガオンの手をとった。
「…ゾロリ?」
「ガオン!?」
ゾロリははっと顔を上げた。思わずつかんだ手をぎゅっと握る。ガオンは口元だけでふっと笑った。
「…来てくれると思っていた」
「いったい何があったんだ?」
「研究中に機械が爆発して、小火を起こしてな。自分で消火したんだがそのときに小さなやけどを負ってしまって…」
そういえばここへくる途中になんだか焦げ臭かったような気がしたが、それは小火の名残だったのだ。王子の研究室は現在修復中だという。
「で…首と目はどうしたんだ?」
「煙でいためてしまったんだ。声も少しおかしいだろう?」
そういうとガオンは少し咳き込んだ。ゾロリは背中をさすろうとしたがガオンは横になっていたし、彼が手で制したのでそのままにしておいた。
「目も、そのうち見えるようになる。眼球も視神経も傷ついていないそうだ」
「そうか…安心したよ」
ガオンはすっとゾロリの頬に手を伸ばした。ゾロリもそっと自分の手を添えた。
「すまないな」
「なに謝ってんだよ」
ゾロリは苦笑した。それでも緊張が緩んだのか、闇色の瞳からぽろりと涙がこぼれるのを抑え切れなかった。
「…泣いているのか、ゾロリ」
「心配したんだぞ、馬鹿」
ゾロリはぎゅっと添えられた手を握った。ガオンはさらに手を伸ばし、彼女の髪に手を絡ませた。ゾロリは導かれるようにベッドの端に座った。そして頭をふっとガオンに寄せた。
「ガオン…」
「ゾロリ…」
頬をこする包帯が、ゾロリの涙を吸い取った。
ゾロリはガオンに覆いかぶさるようにして口付けた。ガオンはすっと背中に手を伸ばす。
繋がる温かさが二人の間をゆっくりと巡る。
「なぁ、ガオン?」
「なんだ?」
「俺が入ってきたとき、なんで俺だってわかったんだ?」
絹のように光る金の髪がガオンの頬をさらりとなで、彼の手がそれを捕まえた。
「匂いがした。君の匂いが…」
さわやかな草とお日様の温かい匂いが彼女だと知らしめていた。一時的に視力を失ったガオンの嗅覚を鋭敏にしたのだ。
「それに、私の手を握ってくれたときもわかったよ。君の匂い、声、温かさ…私は全部知っているよ」
「ガオン…」
ゾロリはふっとガオンの胸の上に顔を乗せた。
無事だったのがうれしくて、愛してくれているのがたまらなくて。
「またメイドの格好をしているな」
「そのほうがお前の面倒を見れるからな」
ゾロリは涙をぬぐいながらくすくすと笑った。


「ガオン、ご飯だぞ」
「ああ、食べさせてくれるよな」
ガオンは起き上がってにっこりと笑った。寝ている必要はないのだがゾロリが見張っているのでベッドの上でおとなしくしているしかできない。それでもゾロリが相手をしてくれるので退屈はしない。
「もちろん。まだ目が見えないからな」
ゾロリは食事の乗ったトレイをテーブルの上にいったん置くと、ベッド用のサイドテーブルをガオンの前に運んできた。そして再びトレイを持つとガオンの前に添えた。
「お前、いいもの食べてるな」
「…見えないんだぞ、メニューは何だ」
「えーっと…肉、野菜、米、スープ」
「…わかった」
この匂いはたぶん、牛肉のソテーだ。ニンジンのグラッセとブロッコリーもついている。別皿にサラダが盛ってあって、平皿にライスが乗っているのだろう。スープはあっさりとオニオンスープだ。
「で? どれから食べる?」
「そうだな、サラダをもらおうかな」
「さーらーだっと」
ゾロリはレタスをくるっと畳んでフォークに突き刺すと手を添えてガオンの口元に運んだ。
「はい、あーん」
「……」
ガオンは無言で口をあけた。
「あーんって言え、言わないとやらないぞ」
「からかっているのか、ゾロリ」
「…恋人同士の基本かと思ったのに」
ゾロリはそっとフォークをおろした。
ガオンは悲しそうな声にはっとした。彼女は甘えることを知らないし、恋人とどう接したらいいのかわからないと告白してくれた。
せっかく彼女なりの努力を見せてくれたのにそれを自分で拒否しようとしている。
「悪かった、ゾロリ」
ゾロリはふっと顔を上げた。
「…やり直してくれないか」
「うん…」
ゾロリは再びフォークを持ち直した。
「あーん」
「あーん…」
ガオンは少し頬を赤らめて口をあけた。ゾロリがそっと差し入れてくるレタスをフォークごと咥えるとそっとレタスだけを引き抜いた。ゾロリもそっと口から抜いた。
「美味いか?」
「ああ、君が食べさせてくれるからな」
「そっか…」
お互いなんだか照れくさくなって、ゾロリはしゃくしゃくとサラダを突き刺した。
「これ、美味そうだな」
「食べてみたらどうだ。うちのシェフはいい腕しているぞ」
そういうとガオンはゾロリにフォークを握らせ、肉をひとつ突き刺させるとそれを自分に持たせてほしいといった。
「ほら、口をあけてくれ」
「あーん」
ガオンからはゾロリが見えていないので彼女のほうがフォークに向かっていった。
肉を食いとり、はもはもと咀嚼する。
「おお、んまー」
ゾロリは幸せそうに微笑んだ。ガオンの目のはそれが浮かぶようだ。
「そういえば君の食事はどうする?」
「あとで食堂にもぐりこむよ。メイドさんだから怪しまれないだろ」
それからゾロリはガオンに食事を食べさせた。トレイを下げ、テーブルを片付けてからガオンのそばに腰を下ろす。白い手がガオンの頬にそっと触れた。
「火傷の痕は痛まないか?」
「ああ、腕は大袈裟に包帯が巻いてあるがな」
「何言ってんだ、みんなお前を心配しているんだぞ」
「城の外は大騒ぎになっているようだな」
ガオンは見えぬ目を窓の外に向けた。彼の代わりにゾロリがそっと窓辺に立つ。サラと双子はもう城内に入っているだろう。それでも正門は見舞い客で未だに混雑を見せていた。
「なに、社交辞令だろう」
「でも王様大会の時はお前のそばにたくさんのお姫様がいたじゃないか。これを機にってやつも多いんじゃないか?」
「だとしても私には君一人で十分すぎるくらいだ」
ゾロリはくるりと振り返ってにっこり笑った。僅かに風を切る音で分かる。
穏やかな雰囲気の中でドアをノックする音が聞こえた。ガオンに代わってゾロリが応対に出た。
「ガオン王子、サラ姫様がお見えですが」
「サラ姫…ああ、お会いするそうです」
ゾロリは口調を変えて姫と双子を部屋に入れた。
「よかった、ゾロリ様。ガオン王子とお会いできたのですね」
「せんせー」
双子はゾロリに抱きついた。ゾロリはよしよしと頭を撫でてやる。
サラはガオンに向かって敬礼し、ガオンも見えないながらも挨拶を返した。ゾロリに手をとられ、テーブルまで歩いてくる。二人は向かい合わせに着席した。
「その節は失礼いたしました。お加減はいかがですか?」
「ええ、だいぶいいですよ。姫こそ、その後はいかがですか」
ガオンとサラは一度婚約しようとした仲だ。お互いに恋人がいたのですぐに破談となったのだが親交は今でも続いていた。
「はい、騎士団の団長とつつがなく婚約が整いました。来春には結婚式を挙行する予定ですの」
「ほう、それは。おめでとうございます」
「おめでとう、サラ姫」
ゾロリはイシシとノシシにクッキーを与えて黙らせ、サラとガオンに紅茶を入れて供した。
「ありがとうございます、ガオン王子、ゾロリ様」
ふわりとした紅茶の香りにサラはほうと目を細めた。
「熱いぞ、ガオン」
「ああ」
ゾロリはガオンの手をとるとそっとカップに触らせた。場所が分かるとそのまま持ち上げ、口に運んだ。
「おいしいよ、ゾロリ」
「ありがとう。そのまま下に置いていいぞ」
ガオンの手はゾロリに導かれる様に動いている。その様子を見ていたサラはほほえましいとばかりに笑顔を向けた。
「そうしているとお二人は本当にお似合いのご夫婦のようですわね」
「そ、そうですか?」
「そんなこと…なぁ」
言葉で否定しつつも満更でもなさそうな二人は照れ笑いをしている。
(うらやましいことですこと…)
サラはまだ温かな紅茶を静かにすすった。


早晩、ゾロリとガオンは再び二人きりになった。
サラが双子を連れ出してくれたし、双子も大してわがままも言わずに彼女についていったからだ。
医者がガオンの腕の包帯を変え、喉と目の様子をみた。もう大したことはないがもう一晩用心するようにと言い置いて退出した。
「大したことなくてよかったな、ガオン」
「ああ、さっきうっすらと君が見えたよ」
「そうか…」
ガオンはそばにいたゾロリをすっと抱き寄せた。
「が、ガオン…」
ゾロリは頬に唇を寄せ、自分の太腿を撫でるガオンに乱暴なことができずにそっと押し返した。
「怪我人がなにやってんだ!」
「だから、大した怪我じゃないんだ。いいだろう?」
「だっ、ダメだっ! 昼間はあんなに大人しくしてたのにっ!」
ガオンの手がするすると下着の中に入ってきたのを、ゾロリは足をそろえることでしか防げない。
「やめろって、こらっ…あんっ…」
「見えなくても分かるんだよ、君の事は…な」
「やんっ、はっ…」
「私の世話をしてくれるなら最後まで頼むよ、ゾロリ」
「…ばかっ」
ガオンに抱きしめられたままゾロリはベッドの上に押し倒された。
「ガオン…」
ガオンはさらりと目の包帯を取った。ブルーの瞳がきらりとゾロリを射抜く。
「…ちゃんと俺が見えてるか?」
「ああ…金の髪、闇色の目、白い肌…私のゾロリだ」
ゾロリはガオンのきゅっと抱きついた。
「よかった、ガオン…」
「ゾロリ…」
ガオンはふっと彼女の首筋に顔を埋めた。白い首に所有の印を刻む。ゾロリは小さく声を上げた。
「ガオンっ…あんっ…」
ゾロリはガオンをやんわりと押し返した。闇色の瞳に映るガオンはいつもどおりに笑顔で彼女を見つめていた。
「…キスがまだだぞ」
「それは失敬」
二人はどちらともなく唇を寄せた。軽く触れるだけの口づけがだんだん深くなっていく。互いの舌を絡めあい、唾液を移しあうことさえなんの羞恥も伴わなくなった。
水音を立てて二人の情事が始まった。
ガオンは彼女の胸元をボタンを一つ一つ丁寧にはずした。豊かな乳房が黒いレースをあしらった下着の中に収まっている。
「可愛い下着だな、ゾロリ」
「お気に入りなんだ。破らないでくれよ」
「分かっているよ、そんな乱暴はしない」
そういうとガオンはカップの部分だけを押し下げて白い乳房を露わにした。小さな桃色の乳首に触れるとゾロリはぴくっと震えた。その隙を逃さず、ガオンは彼女の胸に手を伸ばした。片手で揉み、片手で寄せながら乳首をちゅっと吸い上げた。
「あんっ…ガオンっ…」
ゾロリはもぞもぞと動いてはみたが逆にガオンに隙を与えた。彼女の足の間に自分の膝を入れ、閉じられないようにしている。
「あっ…ガオンっ」
乳首はガオンの舌によってくちょくちょに濡れていた。
「溶けてしまいそうだな、ゾロリ」
「んっ…お前に溶かされるなら悪くはないな」
そういっていたずらっぽく微笑むゾロリにガオンは苦笑して見せた。ふにふにと胸を揉み、開いた片手をスカートの中に滑り込ませた。
ガオンの指が下着の中を弄っている。女陰と陰核の区別なく弄ばれ、愛液でしとどに濡れ始めた。
「あああんっ、はあんっ…ふっ…」
「いい声だ」
ガオンはゾロリのスカートをめくりあげるとそのまま下着をずり下ろすと、膣内に指を入れてかき回した。
「あっ! ああっ、いやああっ! が、ガオンんっ…」
切ないような甘い声がやわらかく響いた。ぐちゅぐちゅと股間から響く淫猥な音だけは彼女の羞恥を煽るらしい、ゾロリは顔を真っ赤にしてガオンの肩に手を添えた。
潤んだ瞳がガオンを見据えた。
「もう、いいな」
ガオンはゾロリを抱き起こすと、入れ替わるように自分が寝そべった。陰茎はふるんと揺れつつ上を向いている。
「なんだ、ガオン?」
「一応私は怪我人だからな。君の上に乗れそうもない」
「だから俺に乗れって? 都合のいい話だな」
ゾロリは天を向くガオンの男根にそっと唇を寄せた。乳房がふにゅんとあたる。
「んっ…」
「なんだ、当たっただけなのに…お前も可愛いじゃん。いいよ、今日は乗ってやる」
ゾロリは口元をふっと緩ませるとガオンの上にまたがった。そしてガオンの陰茎に手を添え、自身の女陰にあてがった。
「んっ、んんっ…」
ずる、と湿った音がしてゾロリの胎内にガオンの男根が侵入した。そろりと入れてはみるけれど自分の体重も手伝って思ったより早くガオンが最奥へ達した。
「あはあっ…んっ…くっ…」
「ゾロリ…」
「んっ、ガオンの…おっき…ぃ…」
ゾロリははあはあと息も荒く腰を揺らめかした。口角からは飲みきれなかった唾液が銀の筋になってこぼれている。奥まで届いているガオンの男根がゾロリを徐々に高みへと追い詰めていく。
それはガオンも同じだった。ゾロリの柔らかく温かい襞を持つ膣内できゅっと締め付けられ、擦られているのだ。先走りの汁が彼女の分泌する愛液と交じり合って卑猥な音を立てている。
「あ…ああ…んっ」
玉結ぶ汗がきらきらと光り、ゾロリの肌を彩った。彼女が動くたびに柔らかな乳房もぷるんと揺れていた。ガオンはその胸を掴んで乳首をくりっと弄った。
「あんっ、ああああんっ、やっ、ガオンっ!!」
「ゾロリ…」
「ぁはあ…も、もうだめぇ…んっ…あんっ!!」
ひときわ高い嬌声を上げて、ゾロリの体がびくびくっと震えた。その拍子に膣内のガオンを締め付けてしまい、ガオンもひとこと呻いて彼女の胎内に精液を放出した。
「は…っ、はあっ…」
ゾロリは体を少し前に倒しながらゆっくりとガオンを引き抜いた。胎からとろりと愛液が触れ、足を伝って流れている。ゾロリは気に留めることなく、ガオンのそばに膝で移動した。
「ガオン…」
「とてもよかったよ、ゾロリ」
ガオンは彼女の首に腕をかけるとそっと引き寄せて口づけた。
「目は、大丈夫か?」
「ああ、痛くないよ。君の顔がはっきり見える」
「そっか…」
ゾロリは疲れが残る顔で、それでもにっこりと微笑んだ。
「ちょっと、シャワーを浴びてくる。そしたらお前も着替えないとな、汗かいただろ」
「ああ、すまない」
ゾロリはそっとガオンのそばを離れると勝手知ったるなんとやらでバスルームへ向かった。
メイド服をゆっくりと脱ぐとそっと体を撫でた。そして安堵の故か、両手で顔を覆った。
「ガオン…よかった…」
ゾロリの瞳から一粒の真珠がポロリとこぼれた。


「待たせたな、ガオン」
「随分早かったじゃないか、ゾロリ」
ゾロリが部屋に戻るとガオンはもう本を読んでいた。彼女がいない間は暇でしょうがないのだ。ゾロリはつかつかとガオンに近寄るとさっと本を取り上げた。
「何読んでるんだよ、もう少し養生してろ」
「見えるんだ、いいだろう?」
「だーめ。ほら、着替えろ。そして包帯を巻きなおすぞ」
ゾロリは取り上げた本をテーブルの上に置くとクローゼットから探してきた夜着に着せ替えた。ガオンも諦めて彼女になされるがままにしている。実はこうして世話を焼いてもらうのはとても嬉しいのだ。
きっと彼女とはうまくやっていける気がする。
ガオンは優しい未来に思いを馳せた。
「なににやけてんだ、気持ち悪いな」
「いやなに。君が近い将来いい妻になってくれるんじゃないかと思ってな」
「さあ、それはどうだかな」
ゾロリはさっきまでガオンが着ていた夜着と下着を片付けながら、彼の顔も見ずに言った。
「どういう意味だ?」
「近い将来、お前の奥さんになるとは限らないさ」
ぴっと意地の悪いウインクを投げて、ゾロリはけらけら笑い出した。
「じゃあ、どうしたら私の妻になってくれる?」
「んー、そうだな、とりあえず」
ベッドの上で王子らしくなく胡坐をかぐガオンに向かって、ゾロリは手にしていた包帯をびんと引っ張った。
「包帯巻かせろ」
「わかったよ、でも明日の朝でいいだろう? 君の寝顔も見たいから。明日の朝にはちゃんと包帯を巻くよ」
「しょうがないなあ、明日の朝、絶対だぞ!?」
「ああ、約束する」
そういうとガオンはまたしても彼女を抱き寄せ、約束の口づけを施した。
「君は隙だらけだな」
「お前の前だからな」
二人はもう一度口づけを交わした。


翌朝になって、ガオンは約束どおり包帯を巻いたのだが、診察に来た医師によってもう必要ないからと取り外されてしまった。
「まあ、なんだかんだ言ってよかったな、ガオン」
「ああ。君にも随分心配をかけたな」
しゃりしゃりとりんごの皮を向くゾロリの手つきは鮮やかだった。
「ほーら、うさぎさんー」
「ほお、可愛いな」
「小さいころママがよくやってくれたんだ。ほら、食べろよ」
「いただこう」
朝の日差しは柔らかく二人を照らしていた。
「ゾロリせんせー…」
「もう少し二人きりにしてあげましょう、ね?」
「うん…」
サラ、そしてイシシとノシシは扉の隙間からそっと二人の様子を覗いていた。
二人きりにしたのは、やがて別れが近いことを知っていたからだ。
「もう、旅に出るのか」
「…お前ももう大丈夫みたいだからな」
ゾロリはメイド衣装に手をかけると、ばっと引き剥がすように布を持ち上げた。
彼女はもう、空色の着物に濃緑の袴を着けた旅姿だった。金色の髪は結い上げず、そのまま泳がせている。
「行くよ、もう。長くいると別れが惜しくなるからな」
「無事を祈っているよ、ゾロリ。そしてまた会いたいよ」
「それはこっちのセリフだ、ばーか」
そういって微笑んだ彼女に、ガオンは花瓶のバラを一輪投げてよこした。それはふわりと飛んで彼女の手の中に収まった。
「…ここで別れよう。私がうろうろしていると厄介だからな」
「ああ……元気でな、ガオン」
ゾロリはそれを大事そうに胸元に刺すと、振り返りもせずに部屋を出て行った。
「ガオン…」
そっと撫でたバラは情熱の赤、そして愛しいという言葉。


「おーい、イシシ、ノシシ。行くぞ」
「あー、ゾロリせんせー」
サラの部屋でクッキーやケーキを食べていた双子はゾロリの姿を認めると口いっぱいに頬張った状態で彼女に抱きついた。
「ももりえんえー」
「…いいからちゃんと食え」
「あい」
二人はもしゃもしゃと噛んで飲み込んだ。そんな双子の後ろからサラがやってきた。
「ゾロリ様、ガオン王子は?」
「今朝、目の包帯が取れたよ。サラ姫には世話になった。ありがとう」
ゾロリはそっと右手を差し出した。サラも迷うことなくその手をとる。そして互いにぎゅっと握り合った。
「いいえ、あのときの恩返しだと思えばなんでもないことですわ」
「…ありがとう」
女同士、にっこりと微笑んで。二人はそっと手を離した。
「せんせー、用意できただー」
「じゃあ、行くか」
「はいだー」
「ああ、お待ちくださいませ、ゾロリ様」
双子を伴って立ち去ろうとしたゾロリを、サラが思い出したかのように呼び止めた。
「なんだ?」
「ガオン王子から託っておりました。ゾロリ様に渡してほしいと」
そういってサラが取り出したのは大きな袋がふたつ。いつも城を去るときにガオンが渡してくれる当座の食料だ。
「ガオンのやつ…」
ゾロリはそれを受け取るとぎゅっと抱きしめた。サラも双子もそんな彼女を温かい気持ちで見つめた。


「ガオン王子」
「サラ姫、渡していただけましたか」
サラはガオンの部屋を訪れるとベッドの上に起き上がっている王子にむかって頷いた。
「ご自分でお渡しになればよろしいのに」
「怪我人の私が所望するとおかしいでしょう」
「見舞い客の私が所望してもおかしいですわよ」
そういって二人はくすくす笑いあった。そしてそろって窓の外に目を向ける。
「今頃どこを旅しておいでなのでしょうね、ゾロリ様は」
「なあに、まだその辺をうろうろしているでしょう」
「ゾロリ様のこと、何でもわかっておいでなのですね」
サラは小さく笑みをこぼした。彼女の言葉にガオンはあごに手をかけてうーんとうなった。
「なにか?」
「いえ、彼女のことはまだ知らないことも多いですよ。特に…」
どうしたら、彼女をここに留め置くことができるのか、とか。
「ガオン様?」
きょとんと自分を見つめている姫に気がついたガオンはなんでもないと小さく首を振った。




青い空の下で幼い双子とともに旅行く君を思って
太陽はやや弱く日差しを投げかける
それはとても温かい

ほんの少しでいい
君がそばにいてくれたなら
愛しさは少しずつ、でももっともっと増していく




≪終≫




≪やや弱いもれ≫
今回の『目を怪我したガオン王子をゾロリせんせが看病する』というシチュエーションは前野merry様より拝借いたしました。ありがとうございましたm(__)m
感謝の意味を込めまして前野様に進呈いたします。

タイトルの『メゾピアノ』は音楽用語で『やや弱く』の意味ですが、今回の話とどう関連するのかは書いた自分もよくわかりませんでした(ぅおいおい)。でも音の響きはよかったんだよ、メゾピアノww
すみません、自刎して首を地球一周させるので許してください。注: 文字用の領域がありません!

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