いつかのメリークリスマス 大きなウインドウの外を流れるのは 冷たい粉雪と暖かい衣装に包まれた人々 楽しいことと嬉しい事を抱えて歩いていくんだ 母親の夢だった小さな雑貨屋はユキへの形見だった。元気だった母親が突然の病で逝ってしまってからもう3年になる。 窓の外はクリスマスの雰囲気をいっぱいに溢れさせて、街ゆく人たちは思い思いに歩いている。 この雑貨屋にも何人かの客が入ってプレゼントを選んでいく。それは友人へのものだったり恋人へのものだったりさまざまだ。それらを丁寧に包みながらユキは誰の頭上にも等しく幸福なクリスマスが訪れることを祈った。 しかしこんな小さな雑貨屋では高が知れている。クリスマス直前だというのに客はほんの数人で後は閑古鳥が鳴いていた。 「…暇」 レジカウンターに椅子を置いて座り込んでいたユキはつっぷして窓の外を眺めた。 この店がなくても食べることに困らない。でも母親の夢を簡単につぶすことができなくて守ってきた。 「でも暇ー」 退屈しているユキはふと立ち止まってウインドウを眺めている若い人を目に留めた。狐の耳が三度笠からひょこんと飛び出ている。縞模様の合羽が渋いと言えば渋いがどう見ても旅姿のようだった。隠しているのだろうがどう見ても女性だろう。同じ女であるユキにはそれがわかった。 その女性は双子だろうか、幼い兄弟を連れていた。その兄弟はお菓子が詰まった赤いブーツを持っていた。男の子たちは同じ顔で、それを大事そうに抱えていた。店に入ってきたのは兄弟は双子だった。後から入ろうとした女性を追い出して自分たちで品物を選び始めた。 「ちょっと、お前ら」 「いいから出ててほしいだよ〜〜」 双子の様子からユキはなんとなく事情を察した。そのふたりはあの女性のためのプレゼントを選ぶつもりらしい。ウインドウの外では女性が金色の髪をちらちら揺らしながら中の様子をうかがっていた。店のものを壊さないか不安らしい。しかし彼女の不安をよそに双子は丁寧に商品を扱っていた。 彼らが手に取ったのは小さな赤い花がついた髪飾りだった。ついた値札をひっくり返して頷いている。 「これにしようか、ノシシ」 「んだな、イシシ。これならせんせも喜んでくれるだよ」 二人はにっこり笑うとレジにいたユキのところへやってきた。 「これください」 「はい、プレゼントね」 ユキはそれを両手で受け取ると小さな箱に詰めてそれから包装紙で丁寧に包んだ。 「リボンはどれにする?」 「赤いのにして」 「お花みたいなやつがいいだ」 「これね」 ユキが示したリボンに双子は満足そうに微笑んだ。フラワーリボンを貼り付けてユキは彼らにそれを差し出した。 「はい、500円ね」 「500円…消費税はいいだか?」 「税込みで500円よ。それ最後の一個だったの。よかったね」 ユキの言葉に双子はさらに笑顔を明るくした。そんな笑顔を見るのがユキは大好きなのだ。 双子は財布をかき回して500円を捜していた。多分なけなしのお小遣いをためたのだろうか、渡されたお金は小銭だらけだった。それでもちゃんと500円あった。 「はい、確かに500円あるわ。どうもありがとう」 ふたりはえへへと笑いながら店を出た。待っていた女性は二人を見て嬉しそうに微笑んだ。そして二人をぐりぐり撫でるとそのまま歩き出した。男の子たちは小さな足で少し足早についていった。 あの男の子たちにとってその女性は大事な人なのだろう。 ユキは髪飾りがあった場所に新しい別の商品を置いた。紫のガラスをアメジストに見立てて作られたリングだ。シルバーの台座が紫のガラスを優しく包んでいる。 双子が出て行ってしばらくしてから、今度は3人連れのお客さんが入ってきた。 「すみません、ほうきはこちらでお預かりしますので」 「あ、ああ、すみません…」 小さな雑貨店に大きなほうきは正直言って迷惑だ。ユキはレジカウンターの背後に、彼らに見えるように立てかけた。 ほうきを持っているということは彼らは魔法使いだ。一人は黒を基調にした衣装で細い体を包んでいた。もう一人は白い上下のカジュアルスーツに薄い紫のインナーをつけていた。最後の一人は魔法学校の制服を着て、白衣の女性をお姉ちゃんと呼んでいた。 女性二人は楽しそうに品定めをしていたが男性のほうはこういった店が苦手なのか隅っこのほうで顔だけを動かしてじっとしていた。女性陣二人に引きずられて来店したものと思われる。 「どんなのがいいのかしら。ネリーを助けてもらったお礼もしたいし」 「可愛いのがいいわよ。ゾロリさんってあんまり飾らないけどきっとなんでも似合うと思う」 あまり会話に聞き耳を立てるものではないが、聞こえてくる限りでは小さな女の子の方はネリーとかいうらしい。女性はふと背後を振り返り、突っ立ったままの青年に声をかけた。 「もー、ロジャー先輩も一緒に選んでくださいよぉ」 「いや、ミリー君、私は…」 苦手だからと言いかけたにも関わらずロジャーとかいう青年は引っ張られて輪の中に参加させられた。 (まぁ、こんな可愛い雑貨屋に男がいるほうが稀だからね) ユキは伝票を片しながら3人の様子を伺っていた。基本的に雑貨屋では接客をしない。客から案内を乞われない限りユキがカウンターを離れることはない。 「ねぇ、これチョー可愛い。きっとゾロリさんに似合うと思うの」 女の子が取り上げたのは純銀のワイヤーで編んだリングだった。中央に緑のガラスを編みこんだものだ。 「いいわね、それ」 女性陣がこれにしようと決めかけた時、男がそっと口を開いた。 「いや、指輪だと…ゾロリの恋人が勘違いするんじゃないか…と思うんだが…」 これには女の子たちもそしてユキも目をぱちくりさせた。言った男は自分の言葉に自信がもてないようで顔を赤らめて消え入りそうになっている。 (その指輪じゃ勘違いしようもないと思うんだけどね) ユキはとっくに終わった伝票整理をまだ続けていた。そうでもしていなければ退屈で、客の品選びに口を出してしまいそうだからだ。 「ゾロリさん、彼氏いるんだ…」 ミリーが呟くように言った。ネリーもきょとんとしている。ネリーはゾロリの恋人に会ったことがあるがそのときは彼氏だと紹介されなかったのでわからない。ロジャーでさえ会った事はないのだ。 「じゃあ、指輪はやめて別のものにしようか」 「でもこれなら大丈夫じゃないかな。ガラスビーズの指輪でヤキモキするような彼氏ならチョー要らないって感じ?」 ネリーの突っ込みにユキは心で拍手した。 (いいこと言った!) ミリーとネリーの姉妹はくるりと後ろを振り向いた。決定権は青年にあるようだったが彼はすでに店の外に逃げていた。 「先輩ったら…」 「意外と照れ屋さんなんだ、ロジャーさん…」 姉妹は顔を見合わせて笑った。 「すみません、これをプレゼントでお願いします」 「はい、おリボンはいかがしましょう?」 「えっと、この白い包装紙に赤いリボンでお願いします」 「かしこまりました。少々お待ちください」 ユキが指輪を白い紙に包んでからラッピングする。その間妹のほうはまだ店内をちょろちょろしていた。幼い彼女の目にはきらきらに光るアイテムが鮮やかに心を捉えるらしい。 「おまたせしました」 ユキは商品を引き換えに現金を受け取り、小額のつり銭を渡した。それから3人分のほうきを手渡して店のドアを開けた。 「ありがとうございました」 3人は一礼して路地を歩き出した。 外は薄雲に覆われていたが雪はまだ見えない。かわりに冷たい風が吹いている。温かい店内にいたユキはわが身を抱きながら中に入っていった。 それからあまり時を置かず、一人の警察官が店に入ってきた。ベージュの長い耳がぺろんと垂れている。実直さだけが売り、といった感じの警官は店に入ると一枚のチラシを差し出した。 「歳末大警戒中です。強盗や空き巣、引ったくり等ご注意ください」 「はあ、わかりました。こんな小さな店じゃ強盗に入っても盗る物もないですけどね」 「店舗だけでなくご自宅のほうでも警戒してくださいね」 そういうと警官はさっと敬礼して店を出た。 「おまわりさんも大変だぁ…」 クリスマスも暮れもお正月も、おまわりさんは働いている。 そのおまわりさんと入れ違うようにまたお客が入ってきた。今度は襟元にファーをあしらった黒いインバネスを来た青年が入ってきた。狼の耳がぴんと伸びている。フェアブロンドの髪がサファイアブルーの瞳を僅かに覆っていた。 「あの」 「はい、なんでしょう」 ユキは営業スマイルで対応した。男は少しそわそわしながらウインドウをチラッと見やった。 「あの、ウインドウにおいてあるあの大きな熊のぬいぐるみは売り物ですか?」 「はい、歴とした売り物です。お取りしましょうか」 「お願いします」 ユキは乞われるままにウインドウに飾ってあった熊のぬいぐるみを取った。冗談で置いていたものがまさか売れるとは思わなかった。 「ラッピングはいかがしますか?」 「いえ、そのままで。あ、この指輪はお願いします」 「はい、かしこまりました。ぬいぐるみはこのままお持ち帰りになりますか? 配達にすると残念ながらクリスマスには間に合わないんですけど…」 「大丈夫です、持って帰ります」 ユキは手早く、でも丁寧に彼が取った指輪を包むと熊を抱えてドアを開けた。 「支払いはカードで?」 「できれば現金で。小さいお店なのでカードは取り扱ってないんです」 ユキの言葉に青年は困惑したようだったがそれでもなんとか現金で支払ってくれた。 「ありがとうございましたー」 青年は大きな熊を抱き、指輪をポケットに仕舞って歩き出した。道行く人々には巨大な熊が歩いているようにしか見えないだろう。誰に贈るのかは知らないが難儀な人もいたものだと、ユキはそんな後姿を見送った。 この客が店を去るころにはすっかり夕方になっていて、道行く人もだんだん足早になっていた。 空には薄く雲が広がっていた。もしかしたら雪になるかもしれないくらいに冷え切っていた。 「そろそろ店仕舞おうかな…」 そういってユキが店に入りかけたとき、初老の男性が一人、ウインドウを覗いているのが目に入った。これではまだ店じまいというわけにはいかない。 男性は明らかに飛行機乗りと思われる衣装に身を包んでいた。 ふと、男性が顔を上げた。ユキはあまりじろじろ見すぎたかと思い、そそくさと店に入ろうとした。 「あ、ちょっと」 「はい?」 男性はユキに声をかけてきた。 「ここのご主人は君かい?」 「はい、私ですが…なにか?」 ユキは小首を傾げつつその場に留まっていた。男性の真意が見えないからだ。さっきおまわりさんが来て警戒しろと言っていたので少し警戒もしている。 男性はふっと口元を歪めた。 「私の娘がまだ小さいころここで熊のぬいぐるみを買ってやった事があってね。そのときのご主人とあまり変わらないように見受けられたから」 「それは母です。3年前になくなりましたけど…」 「…そうか」 亡くなったと聞かされた男性は僅かに天を仰いだ。この男性も妻を亡くし、娘を捨てて旅の空にある。 「娘は…もうぬいぐるみなんて喜ぶ年じゃないんだが…」 「もっと小さな熊もありますよ。よろしかったらどうぞ」 そういうとユキは男性を案内して店の中へと入った。彼女は5センチくらいの小さな熊を見せてあげた。主にキーホルダーやストラップに使われるサイズである。 「随分小さいんだな」 「ええ。でもこれならきっと娘さんも喜ばれますよ」 ユキの勧めにしたがって男性はその熊を2個購入した。彼はラッピングは要らず、別々に包んでほしいと言った。面倒くさいからとか自分でやるからと言う客も珍しくないのでユキは言われるままにした。 「はい、どうぞ」 「すまないね、閉店前に」 「いいんですよ」 ユキは男性を送ろうと外に出た。先ほどよりも雲が低く色濃く広がっている。 「雪になりそうですね」 「クリスマスに雪が降るほうがいいだろう。もっとも飛行機乗りには辛いな」 男性はそういって空を見上げた。ユキは飛行機のことはわからないが天候がよくないのはやはり大変なのだろう。 「お気をつけて」 「ありがとう」 そういうと男性はすたすたと歩いて去っていた。 ユキは今度こそ店じまいを始めた。今日はもう誰も来ないような気がしたのだ。 そしてユキの知らないところで今日売られていった品物がすべてある一人の女性のところへ贈られた。 クリスマスイブになった。 ゾロリはイシシとノシシに両手を引かれて歩いていた。最近この双子はゾロリを真ん中にして歩くのが楽しいらしい。 「せんせ、今日も野宿だか?」 イシシとノシシはゾロリに買ってもらったお菓子入りのブーツをしっかり抱えていた。 二人の問いにゾロリは立ち止まって少し考えた。彼女はもう行く先を決めているが、どう切り出そうかと迷っている。 「あのな…ガオンのところに行こうかと思ってるんだ」 「ガオンのところ…」 二人は揃ってゾロリを見上げた。ゾロリは少しはにかんでいた。 いつも自分たちのそばにいてくれるけれど、彼女自身はやはり寂しかったに違いない。ガオンというのはゾロリの恋人で一国の王子様でもある。双子にとってはせんせを奪ういやなやつだけど、それでもせんせが幸せになってくれるなら我慢しなければならないだろう。 「お前たちは、やっぱりイヤか?」 ゾロリも双子の気持ちは知っている。双子がいやと言えば行かないつもりでいた。 「せんせ、おらたちクリスマスまで野宿はイヤだよ」 「んだ。ガオンとこさいって腹いっぱい食いたいだよ〜」 「お前たち…」 ゾロリはしゃがみこんでにっこりと笑いかけた。イシシもノシシもにっと笑った。それぞれの想いはどうあれ、大事な人のために進む道が一致した。 「よし、じゃ行くか」 「はいだ〜〜」 そういって歩き出した一行の前に赤い飛行機が現れた。かなり低空を飛んでいて危ない。ゾロリは双子をかばうようにして立ち止まった。 「な、なんだ?」 これまで自分を助けてくれていた赤い飛行機が立ちはだかっている。 「せんせー」 双子はゾロリの足にしっかりとしがみついた。縞の合羽が大きな音を立てて背中に広がった。 飛行機は低空で一行のそばを飛び退った。ノシシの頭に小さな何かが当たる。 「いてっ」 ノシシは頭をさすりながら飛行機から飛んできたものを拾い上げた。 「なんだ? 部品か?」 「せんせ、これ」 ノシシが拾ったのは小さな袋だった。ノシシの足元にも二つ転がっている。開けてみると二つは中に小さなおもちゃが、もうひとつには小さな熊が入っていた。イシシとノシシはおもちゃをもらって嬉しそうだ。ゾロリも受け取った熊をぎゅっと握り締めた。 (パパだ…) 幼いころもらった熊のぬいぐるみを思い出した。サンタさんに何をお願いしたのかと聞かれて熊さんがほしいといったのだ。あの時はサンタだと思ったが今にして思えばあれは両親だったのだろう。それでもすごく嬉しくて寝るときも遊ぶ時も一緒だった。お風呂も一緒にと言い出して両親を困らせたのも覚えている。あの熊はぼろぼろになってもずっとずっと大事に持っていたのだ、この旅に出るまで。 でもあの飛行機乗りは…いや、パパは覚えていてくれたのだ。 「…行こうか」 「はいだ〜〜」 そう言って歩き出そうとした一行はまたしても止められた。今度も上空から声がする。 声のほうを向いて、ゾロリはにっこりと微笑んだ。声の主はネリーちゃんとミリーさんだ。その後ろにロジャーがくっついている。 「ネリーちゃん、ミリーさん。ついでにロジャーも」 「ついでとは失礼な」 ゾロリの悪意のない言葉にロジャーはそっぽ向いたが女性たちはくすくす笑っていた。 「また魔法の国で何かあったのか?」 「いえ、そうじゃないんです。ゾロリさんにこれを」 ミリーは小さな箱を取り出した。それをネリーがゾロリに手渡した。 「これは?」 「私を手伝って魔法の国を救ってくれたお礼なの。受け取って、ゾロリさん」 「イシシ君とノシシ君も」 イシシとノシシは2つ目のお菓子ブーツを手に入れた。これで一人一足手に入れたことになる。 「そんな、別にいいのに」 「いいんだ。君にはその…随分ひどいことも言ったし」 「ロジャー…」 魔法が使えないゾロリを散々馬鹿にしてきたロジャーも、彼女の頑張りの前に考えを変えたのだ。誰しもそれぞれに得意なことがあって、それを精一杯使って精一杯生きている。ロジャー自身も魔法の国ではエリートとしてそれに見合うだけの努力をしてきた。 その人の能力と生き抜くことは別物で、決してバカにしていいものではない。 「だから遠慮しないで受け取ってほしいんだ」 「…わかった。じゃあ、遠慮なく」 ゾロリは両手で丁寧にそれを受け取った。ミリーもロジャーも安心して微笑んでいる。 「ゾロリさんはこれからどちらに?」 「…行くところがあるんだ」 ゾロリはそっとミリーのそばに歩み寄った。 「ロジャーとうまくやれよ」 ミリーはぼっと顔を赤らめた。ゾロリはくすくす笑い、ロジャーだけがきょとんとしている。 「ネリーちゃんもありがとうな。魔法の勉強頑張れよ」 「ゾロリさん、ありがとう」 ネリーたちはほうきに乗って去っていった。これから3人でクリスマスを過ごすのだという。遠く見えなくなるまでお互い手を振り合っていた。 「行っちゃっただねー」 「そうだなぁ…」 ゾロリは曇りかけた空を見上げた。冷たい風が吹いている。ノシシがぶるっと震えた。 「寒くなってきたな。ノシシ大丈夫か?」 ゾロリはノシシの鼻をかんでやった。イシシもゾロリの背中にぺったりくっついた。 「早く行くだよ、せんせ」 「よし、行こう。早く行かないとクリスマスが終わっちまう〜〜」 そういって走り出したゾロリのあとを追ってイシシとノシシも走り出した。両手にブーツを抱えている。 「急ぐだよ、ごちそうをいっぱい食べるだよ〜〜」 「んだんだ〜〜ケーキも食べるだ〜〜」 「おまえたち食うことばっかりだな」 「だって腹減ってるだもん」 笑いながら走っていた彼らの先に茶色の物体がぬっと現れた。 「おわ」 「うわ」 現れたのは巨大な熊で、次にそれを抱いたガオンが姿を見せた。 「なんだよ、熊が出たのかと思ったぜ」 ゾロリはつかつかとガオンに近づいた。どちらとも嬉しそうに微笑んでいる。 「君たちはこんなところで何をしているんだい?」 「お前のところに行こうと思って。こんなに寒いと野宿も辛いし」 ゾロリの左右にイシシとノシシが歩み寄ってガオンを見上げていた。今夜は敢えて喧嘩しない、お互いの利害が一致したのだ。 「ちょうどよかった。城でクリスマスパーティがあるんでね。ご招待しよう、ゾロリ王女」 ガオンが彼女の左手を取って恭しく口づけた。ゾロリは満足げに微笑んで見せた。 「謹んでお受けするよ、ガオン王子」 ゾロリもガオンもにっこり微笑んだ。 ガオンはゾロリの左手を自分の右手に取り、左手でその肩を抱いてエスコートした。双子はちょろちょろとその後ろをついている。幸せそうなゾロリを見るのが双子にとっては何よりの幸せだ。 ガオンはその辺に止めていた車にゾロリと双子を乗せて城まで連れて行くことにした。 助手席には少しはにかんで、それでいて可愛いゾロリがそこにいた。 「なぁ、ところであのデカイ熊はなんなんだ? プレゼントか?」 「ああ、あれか。あれは君に贈るつもりで用意したんだよ」 ハンドル代わりのレバーを操作しながらガオンは楽しそうに言った。 「あんなにデカイのもらっても旅してるんだぞ、困るだろ」 「私の部屋においておけばいい。君が帰ってくるのは私のところだけだ。そうだろう?」 「ガオン…」 ゾロリはすぐにでもガオンに寄り添いたくなった。でも運転中なのでその横顔を眺めているだけにした。 「どうした?」 「ううん、なんでもない」 窓の外にちらつく雪を眺めながらゾロリは寒いはずの夜が暖かくなるのを感じていた。 やがて彼女の指に紫の石を抱いた指輪が光る いつまで一緒にいられるか分からないけど いつまでも一緒にいたいんだ 今は離れていてもいつかきっと言えるだろう 『メリークリスマス』と そしていつの日か それは素敵な思い出になる ≪終≫ ≪クリスマスです≫ タイトルはB'Z『いつかのメリークリスマス』より。メインはやっぱりガオン×ゾロリなんですけど魔法組とパパとイヌタク君を出してみました。パパとの思い出はまた別の機会にゆっくり書きたいと思います。 なんか…力尽きたので。イベント物は疲れます…。 |