キラめくひと



金色の髪は太陽の光
丸い瞳は漆黒の闇
滑らかな肌は雪の白さ
青い衣は空と水の色
緑の袴は草と大地の色


その人は体中でこの世の煌きを表していて、ボクはまっすぐ見ることが出来なかった。



まだ、名前もなかった。
俗に妖怪と呼ばれる者たちはそれなりの特徴を持っており、命名もすんなりと行われていた。
しかし彼の場合は丸く、白く、小さく、これと言って特技もなく、名前のないまま朽ちることのない体で何年も過ごしてきた。
「デンキウナギさん…」
珍しく沼から顔を出して日向ぼっこをしていたデンキウナギに、彼はそっと声をかけた。
「デンキウナギさん…」
名無しのおばけは何度も呼びかけた。か細い声で何度も何度も。寝ているのかと思って諦めかけたそのとき、デンキウナギはゆっくりと目を開けた。
「何かご用かい、名無しの」
「うん…」
名無しのおばけは少し悲しげに頷いた。このおばけの森で名前のないおばけは自分だけだ。便宜状、『名無し』とか『ちび』とか呼ばれているけれどそれは自分の名前と呼ぶにはあまりにもお粗末で、悲しかった。
なので、彼は意を決してデンキウナギに直訴した。
「デンキウナギさん、ボクにも名前がほしいッピ」
名無しのおばけがそう言うとがデンキウナギはふうむと頷いて見せた。
「お前さんも名前がほしいか」
「…ほしいッピ」
実は直訴は初めてではない。名前を、というとデンキウナギは決まってこういうのだ。『わし一人では決められんよ』と。
その辺の事情は名無しのおばけにもわかっている。現在、沼に残っているデンキウナギはプラスの性質を持っている。デンキウナギはプラスとマイナスが一対で暮らしているものだが、マイナスの性質を持つマイナスデンキウナギは、イタズラの王者と名乗る者と一緒にある日突然姿を消したのだった。
それからだった。マイナスデンキウナギを失ったこのおばけの森に異変が起きた。
おばけが、少しずつ消え始めたのだ。
残っているのはプラスデンキウナギと、この名無しのおばけだけだった。
彼は今日もまた、『わし一人では決められんよ』と言われると思っていた。
けれど違った。
「…お前さんの名前をつけるのはわしらではないよ」
名無しのおばけはきょとんとした。プラスとマイナスのデンキウナギたちでなければいったい誰が自分に名を授けてくれるというのか。
問いかけは風に攫われた。
それなのに、デンキウナギはにこりと笑ってくれた。
「夢を見たんじゃよ」
「夢?」
デンキウナギは頷いた。
「この世の煌きを背負った人がお前さんの名付け親じゃ。どんな名をくれるか、そこまではわからんかったがのう」
名無しは希望に目を輝かせたが、一瞬だった。
その名付け親がどんな人で、いつ現れるのかもわからない。デンキウナギに名をつけてもらうよりももっと遠くて儚い気がした。



陽気に歌でも歌いながらゾロリたちはうっそうと茂る森の入り口に来ていた。
「せんせ、おらたちに内緒でケイタイ電話なんか買っただね?」
コバルトブルーのケイタイ電話をいじりながらゾロリはちらちらと双子を見やった。
このケイタイ電話にはいろいろと曰くがあるのだがそれはまた別の話なので割愛する。なのでゾロリも
「べつにいーじゃねーか、そんなこと」
と言ってのけた。イシシとノシシは納得できるものではなかったが、彼女の私物に口を出すことも出来ずしぶしぶと認めたのだった。
そうこうしているうちに一行は森に入るか入らないかで揉め始めた。ゾロリはどこへでも突き進んでいく人なのですぐさま突っ込もうとしたのだがイシシとノシシは怖そうだといって行こうとしない。
おどろおどろしい雰囲気の森は『おばけの森』というのだと、突然現れた妖怪学校の先生が教えてくれた。
「おばけの森?」
イシシとノシシは妖怪たちと知り合いなのにそれでも未知のおばけは怖いらしく、ゾロリの袴にしがみついて震えている。
「そうなんですよ。でも最近妖怪たちの姿が見えないのです」
「へぇ…でもおばけって俺たちみたいな普通の人には見えないよな? で、先生たちでも見えないってことは…」
「いなくなってしまったようです」
なにが原因なのか調べにきたのだと妖怪学校の先生は言った。
「よし、俺たちも行くか」
「せんせ、ここはおばけの森だよ、おら行きたくないだぁ」
「おらもやだぁ〜〜」
うるうるの涙目で足にしっかりしがみついたイシノシを引き剥がし、ゾロリはのっしのっしと歩き出す。
「デンキウナギにケイタイを充電してもらうんだよ。行くぞ」
泣きじゃくる双子を置いていこうとして、それでもしっかりと手を握ってやる。おばけなんて怖くないと、これまでの付き合いでわかっているはずだ。それでも怖いと思ってしまうのはやはりこの森の鬱蒼とした雰囲気のせいだろうか。
「せんせぇ…」
「大丈夫、怖くないから」
双子もようやく慣れてきたのか、ゾロリに手を握ってもらったままだが、歩いている。
「おまえら妖怪学校のみんなと友達なのにおばけが怖いのか?」
ゾロリにそう問われて、イシシとノシシは顔を見合わせた。
「友達はこわくないだ」
「んだ。それにせんせと一緒なら平気だ」
イシシとノシシはゾロリの手を離して、ばっと先頭に踊り出た。いつまでも怖がって震えている場合ではないと察したようである。ゾロリせんせは女の人、そしておらたちは男の子。大好きなせんせを守るんだと決めたんだから守るんだ。彼らは小さな尻尾をぴくぴく振るわせながら歩き出した。
そんな背中を見つめてゾロリは小さく笑みを溢す。なんだかんだ言ってもやっぱり子供で、でも男の子で。
この子達がいつか自分を必要としなくなったとき、自分はその手を離せるのか。
――離せないだろうな
温かくて柔らかいその手が熱くて硬くなるとき、今度はきっと自分がその手を必要とするのだ。
「せんせ、足元気をつけて」
そういって両方から差し出された手を取って、ゾロリは軽やかに危なげなく下に降りた。
「ありがとう」
「えへへえへへ。せんせのためならおらたち頑張るだよ」
「よーし、湖までもうちょっとだからな。おまえたちちゃんと足元見てな」
「わかっただー…あ」
言われた先からノシシがぬかるみに足を突っ込んだ。



辿り着いた場所は、湖のはずだった。少なくとも妖怪学校の先生は湖だと言っていた。
が、水は濁ってまるでコーヒー牛乳のよう。対岸に広がる森も鮮やかさを失っており、まるで封印されていた頃の魔法の森のようだった。
「うわー…まるで沼だな」
「これがコーヒー牛乳だったらおらすぐにでも飛びこむだけどなぁ」
「あーっ! おらもおらもっ!」
のんきなことを言い出したイシシとノシシの頭をゾロリはふんずと捕まえてずるずると引きずった。
「ほら、デンキウナギを探すぞ!」
「はいだ〜〜」
双子は仲良く手を上げる。
そのとき、イシシとノシシは湖のほうを見ていた。水面にちらりと何かが映ったように見えたがせんせに引きずられてその場を後にした。
「せんせ、湖に何かいただよ〜〜」
「うん、わかってる」
「わかってるのになして? せんせ」
「デンキウナギは多分あそこにいるだろうな。でも…なんかいやな予感がするんだよ」
そのとき背後でずざざざざーっと水音がした。わーわー騒ぐイシノシの声とともに振り向いてみるとそこには大きなウナギが一匹にょろりと顔を出していた。
「ふわー…でっけぇ…」
「蒲焼にしたら何人分あるだかなぁ」
双子は頭をぽかりとやられて涙目だ。
「何でもかんでも食べ物にするんじゃないっ!」
「ごめんなさいだぁ〜〜」
師弟のやりとりがひと段落したところでそのウナギは声をかけてきた。
「もし、旅の人…」
「ん?」
デンキウナギはゾロリの姿からそう判断した。そしてこの人たちが自分に害をなすものではないとわかって話しかけたのだ。
「あんたが、デンキウナギ?」
彼はゆっくり頷いた。
「はい、私はプラスデンキウナギ。この森に住んでおります。この森に私たちが住み着いてからいつしかおばけたちが住み着く様になりまして」
「なるほど、それでおばけの森って言うようになったのか」
ゾロリの傍らでイシシとノシシも話を聞いている。
「はい。しかしマイナスデンキウナギが伝説のイタズラ王とともにこの森を出てからは、おばけたちもいなくなってしまいました」
プラスの言葉にゾロリが反応したのは2点。
1点は伝説のイタズラ王と名乗るものがいること。
もう1点はおばけがいなくなったこと。これは妖怪学校の先生の言葉とも合致する。
イタズラ王のことも気になるがまずはおばけの話から。
「じゃあ、もうおばけは誰もいないのか?」
ゾロリの言葉にプラスは頭を横に振った。
「いいえ、たった一人残っているのですが…今は皆さんの前に姿を見せることも出来ないのです」
木陰でちびおばけはびくっとその身を震わせた。
さっきからずっとこの森を歩いているゾロリたちを見ていた。ゾロリは金色の髪に漆黒の瞳を持っている。空色の着物に草色の袴、包まれた肌は雪の様に白い。でも、ちびおばけにはゾロリはただの綺麗な人に見えた。
しかしちびおばけが彼女の真価を知るのはもう少し、ほんの少し先のことだ。



デンキウナギと別れた一行は森を出ようと歩いていた。妖怪学校の先生には悪いが、おばけのことはおばけの皆さんで解決してもらうほうがいい。
「伝説のイタズラ王か…」
イタズラの女王を目指す彼女としてはその存在は気になるところだ。しかもマイナスデンキウナギを連れて行ったところをみるとかなりハイレベルなようだ。
もしかしたら、とゾロリはある人物を思い浮かべていた。
(パパ…かもしれない)
ゾロリの脳裏に幼い日の思い出が蘇る。
その日は休日で、しかも雨だったので珍しくパパが家にいてくれた。幼いゾロリはチラシの裏にクレヨンで落書きをして遊んでいたのだ。
「パパー、見て見て。あたし字が書けるんだよー」
「ほお…うん、なかなか上手だな。でも『の』の時が間違ってるぞ」
「えー?」
「いいか、『の』の字はこう書くんだぞ」
そういうとパパは黒のクレヨンで大きく『の』を書いてくれた。ゾロリはそれを一生懸命練習して、ママに見せにいく。するとママは台所からすっ飛んできた。
「あなた、ゾロリちゃんにうそを教えないでちょうだい!」
「ママー、これ嘘なの?」
「ゾロリちゃん、これじゃ逆よ。『の』は左側に丸く書いていくの」
するとパパは悪びれずに笑うのだ。
「もー、パパの意地悪」
「ははは、悪い悪い」
それからしばらく練習しなおして、ゾロリはちゃんと『の』をマスターした。
ちゃんと書けるようになったころにパパは真っ青な空の向こうに消えてしまったのだった。
今でもイタズラをするときだけは逆に巻いた『の』の字を使う。パパとの数少ない思い出であり、目印でもあった。
「それにしてもどこいったんだか、マイナスは…」
「おばけがいないおばけの森となるとなんだか寂しいだね」
「そうだな…」
さっきまで怖がっていたのにいないと分かると平気らしい。
そこに森には似つかわしくない轟音が響いた。水の音でも、大地の音でもなかった。
機械の音だ!
ゾロリたちは慌てて音のする方向へ急いだ。
「せんせ、これ見るだ!」
イシシが立ち止まって地面を見つめている。ゾロリがその場にしゃがみこんで地面を撫でる。ずいぶん乾いているが、あとがしっかり残っている。
「キャタピラーの跡だな…」
「せんせ、木もいっぱい倒れてるだよ!」
今度はノシシが見て見てと腕を広げた。木は倒れていると言うよりもなぎ倒されたといったほうが正しい。それも暴風雨によるものではなく、人為的に倒れされたもののようだ。
「こんなことするのはあいつらしかいないと思うけど」
ゾロリは小さく身を震わせた。イヤな予感と言うか、激しくイヤな気分と言ったほうがいいだろう。
顔を見るのもいやな連中だと思う。
「俺、あいつら嫌いなんだよ…」
「おらたちも〜〜」
それでも野放しにしておくのもイヤなのでゾロリは仕方なく轍を辿っていくことにした。


「ブルルしゃま〜、デンキウナギはなかなか見つかりませんねぇ」
「それはいかん。早く見つけてがっぽがっぽと稼ぐのだ! 発電は儲かるぞ〜!」
「はいっ、ブルルしゃま〜」
わっはっはと笑うでっぷり太ったブルルとコブルの二人は今日も金儲けにまっしぐらだ。どこでこの森のことをかぎつけたのかプレハブなんか立ててその中に事務所を置いている。その周囲にはこの森には絶対に似合わない重機や採掘用の機材が置いてある。
ゾロリたちはこのふたりに酷い目に遭わされてきた。チョコレートやアイスの懸賞で当選したにもかかわらずなんのかんのと因縁をつけられ、結局商品をもらえなかったり、もらえても欠陥品立ったりしたのだ。挙句の果てにはゾロリの体にべたべた触ったり、愛人になれなどと戯言を抜かしたのだ。某王子や某お頭が知ったら全力を挙げて完膚なきまでに叩きのめして社会的に抹殺しそうなものだが彼らはまだこの事実を知らない。
閑話休題。とにかくゾロリたちはブルルとコブルの中途半端な野望を阻止すべく立ち上がったのだった。
ブルルとコブルは湖の岸を掘り下げて内部を見られるようにし、さらに埋め立ててデンキウナギを追い込もうとしている。
「デンキウナギで稼ぐっていうのは悪いアイディアじゃないけど…けどこの森を壊すことはないよな」
「んだんだ」
「でもせんせ、どうやってあいつらギャフンと言わせるんだ?」
ノシシがゾロリに問いかけると、彼女はうう〜んと首をひねった。
「どうしたらいいかなぁ…」
「せんせ、なにも考えてなかっただか?」
イシシの言葉にちょっとむっとしたゾロリはにっこり笑って幼い兄にヘッドロックをかけ、頭をぐりぐりと小突いた。
「考えてなくて悪かったね」
「せんせ痛い痛い〜〜、ごめんなさいだ〜〜」
「わかればいい」
イシシは少しずきずきする頭を撫でながら少し涙目だ。でもせんせの胸がぷにぷにしてたからちょっと役得ではある。
ゾロリはおしおきのあともちゃんとフォローする。その綺麗な手で優しく撫でてくれるのだ。
厳しいけど優しい人。寂しいこと、悲しいことが嫌いで、楽しいことが大好きな人。
だからふたりはせんせが好きなのだ。
「さて、本当にどうしましょうかねぇ…」
高い鉄塔の上に佇む美人怪傑のマントが夕日にあでやかにひらめいた。


翌朝になってブルルとコブルはデンキウナギを捕らえるべく重機に乗りこんだ。森を破壊し尽くしてデンキウナギを追い詰めようというのである。
が、それをゾロリが見過ごすはずはなかった。彼女は昨晩のうちにすでに策を立てて実行していた。
「さあ、やるぞ、コブルくん!」
「はいでっしゅ!」
コブルが重機のレバーをぐっと前に倒すと、とたんに前方のシャベルが落ちてき、さらにアームがぼてぼてと降り注ぐ。最後に車体がべしゃんとひしゃげた。
「…はい?」
何が起こったのかわからない彼らはただ呆然としているしかなかった。が、次の瞬間には崩れたはずの車体部分がぽーんと飛びあがり、彼らは座席のボックスごと採掘用のベルトコンベアの上に乗せられた。
「よし、乗っただよ、ノシシ」
「ノシっと」
イシシの合図でノシシがレバーを押す。するとコンベアが動き出し、ブルルとコブルのふたりは逆走する羽目になった。
「ぎゃー、何でじゃー!?」
「誰か止めてぇぇぇぇぇ」
外の様子を見ながらイシシとノシシは機械の操作を続ける。
「止めて欲しいんだってさ、ノシシ」
「ノシっとな」
ノシシが小さな手でもう一度レバーを引く。コンベアはすぐに止まり、ふたりは慣性の法則にしたがって投げ飛ばされた。観覧車のような土砂運搬機に乗せられたふたりはさらに高速で回転させられ、もはや意識朦朧としている。
「イシシ、ノシシ、もういいぞ」
「はーい」
二人の可愛い返事にゾロリはにっこりと笑う。すべての装置を止めた双子はひょこひょことゾロリのそばにやってきた。
ブルルとコブルはまたしても物理法則にしたがって地に落ちた。
「よくやった。イシシ、ノシシ」
「えへへー」
誉められれば嬉しい双子はステキな笑顔を浮かべている。
ゾロリはかいけつ姿でブルルとコブルの前に仁王立ちだ。
伸びているブルルをおいてコブルが脱兎のごとく逃げようとするのを、ゾロリは見逃さなかった。
彼はあとからやってきたゴーゴンたちの活躍によって石にされてしまったのだ。
「逃がさねーぞ、コブル。ズルは見逃さないからなー」
すでにコブルは物言わぬ石像。ブルルは縛り上げられたところで目を覚ました。
「な、なんでワシ…はっ! お前はゾロリ!!」
「よーお、久しぶりだな。顔も見たくなかったけど」
「ふん、それはワシらだって同じじゃ!」
ブルルはふんとそっぽ向いた。が、ゾロリにはどこ吹く風。むしろ癪に障ったらしく、彼女は持っていたリモコンで彼らを上下させた。ブルルはぎゃーぎゃーと喚いている。
「さあ、マイナスデンキウナギを返してもらおうか?」
「わ、ワシらはまだ何も捕まえてはおらん。もし捕まえておったらこんな森に用はないわ!」
ということはこのブルルが伝説のイタズラ王を名乗っている可能性も限りなくゼロに近くなる。証言が信用できれば、だが。
「わかったらとっとと下ろせぇぇぇ!!」
自分の立場をイマイチ分かっていないブルルの言い方にゾロリはカチンと来てリモコンのスイッチを入れた。
「ああ、下ろしてやるよ!」
ここではない、どこかへ。
「飛んでけー!!」
機械はぶんぶんと彼らを振り回し、今度は遠心力によって彼らを山の彼方の空遠くへと飛ばしてしまった。幸い住むと人が言うからきっと命の別状はないだろう。彼らは昼間に星となった。
「さて。妖怪学校の先生、あいつらは追い出したけどマイナスはいなかったよ」
「そうですか…」
先生はがっくりと肩を落としたがそれでも希望は捨てていないらしく、笑顔をなくさなかった。
森の破壊者がいなくなったことでプラスも安心して顔を出してきた。
「マイナスはあの道を抜けていったと思われます。あそこが湖からだと唯一外界に出られるのです」
するとプラスは一体の石像を落としてきた。
「これは?」
「これを持っていけばプラスには私の使いだということがわかるでしょう」
みんなの視線が石像に集中した時、プラスは鬱蒼と茂る木の陰に視線を投げた。
ちびおばけは彼の意図を察して降りてきた。そして石像と同化する。
「こんな重いもの持って歩けないだよ〜」
「おんぶするもの無理だねぇ」
イシシとノシシが悪戦苦闘していると、突然石像のこけが落ちた。そして意志を持って歩き出す。
「こっちだッピ」
とことこ。とことことちびおばけは小さな一歩を踏み出した。
ゾロリは急いでデンキウナギに頼んで携帯を充電してもらい、石像とともに新しい旅に出た。



「この世の煌きを背負った人がお前さんの名付け親じゃ」



ちびおばけが決心したのはゾロリの戦いをずっと見ていたからだ。
彼女はブルルとコブルに対して適切な対策を立てて彼らを放逐してくれた。
そのときの彼女は煌いて見えた。

髪は煌く太陽の金、瞳は夜の漆黒。空と大地をその胸に抱き生きている。

この人となら、自分は変われるかもしれない。
ちびおばけはそう思った。



それからしばらく行ったところで、彼らはルルーという元不良狼と出会い、マイナスデンキウナギを発見しかけたが徒労に終わった。
だがルルーの尻尾を取り返してくれたというのでお礼にたくさんのスイカをもらった。
「んはー、スイカおいしいだねぇ〜〜」
「んまーい」
「よかったな、お前たち」
小玉のスイカを風呂敷に担いだイシシとノシシは歩きながらスイカを食べていた。
プッペプッペと種を吐き出す。ぽろぽろと道に零れていつかそこから芽を出すかもしれない。
ちびおばけはそんなことを考えながらゾロリたちの少し後ろを歩いていた。
「あ、そうだ!」
ゾロリは何かを思いついて、すっと石像に近づいた。ちびおばけは何事かと彼女を見上げる。ふわりと柔らかな草の香りがした。
「この子の名前はプッペにしよう」
「名前だか?」
「一緒に旅をするんだから名前くらいないと不便だろ? だから」
ゾロリはふっと石像に触れた。ちびおばけはほんのりとした温かさを感じてなにやらふわふわとしたいい気持ちになった。
今やプッペとなった石像は嬉しそうにゾロリを見上げたがイシシとノシシは不満顔だ。
「せんせ、せんせの弟子はおらたちだけだ!」
「んだんだ! せんせのおともはおらたちだけで十分だよ!!」
双子の反発にゾロリはちょっと困ったかのように視線を上に泳がせた。そして簡単に結論を出した。
「じゃあお前たちのお供にすればいいじゃないか」
「んー、それならいいだぁ」
「改めてよろしくな、プッペ」
差し出されたゾロリの手は細くて綺麗で、温かくて。イシシとノシシの手は小さくて、でもしっかりした温もりがあって。
「…よろしくッピ!」
プッペはにっこり笑った。
「さぁ、行こうか! デンキウナギを探しに…な」




スイカの種は捨てたけど
勇気の種は落とさないで
煌く人はすぐそばに
やがて黄金の未来が咲くよ




≪終≫





≪今更感≫
まじふまゼッコーチョー第1話と第2話。プッペとの出会いを書いてみました。書いておかないとなーと思いつつ。
さりげなく『のの字』エピソードを混ぜてみました。パパ仕込み、萌えww
ちょw 石だけにしといてください、火矢は熱いからいやですwwww注: 文字用の領域がありません!

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