約束の森 秘密のふたり



遠い遠い昔 深い深い森
一匹の小狐が迷い込んだ
森はその狐をたいそう気に入って……



すっぽこぺっぽこぽこぽこぴー♪
可愛らしい声で歌いながら自分の前を歩くイシシとノシシの双子を見つめながらゾロリは小さな笑みを漏らした。
この双子のイノシシと旅を始めてどれくらいになるだろう。
歌って踊って、ときには喧嘩して。それでも大好きだからってずっと一緒にいたいんだって――そうして旅を続けている。
「せんせー、はやくはやくー」
「そう急ぐ旅でもないだろ。のんびり行こうぜ」
「だどもせんせ、もうすぐお日様が沈んじゃうだよー」
ゆっくりと追いついてきたゾロリの右手に縋ったのが兄のイシシだ。弟のノシシは左腕にぶら下がった。
「腹減っただよー、せんせー」
口々に疲れただの腹減っただのと訴えられてゾロリは小首をかしげた。
「んー、そうだなあ…ここならなら近いし…」
「何が近いだか、せんせ」
「ガオンのお城ならまだ先だよー?」
ガオンの名を出されて、ゾロリはぽっと頬を染めたがすぐに首を振った。
「ちーがーう。ガオンのお城に行くんじゃない。お前らあいつのことなんだと思ってる?」
「めしー」
二人同時のご名答にゾロリはがっくりと肩を落とす。確かにガオンの城に行く時はたいてい食事しかさせていないけれどいくらなんでも飯はないだろう、飯は。最近ちょっと仲良くなったかと思ったらそういうことだったのか…とゾロリはため息をついた。
双子にとってガオンはまだ『ゾロリせんせにちょっかいを出す悪い狼』のままなのだ。
「とにかく、だ。この近くに森があるんだ。今日はそこで休もう」
「休もうってせんせ、宿かなんかあるだか?」
「野宿だけど、いい森なんだよ。さ、もう少しだから頑張って歩いてくれ」
「はーい」
大好きなせんせに励まされてイシシとノシシは元気よく手を上げた。そして小さな足でまたすっぽこぺっぽこと歩き始めた。
「せんせー、この道まっすぐでいいだか?」
「ああ、ずーっとずーっとまっすぐだよ。あの山のふもとさ」
ゾロリが指差す山はうっすらと赤く染まっていた。紅葉の季節なのだ。
その赤が彼女に思い起こさせるのはやはり恋人の狼のことで、ゾロリは足元の小石をこつんと蹴り飛ばした。
(ばか…)
もう長いこと会っていないような気がする。会えたってほんの僅かな時間でしかない。
寂しくはないけれど恋しくなる。イシシやノシシとは違った温かさをくれるあの男はこの世界できっと唯一安心して甘えられる存在だ。
「浮気しよっかなー」
口に出してはみるもののそんなつもりは毛頭ない。
(…会いたいな)
そんなときに限ってガオンには会えない。そして会いたくない男に会ってしまうものだ。



「せんせー、ここ?」
「そ。俺の行きつけの森…かな」
森の入り口に着いた3人は鬱蒼と茂る草に出迎えられていた。イシシとノシシはおびえているがゾロリは平然としている。
笠を取り、黄色い耳をぴるぴるっと振る。結い上げていた髪を下ろせば金の光がさらさらと舞う。
「せんせー、本当にこの森に入るだか?」
「大丈夫だって。ちょっと暗いけど中に入っちまえばたいしたことはないって。おいしいキノコも木の実もあるし」
「だどもー」
イシシとノシシはまだ渋っている。
「怖いならいい。置いていくぞ」
「待て、ゾロリ」
背後から聞こえてきた青年の声にゾロリはくうるりと振り返った。そしてあからさまに嫌な顔をして見せた。
「げ、ロジャー…」
暗闇からすっと姿を見せたのは黒衣の青年だった。ダークグレイの髪にアメジストの瞳を持つこの男は魔法の国の情報管理局所属のエージェントでなにかというと『魔法を使えないやつは関わるな』と言ってくる。ゾロリにとっては苦手なタイプである。
それでも一目散に逃げ出すのも負けたような気がして嫌な彼女は髪を背中に滑らせたままロジャーを見上げた。
「なんですかー? 情報局のエージェントさん?」
「大雑把なくくりで呼ぶのはやめてもらおう」
「じゃあロジャーさん? それともロジャー様?」
皮肉るようにロジャーに詰め寄るゾロリのうしろでイシシとノシシはなすすべなく事態を見守っていた。
「…面倒だから話を先に進める。この森に近寄るな」
「あー、逃げただー」
イシシの突っ込みにロジャーはぎらりとひと睨み。イシシとノシシは怖くなってゾロリの足にしがみついた。
「何すんだよ、こんな小さい子にガン飛ばすことないだろう?」
「別に私は何もしていない。それより私の話を聞け。この森は『迷いの森』と呼ばれている森だ、遭難者が続出している。エージェントである私たちでさえも脱出に三日かかるんだ。悪いことは言わないからさっさと引き返せ」
ロジャーの言葉にゾロリの漆黒の瞳がきらりと光った。
「ふーん、エージェント様ともあろう方がこんな森に三日もかかるとはねぇ。俺なら半日で抜けてみせるよ」
「ほう、半日で」
「今はもう暗いし、こいつらも疲れたって言うからしないけど…そうだな、少し中に入ってから休んで、それから出発して明日の昼までに抜けてしまうよ。それで半日だって証明してみせるさ」
「せんせー…」
「お前たちもそれでいいな?」
ゾロリは自分の足にしがみついていたイシシとノシシの頭を撫でた。
「せんせ、おらたち行くだよ!」
「んだー!!」
ぶふーと鼻息荒いふたりにゾロリはにっこりと微笑んでしゃがみこんだ。
「よし! じゃあ森に入る前におまじないしような」
「おまじないだかぁ?」
「そ。怖くなくなるおまじない」
そういうとゾロリはまずイシシをぎゅっと抱きしめた。そしてそっとほお擦りすると額に小さく口づけを施した。さらにノシシを抱きしめてイシシと同じようにした。
「これでおまじないはおしまい。まだ怖いか?」
ふたりはえへへと照れ笑いをしながらぶんぶん首を振った。そんなふたりを見てゾロリは満足げに微笑み、そしてロジャーに向き直った。
「お前にもしてやろうか?」
にやりと歪められた口元にからかいの色が乗る。ロジャーは真っ赤になって声を上げた。
「な、何をバカなことを!!」
「真っ赤になって照れなくてもいいだろう? 冗談だよ、冗談」
ゾロリはケラケラ笑い出し、イシシとノシシもロジャーから見えないように隠れてほくそえんだ。
「さーて、適当にロジャーをからかったところで行くかぁ!」
「おー!」
3人は意気揚々と腕を上げ、ずんずんと森の中を歩いていく。
(からかわれた…)
ロジャーは苦虫を噛み潰したような顔をして彼女の後ろについていった。
さくさくと落ち葉を踏む音がする。森の木々におどろおどろしく蔦が下がっており、大きな節穴がまるで人の顔のように空いていた。
イシシとノシシはもう怖くないとはいったもののやはりこの森の様子におっかなびっくり歩いている。
そしてゾロリの足元に寄り添った。
「せんせー、ここはやっぱり『迷いの森』だよ〜」
「なななな、なんだか怖いところだな〜」
そんなイシシとノシシにかまわずにゾロリはさくさくと歩いている。
「怖い怖いって思ってるから怖いんだよ。それにここは『迷いの森』じゃない」
ゾロリの言葉にイシシとノシシ、さらにロジャーも歩みを止めた。
「ここは『迷いの森』だ、何を言い出すんだ、ゾロリ」
「違う。それは魔法の国の連中がそう呼んでいるだけだ」
「なんだと…?」
振り返った彼女は少し寂しげな笑顔を湛えていた。金色の髪がさらりと揺れる。
「ここは本来『約束の森』と呼ばれた場所なんだ」
イシシとノシシはふっと顔を上げた。見上げたゾロリの顔はいつになく真剣だった。
「せんせー…」
「おとぎばなしをしてやるよ」
彼女はまたさくさくと歩き始めた。


むかしむかし。
ちいさな旅の狐が森の中に一人で迷いこんだ。狐は女の子だった。深い森に茂る草は彼女の背丈ほどもあり、行けども行けども草の海だ。顔も手も草の端で切ってしまい、あちこちに小さな赤い筋を引いていた。頬を撫でれば赤く染まっていく。
「くそっ、何なんだよここは」
着物も袴もずたずたに裂けて、白い腕さえのぞいていた。
はあはあと息を切らせて草の海を泳ぎきるようにかき分けるとごいんと木に額をぶつけた。
「いったー…」
女の子は額を押さえてうずくまった。どうやら方向を間違えていたらしい。気を取り直して再び草を掻き分ける。
旅に出て最初の難関がこの森だった。女の子はそれでも一生懸命歩き続けた。
「はあっ…はあっ…」
傷に草の先が刺さるし、普通に歩けないし。だんだん薄暗くなってもきた。女の子の瞳からぽとりと涙がこぼれそうになったが、彼女はそれをぼろぼろの袖でぐいっと拭った。
どれくらいそうしていただろう。がさがさと音を立てて進んでいく彼女の耳に唸り声が聞こえてきた。
「なんだろう…」
黄色の耳をぴくぴくさせ、女の子は声のするほうを探して歩いた。森の動物かもしれないと思ったけれど近づくに連れてその恐怖はなくなってきた。
その声は少し高くて優しそうだったからだ。
「おばあさんの声…かな」
女の子は必死で草を掻き分けた。
そしてようやくたどり着いた先でおばあさんがうんうん唸っていた。女の子はあわてておばあさんに駆け寄った。
「おばあちゃん? おばあちゃんどうしたの?」
女の子は倒れていたおばあさんをゆさゆさと揺すった。するとおばあさんはゆっくり起き上がると女の子の手を掴んだ。
「うわっ!」
「びっくりさせちゃってごめんね。眠くなって寝ちゃったんだよ」
でも女の子にはおばあさんの足の怪我が気になった。ひどく血が流れていて痛々しい。
「おばあちゃん、足に怪我してる…」
「いいんだよ、お嬢ちゃん」
おばあさんは女の子の頬をそっと撫でた。
「私よりお嬢ちゃんのほうがひどい怪我をしているわ」
「あ…」
言われて女の子は自分のほうがぼろぼろだったことを思い出した。でもおばあさんのことも放っておけなかった。
「おばあちゃん、おうちどこ? あたしが連れてってあげるよ」
「おやまぁ。嬉しいこと。でも大丈夫かい?」
女の子はうんと頷いた。
「放っておけないもん。困ってる人がいたら助けてあげなさいってママが」
「そうかい。お嬢ちゃんのママは?」
「…死んじゃった。パパもいないの」
そういってうつむいた女の子に悪いことを聞いてしまったと、おばあさんは顔を曇らせた。
「ごめんね、お嬢ちゃん」
「ううん、いいの。泣いたってママは生き返らないしパパは戻らないもん。それよりおばあちゃん立てる?」
「ああ、大丈夫だよ。どれ、お嬢ちゃんの肩を貸してもらおうかね」
女の子は立ち上がろうとしたおばあさんをしっかりと支えて立った。
「おうちどっち?」
「こっちだよ」
女の子とおばあさんは連れ立って森の奥へと進んでいった。
おばあさんが家だと言ったところは実はなんでもない広場だった。その中心に大きな木が一本立っている。
「おばあさん、ここ…」
「ここが私のうちなんだよ」
「でも、ここ広っぱだよ?」
女の子はおばあさんと手をつないだまま顔を見上げた。不安になってぎゅっと手を握ってしまう。
「あなたは優しい子ね」
「おばあちゃん?」
おばあさんはふっとため息をついて女の子の手を解いた。
「あなたもこんなに怪我してる。でも私をここまで連れてきてくれた」
「おばあちゃん? おばあちゃん!?」
そっとおばあさんの手が頭に置かれた。優しく髪を撫でる手が温かい。
「この森でずっと生きてきたけど、もう無理みたい。だから…最期に森を歩いてみたかったの。途中で怪我しちゃったけど、でもあなたに会えてよかったわ」
「おばあちゃん…」
女の子はきゅっと顔をしかめてぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「泣かなくていいんだよ。生きているものはいつか必ず死んでしまうんだ。私は他より少し長く生きただけ。それだけよ」
頬を伝った涙が傷の上を流れ、赤くなって着物の上に落ちた。
「ありがとう、お嬢ちゃん」
「おばあちゃん……」
女の子は目の前のおばあさんに縋りついて泣き出した。出会ったばかりなのにもうお別れしなくちゃならないなんて。
「おばあちゃん…うわああああああん」
「いいの。泣かなくていいの」
おばあさんがそっと女の子の体を撫でた。すると傷はすっかり消えて綺麗になり、着物も繕ったように元に戻った。
「ありがとうね、お嬢ちゃん」
そういっておばあさんの体が透き通っていった。やがて小さな光の粒子になっていく。

花のように 雪のように

きらきらとした光が女の子の上に降り注いだ。
『この森をあなたにあげるわ。大事にしてちょうだいね…』
最後に聞こえた声は死んだ母のものにそっくりだった。
(もしかして…ママ?)
女の子は涙を拭いて顔を上げた。
きっと…疲れて諦めかけた自分を励ますためにママが姿を変えて現れてくれたんだと、思うことにした。
(ママ…あたし頑張る)
女の子はまた暗い森を歩き始めた。今度は草が道を開けてくれるようだ、歩くのがとても楽になった。
そして森を抜けた時――太陽が彼女をきらきらに照らし出した。



ゾロリのおとぎばなしはそこで終わった。
「だからここは『約束の森』なんだよ」
歩きながら聞いていたイシシもノシシも、そしてロジャーでさえもあんぐりと口を開けていた。
話に出てきた女の子というのはもしかして彼女自身ではなかったのか。
「せんせ、その女の子って…」
「さあ、誰なんだろうな。俺が小さいころママから聞いた話だよ」
「せんせのママさんから聞いたならその女の子はせんせじゃないだな」
イシシとノシシは単純に納得したが、ロジャーはそうではなかった。何故なら彼女が進むごとに足元の草が分かれていったのを彼だけは目の当たりにしていたからだ。
背の低いイシシとノシシにはゾロリが草を払っているように見えたかもしれないが、彼女の腕はそんな動きをしていなかった。
(まさか…)
そのロジャーの推測とゾロリの嘘を裏付けるかのように一向は老木が立ち尽くす広場に出た。
「ほーら、お話のとおりだろ?」
「せんせすごいだー!」
もう草の海を進まなくてすむ、休めると双子はおおはしゃぎで駆け出した。
「ゾロリ」
「ん?」
双子と入れ違うように近づいてきたロジャーを振り返って、ゾロリは何気ない笑顔を見せた。対照的にロジャーの顔は真剣そのものだ。
「ここは『君の森』なんじゃないのか」
「さあ? 森は誰のものでもないから」
「はぐらかすんじゃない。私は見ていたんだぞ、草が勝手に倒れていくのを。そして君が通り過ぎた跡にはきちんと戻っているじゃないか」
ロジャーの言葉にゾロリは僅かに目をそむけた。やがて何かを考えるように視巡してロジャーの前に戻ってきた。
「おとぎばなしを信じるのは勝手だ。仮にお前の仮説が真実だったとしても」
「仮説ではない」
「それは俺のせいじゃない」
彼女の語気に押されるように、ロジャーは半歩後ろに引いた。
「せんせー、寝床はこの辺でいいだかー?」
ゾロリが振り返り、ロジャーもそこに視線を向ける。双子が落ち葉を一生懸命かき集めてベッドを作っていた。
「おーお、いいじゃん?」
「おい、まだ話が」
「あとでゆっくり聞いてやるよ」
呼び止めようと差し出したロジャーの手が空しく宙を舞った。わきわきと握ったり開いたり、そんなことしかできない。彼は諦めてゾロリが双子から離れるのを待った。
「せんせ、一緒に寝よー」
「んー? 残念だけど後でな」
「えー、なしてだー?」
落ち葉のベッドに入り込んでいた双子は同時にぶーぶー言い出した。ゾロリはそんな双子を宥めて寝かしつける。
「ロジャーさんが俺にお話あるんだってさ」
「ほーお?」
3人そろっての嫌な視線にロジャーはふっと顔をそらした。
「せんせー、じゃあおらたちは先に寝るだどもー」
「寝るけど?」
「気をつけるだよー」
「はーい、気をつけます。じゃあお休み」
「おやすみなさーい」
そしていちにのさんで双子はぐーといびきをかき始めた。その体をぽんぽんと撫でるように叩いてゾロリはそっとそばを離れた。
「さて。双子も寝たところで話をしようか」
ゾロリはロジャーが背中を預けている木の側まで寄ってきた。威風堂々とした立ち居振る舞いには生意気さを通り越して闊達ささえ感じさせた。
「横に座るぞ」
「あ、ああ…」
ロジャーの横にちょこんと座った彼女はなおロジャーよりも小さく見えた。立っているとき、そして離れているときと違って彼女の鎖骨がちらりと覗いた。
「で、話って?」
「この森のことだ。君の話はおとぎばなしだと言ったな? ならば何故遭難者が出るんだ?」
「それはこの森に害意を持っているからさ。普通に通り抜けようとしたりただ木の実やキノコを取りに来ただけの要するにハイキング気分の人まで遭難したのか?」
言われてロジャーははっとした。
確かに遭難事件があったのは確かだが遭難者のほとんどが不法投棄などの違法行為を行っていた連中である。
「しかし、だとしてもだ。それならばこの森に意思があるということになる。それはいったい誰の意思で、何のために?」
「…俺が俺のために俺の意思で動かしているとでも?」
「他には考えられない」
互いの瞳に、互いだけを映した。でもそれは見つめあっているというよりも睨みあっているといったほうがよかった。
「魔法のまの字も使えない俺に何ができるって言うんだ」
「…君は狐だ。そして女性だ」
「だから?」
「古来より女性の狐には魔力があるというからな」
「それは迷信だよ。だいたいそれは魔法じゃなくて」
漆黒の瞳がゆらりと揺らめいた。ロジャーが気がついたときには、ゾロリの体はもう自分の腕の中にいた。
「チャーミングっていう狐だけの技だよ、ロ・ジャ・ー」
そう言ってゾロリはロジャーの唇に指先で触れた。柔らかい指先が触れたとたん、ロジャーは真っ赤になってゾロリの肩を押しのけた。
「か、からかうんじゃない、ゾロリ!!」
「可愛いな、お前」
そういってゾロリは意地悪そうに微笑むとすっとロジャーから離れた。
「話はこれでおしまいだ、俺ももう寝るよ」
ゾロリは双子のそばへ行こうと立ち上がりかけた。そのときだ。
腕を掴まれ、そのままバランスを崩して再びロジャーの胸元に倒れこんだ。
「うわあっ」
地面に接触する衝撃に耐えようとしてぎゅっと閉じていた目を開けた時、彼女の感覚からはありえない状態にあった。

――ロジャーが自分に口づけている…

口づけは長かった。何度か角度を変えて触れ合っているだけなのにどうしても抵抗ができない。
キスは初めてじゃなかったのにゾロリの瞳から涙がこぼれた。
「んっ、ぅんっ…」
押し返そうにも抱きしめている腕の力が強くて離れられない。ようやく解放されたときには息が上がっていて自分でも体が熱いのが分かった。
「なっ、何するんだっ」
「誘ったのは君だろう」
「誰がお前なんかっ…」
言いかけて、ゾロリの瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。
「お前なんか〜〜〜〜」
「なっ、ゾロリ!?」
ロジャーはおろおろとうろたえる。キスくらいでまさか泣き出されるとは思わなかったのだ。どうしようかと思っているとゾロリはばあと顔を上げた。
「ぞ、ゾロリ。また私を騙したのか!?」
「キスくらいで泣くかってんだ。狐を甘く見るなよ」
またしても騙されたロジャーは今度こそ無視を決め込んだ。
「なー、怒ったのか?」
「別に」
「…ふーん」
そういうとゾロリはロジャーの横にちょこんと座りなおした。
「悪かったよ」
ゾロリはそっと背伸びしてロジャーの頬に口づけた。そして今度こそひらりと舞うように彼のそばを離れた。
ロジャーは呆然としたまま動かなかった。
「お休みロジャー、いい夢見ろよ」
ブイ!と元気よく手を突き出した彼女にロジャーはただ小さく手を振るしかできなかった。じゃんけんでも負けている。
そんなロジャーを横目にくすくす笑いながら彼女は双子の側に横になった。
(本当はちょっと泣いちゃったんだけどな…)
恋人であるガオンになんだか隠し事ができたような気がした。
他の男とキスしただけ。でもガオンはなんて言うだろう。それを考えるとたまらなくてゾロリはばさっと頭まで布団代わりの合羽を被った。


翌朝目を覚ました一行は森の恵みで朝食を済ませ、そして言葉どおりに昼前に森を抜けることができた。
「ほーら、言ったとおりだろ?」
「ああ、分かったよ。確かにここは迷いの森ではないようだな」
へへんとえらそうなゾロリに屈服しないロジャーだったが昨夜の出来事のせいで彼女の顔をまともに見られないでいる。
「本部に戻って報告しておこう。じゃあな、ゾロリ」
「また遊んでやるよー、ロジャー!!」
そのときすでに遠く飛び退っていたロジャーはあわわとバランスを崩して落ちそうになったが、何とか持ち直してはるか空の人となった。
「何やってるだー、ロジャーは」
「おえらいエリートさんでも失敗するだなぁ」
イシシとノシシはケタケタ笑いながらまだ空を見ていた。
「ほらほら、いつまでも笑ってないで行くぞ」
「はーい」
すっぽこぺっぽこぽこぽこぴー♪
足取りも軽やかな3人は『約束の森』をあとにした。

一方のロジャーといえば。
(ゾロリめ…)
あの女は自分をからかうことに喜びを見出したらしい。そうでも思わなければ…。
自分の想いに気がついてしまってロジャーはぱふっと口を覆う。
そしてこれが恋なのだと気がつくまでにそう時間はかからなかった。



あれは『約束の森』

…そうか

『また遊ぼうな』と彼女は言った。
「それならばまた会えるかな」
ロジャーは一人ほくそえむと本部に向かって全速力で飛んでいった。



深い深い森に迷い込んだ
昔は小さな狐の女の子
そして今は恋に迷うふたり



≪終≫





≪ごめんなさーいww≫
書きながら悶絶してたのはもれですww ロジャー×ゾロリせんせww 書きたい書きたいとつぶやき続けてようやく書きましたよww
キスくらいでうひゃ〜〜〜〜とか思ってたんですが、よく考えたらもれラブエロリストなのでこれくらいで身悶えていてはいけないわけですよ。もっとああんとかいや〜んなこと書かないといけないわけです。でも果たしてこの二人はそんな関係になってくれるのか、疑問です。個人的にはこの二人は抱きしめあうだけのストイックな純愛で終わりそうな気がするんですよwww うひゃひゃww
すみません、大砲に頭突っ込んで吹っ飛ばされてきます。注: 文字用の領域がありません!

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