レモンライムと銀の夢 ざっくりと皮を割って溢れた白い果肉と こぼれるような切ない香り すべてが夢であったならこんなに苦しまなくてすんだものを 「昇進…ですか」 上官を前にロジャーは背筋を正しつつも呟いた。初老の上官はロジャーを見て満足げに頷いた。 ここは魔法の国の情報局本部。報告をするために戻っていたロジャーは上官に呼ばれ、内示を受けていた。 上官はぱらっと資料をめくった。 「君の報告は受けている。魔法の森の封印を解くと目されている12色のナジョーの解放まであと1体というではないか。それもすべて君一人で」 「いえ、私一人では…」 「過程はどうでもいいよ。とにかく君は任務を遂行した。それだけだよ」 「はあ…」 「昇進の件、受けてくれたまえよ」 上官はロジャーの肩を叩くと退室を許可した。ロジャーは一礼して上官の部屋を出た。 ドアを閉じて、ふうと息を吐く。 報告書の中では自分ひとりでナジョーを解放したようになっているが、実はそうではない。 ロジャーは一体としてナジョーを解放してはいないのだ。 いつもその現場に立ち会っていただけで実際の解放はほとんど別の人間が行っていた。卑怯にもそうししたわけではない、心ならずもそうなってしまったのだ。 「ゾロリ…」 呟いたその名に馳せる思いが空を飛ぶ。 ナジョーの解放をしたのはほかならぬ彼女で、自分ではない。 「ロジャー先輩」 明るい声にロジャーはその方向へ顔を向けた。後輩であるミリーがにっこり笑って立っていた。ゾロリと違って明るく素直な彼女もロジャーと同じ魔法使いである。 「先輩、おめでとうございます。ナジョーをすべて解放し終わったら昇進なさるそうですね」 「どこでそれを?」 自分はたった今内示を受けたばかりである。ミリーはさらに笑顔を華やかにした。 「もう、局内中の噂です。さすがロジャー先輩だってみんな言ってますよ」 「そうか…」 ロジャーは何か理不尽なものを感じながら目を閉じた。 誰も何も、本当のことなど知ってはいないのだ、すべてが彼の成した事でないということも。 「ロジャー…先輩?」 「最後のナジョーを探しにいく」 ロジャーはそれだけ言い捨てると本部の廊下を少し足早に歩いた。そんなロジャーの後姿をミリーだけが見送っていた。 「先輩…」 呟きだけが寂しく響く廊下に彼女だけが残されて…。 すっかり日も暮れて薄い月が西の空にかかっている。ロジャーは魔法の森へ向かっていた。 そこはすべてが始まった場所、金色の彼女と出会った最初で最後の心。 ナジョーのコンプリートはもうまもなくだ。これで人々は苦難から解放されるだろう。 そして――すべてのナジョー解放は遠からぬ彼女との別れを示唆していて…。 出会いもなにもかも。 夢であったらよかったのに。 ロジャーは屈んで足元の草にそっと触れた。灰色だった薬草も今では緑色を取り戻している。最後のナジョーがこの森に真の鮮やかさと明るさを取り戻すのだろう。魔法の森の封印について調査を命じられてからそう月日は経っていない。 思い起こせば出会いは全くの偶然といってよかった。それから何かあるたびに衝突してきた。エージェントとしてのプライドが彼女を遠ざけようとしていたのだ。魔法も使えない、魔力も感じない彼女に一体何ができるのかと、見下げてもいた。 でもただなんとなく張り合っていただけで勝ったの負けたのと、そんなことはどうでもよかった。 彼女に会えればいいと、ただそれだけを思っていたのはいつからだったろう。 「ゾロリ…」 「呼んだか?」 ロジャーが何気なく呟いた時、木の上からがさっと音がした。 「うわっ、なんだ?」 思わず声が上ずったのを、ロジャーは口を覆って隠した。が、次の瞬間にはもう冷静さを保っていた。 木の上から逆さで現れたのがゾロリである。彼女は軽い身のこなしでぶら下がっていた木から下りるとロジャーの前にきりっと立った。 「よう、ロジャー」 「…何をしているんだ、こんなところで」 「魔法の森の様子を見に来たんだ。またナジョーを解放したからさ」 ゾロリは軽い気分で言ったのだが、ロジャーの右の眉がぴくりと上がった。 「またナジョーを解放しただと?」 「いや、その…」 「今度は一体どこにいたんだ?」 ロジャーはゾロリを問い詰めた。 エージェントとしての自分にとって腹立たしいことに魔法も使えないゾロリがナジョーを解放できる。 すべてが偶然と言い切る彼女がさらにプライドを傷つけた。憎んでしまえばいいのに、それは出来ない。 認めたくはないがどこかで彼女を愛しいと思っていることに気がついてしまってからは、今度は彼女がどこで何をしているのかが気になり始めた。 でも、そんな思いを隠したままでゾロリと出会うのはとても苦しいことなのだ。 そんなロジャーの思いになんとなく気がついているのはゾロリも同じだった。だからお互い何も言わないでただそばにいるだけなのだ。 とりあえずゆっくり話をしようと、ゾロリは火をおこした。紅蓮の炎がゆらりと彼女を照らした。 それからゾロリは11色目のナジョーについて語り始めた。 「えーっと、毒消しを探している間にイシシがワニに襲われて…」 「そのワニの中にあった緑色の宝石の中にいただよー」 彼女の側にいつの間にか双子のイシシとノシシがいた。ノシシはゾロリにべったり抱きついて甘えている。気にならないのか、ゾロリは彼を振り払おうとはしなかった。ふたりは彼女の側に当たり前であるかのように寄り添っている。そして温かくなったせいなのか、ぐーぐーと寝息を立て始めた。 「寝ちゃったか」 ゾロリは膝の上にふしたノシシをそっと抱き上げると同じように眠っていたイシシの横に彼を寝かせた。そして風邪を引かぬようにと上掛けを着せてからそっとそばを離れた。 ロジャーは彼女の穏やかな仕草に見惚れていたが、すぐに思いなおして炎を見つめた。 ゾロリはロジャーのほうを向いたが、ロジャーはむっとしたままゾロリを睨みつけた。 紫色の瞳がギラッと光る。 「な、なんだよ、俺なにかしたか?」 「いや、そうじゃない。ナジョーのことを考えていてな。どうも気になる。君とナジョーの関係が、な」 ロジャーの言葉に今度はゾロリがむっとした。 「俺は封印には関係ないからな。なんだよ、せっかく解放したのに」 「まあいい。ワニの腹の中のそのまた宝石の中とは、思いもよらないところにいるものだな」 「とにかくこれで残りはあと一人だし。もうすぐ魔法の森の封印が解けるな」 「封印が解けたあともまだ問題は残っているぞ」 「…封印させた犯人だな」 ロジャーはこっくり頷いた。 魔法の森の封印はネリーと言う魔法学校の生徒が図らずも唱えてしまった呪文のせいだが、原因はさらに他にあると分かった。彼女が呪文を唱えるきっかけになった本『お探しの魔法の本』こそがすべての元凶で、これを学校の図書館に置いた者こそが真犯人と言うことになろう。 それゆえに魔法の森の正常化も大事だが、犯人を捕らえることも忘れてはならない。 ふむ、と小さく声を上げてロジャーは考え事をしていた。 魔法の森を封印することにメリットのあるものが犯人だと考えられるのだが、それは一体どういう人物だろう。以前偽の薬草を高値で売りさばいていた悪徳商人を魔法の国から追い払ったが、彼らは犯人ではなかった。残念なことに彼らの入国が封印よりもあとだということがはっきりしたからだ。情報局内部でも薬草関係者の仕業ではないかと言う意見が根強いが、関係者からは抗議の声も上がっている。 (だとすれば…) まさかとも思うが、確かめずにはおけない。 「ゾロリ」 「ん?」 ロジャーはノシシの服の破れを繕っていたゾロリに声をかけた。彼女は歯で糸を噛み切っていた。寝ている間にやってしまうつもりだったらしい。 「これでよし、と。で、何だ? ロジャー」 ゾロリはロジャーを少しも見ないまま、携帯用のソーイングセットをしまった。彼女の横顔はいつ見てもどこか寂しさが拭えていない。 「君とネリーが知り合ったのはいつだ?」 「俺? ああ、たしかネリーちゃんがグルンロッドっていう魔法の杖を探しているときだよ」 「グルンロッド? あの伝説の魔法の杖か」 「知ってるのか」 「魔法の国のエージェントだぞ、知らないでか」 ロジャーはあきれたようにため息をついた。 「で、そのあともう一度ネリーちゃんに会った時にはネリーちゃんはもう呪文を唱えたあとだったんだ。それからだよ、しばらくしてネリーちゃんがすっ飛んできて、魔法の森が封印されたって言われたのは」 「そこで私とも会ったわけだな」 「そういうこと」 ゾロリはにっと口元を上げた。そんな笑い方をしても彼女はより華やかに見えるのだ。 この明るさの裏に何があるのか、ロジャーは知らない。 幼いころの彼女が味わった寂しさ、悲しさ、そして孤独――ロジャーは何一つ知らない。 気がついたら、座ったままのゾロリを抱きしめていた。 「ロ、ジャー…?」 「…君が好きなんだ」 強く強く抱きしめて、自分の想いを打ち明けた。ゾロリはただ、何もできないで彼の腕の中にいた。 「君が好きなんだ、ゾロリ…」 ロジャーは彼女の柔らかな頬にそっと自分の手を添えた。漆黒の瞳に映るのは自分ただ一人だけ。 けれど口づけようと細めた目には困惑する彼女しか映らなかった。 「ゾロリ…」 「やめろっ…!」 ゾロリははじかれたようにロジャーの腕を払い、胸を押し返した。そしてそのまま後退る。豊かな胸のふくらみを守るように腕を組んで、畏怖を顔いっぱいに滲ませてロジャーを見つめていた。 「なにを、馬鹿なことを」 「人を好きになるのが、馬鹿なことなのか!?」 「魔法も使えないやつって、散々罵ってきたじゃないか。それを今更…」 ゾロリは思わず声を荒げた。が、そばにいる双子を気遣ってか、そっと口元を押さえた。 「彼らなら起きないよ。朝までぐっすり眠る魔法をかけた。朝日が昇れば目を覚ます」 「何を勝手なことを」 「君と話がしたかったから」 勝手といえばあまりにも勝手なロジャーの言い分にゾロリの大して丈夫でない堪忍袋の緒は激しい音を立てて切れた。 「ほー、じゃあ何か。魔法の国のエージェント様は人と話をする時に周囲を眠らせて、抱きついてから唇を奪うように話すのか」 「違う! 言っただろう、私は君が好きなんだと」 ロジャーの言葉に、ゾロリの瞳が揺らめいた。 「俺は魔法の魔の字も使えない。それにまじめにふまじめな俺はお前の大嫌いなタイプの女だろう」 「しかしナジョーを解放する君は真剣だった」 「俺は遊びもいたずらも手は抜かないんでね」 「そんな君に惹かれたんだ…」 ロジャーは苦悶の情を浮かべた。彼らしくない、弱い声で告げる言葉がゾロリの胸に小さく刺さった。 「エージェントとしての私は確かに君が嫌いだ。魔法も使えない君がナジョーを解放するのを見るたびに腹立たしく思った。私は魔法の国の情報局のエージェントになるために過酷な修業に耐えてきたんだ。それなのに君は簡単に…」 「偶然さ。偶然そこにナジョーがいたのさ」 「君はナジョーの言葉が分かるだろう」 「お前はナジョナージョそのものも否定したけどな」 「しかし結果的にはナジョーの解放に繋がっている。そして私は気がついてしまったんだ。君を好きだということに」 ロジャーの告白に、ゾロリはふうとため息をついた。炎が弱まってきたので数本の木の枝を投げ入れた。 彼の思いもこんなふうに小さな火種から始まったのだ。そして最初に火をつけてしまったのはきっと自分だ。 ゾロリは少しロジャーとの距離をとった。 「話が飛躍しすぎてる。ナジョーの解放と俺への気持ちは繋がらない」 「…君がナジョーを解放するたびに危険を冒しているのを見て、たまらなく不安になったんだ。男としての私は、これ以上君に危険な真似をしてほしくないと…そう思った」 エージェントとしてのプライドがゾロリを退けようとした。けれど男としての本能が彼女を守りたいほど愛しいと思えた。 ロジャーはそういった。 ゾロリは胸が締め付けられるような痛みを感じて顔をしかめた。それが肉体的な痛みではないと知っていたのに。 同じことを言った男の顔を思い出して、ゾロリの目頭は自然と熱くなった。 『科学者として、そして王子としての私は君が嫌いだ。しかし君といると刺激になるし、なにより幸せだよ』 忘れられない最初の男の瞳が今もどこかで無様な自分を見ているような気がして、ゾロリはいたたまれなかった。 そうだ、早くこの話を終わらせる方法がある。下手をすると諸刃の剣になるかもしれないが、それでも他に策はなかった。 「ロジャー」 「なんだ」 「…お前が俺のことを思ってくれるのは嬉しいよ。俺もやっぱり女だからさ。でも…」 「でも?」 ゾロリはきゅっと唇をかんだ。 「…好きな男がいるんだ。将来は…結婚しようと思ってる」 ゾロリの言葉に、ロジャーははっと顔を上げた。 「嘘だ!!」 「嘘じゃない、俺には恋人がいるんだ!! そいつとはもう寝た」 ロジャーは一瞬、動作のすべてを止めた。そしてさらにすべてを否定するように首を振った。 「違う、君は私を遠ざけるために」 「眼を覚ませ、ロジャー。お前にはもっとお前に似合う素敵な女性がいるはずだ」 ゾロリの脳裏に一人の女性が浮かび上がった。彼女はロジャーのことを大切に思っている。もっとも彼はそのことには気がついていないはずだ。 しかしそれを口にするのは憚られるため、ゾロリは何も言わなかった。 ゾロリはふっと立ち上がってロジャーに背を向けた。 「俺のことはもう忘れろ。ナジョーを全部解放し終わればお前とももう…」 「嫌だ。君を忘れるなんてしたくない」 ほんの一瞬だった。何の音もしなかった。 再び背中に感じた熱さに、ゾロリは身を捩る。 「やめろっ、離せっ!!」 「離さない、君の答えを聞くまで」 ロジャーはゾロリの腕を掴むとそのまま彼女ごと地面に身を投げ出した。 「ロジャーっ!」 「ゾロリっ…!!」 ロジャーはゾロリの手首を自分の手で地面に縫いとめた。彼女の上に跨って抵抗されないように押さえつけている。 「やめろっ、ロジャー!! こんなのっ…こんなのイヤだっ!!」 「君がはっきりしてくれればいいんだ。私のことをどう思っているのか」 答える前にロジャーに甘く耳を噛まれ、ゾロリはきゅっと身を縮めた。彼は答える隙を与えてくれない。 「ロジャーっ…はっ…」 彼の手はすでに手首を離れていたにもかかわらず、動かすことができなかった。未だにとらわれたままでいるような気がして動けなかった。いつの間にか胸元に伸びた手が着物の上から乳房を握っている。 「うんっ…」 「ゾロリ…」 ロジャーは着物の合わせ目に手を入れるとそのままそっと左右に開いた。まぶしい肌で作られる豊かな乳房が真っ白なさらしで覆われている。 「綺麗だ…」 そっと首筋に口づけ鎖骨へと降り、さらしの上から乳房をなぞった。 「いやっ、んんっ!!」 「好きなんだ…君を…」 「ロジャーっ、やめっ…いやだっ…ううっ…」 呼吸も鼓動も止めてしまうそうなくらい切なくて、ゾロリは涙をこぼした。 ロジャーのことは嫌いじゃなかった。こんなにからかいがいのある男も珍しくてついついかまってしまいたくなっただけのこと。 でもそれが彼の気持ちに火をつけてしまったのだとしたら。 (それは俺の罪なんだ…) そしてこれがその罰なんだ、と。こぼれた涙がつうっと流れた時、ロジャーははっとして顔を上げた。 自分が何をしていたのか分からなかった。ただ静かに涙をこぼす彼女を目にしてロジャーは慌てて彼女から離れた。 「す、すまない…」 ゾロリを直視することはできなかった。のっそりと起き上がって着物を直す音だけがロジャーの耳に届いている。 ぱちっと火が爆ぜても、風が木を揺すっても、誰も何も二人の間を取り持たない。 「…お前のことは嫌いじゃなかった」 「ゾロリ?」 「俺とは全く正反対の男だけど、それでも…きっと俺が普通の女だったらお前のことを好きになってた」 ゾロリの声は涙に滲みながらも弱くはなかった。むしろ自分の思いをきちんと伝えようとする凛々しささえ感じられた。 「お前の気持ちは女として嬉しいけど、でも俺にだって裏切れない相手がいるんだ」 「私を…受け入れられない、と?」 「恋人としては、な」 ロジャーはぎりっと奥歯をかんだ。 かなえられない恋への苦しみと、彼女を手篭めに仕掛けた自分の愚かさに。 抱けばいっそ楽になれると思ってとった浅はかな行動が自分だけでなく彼女も苦しめた。 「君の気持ちはよく分かったよ」 「ロジャー…」 「でも私は君を忘れない。出会ってしまったのだから」 もう、彼女にふれることはできなかった。ただ髪を一筋掬って口づけるのが精一杯だった。 「…最後のナジョー探し、もう止めないよ。ただ、十分に気をつけて」 ロジャーの足元で草が鳴った。ゾロリがゆっくり振り返ると、彼はすでにほうきの上だった。 「ロジャー…」 「…今度会うときは…もう…」 言葉の最後は風になり、ゾロリの耳に届かなかった。彼は一陣の風になって紺碧の夜の空へと消えていく。 ただ、切ない。ただ苦しい。ただやるせない、そんな夜に。 淡く若い、月の夜だった。 ゾロリと別れたロジャーは彼女から遠く離れようと暗い空を飛んでいた。だが集中できない。ほうきにさえうまく乗れずに下方の森へと落ちていく。 何本か枝を落としながらたどり着いた大地に彼は一人で倒れこんだ。 頬に軽い擦り傷を何本も負っていた。 傷なんて痛くなかった。 ロジャーはほうきを転がしたまま自分もその場に仰向けになり、腕で目元を覆った。 痛いのは、心だけ。 (ゾロリ…) 出会ってしまった、思ってしまった。そして触れてしまった。 届くものと信じて。 でも届かなかった。 彼女が思う恋人とはどんな男なのだろう。どんなふうに彼女を抱くのだろう。そして彼女はどんな微笑みをみせるのだろう。 考えたくないことが次々に浮かんできて、ロジャーの紫水晶の瞳から涙がこぼれた。 修業時代どんなに辛くても一滴もこぼさなかった涙を、今こうやって流している。 (まだ…涙があったのか) 自虐的な思考の前に、彼はしばらく立ち上がることはできなかった。 しかしそんな彼を突き動かしたのやはりプライドだった。 ナジョーはまだ一体残っている。 何があってもゾロリはナジョーを解放しに旅立つだろう。 エージェントして、そして彼女を思う男として、ここですべてを投げ打つわけにはいかない。 残された責務を果たさなくてはならない。 こみ上げてくる思いにロジャーはなおも苦しげにその身を動かした。 隣に誰もいなくても平気だったのに、あの温かさを知ってから一人がこんなに寂しいだなんて思いもしなかった。 (やっぱり…君が好きだよ…) ロジャーは左手で口を押さえた。漏れるため息さえ聴くものもない夜の闇の中にひっそり消えることもできない。 出会いも想いも そしてこんな日も 永遠にやってこなければよかったのに 遠く離れた空の下で皮肉にも二人の思いがシンクロした。 すべてが夢なら レモンライムの果実のように 切ないだけの夢ならよかったのに 後悔しても時は戻らず、ただうつろいゆくばかり こぼした銀の涙は、ただ流れゆくばかり 残すナジョーはただひとり そしてそれが別れの日 ≪終≫ ≪熱いよ! ロジャーさん≫ んー、あれだ。アニメのほうで『はぁ!? マジで!?』という展開になったのでこっちもそういう方向で進んでみました。自分が個人的にガオゾロじゃないとなぁ…と思ったところもあるんですが。ロジャーさんというキャラを読み間違っている気もするんです。こんなに熱い人じゃないだろ、と思いつつも意外と恋愛にはまじめなのかなーって。そのわりには鈍い人なんですがねぇ。逆にせんせは惚れこんだら長いですが本格的にダメだと分かるとさっぱりと諦めて引きづらない人なのでロジャーさんと何かあってもさっぱりしてくれてそうでそのへんは書きやすいかな。 けど、ロジャーさんのことは嫌いじゃないのでナジョー探しがどうなろうともまだまだ書いていきたいんですよね。 あう…なんか支離滅裂。端的に言えばロジャゾロ大好きですww(結局それかいww) |