そして永遠なる暁の恋 もう少しで届く もう少しで捕まえられる 触れるほどに消えてしまいそうな君を 初めて自分ひとりでほうきに乗れた日。誰にも内緒で遠くまで飛んでみたくなった。 朝日が生まれる瞬間を見たくて、暗いうちから家を出て東へ東へとほうきをすすめた。 誰の力も借りないで一人でやってみるんだ。 少年は一生懸命明け方の空を飛んだ。しかしまだ慣れないほうきは彼の言うことを聞かなかった。なんとか制御しようとするもののまだ未熟な少年の魔力ではどうすることもできず、彼は森へと真っ逆さまに落ちていく。 誰にも気づかれることなく、落ちていくはずだった。 だが彼の体はがっしりとした腕の中に落ちた。自分が感じるはずだった衝撃とは大部違う感覚に少年は恐る恐る目をあけた。 「大丈夫かい?」 「は、はい」 少年の目の前にいたのは体躯のいい青年だった。年のころは20代後半、穏やかな笑顔を浮かべていた。青年はくしゃっと柔らかい髪を撫でた。少年は押さえつけられるようなその行動に眉をしかめた。 「こんなところに一人とは。おうちの人が心配するだろう」 「あの、ぼく…初めてほうきに乗れたんです。それで、朝日が生まれるところを見たくなって、それで…」 何とか上げていた顔もすぐに下げてしまう少年に、青年はふっと笑いかけた。 「まあ、少年の年頃なら誰でも考えることさ。本来ならうちに届けるところなんだが、いいだろう。朝日が生まれるところを見に行こう」 そういうと青年はその少年を丁寧に誘導しながら東を目指した。 帰れとは言わなかったし、乗せて行ってやろうともしなかった。彼の冒険心に敬意を評してただゆっくりと少年の横を飛んでいる。 「あの…お兄さん」 「おじさんでいいよ。君から見れば私もだいぶいい年だろうからね」 そういって苦笑した青年に少年は少しはにかみながら尋ねた。 「あの、おじさんは何のお仕事をしているんですか?」 「私かい? 私はね、魔法の国の情報局のエージェントさ」 「エージェント…」 「調査員ってことさ。魔法の国を守る大事な仕事なんだよ」 少年の心にエージェントという言葉が宝石の様にきらめいた。そして地平線を朱金に染める太陽に照らされる。 「さあ、朝日が生まれる瞬間だよ」 「うわぁ…」 金色の光がうっすらと紺碧の空を染め始めた。命を休める夜の終わり、育む朝の始まり、すべての根幹を成す太陽が昇ってくる瞬間。 「どうだ、少年。すごいだろう。これが朝の始まりなんだよ」 「…はいっ!」 少年は大きく返事を返した。 「ぼくっ、ぼくっ」 「なんだ?」 興奮してうまくものが言えないだろう少年を青年は温かく見つめていた。 「ぼく、大きくなったらエージェントになります!」 「ははは、そうか。君なら立派なエージェントになれるだろう。しっかり修業するんだぞ」 「はいっ!」 そう、朝日に誓ったんだ。 それからその人に家まで送ってもらった。両親にはものすごく叱られたけどあの人との出会いは自分の将来を決定づけるいい出来事となった。 あれからそのエージェントとは二度と会うことはなかったけれど絶対に忘れない。 ―――あの朝日を。 すべてを金色に染めるあの太陽を そしてその光を長い時間その身に浴び続けたように輝く彼女を その少年はやがて成長し、エージェントとなった。 最後のナジョーを解放し終え、魔法の森は元の輝きと鮮やかさを取り戻した。 全員の目に煌びやかな緑の森が映る。 「魔法の森が、元に戻ったのね…」 「そうだよ、ネリーちゃん。君が頑張ったから」 頭上から降る優しい声にネリーはふっと上を向いた。金色の綺麗な髪を揺らして微笑む女性は姉よりも少し年上に見えた。 「ゾロリさん…」 ゾロリと呼ばれた女性は優しく頷いた。イシシとノシシという双子をともに連れ、空色の着物に緑の旅袴、縞の合羽に三度笠という出で立ちの彼女とは旅をしている最中に出会った。そして魔法の森の封印を解いてほしいと願い、ゾロリは協力してくれたのだ。 「でもナジョーがまだしゃべれないな」 「ナジョー?」 ゾロリは頭の上に乗っていたナジョーをひょいと抱き上げた。ナジョーはあいかわらずナジョーとしか言えないでいる。 「魔法の森の封印は全部解けたはずなのに」 「もしかしたら、お探しの魔法の本を見つけて呪文を解かないといけないのかもしれませんね」 そういったのはエージェントのロジャーだ。彼の言葉に隣にいたミリーも頷いた。 「おいで、ナジョー」 ナジョーはミリーの呼びかけにしたがってゾロリの腕を離れた。そしてミリーに抱きとめられるとくるりとゾロリのほうに向き直った。 「心配要らないわ、ゾロリさん」 「え…?」 ミリーの瞳に一瞬だけ黒い何かが宿ったのを、ゾロリは見逃さなかった。 「これ以上、魔法の国のことでゾロリさんに迷惑をかけるわけにはいかないわ」 それはゾロリにとっては思ってもみない決別の言葉だった。確かに魔法も使えない自分に魔法の森のことは関係ない。それはロジャーからも散々指摘を受けたことだった。でも乗りかかった舟だ、お探しの魔法の本も一緒に探すつもりでいたゾロリにとって彼女の言葉が重く圧し掛かる。 「迷惑だなんて思ったことはなかったけど…」 「君たちの助力には感謝する。こんなに早くナジョーの仲間が見つかって封印が解けたのは君たちのおかげだ。でも…魔法の森も復活して魔法も自由に使える様になった今、もう君たちの力を借りるわけにはいかない。これからは自分たちでやらなければいけないんだ…」 「ロジャー…」 三者三様の想いがそこにある。 ゾロリは、最後まで付き合うつもりでいた。でもつい先日のロジャーとの出来事がそれを少し躊躇させていた。 ロジャーも、ゾロリから離れなければ自分を律することができないとわかっていた。 そしてミリーは、そんなロジャーに気がついて…ゾロリを遠ざけようとした。 達した結論はゾロリの除外だったのだ。 ゾロリはそれを受け入れた。 「分かったよ。ネリーちゃんたちが頑張るって言うなら俺はもう口も手も出さないよ。ネリーちゃんに頼まれたのは魔法の森の封印を解くことだけだしな」 「ゾロリさん…」 ネリーは少し寂しげに呟いた。 そんな彼女に視線をあわせる様にしゃがみ、そっと髪を撫でる。小さな女の子を囲んでロジャーもミリーもしゃがみ込む。 「…またなんかあったらそのときは呼んでくれたらいいよ。今はこれでお別れするけど、またいつか会えるさ」 「ゾロリさん…っ…」 ネリーは目尻がじんと熱くなったのを手の甲で拭いて誤魔化そうとした。けれど拭けば拭くほどじんわりと涙が溢れてくる。 「泣かなくていいんだよ、ネリーちゃん」 「今度はっ…魔法の国に遊びに来て、ゾロリさん、イシシさん、ノシシさん」 「ああ、必ず行くよ」 ゾロリはもう一度髪をなで、それからさっと背を向けた。 「行くぞ、イシシ、ノシシ」 「はいだぁっ!」 せんせの決めたことならと、双子はそろって声を上げた。 「…ありがとう、ゾロリさん」 遠ざかる一行にネリーは見えなくなるまで手を振っていた。 ただロジャーだけは彼女たちとは逆の方向を向いていた。 「ロジャー…先輩?」 「…最後のナジョーが解放されたことを報告にいく。そしてお探しの魔法の本についての情報を集めてくる。ここから先はエージェントである私の仕事だ」 ざっと黒いマントを翻し、ロジャーはほうきに立ち乗った。 「エージェントでない君たちにも、これ以上関わらないでもらおう」 「ロジャー先輩っ…」 ぶわっと砂埃を巻き上げてロジャーは遥か蒼空の人となった、細い水蒸気の軌跡を残しながら。 残されたのはネリーとナジョー、そして困惑のミリー。 (先輩…私は…) あなたが、好きなんです ミリーはロジャーを、ロジャーはゾロリを。 そしてゾロリは彼らの知らない別の男を。 好きなんです 「せんせー、本当にいいだか?」 「いいんだよ。魔法の森は元に戻ったんだ。それにいつまでも魔法の国のことに関わってたらいつまでたっても理想の王子様に辿り着けないもんなぁ」 「でもせんせ、おらたちせんせとロジャーならお似合いだと思っただよ?」 双子の言葉に、ゾロリは大きくこけた。 「せんせー、大丈夫だか?」 「お前たち、いきなり何を言い出すんだよ」 ゾロリはゆっくり身を起こし泥を払いながら双子を見つめた。双子は互いに顔を見合わせ頷いた。 「だってせんせ、ロジャーならせんせにたくさん会ってくれるだよ」 「んだ。ガオンはちっともせんせに会いに来ないだ。せんせを寂しくさせないのはロジャーだよ?」 「お前たち…」 双子の言葉にゾロリはふっと顔を曇らせた。確かにガオンとは長いこと会っていない。互いに旅の空だと諦めてはいるものの、自分ではついぞ知らず寂しい顔を双子に見せていたようだ。そして双子ならではの心遣いがロジャーという男の存在を認めているのだ。 「じゃあお前たちはメシ食わせてくれるガオンといっつもそばにいて偉そうでイヤミーなロジャーとどっちがいいんだ?」 「え、それは…」 双子は困って互いを見た。 「おら、ガオンがいいと思うだ。せんせとおんなしでメカが好きだし、なんたって王子様だし」 とイシシ。これに対し、ノシシが反論する。 「いんにゃ。おらはロジャーのほうがいいと思うだ。せんせ、王子様と結婚するのもいいけどお城で暮らすのは退屈だと思うだよ。それに大変だってガオンのママさんも言ってただ。ロジャーとだったら一緒に冒険の旅ができるかもしれないだよぉ?」 珍しく双子の意見が割れたのを、ゾロリは興味深げに見ていた。 確かに双子の言うとおりだ。ガオンとはメカや旅のことを通じていろいろなことを分かり合える。気の置けない恋人はと言われればそれはガオンだろう。ただ結婚となるとこれまた障害があるに違いない。一国の王子と民間人の結婚は手続きだけでも大変だという。またそれに至る過程も充分なスキャンダルだ。 一方のロジャーとは対立ばかりしてきた。魔法も使えないのにと散々厭味を言われた挙句、つい先ほどお払い箱になったばかりだ。そんな彼の性格はといえばまじめだし正義感は強いし、なによりエージェントだ。将来有望だしお給料だってかなりもらってると思う。幼いころ夢見ていた安定した暮らしと温かい家庭を築けるかもしれない。 この条件だけ見ればガオンとロジャー、天秤にかけるのは悪くない。 でも、ゾロリはロジャーを受け入れることはできなかった。 どこにいてもなにをしていてもただ自分を待っていてくれるガオンと、ロジャーを思うミリーを裏切ることはできない。ガオンは大事な恋人で、ミリーは大切な友達だった。だからロジャーが自分を求めようとしたときも彼を突っぱねた。ミリーの瞳に宿る小さな憎悪にも気がついた。 「二人とも悪い男じゃないんだけどな…」 ゾロリはゆっくり立ち上がると双子を促して歩き始めた。 罪を犯し、罰を受けるのなら――それは自分だけでいい わかっていた。 出会ったときから、いつかこうなるだろうと。 最後のナジョーを解放した瞬間が、彼女との別れの時なのだと。 解放しなければ彼女とずっと一緒に行動できたかもしれないが、それは同時に多くの人々を混乱の中に叩き落したままでもあるのだ。 ロジャーはエージェントとして自分が選ぶべき道を選んだ。 桃色のナジョーが解放されて魔法の森が元に戻ると、すべてが終わるはすだった。 しかしナジョーだけは元に戻らなかった。本来しゃべれたはずのナジョーが言葉も記憶も失ったままでいるのだ。 『お探しの魔法の本』を探して呪文を解かなければならないのだと分かった時、ロジャーは彼女を遠ざけるミリーの発言に同意した。 エージェントとしてではなく、男として。 これ以上、ゾロリに魔法の国のことで危険な目にあってほしくはなかったのだ。 離れなければならないんだ、すべてのために。 だから敢えてゾロリたちとは違う方向へ進んでいたのに、ほうきは彼女を追うように飛んでいる。 まるで用済みだといわんばかりの別れ方が気になった。そしてあの日のことも。 無理やり彼女を抱こうとしたあの夜のことも、ロジャーの心には拭えない思いとして焼き付いている。 出会いから、何もかも。夢であったらと願っても仕方のないことばかり考えた。 (そうだ、この想いは…) 初めてほうきに乗れた、遠い少年時代の朝日に似ている。金色に輝く太陽に恋をしたあの日と違うのは苦しさだけ。 (ゾロリ…) 彼には眩しすぎたのだ、金色の髪も、漆黒の瞳も、白い肌も。彼女のすべてがロジャーにとって眩しすぎた。 森を行くゾロリ一行と、空を飛ぶロジャーはその日の夜まで出会うことはなかった。 月のない夜だった。ただ小さく光る星々が夜空を彩っていた。 ゾロリは焚き火に小枝を投げ入れていた。イシシとノシシは夜も遅いのですっかり寝入っている。寝相の悪い二人だが今は仲良く抱き合って眠っていた。 「よく寝てる…」 上掛けを丁寧にかけなおし、火の側に戻ろうとしたゾロリはふっと後ろを振り返った。 木の陰に誰かいる。 「…出て来いよ、ロジャー」 「ゾロリ…」 ほうきから先に姿を見せたものの、木の陰にいたのはロジャーだった。彼女に近づこうとする男はたいてい木になりすますのが好きなようだ。 「何の用だ? 魔法の森の封印も解けてもう俺様に用はないはずだぞ」 ゾロリの瞳は闇に溶けるどころか星を映してきらりと揺らめいた。いつもの彼女どおり凛とした声で事実を突きつけられると痛い。 「君に、ちゃんと礼を言おうと思って…」 「礼なんていいよ。俺が好きでやったことなんだから」 「しかし」 「いいって言ってるだろ! 早く行け!!」 金の髪がさらりと揺れてゾロリの背中を見せた。空色の衣に包まれた体が震えているのに気がついてロジャーはふっと手を伸ばしかけた。 でもやめた。彼女に触れてはいけないと、理性がそういった。 「ゾロリ」 「魔法も使えないやつが魔法の国のことに関わるな。お前は何度もそう言った。だからもう関わらないさ。魔法の国とも…そしてお前とも」 決別の言葉をそのまま返されて、ロジャーは力なく項垂れた。 もう届かない。伸ばした手でそのまま掴むこともできない。 「それでもっ…それでもっ…」 「ロジャー?」 いつまでも立ち去らないロジャーが気になってゾロリは振り返った。 振り返ってしまった。そしてロジャーの腕に抱かれた時、それが間違いだったと知った。 「ゾロリ…君が好きだ」 「ロジャー…」 ゾロリはぐっと彼の胸を押し返した。 「言ったはずだ、俺には恋人がいるし、お前には似合わないって」 「私も言ったはずだ。君が好きだと。そしてまだ答えを聞いていない」 「答えって…」 「私を好きか嫌いかで答えてほしい」 肩を掴んでいるロジャーの手が痛い。ゾロリは僅かな痛みと葛藤で顔をしかめた。 ロジャーを好き嫌いで分別するならそれは間違いなく『好き』なのだ。自分とは正反対の男だけれど決して悪い男ではない。でも恋人として受け入れることはできない。 「ロジャー、俺は…」 ゾロリはふっとまぶたを落とした。 「お前のことは、好きだよ。でも恋人として受け入れることはできない」 辛い沈黙が二人の周囲を包んだ。 「ゾロリ…」 「ごめん、ロジャー…」 「何を謝ることがあるんだ。君の気持ちをちゃんと聞けてよかった…」 見つめあう瞳に映るのは互いの顔だけ。切ない心までは映さなかったのに、二人は自然と寄り添いあった。 「たった一度でいい。誰も裏切らないから…」 「優しい思い出になればいい、か…」 二人はゆっくりと目を閉じ、唇を寄せ合った。 たった一夜、たった一度。夜の闇に溶けるようにひっそりと抱きあいたい。 ロジャーは自分のマントにゾロリを包むとそのまま霧の中に消えていった。 「ロジャー…」 「大丈夫。双子なら君のそばにいる。…君と二人きりになれる魔法をかけた。このことは二人だけの…秘密だ」 「誰も裏切らないって決めたから…見られないほうがいいな」 ゾロリの繊手がロジャーの胸にそっと触れた。ロジャーはその手に自分の手を重ねると空いた手でさらに彼女を抱き寄せた。 「ゾロリ…好きだよ…」 「俺もだよ、ロジャー…」 どちらともなく寄せ合った唇は温かだった。何度も角度を変えて触れ合い、互いの心を寄せ合った。 背中を駆け上がる淡い電流のような刺激に襲われながら二人は何度も口づけを交わした。口づけはだんだん深くなり、歯列を割って舌が入り込んでくる。 「んあ…ふ…う…」 徐々に呼吸が苦しくなり、息が上がってきた。 「はふ…」 「は…」 ようやく唇を離したとき、舌の先が銀の糸で繋がった。 そのままロジャーはゾロリの首筋に顔を埋めてくる。僅かに着物をはだけ、少し強く首筋を吸うロジャーの唇は明らかに印をつけようとしていた。 「ロジャー…」 「すぐに消えてしまうけど…それでも、君と愛し合った。思い出だよ」 座る様に促されて、ゾロリはその場に腰を下ろした。僅かに浮いているのだろう、直接土には触れなかった。 ロジャーはマントを脱ぐと自身の傍らに捨てた。そしてゾロリの胸元にそっと手を寄せる。 「…脱がすよ」 「うん…」 ゾロリは思わず苦笑して頷いた。ロジャーが明らかに自分を気遣ってくれているのが分かって嬉しかったこともあるが、それ以上にそんなロジャーが可愛く思えたからだ。ロジャーはそんな彼女を気に留めるかと思ったがゾロリの白い肌の前に緊張しているらしい。 「ロジャー…こういうの初めてか?」 「いや、何度か…でもどうしてだろうな、まるで初めてみたいに体が動かないよ…」 ロジャーの手がぎこちなくさらしを解いているのゾロリは黙って見つめていた。その代わりといってはなんだがロジャーのダークグレイの髪を優しく撫でた。 「なんだ?」 「いや、なんとなく」 さら、と衣擦れの音がした。ロジャーの目の前にふるんと豊かな乳房が揺れる。先端の乳首は綺麗な桃色をしていた。 ゾロリは少し恥じらいを持って胸を隠そうとしたがただ寄せられただけであまり隠してはいなかった。それがかえってロジャーを刺激したらしい。ロジャーはゾロリの頬に口づけるとそのまま首筋に降り、鎖骨をなぞった。 「んあ…あっ…」 「可愛いよ、ゾロリ…」 「いやっ…あんっ…」 ゾロリがきゅっと身を竦めた瞬間を逃さず、ロジャーは彼女の乳房を捕えた。柔らかさの中にも張りがあるその乳房に、ロジャーは優しく触れる。ゾロリの体がぴくんと跳ねた。まあるく撫で、さらにきゅっと持ち上げて先端の乳首を吸い上げる。 「きゃんっ…ふっ…あ、ああっ…」 ロジャーはまるで舐め溶かすかのようにゾロリの乳首を舌先で転がした。その度に彼女の唇から甲高い嬌声が上がる。 「あんっ、ロジャーっ…やああっ…あんっ、ふっ…」 そして今度は彼女の乳房の間に顔を埋め、ぺろりと肌を舐めた。 ゾロリの鼓動が、ロジャーの耳に軽やかに届いた。 「はっ…はあっ…」 ロジャーがゆっくり顔を上げると頬を赤く染めたゾロリが泣きそうな顔で彼を見つめていた。 熱っぽく潤んだ瞳にへにょんと寝た耳が、彼女の性的な興奮具合を示している。 ゾロリはそっと手を伸ばし、ロジャーの上着の隙間からのぞく肌に触れた。細い指でロジャーの乳首を探し当てて軽く押す。ロジャーは驚いて彼女から僅かに離れた。 「な、何をしてるんだ、ゾロリ」 「何って…お前が俺にしたこと、そのまま返してるんだ…だって…俺ばっかり気持ちいいから…」 「いいんだ、ゾロリ」 ロジャーはゾロリをゆっくり引き離すと顔を赤らめた。 「でもロジャー…こんなにしてる…」 ゾロリはロジャーの足の間にそっと触れた。彼の男の部分はすでに熱を持って硬くなっていた。 「ゾロリ…」 「辛くないか? ここ…」 ゾロリがそういうとロジャーははじかれたように彼女を押し倒した。そして彼らしくない、荒々しい動きでゾロリの下半身を露わにした。 「ロジャーっ、やっ…!!」 「君がっ…触るからっ…」 ロジャーはゾロリの秘裂に指を差し入れた。彼の指はするりと中に飲み込まれた。彼女の女陰はこれまでの愛撫で湿り気を帯びていた。 「ロジャーっ…あんっ、ふっ…あうっ、あっ…!!」 膣内を擦るロジャーの指はガオンの指よりも細いような気がした。けれど丹念に愛してくれる指使いにゾロリはたまらず声を上げた。 「やああっ! あっ! あああっ!!」 「ゾロリ…っ…」 ロジャーはゾロリの足を担ぎ、濡れそぼった女陰に自身の分身を宛がった。そしてそのまま身を進める。ぐちゅっと湿った音がしてロジャーの男根はゾロリの胎内に挿入された。 「あ…ああ…」 深く侵入してくるロジャーにゾロリはたまらず顎を上げた。体を揺さぶられるたびに遅れて乳房も揺れる。金色の髪は汗で湿って彼女の頬に張り付いていた。 「ろっ、ロジャー…ああんっ…くうっ…」 「ゾロリっ…はっ…」 上気した肌に玉結ぶ汗が光る。ロジャーはゾロリの脇に手をついて何度も腰を揺らした。 「やんっ、あああっ、いいっ、いやああっ…」 「ゾロリ…はあっ…すごくいい…」 ロジャーが経験した女性の中でゾロリは最愛の存在だ、その体も名器といっていい、男根を柔らかく包む襞が全体をきゅっと締め付けてくる。 狐は淫乱だというが、彼女はそうではなかった。 確かにゾロリは容易に肌を晒すし、男にも簡単に触れてくる。でもその恋愛観念はというと思いもよらないほどしっかりしていた。 ロジャーが知らない男を心の奥で唯一の恋人として大切にしているのだ。 その男が自分ではないのが悔しかったけれど、今こうして彼女と抱き合える、それだけで満足しなければならない。 そんな儚い、でも美しい恋の思い出を抱いて生きていくのだ。 「ロジャーぁ…」 「ゾロリ…綺麗だよ…」 ゾロリはロジャーの首筋に腕を回して抱きついた。縋れるものは目の前のロジャーだけなのだ。 「ロジャーっ…はあっ…ロジャーっ!!」 「ゾロリっ…くっ…」 「ロジャー、だめっ、中に出したらっ…あああんっ!!」 ゾロリの体がぎゅっと緊張した。その拍子にロジャーをきつく締め付けてしまったが、彼の男根はゾロリの体を離れていた。 「くっ!!」 「ひゃああああああんっ……!!」 ロジャーの放った白い飛沫がゾロリの体の上に落ちた。ゾロリはぐったりとしてロジャーにもたれかかった。 「はあっ、はあっ…」 「ゾロリ…ありがとう…」 ロジャーはゾロリの背中を優しく撫でた。ロジャーの腕の中でゾロリはふっと微笑んで目を閉じる。疲れてはいたが心地いい疲れだった。 「朝が来るまで、ずっとこうしていても?」 「うん…動けそうにないから」 ことんとロジャーの肩に頭を乗せる。少し薄い彼の胸板に体を預け、ゾロリはじっとロジャーを見つめていた。 少し日に焼けた肌と、柔らかいダークグレイの髪、そして紫色の水晶のような瞳。 ガオンより先に彼と出会っていれば、何かが違ったのだろうか。 気がつけば一筋の涙がつうっと頬を流れていた。 「なっ…ゾロリ!?」 「え…あ…」 困惑するロジャーの声と潤んだ視界に気がついてゾロリは手の甲で何度も涙を拭った。でも昼間のネリーと同じで、拭えば拭うほど涙が溢れてとまらなかった。 「どこか、痛いのかい?」 「ううん、違うんだ…」 ゾロリは小さく首を横に振った。ロジャーの裸の胸に顔をうずめ、嗚咽を漏らしている。 「ゾロリ…」 ロジャーは何も言わずに彼女を抱きしめた。どんなに一夜の夢と願ったとはいえ、ゾロリには恋人がいたのだ。そして自分と繋がったことで泣いているに違いない。綺麗な思い出のままで終わらせるのに、この行為は罪深かった。 出会いが違っていたなら。魔法なんてなかったら…いや、彼女の心を奪う魔法があったのならよかったのに。 温かすぎるゾロリの体を抱きしめて、ロジャーはそっとその髪を撫でた。 太陽の光のように温かで優しい金色をした髪を。 「ロジャー…」 「…何も言わなくていい。何も…」 ロジャーはゾロリの目尻にそっと口づけるとたまっていた涙を吸い上げた。 それは小さな魔法だった。 (おやすみ、ゾロリ…) そう、これは夢なんだ 夢ならば、忘れられる 翌朝、ロジャーは眠ったままのゾロリを清め、着物を着せてからその場を離れた。 朝の明るい光の中で彼女を見る勇気も、かける言葉もなかったからだ。 幸い、まだ夜は明けていなかった。 (さよなら、ゾロリ…) そしてもしまた会うことがあれば、そのときは笑顔で出会いたい。 何事もなかったかのように笑い、いつものように少し嫌そうな顔をしてくれればいい。 ロジャーは名残を惜しみながらほうきに乗って飛び退った。 彼が完全に遠くに行ってしまってから、ゾロリはふっと目を開けた。起きていたのだ。ただロジャーの動向が気になって寝たふりをしていたのだ。 彼は清める以上のことは何もしなかった。頬や髪を撫でたり、口づけたりもしないまま、去っていった。 泣いたのは、痛かったからじゃない。 体も心も痛くなかった。後悔するような出会いでもなければ辛い情事でもなかった。 ただ、わけもなく泣きたかっただけなのだ。 (ロジャー…) 胸元で手を祈りの形に組み合わせる――強く、深く。 どうか彼の行く道に困難がありませんように、と。 そしてもしまた会うことがあれば…。 暁の空を駆ける願いが二つ いつか出会うその日はどうか 友達でいられますように しかし欲深く願わくは この恋が暁色の永遠でありますように ≪終≫ ≪魂抜かれた≫ やっちゃった…やっちゃった。ロジャー×ゾロリ。えちしちゃった。いつまでもせんせをほったらかしのガオン博士もいけないと思います! ロジャーさんとせんせは絶対仲良くなったほうがいいってww ←何を力説しているかww しかしあれだ、自分こんな話書けたんだなーってちょっとびっくりーww というものちゃんと決まったお相手がいる場合には他の相手とってことは全くなかったんですから。 反論、抗議、お待ちしていますが如月は小心者なので石をぶつける程度にしておいてください。 |