Drive on the Milkyway 愛しあっていたからこそそこに節度が必要だったというお話 それが七夕の伝説 今宵の織女と彦星は何を語るのだろうか 琴座のベガと鷲座のアルタイル、さらに白鳥座のデネブを繋いで作る三角形は俗に『夏の大三角形』と呼ばれる星座の中ではわりと有名な指標のひとつだ。 晴天に恵まれた七月七日というこの日の夜空にくっきり浮かんだ天の川に一同声を上げる。 笹も一本じゃ足りなくて仕方なく竹も持ってきた。 「しっかし、全員揃うとすごい人数だな、何人いるんだか」 竹を担いでいた童虎がひいふうみと数え始めて諦めた。聖闘士だけでもざっと二十人を越える。 「なーに、気にせんでもいいじゃろ。こんな事でもなければ揃わんのだからな」 既に杯を傾けているシオンから少し離れたところに流麗な紫の髪をしたシグナルが猛禽を肩に座っていた。 「綺麗だねぇ、コード」 「そうだな、夏の夜空は星の割りに見えにくいものだがな」 「日没が遅いせいからかのう。だが今日はほんによう見える」 「望ちゃんたら。桃は絶対に手放さないね」 シグナルの横には呂望が桃をしっかりと抱えて座っている。食べるか、と差し出された桃をシグナルは素直に受け取った。それを見ていた双子のイノシシがじっとこちらを見ているのに気がついて呂望はふたりを手招きした。 「おぬしらも、食うか?」 「いいんだか?」 「もちろん。ほら」 呂望が差し出す桃を受け取ったのはイシシとノシシ。ほくろがあるほうが弟のノシシなので見分けがついて便利だ。ふたりはちゃんとお礼を言うとすぐには食べずに嬉しそうに抱えて走っていった。 「かわいいね、あのふたり」 「見分けがつく双子は助かるのう。なんと言ったか、あのふたりだけはまったく見分けがつかん」 「サガとカノンでしょ? さっき私も間違えて怒られちゃった」 似た声をしたふたりの少女は少し遠くで言い争うサガとカノンを眺めて笑った。 「そういえば瞬ちゃんが言ってたよ、あのふたり、ちゃんと区別できるんだって」 「ほう」 「薔薇のにおいがするほうがお兄さんのサガで、海の香りがするほうが弟のカノンなんだって」 「なるほど、磯臭いほうが弟か」 「そんな実も蓋もない……」 先ほど話題に出た瞬はと言えば恋神様の冥王ハーデスにべったりくっつかれていた。 カノン、兄弟喧嘩している場合じゃないぞ。 「七夕とは異国の伝統行事であったか。このような紙切れに願いを書いて叶うのか?」 「神様がそんなこと言わないでくださいよ。気持ちの問題なんですから」 「そんなものかな……」 どうも自身が神であるせいか神頼みとかいう感覚になれない冥王はそれでも郷に入ったのだからと郷に従っている。 「愛し過ぎて引き離されたか……可哀想と言えば可哀想だが、愚かといえば愚かだな」 「説得力がないですよ。なんですか、さっきからおんぶおばけみたいに」 瞬の後ろをぴったりくっついている冥王、彼には彼なりの言い分があるようだ。 「浴衣、と言うのか? それは。そのように愛らしい格好をしておったら危険ではないか!!」 「あなたが危ないと思ってるのはカノンに対してだけでしょう?」 「カノンだけではないわ!! さっきのバカでかい男はなんだ!?」 「ちょっと挨拶しただけじゃないですか!」 神と少女の口論に出てきたバカでかい男がシグナルの頭の上にもうひとりのシグナルを乗せる。 「やっほー、大きいシグナルちゃん」 「ちびちゃん、それにオラトリオも」 シグナルはちびを膝の上に下ろし、柔らかな紫の髪を撫でた。オラトリオの身長は210センチ、アルデバランと同じだ。これだけ人が集まっていても2メートルを越える彼らを見つけるのは容易い。 「なんか、むこうの料理班が人手が足りないって困ってたぜ?」 「あっ、じゃあ行ってあげよう。望ちゃんも行こう?」 「そうじゃのう」 言うなりシグナルはコードとちびを、呂望は桃の籠をオラトリオに預けて走っていった。 コードが桜色の翼ではばたいてシグナルの後を追う。長身すぎる彼はそんなコードを見て苦笑する。 妹のシグナルを深く思ってくれるのは嬉しいのだが。 「やれやれ、師匠が行っても出番なんてないのにね」 「いーじゃないですか。お兄さんにはあたしがいますよ」 ちびはオラトリオの肩までよじ登ると小さな唇で大きな彼に口づけた。 オラトリオは微苦笑して、それでももう一人の妹の行為を受け入れた。 いくつかの大鍋にたくさんの素麺が茹でられている。陣頭指揮を執っているのが<A−K KARMA>、シンクタンクアトランダムが開発に成功した等身大のHFRが彼だ。彼の名は≪箱舟、その業≫の意味を持つ。 同じような微笑を湛えて素麺をかき回しているのが牡羊座のムウだ。 「おわんは足りていますか? ああ、お箸は……そこ! 摘み食いしない!」 「星矢、お前は……貴鬼と遊んでろ」 「あー、うちの双子も頼むわ! こっちに連れてきたら片っ端から食べられちまう……」 黒髪が麗しい紅顔の美少年が紫龍、双子を預けたのがゾロリだ。 「ゾロリさん、ぼくは?」 愛らしい声の石像がくいくいとゾロリの袖を引っ張った。ゾロリはそんな彼に優しく視線を落とす。 「プッペも遊んでおいで。ここは大丈夫だから」 「でも……」 「大丈夫。ほら、人も来てくれたし」 そういうゾロリの視線の先にはシグナルと呂望、それにバスケットを下げたクリフトもいた。 「遅くなってすみません、から揚げを持ってきました」 クリフトの差し入れにこれで一品できたとばかりに一同が喜ぶ。 「私たち、なにかすることあるのかな?」 そう言って顔を見合わせたシグナルと呂望にカルマが話しかけた。 「じゃあ、そこのカキ氷セットを運んでください。氷は今作ってもらっていますから」 「はーい」 シグナルと呂望はふたりで削氷機やシロップ、器やさじを運んだ。ちなみに氷を作っているのは水瓶座のカミュに白鳥座の氷河、クラーケンのアイザックに雪女の吹雪その子さんとその息子のコオローだ。五人は氷を作りながら絶対零度について熱く語り合っている。ぜんぜんクールじゃない。 そこから少し離れたところでアリーナとガオンと姫発が君主論を戦わせていた。忘れそうになるが全員とも歴とした王子様あるいは王様だ。 子供たちの面倒を見ているのは星矢と一輝、オラクルとエモーションだ。そこにちびを乗せたオラトリオもやってきた。 星矢が恨めしそうに厨房代わりのテントを見つけている。 「厨房追い出されちゃったからなー」 「んじゃ、もっかい忍び込むだよー」 「んだー!」 イシシとノシシが星矢を唆してテントの入り口ではないところから侵入を試みた。 が。 当然侵入者避けにクリスタルウォールが張ってあったのはいうまでもない。頭を打った星矢たちはそのまますごすごと引き下がるしかなかった。 カルマが感心して唸る。 「便利ですねぇ、これ。こういったものを電脳空間でも作れればウイルス避けになるんですが……」 早速正信に話して開発させようと誓うカルマであった。 「素麺茹で上がったよ! きゅうりとさくらんぼは!?」 「まず素麺を冷やして!!」 「誰か麺つゆ作ってる!?」 「カミュは? カミュはどこ!?」 「外で氷を作ってたよ」 エクスカリバーできゅうりの細切りを作っていたのがシュラだ。デスマスクは相変わらずカニクリームコロッケに余念がない。そこにアイオリアとアルデバランが戻ってきた。 「ポポンドリング受け取ってきたよ! 予約って便利だねぇ」 「俺はそろそろバーベキューの用意をしよう」 「ならわしは天化を呼んでこよう。火の用意がいるじゃろう?」 「一輝も呼んできたほうがいいですね」 火竜ヒョウと鳳翼天翔の火力は期待できる。 場面は再び外。 厨房侵入に失敗した星矢とイシシノシシの双子が残念そうに帰ってくるのをエモーションが微笑みながら見つめていた。 「やっぱり失敗しましたのね」 「惜しかっただ」 「いいセン行ってただ」 子供の言葉はいつも可愛いと、エモーションは幼い頃のシグナルを思い出して、ふとイシシとノシシの帯を見た。 「あらあら、解けかけてますね。結びなおしてあげましょうね」 エモーションは屈んでイシシの帯を直してやる。ノシシのほうはやってきた空色の髪の女性がやっていた。目元にほくろのあるその女性はとても美しかった。ふわりと漂う薔薇の香りにノシシはほおっと目を細める。 薔薇と言えばガオンもそうだが、この女性のものはどこか甘やかさを含んでいた。 「はい、出来ましたよ」 「君のも出来たわ」 しっかりと結ばれた帯にイシシとノシシは満足そうに笑う。 「ありがとうだ、優しいお姉さん」 「きれーなお姉さん、ありがとうだ」 綺麗なお姉さんという言葉に帯を結んだ女性――アフロディーテは心底嬉しそうに笑った。 「子供は正直ね」 「可愛いですわね」 エモーションとアフロディーテが視線だけで笑いあった。 そうこうしているうちに料理も完成し、紫水晶の日々を重ねる一同が会する七夕パーティは始まる。 挨拶に立ったのは神様代表・城戸沙織。マイクテストに辰巳。 「あーあー、マイクテスっマイクテスっ。本日は晴天なりっ」 「うるせーぞ! 辰巳!!」 星矢の野次が飛んだところに一同からどっと笑いが起こる。沙織にマイクを譲った辰巳はすぐに下がっていった。 「えー、皆様、本日はようこそおいでくださいました。本日は七夕ということでささやかながら宴席を設けさせていただきました。存分に楽しまれてくださいませ。それでは」 それぞれにグラスを持ち、高く掲げる。小さな光の反射が集まって地上にも銀河がこぼれているようだ。 「かんぱーい!」 「かんぱーい!」 カチンとグラスを合わせる音がそこかしこから響く。立食形式なので皆そぞろ歩きながら会話と食事を楽しんだ。 「あらー、ゾロリちゃんじゃないのー」 「妲己姉さん……出来上がってる」 同じ狐の耳持つ彼女らは同属にはとても優しい。妲己は相変わらずのセクシーボディだ。 ひとりだけ豪奢なソファに座ってるのは彼女が殷王の妃だからだ。 「これはこれは、類稀なる美女がおいでだ」 「あらん、冥王様じゃないのー。可愛いコ連れてるじゃないのん」 どこからどう見ても目立つ髪形の冥王は瞬から離れようとはしなかった。これでも守っているつもりらしい。 借体形成の術を心得ているふたりはなにかしら話も合うらしい。 「その子なのん? 今度の憑代だったって子はん」 「そうだ。だがちょっとしくじってな。そのかわりに余の妃になってもらうのだ。な?」 まだ婚約未遂だというのにもう妃だと紹介して回っている冥王に少しうんざりしながらも瞬はこっくり頷いた。 妲己はなるほどと軽く頷いて見せた。 「こんなに可愛い子じゃ、魂は消せないわね」 「わかるか、妲己よ! ああ、やはり借体形成の術を心得ているものは違うな!」 「あらん、あなたのお兄様も心得ていらっしゃるわよねぇん」 「あれはただ乗りうつっとるだけだ」 冥王の兄は海神ポセイドン。彼もまた人間の肉体を借りて活動する神様だ。 憑依と借体形成の違いはもとの宿主の魂を壊すか否かにある。前者の場合は用が済めば元の持ち主に返されるが、後者の場合、体は強奪され、魂は完全に破壊される。 冥王は瞬を欠片も残さずに消去するつもりだったのだがアテナの邪魔がはいってそれができなくなってしまっていた。 だがそれが契機となり、ハーデスは瞬と恋をするに至っている。 妲己は瞬を見つめて優しくも悲しい微笑を浮かべる。 「羨ましいわねん……恋が出来るっていうのは」 屑ではない星になった彼女はこれからどんな想いでこの悠久の時を生きるのだろう。彼女にもそばにいてくれる誰かがいればいいのにと、冥王は柄にもなく想ってしまう。 「……幸せになるのよん、瞬ちゃんも、ゾロリちゃんも。わらわはずーっと見守ってるわん」 「妲己姉さん……」 傍らにいたゾロリが妲己をそっと抱きしめる。燃えるような赤い髪の妲己が太陽の金を髪に持つゾロリの胸元に顔を埋める。柔らかいその感触に妲己は静かに目を閉じ、冥王もなにも言わずに立ち去った。 それから瞬と一緒にそぞろ歩いていた冥王はなにか釈然としないものを感じていた。 「むぅぅ……」 「ムウならそこにいますけど」 「牡羊座に用はない。そうではなくて、見ればどこもかしこも恋人だらけではないか!」 「あー、そうでしょうねぇ……」 十二宮の住人たちだけではない、この会合に集まったほとんどが恋人同士である。シグナルのそばにはいつのまにか人型になっているコードが座っているし、呂望は天化とともにかき氷を食べながら頭を抱えている。クリフトはアリーナの口許を拭いては子供じゃないんだからと反抗されている。ゾロリもゾロリでイシシとノシシ、プッペの面倒を見ながらもガオンと幸せそうに笑っている。ざっと目に付くだけでこんなもんだがほかにも恋人と呼べるような関係の男女がごろごろしていて、冥王はかなり遅れをとっているのではないかと焦る。 「瞬!」 「焦らなくても、大丈夫ですよ。恋は急げばいいってものじゃないでしょう?」 「しかしだな」 愛は愚か恋も知らない冥王はまるで子供のようにうろたえている。うろたえると先代の牡羊座の必殺技が飛んでくるのだがあいにく彼女は童虎やブライ、姫昌といった敬老会の面々で酒を飲んでいて気づかないようだ。 「じゃあ、お願いをしましょう」 「願い?」 「短冊に願いを書いて吊るしましょう。恋愛成就って」 「神である余が星に願うか……」 言いつつも冥王様、しっかりペンを握って願い事を書いている。 願い事というよりは、日々新たにする瞬への想いを願いという形で誓い続ける。 「余は未来永劫、瞬とともにありたい……」 「私も、あなたに思われる限り、あなたを裏切らない。ね?」 微笑みかけた瞬に、冥王も静かに微笑み返した。 やはりこの時代に彼女を選んで正解だったと、そっと肩を抱く。 「よし、星にいちばん近いところに吊るすぞ!!」 すると冥王は瞬とふたり分の短冊を頂上に括りつけようと、ふわりと飛びあがる。頂上には白い獣が二匹、ぷかぷかと浮いていた。 「おや、冥王ハーデス」 「申公豹ではないか。そなたもおったのか。なんだ、天帝にならんかったのか? あいも変わらず道化ておるな、そなた」 「あなたこそ、冥府へ引きこもって長いはずなのにこんな会合にいらっしゃるとは」 「うん、妃がおるのでな」 はっきり王妃だと断言してしまうあたりが冥王の強引さというものであろうか、申公豹は小さく笑うに留めた。 「となりの方は伏羲殿ではないのか?」 四不象に乗った黒髪の少女は鼻歌を歌いながら竹に短冊を括りつけている。 「御主人は何をお願いするんスか?」 「んー? 国家安泰と世界征服……じゃなくて世界平和じゃ」 「御主人、今“世界征服”って……」 「激しく気のせいじゃ。おぬしこそなんと書いたのだ?」 ひょいと短冊を覗かれそうになった四不象が短い腕で短冊を庇う。そこにロリロリな少女が突然現れた。 「スープーちゃんは喜媚とらぶらぶダリっ!」 「うわあっ、喜媚さぁ〜〜ん」 ぶちゅぶちゅと熱烈なキスを受けて、スープーは一目散に逃げ出した。 冥王は未だに短冊をつるすことが出来ずに呆然としていた。 「おのれ、シロカバでさえあのようにいちゃついておるとは! 負けておれぬ!!」 黒髪の王は瞬と自分の短冊をしっかりと結わえるとまっすぐに愛しい少女の元に戻り、抱きついた。 「瞬!」 「な、なんですか?」 「余はカバにさえ負けておる……」 「はい?」 意味不明な冥王をよしよしとあやす瞬の手は優しかった。 そこに現れたのは狐と狼の恋人たち。 「よーし、お前たちの短冊は俺が吊るしてやるな!」 「わーい」 そういうとゾロリは浴衣の胸元をごそごそとあさってマジックハンド両手版を出した。マシンやメカなら負けじとガオンも改良型マジックハンドを披露する。 ゾロリは自身を含めて四人分、ガオンは自分のをつるした。 「お前たち、なんて書いた?」 「おらおにぎりいっぱい食べたいって」 「おらはメロンパン!!」 子供らしい罪のない願いにゾロリは苦笑する。 「プッペは?」 「ぼくはこれからもみんなで仲良く出来ますようにってお願いしたっピ」 満面の笑顔で告げたプッペの頭を優しく撫でて、ゾロリはしろいおばけ姿になっていたプッペをそっと抱き上げた。 「ピ?」 「いいお願い事をしたな、プッペ。お星様はきっと叶えてくれるよ」 願うだけではダメだと分かってはいるけれど、でも願わずにはいられなくて。 「そういう君はなんで書いたんだい」 「もちろん“イタズラの女王様になる!!”に決まってんじゃん」 ぐっと拳を握って高らかに宣言するゾロリにガオンはどこか寂しさを感じていた。自分の短冊には王家の者らしく国家安泰と書いた。だが本当の願いは彼女を王妃として迎えること、ただそれだけなのだ。 「ゾロリ」 「ん?」 「私の願いをかなえてくれるのは星じゃなくて、君だ」 「……分かってるよ」 尻尾の気持ちは正直で、ふたりのそれはぴこぴこと揺れている。 そこに銀髪の目つきの悪い男が現れた。 「おい! 取り込み中悪いんだけど、この辺からPiって聞こえたんだけど!!」 「ん? もしかしてプッペか?」 ゾロリの指が足もとのプッペを差した。 「ピ?」 「……違う! 俺が求めているのはこんな大福じゃねぇ!!」 男はあからさまにがっかりして去っていった。 「なんだったんだ、あれは」 「さあ……」 どこまでもPiにこだわる男、彼の名は蟹座のデスマスク。 そうしてパーティが盛りあがりを見せるころ、シグナル、呂望、瞬、ゾロリ、クリフトの五人の手で真っ白な蝋燭が運ばれてきた。 各テーブルの真ん中に据えられたそれを星矢が不思議そうに眺める。 「なあ、瞬。これ蝋燭だよな? なんに使うんだ?」 「もちろん灯りだよ。今からここの照明全部消しちゃうんだって」 「そうすれば地上の光に邪魔されないで星がもっと綺麗に見えるんだよね」 偏光する紫の髪を持つのがシグナル、彼女は薄闇の中でぼんやりと光り始めていた。 火をつけて回っているのは天化と一輝だ。 蝋燭の灯りが全部ついたころを見計らって沙織が照明を消す指示を出す。暗くなっていく地上とは反対に天空に散りばめられた星はまるでベールをはがされた貴石のようにその輝きをより強く鮮やかにした。 一同から簡単の声があがる。 「綺麗ね……」 「うん、でもカミュのほうがもっと綺麗だ!」 「……バカ」 蠍座の彼氏と水瓶座の彼女は顔を見合わせて微笑んだ。そのとなりに双子座のマスクをかぶって顔の正面に蝋燭を持つムウさえいなければとてもステキな雰囲気だったに違いない。 「ねえ、クリフト」 「なんですか、アリーナ様」 「冒険の旅が終わっても、君は変わらずに私のそばにいてくれる?」 綺麗に切りそろえられた栗色の髪の青年は藍色の髪の恋人を真剣に見つめる。 クリフトはそんなアリーナを不安にさせないように微笑んで問うた。 「どうして、そのようなことを問われるのですか?」 「……いなくなるような気がしたから」 幼い頃からずっと一緒だったふたり、女は男の盾とも剣ともなることを望んでいた。 その契った指先を離さないように、クリフトはそっと彼の手を握った。 「クリフト……」 「私は生涯王子のものですよ、アリーナ様。あなたのお許しを得ずに離れるわけがありません」 どうかあなたの御心のままに、私は織女にはならないから。 「心配しなくていいですよ、王子」 「うん、ありがとう」 ぎゅっと握った手の温かさだけ、あればいい。となりのテーブルで自分のそうめんを誰かに食べられてしまったシャカが『私の顔が引導がわり!』などと叫んでいなければこれまたステキな恋人の風景には違いない。 七月の夜空に煌くのは白鳥と龍、ペガサスとアンドロメダは残念ながら地平線からそう高くないところにあるので見えにくい。そのかわりミロが見ろ見ろと叫んでいる。 「ほらあれ!! あの紅いのアンタレス!!」 「叫ばなくても見えてるわよ、ミロ」 興奮してスカーレットニードルを打ちかねないミロを必死で止めるカミュを見て笑うのが剛毅果断のオロス姐さん。 空色の髪を結い上げて簪を差し、薔薇を染め抜いた浴衣を着たアフロディーテがサガにそっと寄り添う。 「双子座は見えなくなっちゃったね」 「あれは春の星座だからね。もっとも、私は君がいればいつだって春だよ」 「やだ、サガったら」 「フッ、その弟に春は永久に訪れまいな」 少し離れたテーブルにいるのは青銅一軍。ハーデスは相変わらず瞬から離れない。 「何か言いました?」 「いいや。それより余からちょっとした余興を、ここにいる恋人たちに……」 そういうとハーデスは軽く指を鳴らす。 瞬間。 「うわあ! 流れ星ですぅ!!」 オラトリオの頭に乗っていたちびの声に誰もが星空を凝視する。星が夜空を駆けるのはほんの刹那の時間だからだ。 だが流星はひとつではなかった。 「せんせ、お星様がいっぱい降ってくるだー!!」 「雨みたいだねー」 「そういうのを流星雨っていうんだぞ。でも今日見られるって言ってたかな?」 ゾロリの疑問を耳にした瞬がゆっくりハーデスを見上げた。 「ハーデス、あなた……」 「余興だ。それだけだ」 惑星を並べることが出来る冥王にとって流星を操るなど児戯に等しい。 感歎の声をあげて夜空を見上げる恋人たちに、冥王からのささやかな贈り物。 「恋とはよいものだな」 「でしょう」 「そなたが嫁いでくれれば余はもっと幸せになれる」 甘い囁きに瞬はぼっと顔を赤らめ、しょうがないなとばかりに背伸びをして冥王の頬に口づけた。 「調子に乗らないで下さい」 「無茶を言うな」 星降る夜に恋人たちの甘い囁きと熱い口づけ。 七夕の闇は人の願いをどこまで聞いて、叶えてくれるのだろう。 おそらくは永久にやむことのない願い それは永遠に訪れることのない恒久の幸福の裏返し でもだからこそ生命はいつまでも詠い続けるのだろう 少女たちを核とした物語のなかに 遥かなる愛と平和の祈りを ああ朝がやってくる そして生命は戻っていく 永久などないと知りつつ願い、戦い続けるそれぞれの物語へ ≪終≫ ≪七夕企画はみくすちゅあー≫ なんとか間に合ったか!! (*゚д゚)ゼェゼェ。各ジャンルで七夕やると面倒なので一堂に会してもらいました。 並べてみて『このキャラとこいつ似てる!』とかわんさか出てきて面白かったです。 あと、出てきてないカップリングやキャラがいますけど……ごめん。パルス×クリスと、ロジャー×ミリーな。あとペペロやネリーちゃん。その他大勢、ごめんな! またこういう機会があれば出すからね! どうなんだろ、こういうクロスオーバーっていうかごった煮みたいなのは。 なんか反応があれば嬉しいです。 |