お出かけしましょ 〜果てしない楽園の夏休みVER.



だって夏休みなんだもん



「ねぇ、とーさまはいつお休みなの?」
長女のティアラと長男のトゥルースが揃ってコードの膝の上に乗り上げてきた。
新聞を読んでいたコードはああとカレンダーを見つめる。
「基本的に土日が休みだ。大人になると夏休みなんてないからな」
双子が言いたいことは分かっている。夏休みだからどっかに連れて行けというのだ。もちろんコードの両親に孫の顔を見せにも行った。妻の実家もまた然り。
けれどそれだけで子どもは納得しない。妻の実家は歩いて五分、ちょうど真裏に当たる。
そんなのお出かけの内には入らない。
「ねぇ、とーさま」
パパと呼ばせないのは自分がそういうキャラでないことをコードが自覚しているからである。
ティアラはずいっと膝を進めてうるうるとコードを見つめた。
「……なんだ」
「こうやってうるうる見つめてればとーさまは落ちるってかーさまが」
「とーさまぁ……」
トゥルースまで真似してうるうるうる。
いったい妻は子どもたちに何を教えているのやら。
しかしうっかりほだされてしまう自分にも非があると、コードは新聞を折りたたんで脇に置いた。
「じゃあ、率直に話し合おう、膝から降りろ」
「はーい」
コードに言われるまま、子どもたちは自分たち専用の椅子を持ってくるとそれにちょこんと腰掛けた。
こうしてカシオペア家会議が始まるのである。
「とーさま、夏休みなのでどっか連れてって」
「どっかってどこがいいんだ。どこでもいいというのは認めんぞ」
言われて子どもたちは何故だかきょとんとしてしまう。
どこかに行きたいには行きたいのだが、具体的に例をあげろと言われれば難しいらしい。日々の食事でさえ何がいいと聞かれても答えにくいものだ。
「ん〜〜」
「んん〜〜」
子どもたちが必死に考えていると、ただいまーと明るい声が聞こえてきた。双子はほぼ同時に顔をあげる。
「あ、かーさまだ!」
「おかえりなさーい」
会議の途中でも双子は母を迎えに行く。コードはやれやれと腰をあげた。
帰ってきた母親は手にたくさんのバッグを提げていた。
「ゆっくりだったな、シグナル」
「ごめんなさい、タイムサービス狙ってて」
玄関先で靴を脱ぎながら、妻――シグナルはコードに謝罪する。別に咎めたてているわけではないのだから謝ることもないのだがと苦笑するコード。結婚してもう七年になるのにまだまだ新婚のように仲がいい。
シグナルがリビングへ向かうと、子ども会議の途中らしい椅子が目に入る。
「あれ、会議中だった?」
「ああ、夏休みだからどっか連れてけとな」
言いながら議長コードはもとの席に戻る。子どもたちはシグナルが買ってきた物をしまい終わるのを待った。そして彼女の手を引いてコードの隣に座らせる。シグナルは紫苑色の髪を自分の前に寄せた。
「で、どこに行くのか決まったの?」
「いや、まだだが」
コードがそう言ったところで今度はドアベルが鳴った。折角座ったシグナルがまた立ちあがる。
誰だろうとインターフォンを取ると、そこには見知った夫婦が立っていた。ダンナのほうが何やら騒いでいたが、奥さんのほうが大丈夫だからと窘めている。
「なんだ?」
コードがシグナルの背後から窺う。
「お隣の瞬ちゃんだよ。ほら、おなか大きいからって実家に戻ってたでしょう」
「ああ、そうだったな」
城戸さんちはカシオペアさんちのお隣である。
そんな夫婦がなんの用だろうと、シグナルはパタパタと玄関に向かった。
「はーい、今開けますよー」
外ではまだなにやらごちゃごちゃ言っているのが聞こえる。身重の奥さんを気遣っているらしいのが分かった。双子を妊娠していたとき、コードもこんなふうに優しかったなんて思うと、シグナルの頬が思わず綻ぶ。
「瞬ちゃん、どうしたの?」
瞬は昨年結婚し、現在妊娠8ヵ月の身重なのだ。夫のハーデスがときどきおろおろしているのが微笑ましい。
そんな瞬のかわりにハーデスが口を開いた。
「いつも瞬がお世話になっていて、今日はお礼に来たのだ」
「そんな、うちのちびちゃんも小さいときにはお世話になったのに。とにかく暑いからあがってください」
シグナルの申し出に夫妻は顔を見合わせ、頷いた。
「じゃあお邪魔します」
「どうぞ、散らかってるけど」
ハーデスが瞬の手を引いて一歩、屋内に入る。それだけのことなのに敷居に気をつけろだの喧しいほどに優しい。
なんか懐かしいなと思いながらシグナルは夫妻を招き入れた。



お客さんだと聞いても動じないのは子どもたち。
会議を中断させ、自分たちの椅子を片付けてそっと父のそばによる。そして入ってきたお客様にちゃんとご挨拶するのだ。
「あ、瞬ちゃん!!」
「……と、ハーデスおじちゃん」
「余はついでか」
子どもたちにとってハーデスは余り顔を合わせない人物である。瞬が城戸家へ戻っていなかったらおそらく知り合うこともなかっただろう。渋面を作るハーデスを瞬はまあまあと宥めた。
適当に座ってとシグナルが着座を促す。もちろんハーデスは瞬の手を取ってゆっくりと座らせている。
ティアラはほうと溜息をついた。とーさまもかなり優しいと思うが、なかなかどうしてこのハーデスも妻に対して献身的で、それでいて瞬がその優しさに奢っていない。将来はこんな男を見つけるんだとぐっと拳を握る。
粗茶ですがおかまいなくというやりとりもそこそこに、先手に出たのはハーデスのほうだった。
「実は、これを」
そういって彼が取り出したのは一冊のパンフレットと真っ白な洋封筒だった。
ハーデスの無言の了解を得てコードが手にする。
表紙は高級そうなホテルのロビーが瀟洒な文字で飾られている写真。
「……これは?」
コードがちらとハーデスを見る。
彼が世界有数のホテル経営者であることは周知の事実。こんな一般の民家で茶を啜っているほうが珍しい。
そんな夫に代わって瞬が唇を開いた。
「うちの人が経営してるホテルなんですけど、今度新しいホテルを建てたんです。それで折角夏休みなんだし……って言ったら失礼なんですけど、モニターもかねてご招待したいなって思いまして」
瞬の言葉に色めき立ったのはもちろん子どもたち。
ホテルエリシオンといえばその名を知らぬ者はないほど、その洗練された瀟洒さで有名なホテルなのだ。
だが手放しで喜ぶ子どもと違い、大人は遠慮が先にたつ。
「ホテルエリシオンと言えば泣く子も黙るような豪奢なものだそうだろう、そこにこのわんぱく盛りを二人も……」
子どもたちの目からは行きたいビーム。
もちろん子どもたちの希望はかなえてやりたいがそれにしたってと困惑するカシオペア夫妻の様子に、瞬が小さく笑みをこぼした。そこではじめてコードが手にしていたパンフレットをみる。
「やだ、ハーデス。あっちはヨーロッパのエリシオンのほうじゃない。こっちでしょ、今度建てたのは」
瞬はごそごそと封筒を漁り、新しいパンフレットをコードに渡す。
どうやらハーデスは違うパンフレットを渡していたようだ。
「しっかりしてよ、ハーデス」
「す、すまん」
女は弱し、されど母は強し。ティアラはこの言葉を深く心に刻んだ。
改めてコードがパンフレットを開くと、今度はちょっと可愛らしい感じのホテル写真が並んでいる。
ハーデスによると高級志向からちょっと路線を外してアットホームな雰囲気のホテルを目指したのだという。それが何のためなのかはわかりすぎるほどにわかる。
要するに愛妻と生まれてくる我が子のために作っちゃったらしいのだ。
そこにどんな浪漫があるというのだか。
とにかくハーデスはそのホテルをオープンさせるに当たり、コードらにモニターを頼みたいらしい。
「どうする?」
子どもたちの視線がそろそろ熱を帯びてきた。これはもう行かざるを得ないだろう。
宿泊費はもちろん無料だが、それと引き換えにモニターもしなくてはならないのだ。だがどこに行こうかと決めあぐねていたのも事実。
コードが諾と返事をすると子どもたちは歓声を上げて飛び跳ねた。ハーデス夫妻も嬉しそうに微笑む。
けれどいちばん嬉しそうだったのがシグナルで。
そんな妻を見つめ、コードはやれやれとため息をつくのだった。




そして数日後、オープン前のホテル・リトルエリシオンの前にカシオペア一家の姿があった。
ティアラとトゥルースはぽかーんと口をあけてじーっとホテルを見上げていた。
「こらこら、埃食べちゃうよ」
「だってだって!!」
「すごいよー、これのどこらへんがリトルなのか説明がほしい!!」
まだロビーにも入っていないのに子どもたちは外観だけで興奮している。まだ5歳だから見るもの聞くものすべて新鮮だろうが、それにしたって騒ぎすぎだ。
「俺様、そんなにどこにも連れて行ってやらんかったかな……」
「あの子達はなんでもすごいって言うじゃない」
少し凹んでいるコードの背中をぽんぽんと慰める。子どもたちは早く早くと両親の腕を引っ張った。



中に入るとそこはもう別世界だった。いくらリトルを冠しているとはいえエリシオンと比べても何ら遜色はない。
ただ親子連れでも楽しんでもらえるようにと随所に工夫を凝らしているらしい。
例えば階段の一段一段は幅広だし、滑らないようにとカーペットが敷き詰めてある。無駄な調度は置いていないかわりにアクアリウムが設置してあって子どもの目を楽しませている。
申し出ればベビーカーもレンタルすることが出来、双子まで対応している。もちろん廊下もベビーカーでもすれ違えるほどに広い。トイレだって子どもと一緒に入れるし、おむつだって変えてやれる。
至るところに子どもへの気遣いが見えて――それはひとえにハーデスの瞬と我が子へ向かう愛そのもので――シグナルも同じ母としてそれを微笑ましく思った。
子どもたちがまたしてもあんぐりアクアリウムを見ていると、背後でなにやら揉めていた。
コードとシグナルが振りかえると、ハーデスと瞬が揃ってこちらにやってきているのが見えた。
「瞬、そなた身重なのだから大人しくしておれと言ったではないか!」
「妊婦は病人じゃないの! 動いたほうがいいんだから。それにこのホテルには私だって関わったんだもん!」
「そりゃそうだが……」
出会った頃はあどけなかったのに時の流れは残酷だな、とハーデスは思った。
それはそれとしてハーデスは責任者としてカシオペア家を出迎えた。
「ようこそ、ホテル・リトルエリシオンへ」
「おまちしておりました」
「お招きいただきましてありがとうございます」
両親がぺこりと頭を下げると、双子もそろってお礼を言う。
「ありがとう、瞬ちゃん」
「ありがとう」
「……と、ハーデスおじちゃんも」
「余はやっぱりついでなのだな」
しゅんと項垂れたハーデスに苦笑する大人たち。
部屋へ案内するからと瞬が荷物を持とうとすると流石にそれは全員で止めた。かわりにベルボーイを呼び、運んでもらう。
エレベーターもベビーカーが余裕で乗れる程に広く、けれどホテルとして景観にもこだわったらしく、外界が一望できるようになっていた。
「うわー、ビルが小っちゃくなってく!!」
「車が米粒みたいだね」
はしゃぐ子どもたちと一緒にコードと瞬が外を見ていた。壁側にはハーデスとシグナル。
「子どもって可愛いな」
「でしょう。もうすぐですよ」
ずっとみていて分かったのだが、瞬はいつもどちらかの手をおなかに当てていた。最初は庇っているのかと思ってたが、そうではないらしい。もちろんそれがないとは言わないが、瞬は手を通していつだっておなかの子をあやしているのだ。
生む不安、生まれてくる子どもへの期待。
母になるということはそれをすべて抱え込むということ。
そして父たる夫は生めない代わりにそんな妻を支え、ともに育てていくのだ。
「ハーデスさんは本当に瞬ちゃんが……愛しいんですね」
「ああ、妊娠がわかってからもずっと余のそばで余を手伝ってくれた。子が腹にいるのだから無理をするなと言っても聞かぬ」
医療の発展に伴い、子どもの乳幼児死亡率も出産時の悲劇も減ったと言ってもいい。しかしお産は何時だって命がけなのだ。母子ともに健康であってほしいと願うからこそ、ハーデスはきゅっと拳を握る。
その思いはシグナルにも痛いほどわかった。
笑い話にされるからとコードは嫌うが、あのコードだって自分が妊娠したと告げた翌日には大量の出産参考書を買い込んできたくらいなのだ。
「妊娠している瞬ちゃんがいちばん不安なんですよ」
「ん?」
「好きなことをさせてあげてください。もちろん無理させない程度に、ね。あんまり籠の鳥にするとかえってストレスになりますから」
「……そうか」
ハーデスにとってシグナルは年下だったが、妊婦として、そして親としては先輩だった。
やがてエスカレーターが目的のフロアに到着すると一行はぞろぞろと降りていく。



与えられた部屋は四人家族用だった。ベッドは自由に動かすことが出来、川の字だろうが大の字だろうが可能だ。もちろん別々にすることも出来たので、カシオペア家では大人と子どもに別れた。
「もう5歳だもん! 自分たちで寝れるもん!」
「それにぼく、弟がほしいんだ」
トゥルースの発言にティアラは妹がいいと言い張ったが、これには夫妻が仰天した。
確かに弟妹は大事だし、なんとなくお誂え向きのシチュエーションではある。しかし双子はそんなことどこで覚えてきたのだろうか。コードがそれとなく問うと、双子は顔を見合わせた。
「弟妹がほしかったらとーさまとかーさまをふたりっきりにしろってオラトリオおじちゃんが言ってたわ」
ねえとティアラが言うとてトゥルースもうんと頷いてみせた。
「かーさまぁ、ぼく弟がいいー」
「え……」
「妹よ、妹にして!! いや、いっそ私たちみたいに双子だったら喧嘩しなくてよくない?」
「そうだね!」
双子の意見にも一理あるが、また双子はちょっと……とコードもシグナルも乾いた笑いを浮かべる。
とりあえず夫婦の意見として一致したのは帰宅後オラトリオに制裁を加えるというものだった。
このやりとりを眺めていたハーデスがちらと瞬の腹を見た。
「瞬、双子か?」
「いいえ、一人だって聞いてますよ」
「そうか」
がんばってよという双子に困惑する夫妻を眺め、余も相当頑張ったからなとこっそり微笑むハーデスだった。



ひととおり設備や施設内の説明を聞いた後、双子はそろって空中庭園に行ってみたいと言い出した。
ホテルの最上階に英国式の庭園を造り、そこには小さな川が流れているのだという。
「じゃあ、荷物を片付けたら行こうか」
「はーい」
シグナルに言われ、双子はそろっていい返事だ。こっちが自分のと決めたベッドの上に荷物を置き、必要なものを出してクローゼットにしまう。シグナルとコードは貴重品をしっかり持った。
「シグナル、部屋のかぎは持ったか?」
「これだよね」
シグナルの手にひらめいたのは金色に煌くカードキーだった。このホテルではドアを閉めると自動的に鍵がかかるため、これを室内に置いていくといちばん下のラウンジまで行って予備キーを出してもらわなければならないのだ。
子どもたちがわらわらと部屋の外に出、コードとシグナルがロックをチェックした。
「じゃあ行くか」
「はーい」
双子はきゃっきゃとはしゃぎながら両親の腕に縋る。
コードは土日こそ休暇だが、常にそうかというとそうでもない。仕事がなくても家族サービスや家のことなどやることはたくさんある。家長としてそれが当たり前だと思っている彼は疲れていても子どもたちに付き合うのだ。
そしてコードの多忙と疲労は子どもたちだってちゃんとわかっている。けれど、やっぱり父親と一緒にいたい、遊びたいという気持ちは抑えられない。
「かーさまも早く行こう!」
「こら、走らないの!」
言いながらシグナルも嬉しそうだ。子どもが生まれてからこんな旅行をするのは久しぶりなのだ。
本当はコードと腕を組んで歩いてみたい、でも子どもたちに占領されていたからシグナルは静かにその後ろを歩いていた。
廊下を抜け、広いエレベーターホールに出る。
鮮やかな真紅の薔薇がホールをあでやかに彩っていた。
やっぱりエリシオンはステキだなと、母娘そろって目を輝かせる。
そんなシグナルを見つめ、コードは幼い頃の彼女を懐かしく思い出していた。
幼馴染だったので小さい頃から知っている。シグナルは女の子の例に漏れず、可愛いものや綺麗なものが好きだった。小さな手に可愛いお花を摘んでは目を細めていたものだ。
彼女が自分の妻になり、母となってもコードにとってシグナルはいつまでも幼い少女のままでそこにいるのかもしれない。
やがて階下からエレベーターはやってきて一家を静かに飲みこむと英国式庭園へと導いた。



「おおおおおお」
心地よいほどの感嘆の声を上げ、一家は思わず天を見上げた。
19世紀初等のパリ万博を思わせるガラスの宮殿もかくやの最上階、夏の日差しも柔らかく降り注いでいる。
その穏やかな光を受けて色とりどりの薔薇が咲き乱れている。流石に蝶は飛んでいないが、いたのならこの風景によりいっそうの華やかさを添えていたにちがいない。
さやさやと清かな水音も気分をのんびりさせてくれる。
ティアラはトゥルースの手を引いて、というより引っ張りまわしてあっちの赤い薔薇、こっちの白い薔薇と見てまわっている。そんな長女を見つめ、コードは笑みを浮かべた。
「なんかあれだな、いつも思うがティアラはお前そっくりだな」
「そーお?」
「ああ、小さい頃のお前にな」
そう言ってくくくと笑うコードに流石のシグナルも頬を膨らまさずにはいられない。
「私はもっとお淑やかだったもん」
「そーか?」
白いアーチやトレリスのまわりに咲く薔薇、その下をくぐる夫婦も今だけは恋人時代に戻っていて。
ほんの少しのアーチの下には川が流れて、散った薔薇の花びらがゆらりと浚っていく。
「綺麗だねぇ」
「そうだな……」
薔薇をそっと手にとって見つめていたシグナルの横顔。
見つめていたコードは思わず彼女の手を取って。
「――コード?」
「久しぶりだと思ってな」
「……そうだね」
きょろきょろと周囲を見まわし、子どもたちもこちらを見ていないことを確認して、二人はさっと口づけた。
結婚して7年だが、出会ってからは実に――それはシグナルがコードの運命さえ握りしめて生まれてからの――30年近い歳月を共に過ごした。
唇が離れても、シグナルは静かにはにかみ、コードはやはり照れくさいのかそっぽ向いている。
「あーあ、とーさまもかーさまも」
「こっちに気を使わなくてもいいのにねぇ」
両親が未だ新婚気分なのは十分に承知ですとばかり。
薔薇の生垣の向こう側で、ティアラとトゥルースがやれやれと首を振るのだった。



敷地の買収とか、法律的整備なんて考えてはいけない。
それらはすべてシグナルの実姉である弁護士・ラヴェンダーと有能な秘書であるミーノスの手になるものである。
空中庭園をひとしきり堪能した後、一家はアスレチック施設やプールを堪能し、ビュッフェスタイルの夕飯にも満足した。
そして夜もとっぷり更けていく。
ホテル・リトルエリシオンには大浴場はない。そのかわりに各個室にかなり大き目のバスルームが併設されている。
一家で仲良く入浴後、子どもたちははしゃぎ疲れたのかすぐに眠ってしまった。
大きなベッドにふたり並んで仲良く手を繋いでる。どんなに弟を振り回し、姉に翻弄されようともふたりはやっぱり双子なのだ。
「お疲れ様、コード」
「んー……」
こきこきと首を鳴らすコードはもう30代だ。本人はまだ若いと言い張るし、その実20代といっても通るのだが子どもたちの容赦ない愛情と甘えの前には流石のコードも疲弊しているらしい。
シグナルはくすくす笑った。
「なんだ?」
「んー、子どもたちがこんなに嬉しそうなの、久しぶりだなって思って」
「それはお前もだろう」
「へ?」
コードは子どもの髪を撫でていたシグナルのずいっと顔を近づけた。珍しい行動にシグナルが思わずたじろぐ。
「な、なに?」
「ん? お前も楽しそうだったと思ってな」
コードはひょいと恋女房を抱き上げる。シグナルはひゃあと声をあげそうになったけれど子どもたちを起こさないようにとぐっと堪えた。
シグナルを抱き上げたまま、コードが子ども部屋のドアを閉める。光がだんだん細くなっていく。
ごく僅かな音だけを残し、二人は部屋を立ち去った。
子どもたちは目を覚まさなかった――おそらく多分、ことによるとひょっとして。
そしてコードとシグナルは久しぶりにふたりっきりで思いっきり仲良くしたらしい――これは絶対に。



二泊三日のモニター宿泊も終わり、カシオペア一家は戻ってきた。
思わぬ高級ホテルでの外泊に多少の疲れは感じたがやはり楽しかったのは否めない。
「やれやれ、これからレポート作成せんとな」
「私も手伝うよ、コード」
「あたしもー」
「ぼくもー」
ハーデス夫妻から渡されたチェックシートにあーでもないこーでもないと言いながら、一家はもう一度思い出に浸る。
「でもさー」
「なに、ティアラ」
コードの膝に腹ばいになっていたティアラがふふっと笑顔で顔をあげた。
「とーさまとかーさまとあたしとトゥルースがいたら結構楽しくて嬉しくて、幸せよね」
大人びた娘の言葉にコードが笑う。そして柔らかな髪をくしゃっと撫でた。
「なかなかわかったことを言うな、ティアラ」
「とーさまの娘だもん」
それが自慢だと言いたげなティアラに負けじとトゥルースもしっかりシグナルにしがみつく。
「ぼくも、かーさまの息子だよ」
「そうだね、ふたりとも大事な子どもだよー」
よしよしとトゥルースの頭を撫で、シグナルも笑う。



みんなで一緒に過ごした夏の日
成長と共に離れていってもずっと忘れないから




「だから今だよ! お出かけしましょ!」





≪終≫





≪お待たせしました≫
夏の思い出チックに。冥瞬夫妻はゲストですw 
かなりお待たせしてすみませんでしたあっ。飛翔土下座で半月盤を損傷してきます。
しかしあれだ、結婚は7年目なのに出会ってから30年近く経ってるだなんてwww すごいなwww
駄菓子菓子、それがコーシグなのだよ! コーシグの真髄なのだよ!
同意反論、漏れなくお待ちしております(*´д`)←いい笑顔。
注: 文字用の領域がありません!

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