年明けの願い事
「あけましておめでとー」 「おめでとー」 新しい年が始まって1時間。テレビでは音楽のライブを流している。 親は初日の出を見に行くといって、2人して出かけてしまっていた。 「今年もよろしくな、豪」 「ああ、よろしくな」 年末年始だけは家族全員で過ごすのは、どこの家でも通例だとは思う。 最近は友達の家でわいわい騒ぐのもいいかな、とは思うけど、やっぱり年の初めは家族とのんびり過ごすのが一番いいな、と烈は思った。 「兄貴は初日の出行かなくてよかったのかよ」 「寒いのはあまり好きじゃないんだ」 「ふーん」 困った顔で烈は笑う。豪はあまり興味を持たなかったのかその答えに納得した。 「烈兄貴は今日徹夜する?」 「徹夜してどうするんだよ」 「えー、だって堂々と徹夜したって外泊したって一日だからって許される日なんだぜ」 「んなわけあるか」 じと目で睨む烈に、豪はみかんを口に放り込んだ。 「ウチだって外泊許可してたぜ」 「へ?」 「断ったけどな」 うわ、みかんすっぱい。と顔をしかめる。 「外泊はともかく、徹夜したら、お参りの時に眠くなるぞ」 外泊の場合は、朝早くに帰って来いと言われるのだろう。 1日は既に用意済みのおせち料理を食べ、午後からお参りに行くのが通例になっていた。 「あ、そうか…なな、烈兄貴はお参りに何をお願いするんだ」 「なんだよ、言うわけ無いだろ」 「えー教えてくれよ」 「嫌だ」 「教えろー」 飛びかかる豪をひらりとかわして、烈はため息をついた。 「なんでお前に教えないといけないんだ」 「俺が知りたいから」 なんだその俺様思考。 烈の整った眉がきつく寄った。 「じゃあお前のお願い事は何だよ」 「え、俺?そりゃ当然、”烈兄貴とずっと一緒にいられますように”って」 「……」 それは小学生が願うようなことだろう。それか恋人とか。 少なくとも、17歳の健全な高校生が願うことじゃないだろう。 「なんか、変なこと言ったか?」 「豪…お前にとって俺はどういう存在なんだ」 「え…?」 「少なくとも、兄弟でそういう願い事をする人間は少ないと思うぞ」 「じゃあ少ないほうで」 「……」 そういう問題か? ひょっとしなくても、豪は思いっきりブラコンか? 「あそうだ烈兄貴、兄貴の願い事教えろよ、俺言ったんだからさ」 烈の考えを無視し、豪は笑って尋ねてきた。 「願い事は今決まったよ。”お前が兄離れできますように”ってね」 「…兄離れ?」 不思議そうに首を傾げる。 「俺は大学に入ったら家を出るかもしれないのに、お前そうなったらどうすんだよ」 「そうなったら1年待って同じ家に住む」 きっぱりと言い切った。そして、ふっと目を伏せた。 「……」 はぁ、と烈はため息をもう一つ吐いた。新年早々なんでこんなにため息なんか… 「なぁ、兄貴」 「ん?」 自分の髪をいじりながら、豪は烈に笑いかけた。 「言いたいことはわかるけど、俺、やっぱり兄貴と離れたくないよ」 「豪…」 「兄貴が傍にいなきゃ嫌だ。いつだって、これからだってずっと」 豪の腕が伸びてくる。またみかんを食べる気なのかと思った烈はその動作をただ見ているだけだったが、腕の伸びてくる先は違っていた。 「…え?」 豪の腕は、耳の近くの烈の横髪に触れていた。 「豪?」 「多分、ダメな感情なんだ。俺だってそれくらいわかる」 指が後ろの方までやってくる。髪の中に、指をうずめられる。 「…やめろ、豪」 振り払う事も無く、烈は一言だけ告げた。 これじゃ本当に、豪は恋してるみたいじゃないか。 その先は、心の中で言うことさえじゃ憚られた。 「”ずっと一緒にいたい”それ以上は望まないよ。だから許してくれ、烈兄貴」 「……」 家には2人だけ。朝まで誰も来ることは無い。 烈は大人しく目を閉じる。身を任せる。 絡められる髪と指の感触は温かい感触と髪の感触が交じり合い、まるで微電流のようだ。 「……来年まではちゃんと振り切れよ」 「それは無理」 だって兄貴大好きだからな、と人が聞いたら赤面しそうな台詞を吐き、それでも豪は幸せそうな笑みを浮かべた。 「はぁ、ホントに、お前って奴は……」 烈は自分の考えを改めることにした。豪はブラコンでもなんでもない。 ただ、絶対に叶わない恋をしてしまった。ということに。 「誰にも言うなよ、俺の願い事」 「ああ、言わない。俺の願い事も言うなよ」 「わかってるって。兄貴の髪気持ちいいな」 髪をいじりながら、豪は弟の顔をして笑った。 「そうか?豪よりも癖があるぞ、この髪」 「でも俺より柔らかいだろ」 「…まぁな」 否定しないあたり、豪もそのことに気づいているのか。 「なぁ、豪」 「ん…」 「兄離れ、はして欲しいと思うけど。お前の願い事、叶えてもいい気がしてきた」 |
年明け1発目。
年越しの待ったり感の中PC開いてSS書いている私は一体何なんでしょうか。(ノ*゜▽゜*)ニパパパ
それもいい気がします。
今年もよろしくお願いします。