紅蓮の死神
「カイコーチ…」 ここへ来る前に、もし自分がいなくなったときには上層部に話をつけてほしい、と頼まれていた。 12時間のメンテナンスと、プレイヤー全ての安否確認。 しかし、まさか「サーバーそのものが全て変えられる」なんて自体は想定しておらず、自分にできたことが、弱いPCを仮設サークルに避難させることくらいだった。 異常としか言いようがない。 本来なら街中で武器を振りまわすことなど不可能。しかし、この異常事態に対して、あの"スターゲイザー"のメンバーは最初からそれを知っていた。 街中で殺戮ができることもすべてわかっていて、これをしているのだ。 「ブレット…豪…アンタたちいったい何を考えてるんだ…」 剥製の黒い小鳥はただ、静かにジュリアナを見つめていた。 一方、ブレットは街の教会の十字架の上に立ち、全てを見下ろしていた。 殺戮が続く街を見下ろし、薄く笑う。 「そうだ、闘うがいい…勝ち残ったものが、あれを手に入れればいい…」 まぁ、それがそいつの手に余るものならいいんだがな。 自らの作りだしたサーバー"エグザミネーション"に群がるPCを見つめている。 『あとどれくらいだ?』 背後の闇がブレットに語りかけた。 「この様子だと、あと5分ほどだな…決着前に紅蓮の死神が来る」 『ちっ……、コピーじゃ役に立たねぇな』 「向こうが"sonic"とフルシンクロしてしまったからな。スペックが違う」 『スペックはどうでもいい、どうするんだ?』 「お前はこの試験場の意味を遂行してくれればいい、紅蓮の死神は……俺が相手をする」 『あくまで兄弟喧嘩はさせない気か』 「今接触させるのは非常に厄介なんだ」 『……?』 「…下手したら、ゴーセイバは全てを取り戻してしまうかもな」 Act12.閉ざされし交錯の試験場 「どこだ、どこにいる?」 廃墟になった地面と屋根を駆けながら、あたりを見渡していた。 灰色の屋根、そして砕けたPC達。そこかしこでPC同士の殺し合いが続いている。 たった、30分。これだけだこんなことになるなんて。 「ブレット…!」 こんな惨状に憤りを覚え、奥歯を噛みしめた。 映像を見終わった僕は、サークルから出ることにした。 「…どこにいくんだい」 「外に出る」 「今行ったら、餌食にされるよ」 「大丈夫、それはないから。ソニックがいる」 そう、ソニックがいる、なによりこの映像を見る限り、わかったことがある。 「……ジュリアナ、今の映像で分かったことがある」 「……?」 「豪は…ディオスパーダの願いを叶えたいんだ」 「ディオスパーダの?」 豪のいっていた”あいつ”はずっとマグナムと思っていた。しかし、考えてみれば変だったのだ。 「烈兄貴…マグナムを…探して……」 「……わかった。ここにいても、あいつが戻ってくるかわからないしな」 同一のものに対して、2種類の呼称を使うような器用な真似、あいつができるはずがない。 つまり、映像でいっていた「あいつ」はディオスパーダ。 豪が生きていた理由も、ウィルスで暴走していたはずのディオスパーダが攻撃しなかった、なら説明がつく。 「じゃあなんなんだよ、ディオスパーダの願いって」 「わからない」 そこまではわからない。マグナムはわかっているようだったが、はっきりと口にしなかった。 「ディオスパーダの願いに対して、豪はその願いを叶えることにした…。その決断をしたときに助言した人物がいた」 「ブレット・アスティアか」 「豪が目覚めて、僕が殺された後、あとに残ったのは豪とディオスパーダとブレット…この惨状もその願いを叶えるためなら、ブレットは間違いなくこのエリアにいる」 「どうして」 「ブレットは自分の目的が達成されるときには自分の手でつかみ取る。他人に任せたりしない」 だから、あの惨状のど真ん中にいるはずなのだ。 「アンタ…」 「鍵はディオスパーダの願い。そして…ブレットの目的だ。だから行くよ」 「わかった。そこまで言うなら止めない。生き残っているキャラの避難が済んだら私も行く」 「ありがとう」 そうして、ブレットを探している。しかし、見つからない。 『烈、後ろ』 「わかってる」 後ろからPCが追ってきている。血走った眼に、黒い銃口がこちらを狙っている。 「死ねえええ!」 発射された瞬間に避け、地面に降り立った。 「お前、なんで僕に攻撃を?」 「はぁ?お前しらねーのかよ!このサバイバルに勝てば”人間を超えた力”が手に入るんだよ!」 「人間を…超えた力?」 一瞬硬直してしまった。人間ではありえない力と聞いて、豪を想像してしまったからだ。 「死ね!」 「なるほど…それは、いいことを聞いた」 ブレットはおそらくそう言って、スターゲイザーのメンバーを唆し、この惨劇の主要メンバーにしたのだ。 「その話、もう少し詳しく教えてもらうよ」 ソニックを構える。銃弾を刃で弾き返し、肩にある羽根の推進力で一気に追い詰める。 「なっ!」 首元に刃を当てられたそいつは、怯えた表情を見せた。 「おしえて、そのサバイバルの内容」 「けっ、誰が…」 「へぇ、紅蓮の死神を前にしてお前もああなりたいのか?」 「ひっ、紅蓮の…死神……だって、…あいつは……」 「?」 「……紅蓮の死神は…リーダーが足止めをしておくから心配いらない、って…」 「ああ…足止めも倒しちゃったからね…僕を止める手段、ないよ?」 「ひいいいっ!」 薄く笑って見せると、ますますそいつは怯える。 「わ、わかった……教える…、リーダーがある時間からこの街自体はPC殺せるようになるから、最後の1人になるまで戦え、って」 「……」 「ほ、ホントだよ!最後の一人になったらそいつには”神の剣”を与えるって…」 「神の剣?」 「チートでもなんでもやりたい放題の力って…言ってた」 「……ディオスパーダか」 最後の1人にディオスパーダに与える、ということか。神の剣、イタリア語でディオスパーダ。 スターゲイザーなんて名前をサークル名にするブレットのことだ、十分にあり得る。 「俺の知ってることはこれで全部だ…はやく下ろしてくれ!」 「……」 本当に知らないらしい。諦めて下ろした。 「お前なんかに勝てるわけ、ねぇじゃねーか…俺は降り…ぎゃああっ!」 「…!」 一瞬で、眼の前のPCが灰色のPCになって転がった。 はっと後ろを見るが、教会の十字架が佇むばかりで、なにもなかった。 「狙撃され、た?」 『バックブレーダーだ』 「ソニック、わかるのか?」 『狙撃なんてこと、銃タイプのバックブレーダーしかできないはずだから』 「……ソニック、ここのフィールドにいる人、あと何人?」 『烈を入れて、2人。今さっき倒されて、スターゲイザーのメンバーは1人になった』 「となると、その最後の1人が、ディオスパーダを手に入れるのか…」 『それだけじゃない気がする。あっさりディオスパーダが誰かに自分を任せるとは思えない』 「そうだね…」 しかし、この広いフィールドでブレットと相手を見つけるのは至難の業だ。 『烈、強硬手段で行っていいかな…あんまりやりたくはないんだけど』 「強硬手段?」 『青の星見盤を改造してブレットを見つける』 「ソニック、お前……」 『ホントはやりたくないんだけどね、烈のためなら。烈だってやりたくもない演技をしてたから』 「……知ってたのか」 脅す為に、精一杯の演技をしてたこと。 ソニックには隠し事はできない。そんなことは、わかっていた。 「頼めるか、ソニック」 『わかった』 青の星見盤を取り出し、鎌をかざした。とたん、青い色の星見盤が真っ赤に染まる。 指示したのは、北極星の僅か隣。その位置を見て、うなずく。 「…なるほど、隠していたのか」 星見盤を放り投げ、同時に一気に上空へ舞いあがる。 「姿を見せろ!ブレット!」 叫び声と共に十字架の上へ炎を浴びせた。そこには何もない。 しかし。 「ブースター・シュート」 炎は弾かれた。 そしてそこには。真黒な霧が立ち込め、そして、金髪の銃使いはそこにいた。 「よくわかったな」 バイザーで表情はよく見えない。 しかし、長い銃が確実にこちらを見ていた。身の丈ほどある。 「……これは、お前がやったのか」 「ああ、面白いだろう?殺し合いをするためだけの試験場”イグザミネーション”だ」 不敵な笑みで笑う。 その表情1つ見逃さないつもりで、ブレットをにらんだ。 その背後には、黒い霧がまだ立ち込めている。 「お前がどんな目的でこんなことをしてるのか…正直、僕には興味がない。だけど」 「……」 ソニックの刃をブレットに向ける。 「豪を傷つけて、このゲームで楽しむ人みんなをこんな目にあわせるなら、許さない」 「へぇ、言うな。紅蓮の死神がヒーロー気取りか?」 「……そんなつもりはない。僕は死神だ」 そう、紅蓮の死神。ここにいる以上、僕は星馬烈であり、紅蓮の死神だ。 豪を、取り戻す、そのためだけの死神だ。 「…なるほどな。あくまで目的はゴーセイバか」 「……」 「そういうのも、悪くはない」 ブレットは銃を下ろした。 「しかし、今お前にゴーセイバを取り戻させると厄介なんでね。こちらの目的が果たせなくなる」 そういい、ふと斜め下を見下ろした。 「…?」 「リーダー!」 「来たか」 声のする方向を見た。そこには、銀朱色の服を着て、黒色の髪、紫の瞳をしたた双刃の剣士がいた。 レベルが高い、自分と10レベルくらいしか差がない。 前にも戦場跡で会ったことがある剣士だ。おそらくこのPCがこのサバイバルゲームの勝者。 「紅蓮の、死神…!」 こちらに気づくや否や、憎々しげな声と共にこちらを睨んだ。 「そう興奮するな、トロイメライ」 ブレットはそう言ってたしなめる。 「……」 どうやらこのPCは”トロイメライ”という名前らしい。 「リーダー…」 「そいつは無視していい、そいつは"対象外"だ」 「対象外?」 トロイメライが首をかしげる。 「お前がこのゲームの勝者だ。ただし、最後のゲームは”神の刃”に勝つことだ」 「神の刃、ね…どこにあるんだよ、それ」 「ここ、だ」 ブレットは親指で後ろを指差す。 そこには、黒色の霧がいまだにもやもやと渦を巻いていた。 「さて、配役は揃った。呼びだしだ。来い。護りの樹、ゴーセイバ!」 「……!」 突如、地面と空がひび割れた。 そこから、白い樹木の枝が伸びて行く。 ブレットの横にも枝が伸び、そこから、幹が割れて、豪が現れる。 「………」 姿が少し変わっていた。以前はテスト版の剣士の装備のままだったのに、今では群青色の軽装備に身を固めている。 枝に降り立ち、あたりを見渡し、眉を顰めた。 「ひどいな……これ、お前がやったのか?」 「いいや、やったのはここにいたPCだ…あのディオスパーダの主を決めるんだからな、それなりに凶悪でいてもらわないと困る」 「……それでも、これは…」 豪は首を振る。 「死んではいない。お前がこいつらをを正規版サーバーに戻せば、すぐに眼を覚ますさ」 「本当か?」 「ああ…だから、まず、こいつらだけ正規版に戻せ。クレアボヤンスを使えばいけるだろう」 「…わかった」 ふと、豪は眼を閉じる。 「"護りの樹、全方位ロストプレイヤーをプレイヤーをサーバー移動。コードセット"」 地面から蔦が伸び、灰色になった身体を絡め取った。 「なっ…!」 しかし、自分には絡め取らず、もう動かないPCだけを絡め取る。 「烈!」 声がするほうを振り向くと、ジュリアナがこっちに向かっていた。 「ジュリアナ!」 「烈、無事だったか…サークルにいたPCがいきなり消え出したんだ…いったいこれは…」 ジュリアナが上を向くと、豪が眼を閉じて樹の枝を操っていた。 「星馬…豪…!」 悔しそうな声で、豪を睨みつける。 「始動キー、"クレアボヤンス・オブ・ボーダー" 対象PCを移動!」 豪が腕を振った瞬間、絡みつかれたPCが一瞬にして消えた。 「…終わったぜ」 はぁ、と豪はため息をつく。 『信じられない…あれだけのPCを一瞬でサーバー移動って…』 ソニックが戸惑いの声を出す。 「そんなにすごいの?」 『通常のサーバーでやろうとしたら、30分くらいかかるかな…、それを一瞬で』 「……演算処理能力がスバ抜けているってことか」 豪は本当に”人を超えてしまってるのかもしれない”通常できないことをしてしまっている。 現に、今こうして。 『待っていたぜ、豪』 「ディオスパーダ…」 ブレットの背後にいた闇から、声が聞こえた。 「あいつが、ディオスパーダ?」 ジュリアナが戸惑いの声を上げる。 「ディオスパーダは、テスト版以外のサーバーだと形が出せなくて、くずデータみたいになるって、前にマグナムが言ってたけど…」 『それも、ここまでだ』 闇が、トロイメライに視線を向けた。 「っつ…!」 驚いたように剣を構える。 『豪』 「なんだ?」 『ちょっと今からアイツと戦いたいんでな。PCを出せ』 「…わかった」 豪が再び眼を閉じた。 闇が豪のまわりにまとわりつく。というより、豪の身体を通り抜けて行く。 「豪…!」 「心配するな、豪が死ぬわけじゃない」 そう言ったのは、ブレットだった。 豪の身体を通り抜けた闇はだんだん人の形を取っていく。 水色の跳ねた髪。青色の切れ長の瞳。そして、右目の下の雷のタトゥー。 「…ふう、やはりこいつの姿のほうが”らしい”な」 現れたのは、カルロ・セレーニ。 自分が見たときよりは大人びているように見えたが、間違いなくカルロ。 「おまえ…ディオスパーダなのか…?」 『ああそうだ、こいつの思考回路で構成されたイメージを俺に与えたんだ。あのむかつくロストブルーも同じ手法で作ってるはずだぜ』 ふん、とディオスパーダは全てを見下した眼でこちらを見た。 「さて、トロイメライったか?」 ディオスパーダは両手の指にナイフを8本持ち、笑った。 「最終試験だ。俺に買ったらお前を俺の主と認めてやる」 「なっ…!」 「俺はディオスパーダ。”神の剣”だ」 無造作にナイフを放り投げた。その瞬間、そこにあった建物が崩壊した。 ばりん、と音を立て、破片の屑となる。 「そういうことだ、トロイメライ。こいつを屈服させれば、お前は最強になれるだろう。そこにいる、紅蓮の死神にも勝てるさ」 「ブレット…!」 トロイメライは何も知らない。このサバイバルゲームに参加しているだけだと思っている。 テスト版サーバーを崩壊させた元凶を相手に、通常PCで勝てるはずがない。 「やめろ!そいつに普通のPCを相手にさせるなんて、そいつを殺す気か!」 「…お前が言う台詞じゃないな。異端のロストブルーに単身立ち向かったお前が」 「……!」 ブレットはこちらの行動を知り尽くしている。言葉で行っても自分のやったことで返される。 そのやりとりをしばらく見ていたディオスパーダだったが、ふと豪に話しかけた。 『おい』 「なんだよ」 『俺はしばらくこいつの相手に専念する。そこの赤い奴と女が邪魔しないようにしろ』 「…わかった。兄貴を相手にするなんて思ってなかったけど」 『条件は公平だ。これが終わったら、次はテメーだ』 「…そういうことか。楽しみにしてるぜ」 豪はまるで親友に向ける笑みディオスパーダと手を叩く。 『俺を楽しませな。トロイメライ』 「くっ…!」 ディオスパーダはトロイメライに向けて駆けて行く。 ブレットと豪の背後で、データが崩壊する爆発が起こった。 「やれやれ、このままだとイグザミネーションをバージョンアップしないと壊れるな」 ブレットがため息をつく。 「なぁ、ブレット…」 豪がブレットに尋ねる。 「なんだ?」 「いい加減、教えてくれねーか。お前…いったい何がしたいんだよ」 「…そうだな。お前には教えておいてやる、耳を貸せ」 豪の耳に何かを囁く。それは1分くらい続き、豪は眼を見開いたり、伏せたりして、そして眼を閉じた。 「こう理由だ」 「そういう、ことか…」 「お前とディオスパーダをこのまま消されてしまっては、俺の目的は達成不可能だ。だからこうしたわけだ」 「わかった…あとで俺の頭の中でもいじくればいい。お前の知りたいことがそこにあるんならな」 「そうさせてもらおう」 2人の密約は終ったらしく。僕とジュリアナを見下ろした。 「豪……」 「烈兄貴、ひさしぶりだな」 にこ、と笑う。あの映像で見た、穏やかな頬笑みが、そこにあった。 「豪!お前…コーチをどこへやった!」 叫んだのは、ジュリアナ。槍を豪ヘを向けた。 「答えろ!ムーバルウィング!」 槍の先から竜巻が起こる。 そして、槍を突き出すと豪へ向かって竜巻が一直線に向かって行った。 「豪!」 「……フン」 ブレットがバックブレーダーから弾丸を吐きだし、竜巻が打ち消されて消える。 しかし、そこにはブレットしかいない。豪はいなかった。 「なっ、奴はどこに…!」 「ここだ」 「ひっ…!!」 ジュリアナの足元に屈みこんで、両手を交差させていた。 「落ちな」 「きゃあっ!」 ジュリアナが悲鳴を上げながら上に跳ね上がった。 容赦なく豪はジュリアナに蹴りを浴びせ、ジュリアナは壁に叩きつけられた。 「ジュリアナ……!」 「う…大丈夫だ……、こいつ……!」 ジュリアナが起き上がり、豪を睨みつけた。 「相当…レベルが高い……しかも、接近戦のスペシャリスト…、舞闘拳士か」 「なんだって…!」 豪の両手に握られていたのは、白い木製のトンファー。 「ブレット、ここは俺に任せてくれないか」 「ゴー・セイバ…しかし」 「兄貴とジュリアナは俺が止める…正規版サーバー。元に戻しておいてくれねーか。まだ枝を残してるんだ」 「…いいだろう。了解した」 そういうと、ブレットはその場から姿を消した。 「豪……」 なんて声をかけていいのか、わからなかった。 完全に敵として眼の前に立つ。豪に。 「なぁ、兄貴。兄貴は俺に、何をしてくれた?」 静かな声で問いかけた。 「俺、は…」 「こんなことに、最初に巻きこんだのは…俺だけど……ここまで来たのは兄貴の意思、だよな」 泣きそうな顔で、そういう。 白いトンファー。甲冑ではなく蒼い衣に身を包んだ豪は、どこか悲壮感を帯びて、佇む。 「でも…俺もここまで来たのは…俺の意思、なんだ…」 くるりとトンファーを回し、僕を睨みつけた。そして、構える。 「…来いよ、烈兄貴。俺は、兄貴の……敵だ」 「豪、俺は……」 なにも、知らなかった。豪がどんな思いで自分を待っていたのか。 どんな気持ちで、今のこの場に立っているのか。 自分のアイテムにある、マグナムセイバーを思い、豪を見つめた。 「俺は、豪の敵にならない。だけど……」 ソニックを構える。 鎌の刃は決意の炎を宿す。自分が今、豪のためにできること。 「豪のことを知るために、この戦いが必要なら、俺は全力でやるまでだ」 「コーチの居場所は、必ず吐いてもらう!」 本気の2:1での闘い。 豪は、ふと、こちらを見て嬉しそうに笑った。 「兄貴と本気でぶつかるなんて、いつぶりだろ…楽しいな」 その瞬間、豪は驚異的なスピードでこちらに向かってきた。 |
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