言葉はただひとつだけ (豪誕記念SS)


「なぁ、やっぱり変だと思うんだ」
「何が」
テレビを見ていた烈は豪の声に顔を上げる。
「何って……今日、俺の誕生日なんだけど」
「うん、そうだな」
かちり、と火を止める音が隣の部屋から聞こえる。
「…だから、なんで記念すべき日まで俺が晩飯担当なんだ?」
豪はそういってぼやきながら、それでも作っていたポテトサラダを盛り付けた。
テーブルの上には2人分の食事が綺麗に並んでいる。
「今日は火曜だ、火、木、金、日はお前が担当だろ?」
「烈兄貴の馬鹿〜」
あくまで平静な烈、言いながらも手は止めない豪。
今日、8月1日は豪の19回目の誕生日。
大学進学を機に、豪は去年から烈が一人暮らしをするアパートに転がり込んだ。
大学は違ったものの、烈のアパートから近かったから、という単純な理由で。
烈は豪を受け入れる条件は、”家事を手伝え”ということだった。もめにもめたすえ、曜日当番制で食事を作ることになった。
しかし、料理は豪のほうが何故か上手い。
それは烈も認めていることだった。
「兄貴〜出来たよ」
「よし、じゃあ食べよう」
男兄弟二人暮らし。普通なら散らかっていそうな部屋は烈の几帳面さがあり、こざっぱりしているという印象を受ける。
豪個人の部屋はあるが、烈はそこを開かずの間とし、干渉しない。
たとえ、この弟と兄弟以上の関係があっても…だ。

「はぁ、これで俺も19歳か」
自分で作ったお好み焼き(あまりもの混ぜ合わせで作ったらしい)を入れつつ、呟く。
「そうだな」
「なぁ、烈兄貴、酒ちょーだい」
「ダメ、お前まだ19だろ」
「兄貴は飲んでるのに?」
「うっ…」
今年4月20歳になった烈は、豪に内緒でこっそり飲んだのだ。咎められる年齢ではないのだが、豪には知らせないようにしていた。
絶対に、飲みたがると思ったから。1年でも何でも未成年。飲ますわけにはいかなかった。
実は、烈専用の冷蔵庫に、まだこっそり3缶残っている。
「知ってたのか…」
「当然。だって、抱いたときちょっと酒くさ……うっ」
烈が、すごい眼で豪を睨んでいた。
「あ〜……悪い悪い。さっきのは無し、ね?」
「よし」
ふっと烈がもとの表情に戻る。はぁ、と豪はため息をついた。
「烈兄貴が好きだって、告白して3年か?」
「そんなもんかな」
告白したのは16歳のとき、まだ高校生だった。当然、拒絶された。
殴られるわ、泣かれるわ、倒れるわ。
最終的にキスしたその場で抱いてしまった。
烈は泣きながら豪を抱きしめた。
「自分の思いに気づかないほうがよかった、お前のせいだ」と。
なじりも後悔も、喜びも受け入れてしまった二人に怖いものなどなく。
それでも、1年の別れを経た末に、こうして二人暮らし。
「…でも、意外といいかもしれないな。こういうのも」
「烈兄貴?」
洗い物をしている豪に、頬杖をつきながら見ている烈。
「なんていうかな、こう…満たされてるって言うか」
「珍しい、烈兄貴がそんなこと言うの」
「たまには言わせろ」
烈は苦笑した。そして、気づいたように視線を落とす。
「今はいいよ、でもきっと大学を卒業したら、こんな風にはいられなくなる。俺か、お前か、どちらが先かはわからないけど、手を離してしまうときが来る」
その言葉に、豪は眉を寄せた。
「俺は、離す気なんか無いんだけど」
「今は、な…」
不意に立ち上がると、烈は自分の部屋に戻り、何かを持って戻ってきた。

「…誕生日、おめでとう。豪」

眼を細めて、笑った。
こと、と小さく音を立てて、置かれた小さな箱。
「何?これ…」
「それはあけてから」
濡れた手をぱっと拭いて、豪がその箱を開けた。
「……」
皮製の財布だった。
「食べ物だけでもよかったんだけど、無くなるのは嫌だったから、それで」
「烈兄貴…」
他にもある、と冷蔵庫から取り出したのは、二つのタルト。
トリプルベリーの、近場では一番高い店のものだ。
「これは俺の独断。今日中に食べよう」
適当にお皿を取り出し、烈はタルトを皿の上に置いた。
豪は確認するようにその財布をじっと見る。
「…なぁ、烈兄貴」
「ん?」
「期限なんていいからさ。いつ別れが来るか、そんな不確定なこと気にする前に、今を楽しもうよ」
これみたいにさ、と豪はタルトを口にほおばり、美味しいと口で言う前に顔で表現した。
「豪…」
「今が楽しいんだろ?それでいいじゃん。俺だって何も知らないわけじゃないけど、びくびくしてたらこの先辛いと思うんだ」
それは禁忌だと、誰もが言うだろう。
別れなければならないと、言うだろう。
それが分からないほど、烈も豪も、子供ではなかった。
不確定ながらも、定められた未来に。
笑って、そのときまで恋人でいようと、そう豪は言った。

「…9年前と、同じだな」

「へっ?」
「WGPで、俺がリーダーを続けていく自信がなくなったときと、同じ」
不確定な未来を案じて、こうして落ち込む烈に、言葉をかける豪。
「…そう、俺はおんなじことしか言えない」
フォークを微かに振り、豪は笑う。
今では子供の面影を残すことのほうが少なくなった豪の、僅かな思い。
笑い方は、今でも似ているけれど。
「でも、それを烈兄貴はちゃんと聞いてくれる。馬鹿馬鹿しいことじゃないって」
「豪…」

「俺、もう19なんだよ?経験も見てきたことも、9年前とは違う。だからわかったんだ」

豪は思う。
昔なら子供だと思って許されたことが、徐々に否定されていくことに。
自分の感覚が、他の人とは少し違うことに。
どうでもいいことが、どうでもいいと切り捨ててはいけないことに。
そんな中での、たった一つの思い。

それを、烈は受け入れてくれた。

先を思うのは当然のこと。それを考えて動くのも当然のこと。
豪はそれを知りながらも、心は受け入れられずにいた。
先走りすぎた思いを、烈はなんなく受け止めた。

実は豪の方が、烈に救われていることを知るのは豪一人だけ。

「嬉しいよ、こうして、烈兄貴に19歳を祝ってもらえること」
大切そうに、財布を撫でる。
この幸せがいつか崩れたとしても、これだけはきっと持っている。
時間が止まればいいとは思わない。

そんな夢は見ない。

「豪、今日は、一緒に寝ようか?」
「へっ?」
烈が唐突に言った。本当に唐突に。
「…誕生日、だからな」
烈は苦笑しながら言った。
「いいの?」
「拒否権は無しだ」
「しないしない」
ぶんぶん首を振る。烈はそのたびにふらふらする長い髪に、笑う。

「誕生日が来て幸せなのが、お前だけだと思うなよ。豪」

烈は振り返りながらそう言うと、豪の結んでいた髪留めを解いた。
ふわ、と僅かな音を立てて、落ちる豪の、長い髪。

烈は軌跡を辿るように、その輪郭をゆっくりと撫で下ろした。










しりあすで〜らぶらぶな〜たんじょうびっ♪
えっと、そんな感じで。(どんな感じだ)
19歳となると、お酒飲めないなぁ…と思いつつ、こんな感じに。

こんなシリアスだけど、祝ってます!

豪、ハッピーバースディ♪



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