青の軌道を巡り行き



「やっぱさ、暑い日は海に限るな」
「そうか?」
「そうそう」
あんまりにも豪が嬉しそうに言うので、僕は素直に同意することにした。
「エアコンきいた部屋よりさ、こっちのほうが夏!って感じがするだろ?」
「まぁ…そうだけど」
「気がないなぁ…烈兄貴は、もっと盛大に楽しもうぜ」
「あ、ああ…」
お前がハイテンション過ぎるんだよ、というのは言わないでおくことにした。

8月1日、今日は豪の誕生日。
けれど、今年は豪は大学受験を迎えていた。当然、巻き込まれるような形で受験体制に入る。
毎日毎日が勉強の日々。自分ならともかく、豪にとっては相当辛かっただろう。
そんな折、なぜか僕に届いた招待状。


”おめでとうございます!
 あなたに”1日限定 どこでも行けちゃいます!”券があたりました!
 券を行きたい場所と名前を書くと有効になります!”


差出人はわかっていた。

”きっと豪くんのことだから、ばててると思ったんでゲスよ”

そういう彼の声が、聞こえてきそうな文面。
ありがたくその招待状を受け取り、ペンで行きたい場所を書いた。


「思いっきりミニ四駆と走れるところ 星馬 烈」と。


そして、この場所へ案内された。
豪を誘ってみると、一瞬驚いて、即座にOKを出した。
何もかも予定通り。

彼が招待した場所は、オープン直前のリゾート施設を貸切。

きっと、彼なりの誕生日プレゼントのつもりだったんだろう。
「兄貴ー、もうちょっと泳ごうぜ!」
「わかったよ!」
肌焼けるのなんかあいつは全然気にしてないだろう。
ここについて2時間以上経っているのに、まったく疲れた様子を見せない。
潜って沖まで行ったり、日に焼けてみたりして、見るだけでも夏のエネルギーを全開にさせている。
「よくやるよ…」
ため息だけついて、海へ飛び出した。

「おい豪!お前いい加減にしろ、はしゃぎすぎだ!」
「いいじゃねぇか!ここではしゃがないで、いつはしゃぐんだよ!」
豪は思いっきり海水をぶちまけた。
ばしゃ、と音がして全身に海水を浴びる。
「あはは、やったやった」
「……」
そうか、豪がそう来るなら、こっちも徹底的にやってやるまで。
「いけっ!」
「うあああ!!!」
思いっきりかけてやった。したり顔で笑うと、豪はきょとん、と僕を見た。
「やったな、烈兄貴!」
「そっちこそ!」
ざぶざぶと波をぶちまけての応酬だった。
こっちがかければ、やり返す。やり返されたら、もっと返す。
「はーっ…はーっ……」
「はーっ…」
気がついたら、全身ずぶ濡れで息を切らしていた。
「豪、なかなかやるじゃないか…」
「烈兄貴だって…」
もっとやるつもりだったが、さすがに腕が痛くなってきた。
豪もそうだったらしく、犬みたいに首を振って、水を飛ばした。
「よし、じゃあ休憩だ」
「オレ、りんごパフェ食う…」
「わかった…オレも食べる…終わったら」
「終わったら、当然」

「レースだな」
「あったりまえだ」

鋭い視線で笑顔を作る。
そうだな、と僕は答えた。

ふらふらの状態で空を見る。
透き通っていて、真っ青な空に、白い線が1本。
海も青くて、何もかもが青と白だった。
からりとした熱せられた風が通り過ぎる。
視界に赤い髪が束になって揺れる。

なんだか、とても場違い。

自分だけが紛れ込んでしまったようだった。
べたついた肌に水が蒸発して、ひりひりとした感触を残してゆく。
「兄貴ー、焼けるぞー」
「ああ、今行くー」

パラソルを差して、二人でりんごパフェを食べる。
こんなのも、もうずいぶん久しぶりだ。
下にコーンフレーク。その上にりんごのフローズンと、アイスクリーム。
うさぎ型のリンゴにチョコレートがかけられていた。
「なぁ兄貴」
「ん?」
「ありがとな」
「豪?」
そういうことをあまり言わない豪が珍しく、そう言った。
「……」
突然だったので、まじまじを豪を見てしまった。
とたんに、豪は顔を赤くして叫ぶ。
「オレだって、ちゃんとお礼を言いたいときだってあるんだよ!」
「知ってるよ、お前がちゃんとそういえる奴だってことも、オレは知ってる」
「あ、兄貴…」

伊達に、10年以上お前の兄貴をやってきたわけじゃない。
「ま、お礼ならここに招待した人に言ってやれよ」
「…そうだな、よし、そうする!」
一気にパフェを口に書き込んだ。
「お、おい豪…!」

「くぅーっ!!」

「一気に食べ過ぎだ…」
頭が痛くなったりはしないだろうけど、一気に体を冷やしたらさすがに辛いだろう。
「休むか?」
「休まない!」
「……」
がばっと起き上がって即答された。
豪だから、しょうがないか。
「無理するなよ」
「おう!」




このリゾート施設は隠しイベントとしてミニ四駆コースが設置されている。
設計者の趣味でコーナリングが多いけれど、ちゃんとストレートメインのコースもある。

「いっけー!マグナーム!!」
「いけ、ソニック!!」
いったいどこからそんなエネルギーが出てくるのか。
光合成でもしてるんじゃないかと思うくらいだ。

「豪!お前また超高速セッティングにしただろ!」
「あったりまえだろ!オレの真骨頂!マグナムはストレート重視なんだよ!」
それはわかる。十分にわかってる。だけど…
「…先、海だぞ」

豪が先を見て表情を変えた。
「え、ああーーー!」
先はいったんカーブして、そして一直線に海上のレーンへと続く。
(あのままじゃ、海に落ちるな…)
そう思った矢先だった。その先を見て、豪はにやりと笑った。

「へっ、オレのマグナムは海を越える!」

スピードを落とすどころか、ぐんぐんあげていく。
「お、おい豪!」
ぎゅいん、とスピードを上げて、マグナムは空を飛ぶ。

「マグーナム・トルネードっ!!」

思いっきり、海へと飛び出していった。
海に吹く熱風が、渦を巻いて一直線に進んでいく。
「あいつ…、今のマグナムでもトルネードできるようにしたんだ…」

前はできないって言っていたのに。
ソニックは追いかけるように、綺麗にコーナーを曲がって僕の元へやってきた。
「兄貴ー、置いてくぞー!」
太陽を浴びて手を振っている豪は、やっぱり夏がよく似合っていた。
「僕たちも、負けてられないな…行こう!ソニック!」


そうして、夕方まで走り回った。

海で遊んで、思いっきりミニ四駆走らせて、デザートも食べ放題。
豪にとって、これ以上の誕生日プレゼントはないだろう。
「豪ー!」
「ああー、さすがに疲れた…」
テラスのテーブルでうつ伏せになりながら、豪は笑った。

「満足できたか?」
「十分!兄貴、ありがとな」
「いいよ、ちゃんと他の人にもお礼いっておけよ」
今日2つめのパフェ。
誕生日くらいは見逃してやってもいいかな、と僕もそれを食べることにした。
「あ、あと…」
「ん?」

そういえば、言っていなかった言葉があった。
今日生まれた弟へ、一番に言ってあげなきゃいけなかったのに。あんまりにも楽しくて、言うのを忘れてしまっていた。
「ちゃんと言ってなかったから、言っておくな」
「兄貴…?」

「誕生日、おめでとう」

きょとん、として一瞬見ると、すぐに笑ってくれた。
「…サンキュー!烈兄貴」

「あと、これが誕生日プレゼントだ」
行くときに用意した、箱を渡す。
「用意してくれてたんだ…」
「当たり前だろ」
「へへ、何だろ」

豪へ、せめてのものプレゼントだった。
「これが、兄貴のプレゼント?」
「そう」
今年のお前は忙しそうだから。時計なら、いつでも持っていられるかな、となんとなく思ったんだ。

「防水加工付き。シンプルだけど、それなら十分だろ?」
「烈兄貴…」

「こういうときに、機能性考えるのは俺の悪いところだな…」

もうちょっと思い出に残るようなものを渡せれば、よかったのかな。
「そんなことねーよ、ありがとな、烈兄貴」
「ああ…」
すげー、ときらきらした目で腕時計を見ている豪をよそに、僕をそっと空を見上げる。

青の色が、橙に変わっていく。
白かった太陽がすっかり黄色のような色に変わって、海のほうへ沈んでいく。
「なーに辛気臭い顔してんだよ」
「豪…」
「オレの誕生日なんだぜ?もっと盛大に祝ってくれてもいいんじゃねーの?」
「ああ…」

うまく、言葉にできそうもない。
嬉しいのか、なきたいのか、うまく表せない。
一緒にいてくれてよかった。それくらいしか、出せない。

「…誕生日、おめでとう」

「うん」
精一杯の言葉を告げると、ゆっくりと日が沈んで、豪の表情が翳った。


背景素材:tricot

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