豚とアイスクリーム 「兄貴、ここいいな」 「そうか?」 「すっげー安いし、うまいし、アイスあるし」 「ラーメンの味は1つしかないけどな」 「独特の味だぜ、すっげーうまい、教えてくれてありがと兄貴」 「それはどうも」 豪はおわんを持ってで一気にスープを飲んだ。 「かーっ、やっぱいいな!」 「お前、あんま飲むと油っぽくなるぞ」 「豚骨ラーメンなんだからいいだろ?よし、次アイスな!」 「まったく…」 来てよかったのかいけなかったのか。 上機嫌で追加注文する豪に、烈は苦笑する。 幸いながら、この店は昼間でも親子連れの団欒の場となってたり、ゲームセンター帰りの女子高生がシールを切っていたりと若い子も結構多い。 (ま、こいつにはいい場所なのかもな) この店独特の”フォーク付きスプーン”をくるくると回した。 「豪ー、僕もコーラフロート追加」 「わかったー」 ラーメンチェーン店”スガキヤ” 東海地方の在住者及び出身者なら一度は食べたことがある、とまで言われる有名な店。 メニューは豚骨風のラーメン1種類で、それにトッピングをつけることで値段が変わる。 一番安いと300円未満であり、ハンバーガーを食べるよりも安価で済み、なおかつデザートもある。 夏にはカキ氷が出て、あんみつやらフロートやら甘味が充実しているため、誰でも気軽に来れるというわけだ。 「烈兄貴、コーラフロートお待ち〜」 「サンキュ」 今の二人もそれにまぎれるように高校の制服姿だった。 話は数時間前にさかのぼる。 偶然にも、烈の通う高校のすぐそばにこのスガキヤがあったのだ。 豪もその日は部活が空いていて、自転車に乗って烈が出てくるのを待ち伏せていた。 夏休み直前。この時期にテストがある豪の高校は、昼間までで授業が終了。 烈もテスト直前ということで、早めに帰ることになっていた。 「よっ、兄貴」 「豪、なんでお前ここに?」 「たまには、一緒に帰ろうかな…と、あ!待ってたわけじゃないからな」 「わかってるよ」 烈はくすくすと照れ隠しの豪を見て笑った。 (これが俗に言うツンデレってやつかな…) 自転車を引きずりながら歩く豪を見て、烈はふとそう思った。 「兄貴ー昼飯食べに行こうぜ」 「えー、母さん作ってるだろ」 「さっき電話したら烈を一緒なら適当なところで食べて来い、ってさ」 「母さん…」 どうも友達と出かけるから家を空けるらしい。 「どこで食べる?」 「兄貴の高校の近くにさ、なんかショッピングモールあったよな」 「ああ…」 「俺あそこ行ってみたかったんだよな」 「何買うんだよ」 そういうと、一瞬豪は口をつぐんだ。 「……教えてやんねー」 「…おごってやらないぞ豪」 「わー、教えます教えます!だからお願いします烈兄貴!」 「それでよし」 ふん、とふんぞり返った烈に、豪はとほほ、と言わんばかりにがっくり肩を落とした。 (……) 烈が思うに、こう簡単に口を割る気になったということは、たぶん大したことではないのだろう。と感じた。 本気で豪が嫌がったら諦める気だったから。けれど豪があっさり話すと言ったのだからたぶん大したことがない。と思ったのだ。 そうしてたどり着いたショッピングモール。 「まずは昼飯な!」 豪はそういうと真っ先に4階にあるレストランエリアへ足を運んだ。 「まったく…」 おごるのが確定だとすぐこれだ。 「ま、しょうがないか」 自分から言ったのだから、と烈はあっさり割り切った。 そして、現在に至る。 豪は温野菜ラーメン、烈は普通のラーメンを注文した。 これで値段が600円前後。アイスクリームを加えても1000円もいかない。 これだけ安ければ学生も主婦も来られるのだろう。 (ちなみに 「なー、豪…いい加減教えろよ…」 チョコレートクリームを食べている豪に僕は詰め寄る。 いったい豪はここで何を買う気だったのか。 まぁここでならたいていなんでも揃っているので、買いたいものはたぶんあるんだろうけど。 豪は食べる手を止めるとにっこり笑った。 「さぁな〜?」 「ごーうー」 思いっきり睨んでやると、豪はあはは、と作り笑いをした。 「いろいろ、って言ったら怒るか?」 「いや、別に…」 「ほんとはさ、貯金箱買おうと思って」 「貯金箱?」 豪が、貯金。似合わない組み合わせにまじまじと豪を見てしまった。 「なんだよ…」 「いや…明日は雷雨かな、と…」 「烈兄貴…」 今度は地面に突っ伏した。なんか面白いと烈は思った。 「オレだって金溜めたいんだよ」 「へぇ、豪がね」 にやっ、と笑ってみると、豪は気まずそうにそっぽを向いた。 「ま、それ以上は聞かないけどな」 お金の管理などほとんどしない豪が貯金するんだ。そうとう買いたいものなんだろう。 約束どおり、豪の分までお金は払った。 あとは、豪の買いたい貯金箱を二人で物色していた。 「缶のやつにしとけよ」 「なんでだよ」 「お前、絶対に途中で空けようとするだろ」 「う…その通り」 豪の性格はだいたいわかってるので、貯めたいというなら精一杯応援するまでだ。 「これで買いたいもの全部か?」 「ああ、これで全部」 なんだかんだで1時間ほどの買い物に付き合った。 「帰るか?」 「そうだな」 「あのー…」 「ん?」 豪が振りかえると、新装開店のお店の店員さんがこっちを見ていた。 「なんか用?」 「これ、もらってくれませんか?」 そう言うと、豪に花を差し出した。 「いつまでも飾っておくと縁起が悪いから、もらってください」 ああ、そういうことか、と烈は納得する。 その店の隣には、開店の祝い花があり、花が1つもない状態だった。 「豪、もらっとけ」 「いいのかよ」 「いいんだ、僕のもある?」 「はい!ちょうど2本なので、どうぞ」 店員さんは嬉しそうに僕にも花をくれた。 「ありがとうございましたー」 何にも買っていないのに、丁寧にお辞儀をされた。 「ホントにいいのかよ、こんなの…」 豪は白い大きな花をまじまじと見る。 「祝い花なんだろ、それ。持っていっていいんだよ。縁起がいいから」 「そういうもなのか?」 「そういうもの、早くなくなるほど商売繁盛になるとかならないとか」 「ジンクス?」 「まぁそういうの、この地方限定だから他でやるなよ」 「わかった…」 僕はというと、赤い花をガーベラのような花をもらった。 「よし、帰るぞ」 「兄貴…」 ロビーを潜って外に出た。 豪は空を見て呆然と呟く。 「あ……」 灰色の空に鈍い音が響き渡る。そして。 ざああと滝のような雨が降る。 「兄貴が雷雨なんて言ったせいだ」 「オレのせいかよ」 「絶対そうだ、というわけで」 にや、と豪が笑った。 「なんだよ」 「コーラ1本おごってくれ」 「はぁ…」 まぁ、このままじゃ帰るに帰れない。 とりあえず、さっきのレストランエリアに戻ることにした。 ※解説 1.スガキヤ 名古屋もとい、愛知県人のファーストフード。ラーメン1杯290円。 どういう店かはSSの通り。 2.愛知県人の金銭感覚 小金をケチって大金にパーンと出すらしい。 3.開店祝いの花 開店祝いの飾り花はお持ち帰りOK.人気店になるとご婦人たちがこぞって気に入った花を持っていく。 店にとっても翌日には廃棄処分になるうえ、花をとられるほど繁盛するという縁起のいい意味合いがある。 だから、余ると困るためお客さんにプレゼントすることもあるらしい。 ※いいわけorあとがき これで、よかったのかな? …愛知県のネタをあるだけ詰め込みました。 通常の甘めSSの皮をかぶった愛知県ネタSSです。 でも自分、名古/屋の人間じゃないんですよね。。 |